対魔忍になりたかったのにどうして鬼殺なんだ!?   作:Meat Toilet

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第9話

「行くな、錆兎。お前が行ったところで死ぬだけだ。柱が来るまで待て」

「だから、ここで指を咥えて待ってろと言いたいのか?」

「相手は上弦だぞ。勝てる訳がない」

「だとしても、男なら女を守るものだろう!」

「錆兎! 待て、行くなぁー!」

 

 

 

 

 

 

 戦闘を始めてから何時間経ったのだろうか。

 段々と明るくなってきたようだが、まだ日は昇ることはない。

 丙だという錆兎と上弦の参の猗窩座との戦闘は、私も参戦するが力及ばず刀を折られて地に伏した彼を庇って私が前に出る。相手にならん、と猗窩座は言う。

 猗窩座の頸を単独で斬っておきながら、何で錆兎が刀を折られて地に伏して虫の息かといえば単純に連携が出来ていなかったからだ。1対2になったから勝てると思ったら、それは幻想にしか過ぎない。3Pされるのなら、得意なんだがな。

 水の呼吸はどの呼吸とも相性は良いけど、そもそも論として致命的な事に私は誰かと協同任務した経験が無いのだ。誰が仕組んだか知らないけど、単独で討伐してきた人間なので弊害として協同して鬼と対峙すれば、動きが悪くなって噛み合わず動きについていけない錆兎が戦闘不能にさせてしまうのはやらかしてしまった。具体的には、私が無理やり合わせて動いてたら隙が生じて殺られかけ、錆兎が庇って吹っ飛んだ。

 戦闘不能にされるだけなら良いだろう。しかし、私が赦せないのは、猗窩座が倒れた錆兎を執拗にトドメを刺そうと狙ったことだろう。理に適った行動であるけど、理解できないな。

 

「猗窩座、決着はついた。何故、動けなくなった人間を殺そうとする?」

 

 鬼だから、と言われたらぐうの音も出ないがちょっとした話の種に耳を傾けてくれればそれでいい。

 

「弱い奴を殺して何が悪い? 俺は弱い奴が嫌いだ」

「私は好きだよ。特に小さい子が好きだ。無邪気に笑いかけてくれるだけで限界以上の力を発揮できる」

「徹底的に価値観が合わないようだな」

「残念だよ。1つ言いたい。私は年下の男の子が好きだ。お前はそれを傷つけた。だから、お前は私の逆鱗に触れた。覚悟しておけ、猗窩座」

 

 鬼は憐れだからとかそんな理由はどうでもいい。どれだけの過去があろうと、そんなの関係ない。酷い過去があったから、それで人を殺していい理由にならない。

 故に──―

 

「闘うつもりはない。殺す。ただ殺す。その自信も自尊心も何もかも惨めに踏みにじって殺してやる」

 

 全集中・雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃・神速十連

 

「なにっ?」

 

 両腕を斬り、両脚を斬り、頸も斬って残りの五回でバラバラに切り刻んだ。

 

「ほら、とっとと再生しろ。また殺してやるから日が昇るまでずっと殺し続けてやるから再生しろよ。早くしてくれないかな、クソ野郎」

「お前……何をした?」

 

 今度はわかり易いように頸を斬ったにも関わらず再生してきた猗窩座は、ギリギリと歯軋りしてそうな苦虫を噛み潰した顔で訊いてくる。

 不謹慎だけど、嘲笑してやろう。

 

「棒立ちだったね。ねぇ、どんな気持ち? 見下してた人間に反応もできず斬られた気持ちってどんな感じかな? 私、人間だから解らないの。だから、教えてほしいな猗窩座くん。ほら、言えよクソザコナメクジ」

「……殺す!」

 

 残念だけど、もう見切っちゃったんだよね。

 

 雷の呼吸 零の型壱番 雷切

 

 雷が切れて割れたようなエフェクトがかかり、猗窩座の脚が斬り飛ばされる。

 すぐに再生してきてまた技を出そうとして、今度は弐の型で達磨にする。

 

「ねぇ、一方的に斬られる気持ちってどんな感じなの? 私、1度でも斬られたら死ぬかもしれないから何度も斬られる気持ちって解らないの。頸を斬っても死なないなら、日の光で炙るしかないんだけど焼かれる気持ちってどんな感じなの? 教えてほしいな、弱虫くん。聞いてる? 返事しろ!」

「何なんだ! お前は何なんだ!」

「お前こそ何だよ。勝手に人に自分の価値観を身勝手に押し付けてくるのは馬鹿のやることだよ。ああ、人間じゃないから馬鹿になったのか。ごっめーん、気づかなかったよー」

 

 我ながら酷い煽りだと思う。侮辱罪が適用されたら、何もかも捨てて逃げ出すレベルだ。

 

「殺す殺す殺す!! 貴様だけは絶対に殺す!!」

「殺れるものなら殺ってみろ、短小。惨めに惨たらしくその自信も尊厳も何もかも全て踏みにじって殺してやる」

 

 猗窩座が構えをとる。今までにないくらいの殺意を滾らせ、最高の一撃を出そうとする。

 

『破壊殺 終式──―』

『雷の呼吸 零の型壱番──―』

 

 だが、技は出されることはなかった。

 

「お前だけは絶対に殺す!!」

「年寄りになるまでには挑んできてねー」

 

 日が昇ってきたのだ。

 追撃は出来ない。尻尾巻いて逃げるだけの理性的な行動には、素直に称賛しよう。飛び去っていくのを見送り、私は刀を納めて倒れている錆兎の状態を確認する。余裕ぶっているけど、私も極度の疲労感と脱力感で起きてるのが辛い。

 良い感じの一撃を喰らったのを見たけど、意外と呼吸が使えれば何とかなるだろうと思ってる。それも余程の重傷でない限りだが。

 パッと見は問題大アリで、中身も無事じゃいかないだろう。腹が抉られてる。

 

「……あい、つは?」

「太陽が出てきたので逃げた。もう安心だ。何とかなった」

「俺は……男、だから。だいじょう……ぶ、だ」

「何か言い残すことはある?」

「義勇、に……伝え、て……ほし……い」

 

 手鬼と戦って命を落とすハズだった人間だった。勝手に死んだと思ってたが、ちゃっかり生きてて甲にまでスピード出世していた彼をまさか自分が原因で亡くしてしまうのは、仕方ないとはいえ辛いものがある。

 助けられたのには感謝している。その後、私はどんな事をしてでも錆兎を引かせるべきだった。何が協力だ、頼もしいと思ってしまった自分が何とも情けない。

 

「おと、こ……なら、まえ……む、いて……いき……」

 

 最後まで発することはなかった。

 スゥー、と瞳から光が消えていき死んだのだと解って開いたままの目を閉じてあげる。

 

「さび……と?」

 

 後から駆けて来た義勇が錆兎の亡骸を見て、私の対面に膝をついて涙を流す。

 

「男なら前を向いて生きろ、だって。今は情けない姿を見せてもいい。泣き止んだら、きちんと前を向いてこの子の死を無駄にしないで生きなさい」

「……責めないのか?」

「命あっての物種だ。それに私は貴方に逃げろと命令した。貴方がいたところで物言わぬ死体が増えていただけだった。今は無力かもしれないけど、必ずその悔しさは貴方の力になる。決して折れないでいて」

 

 さて、後は隠の人に全て任せて私は次の任務へ──―

 

「あららー?」

 

 前に踏み出したと思ったら、力が抜けたように前のめりに倒れて地面が近づいてくる。

 何かに抱き留められる感覚がしたと同時、私は意識を失った。

 

 




恋雪「ついに私の出番ですね」シュッシュッ


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