性別反転が好きなマイノリティだっていいじゃない。 作:菊池 徳野
価値観。というものがある。
自分の中にある物差しを使って物事にレッテルを貼る事。私はそんな風に思い、この言葉を使っている。
そのレッテル…ラベルをところ構わず貼る行為自体、決して間違った行いではない。
しかし、そのラベルの読み方を他人に大っぴらに言うことは…中々どうして難しい。
それは、そのラベルの読み方が他人と違った時、つまり価値観の相違が起きた時に問題が生じやすいからである。
価値観というのは自分の生きてきた中で生まれるものなので、誰かと違ったからと言ってそれを易々と手放して相手に同調するのは特に難しい。
それでも状況が1対1ではなく1対多数であったなら、迎合しない訳にはいかなくなる時がある。マイノリティが淘汰されるのは自然の摂理だと言ってしまえばそこまでだが。
だが生きている以上、淘汰されてしまう訳にはいかない。だから私は多くのマイノリティがするようにそれを隠してしまう事にした。それが自然の摂理の外にあると理解しながら。
それは性癖であり、病気であり、こだわりであり、私の中に湧き起こった三大欲求に勝るとも言える欲求であった。常識の枠組みでは特に言葉にするのははばかられるし、良く似た嗜好を持つものの中ですら異端視される。私はそんなマイノリティを背負った人間であったのだ。
そう。だから、仕方なかったんや。
次に生まれ変わるならどんな世界がいい?って神様が言ってくれたから…つい。
「メインキャラの性別反転したなのはの世界がいいです。」
って言っちゃったんだよォ!!
うっそりと笑みを浮かべる神様の目が凄まじく優しくなったのが分かった時、私の心は死んだ。私の性癖は神様からも同情を引くほどマイノリティなのかと。
しかし、神様は依然として優しい声であなたの望む世界ですからと言って、それ以上は何も聞かずにいてくれたのだ。慈愛に満ちた、アガペーってのはマジであるんだなって。
生まれ変わったら絶対この女神様信仰しようってなったよね。いつか新興宗教立ち上げてみせようと。
でもね神様。
きっと気を使ってくれたんだろう。神様もミスをすることもあるだろうし、無償の愛ってやつの1つなんだと思う。
私、確かに口調は女っぽいし趣味も結構ファンシーだったけど、女性になりたかった訳じゃないんじゃよ?
ただマイノリティかつ変わった性癖持った男だっただけのオタクなんですよ。
「女になって性別反転させた理想のキャラを相手に恋愛がしたかった訳では無いんだよなぁ…。」
『Please cheer up Master.(元気だしてください)』
あ、うん。ありがとう。平気平気、心折れてないよ。私は元気だから。安心してリリィ。
まぁ前は生涯独身だったし、性欲なんて有って無いようなもんだったから、性別が変わったことにはあんまり文句はない。実際長年連れ添った男のシンボルと別れた事実に気づいた時もあんまりショックを受けなかった。自分でも驚きだが。
そんなこんなで、この性転換も悪いことばかりではない。
なぜかって?
なのは達に必要以上に近づくという割と危ない橋を渡る必要はあるが、遠目から眺めているつもりだった事を目の前で見れる。あまつさえ自分が誘発する事すら可能だという事実に、私は気づいてしまったのだ。
いやまぁ、本心としては恋愛関係になるのも吝かではないよ?今の性別は女だし、何より私は愛があればそれでいい派だし。相手は理想の推し達であれば私から拒む事はまず無いし。
とはいえ、性別が違うといえど推しに対してクソデカ感情以上の恋愛感情を抱けるかどうか自信はないし、何より百合の間に挟まる男の様になるのは如何なものかという考えも無くはない。まぁ、今回は性癖の都合で薔薇だが。
「なんにせよ利用しない手はないよね。」
望んだ世界とはいえ、新しい人生。楽しめるように生きられればなんでもいいし、なんなら性癖の赴くままに生きて死ぬのも悪くないとも思っている。魔法があって異世界があってバトルもある常識の範囲外の世界に来たのだし、今世くらいははっちゃけてもいいだろう。というのが私の考えた末に出した結論である。
すべての責任は私が取ればいいし、そこに悔いもないだろう。今こうして悩んでいるのは、自分の立ち位置をどうするかだけで本能のままに生きる事は変わらないのだ。
案外、神様はその方が私が楽しめると踏んで性別にも手を加えてくれたのかもしれない。いや、あのお方のことだからきっとそうに違いない。家に帰ったら後でまた祈っとこう。
「たぶん今の時期だと…あれかな?」
散策の目的であった公園に到着して、早速目的の人物らしき人影を見つけた。
人の居ない公園。皆が家に帰ったどこか異質な空間。何をするでもなくベンチに座る退屈そうな少年の影が1つ。
高町なのはだ。
「ねぇ、今何してるの?」
できるだけ相手に踏み込むような言葉を選ぶ。子供特有の無邪気さを意識して、できるだけ単純に。
取り敢えず遠目からでも眺めてみてからあとは心のままに決めようと思っていたが推しの悲しそうな顔を目の前にしてしまって、つい行動に出てしまった。それが虚無を抱えている表情とあれば尚更である。
君の笑顔が素晴らしいことを私は知っているのだ。
警戒されようが知ったことではない。接触してしまった以上、友達になりたいという気持ちに従って行動を起こせばいい。
「…なにも。」
「じゃあ、一緒に遊ぼ。」
砂のお山作ろっか、なんて言いながらその手を掴む。当然なのはは困惑するものの、ぐいと手を引けば困惑しつつも立ち上がって着いてくる。
この頃のなのはは、家庭のごたごたを察していい子でいる事を子供ながらに自分の核にしていた筈である。それは性別が変わってもその本質までは変わらないだろうし、反抗期は年齢的にももう少し先の筈。
そういや、怪我をしてるのは父親だろうか母親だろうか。主要キャラの性別を逆転させた以上、そういった変化がどの程度影響しているだろうか?
もしかするとなのはの兄も性別が変わり姉となってハーレムを築いている可能性もある…。一応、近日中に確認しておこう。
そうやって考え事を巡らせつつも少し強引にでも遊び始めてしまえば子供というのは単純なもので、次第に言葉を交わし、ぎこちない様子もどこへやら。気づけばなのはの顔には笑みすらこぼれ始めるようになっていた。
それにしても、私の推しは性別が変わっても実に可愛らしい。とても…美少年だ。
初めは若干なのはの父親や兄に似た雰囲気が出ている様に感じたが、遊び始めてからはよく知るなのはと余り変わらない気がした。まだ子供だし、中性的な雰囲気を持っているのもあるだろうが、時折見せる笑顔は記憶の中にある彼女となんら違いを感じない。
「あ、おうちに帰らなきゃ。」
1時間程遊んだ所で、ぽつりとそう切り出して服に付いた砂を払って帰る準備をし始める。もとより人の少ない時間だったこともあり、夕暮れが空を覆い始めていた。
子供特有の身勝手に置いてけぼりにされているなのははどこかきょとんとしていたが、状況を理解し始めて少し悲しそうに見える。
推しの心を私が乱しているという事実に少し心が踊る。
仕掛けるとしたら、ここだろうか。
「ね、お名前教えて!」
再び寂しそうな雰囲気を出し始めていたなのはの様子を視認してから、できる限り飛びっきりの笑顔を向ける。気持ち的には今世の微少女フェイス(誤字に在らず)に惚れさせる位の気概を込めて。
残念ながら私は人並みの可愛い子供である。将来はそれなりの可愛さを化粧を携えて保って生きていく程度の。
作戦通り無事に名前を教えて貰い、自分はさっさと家に帰る。また遊ぼーねー、なんて言って若干駆け足だ。
きっとこれで印象に残った事だろう。次に会った時にもう一度遊べばそれでオールオッケー。この年頃だと1度あったら友達で、毎日あったらそれはもう親友なのだ。
『I'm glad you looked fun.(楽しそうでなによりです。)』
今は種をまく時期だ。花が咲くにはまだ時間がかかる。
「それを摘み取るのも、まだまだ仕込みが必要だしね。」
ルンルン気分で家を目指す。
明日はもっといい日になりますよね、女神様。
私はマイノリティ。私は愉悦の異端児。
私の性癖は、勘違いで好きな女を再起不能に追いやった自責の念で壊れる主人公をみること。
純粋な彼らなら、きっと上手く動いてくれる事だろう。本当ならユーノ辺りをけしかけるつもりだったが、操るのが男の方だけで済むならむしろOK。ばっちこい。
その為なら小悪魔だってなんだってやってやるよォ!!
女神様「へけっ。」
取り敢えず、次の話は年明けになってから考えます。
なお、私は主人公(格)が作中的な感じに絶望、精神崩壊するシチュエーションがぶっ刺さります。女の子の視点が充実してるかメインだと尚良し。