性別反転が好きなマイノリティだっていいじゃない。   作:菊池 徳野

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お久しぶりです。


裏切りはそいつの名前を知っている。

むしゃくしゃしていた要の思いとは裏腹に海上での支援行動は驚く程スムーズに行われていた。

 

二人の顔前を通り抜けていった魔力弾のせいで場に動揺が走りはしたものの、すぐ様フェイトに迫っていた水流が弾けた事で攻撃の意思が無い事はそのまま伝わり、決定打に欠けていた一時的な共同戦線は本格的に受け入れられることになった。

 

ジュエルシードの動きを止める為に魔法の準備をするアルフとユーノの為にヘイトを集める役をフェイトとなのはの二人が請け負い、補助と遊撃に要とクロノが動く即席だが安定感のある役割分担となった。

 

――なのは、左から来てるのは撃ち落とすから前だけ見てて。

 

ジュエルシードは水の意思すら汲み上げるのか、ゲームの世界にありがちなアメーバやモーフのような意志を持つ液体がうねりながら襲いかかって来る。

それを自身を囮として引き受け、時に避け、時に撃ち落としながらフェイトは持ち前の技能を駆使して対処していた。

一人でいた時は数に押されて為す術なく撃ち落とされていたが、なのはと半数ずつ引き受けることでそれまでと違い安全に対処できていた。

 

――フェイト君、3つ数えたら急上昇して。…2…1...今!

 

とはいえ危険がない訳ではなく、身体の負傷や疲労で手が回らず、被弾しそうになる事もあるのだが、そういう時は問題が起きる前に支援射撃が飛び攻撃が集中して対処が難しくなると念話で指示が飛んでくる。

今も射線を合わせていたのか追いかけてきていた水流が大きな水飛沫を上げて弾けたのが視界に映る。追跡を遮られて怒ったかのように暴れる水流を尻目にフェイトは再び体制を立て直して役割を果たすべくなのはの援護に向かう。

 

どういった基準で暴れているのかは知らないが、ただジュエルシードが暴走してイタズラに魔力を消費しているだけでは無いのだろう。現に攻撃を加えているなのはとフェイトは執拗に狙われているし、なんならさっきからちょっかい掛けている要の方にも攻撃が飛んでいっている。

 

視線の先ではもはや見慣れた少女がどこか感情を抑えたような表情でスコープを覗いていた。その周囲では管理局と思しき人影が少女と言葉を交えつつ水流を最小限散らす様に飛び回っていた。

2人はフェイト達だけでなくアルフとユーノの直接的な防衛も行っているらしく、時折それぞれ単独行動している姿が視界に入る。

 

暴走するジュエルシードの相手をしながら、フェイトは二度対峙した少女の事を考えていた。

 

自分とあまり、歳の違わない戦闘慣れしていない少女。ジュエルシードを探すフェイト達の邪魔をする、あまりいい印象のない存在である。明らかに格下だと分かっているのにその口先に翻弄されいつの間にか相手のペースに乗せられている、子供にしては策を弄する事を得意とするあまり相手をしたくないタイプの魔導師である。現に、少女と対峙したそのどちらにおいてもフェイトは少女の搦手に追い詰められ、敗北を喫している。

 

だが今はその状況把握と戦略を立てる能力を頼もしく感じる。前に戦闘は不向きだなんだと騒いでいたが確かに前線に立つよりも指揮官としての適正の方が高いのかもしれないと今なら思える。普通の魔導師でないという言葉もそうした意味で言っていたとしてもおかしくないが、それは考えすぎだろうか。

 

こうやって共同戦線を張ること自体、フェイトには想像もできなかった訳だが、彼女の言葉にはその不信感を払拭するだけの力があった。

 

――大丈夫!?フェイト君!

 

眼前を記憶に新しい魔力弾が通り過ぎて言ったのは肝が冷えたがそれが瑣末事だと感じる程には、彼女の声色からは嘘を感じなかった。

 

アルフ以外から心配されたのは初めてだったということもあるが、一本気というのか直線的というのかフェイトには正しく表現する言葉の持ち合わせが無かったが、その言葉を信用したいと思えるだけの物が確かに存在していた。

 

共に水流の相手をしているなのはだってそうだ。別になのはの言葉を聞かずにアルフと二人で対処する様にしてもよかったのに、あの時のフェイトは思いとどまった。

母のためなら己の身の危険など厭わないと考えていたにも関わらず、なのはの言葉に、フェイトの身を案じる言葉に心動かされたのだ。

 

――二人のサポートは私がするから。だから、前だけ見てて。

 

不思議と彼らの言葉を暖かいと感じた。そしてできれば、そんな彼らと一度普通に言葉を交わしてみたいと感じてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

「要、あまり無茶なことはするな。」

 

クロノが私を護衛して、私がなのは達をサポートする。アルフとユーノはバインドの準備、なのは達はヘイトを集める。単純だが効果的な戦法だと思う。

まぁ適性を考えたらそれしか方法がなく、私のお守りをクロノが押し付けられただけという話なのだが。

 

幸か不幸かクロノ達は一度次元震が発生したせいで、ジュエルシードの対処に慎重になっている。一時休戦の取り決めを破って急にクロノがフェイトとアルフを拘束するような事も無いだろうし、予定外の事は起きないだろう。

あと、何となく私に対して罪悪感を覚えているらしいので私の無茶を放っておいて持ち場を離れたりもしないだろうという打算もある。

 

「平気。それに無茶するなって言うなら、なのは君に言ってやってくださいよ。」

 

人の事を言えた義理ではないが、戦う術を手に入れたばかりの一般人が命の危険を冒して前線に身を投じるなど、普通で考えれば無茶な話である。恐らく本人にその自覚が無いのが問題だが、こうして必死にフェイトを助けようとする姿はとてもその、カッコイイので私から何か言うつもりは無い。

 

「私が言うより君からの方が伝わるだろう。こういうのは近しい人間からの方が効果的だ。」

「私が言っても逆に言い含められますよ。」

「自覚あるじゃないか。」

 

私が普段から無茶してるってことですかぁ?…ノーコメントです。

 

「ユーノ、あとどれくらいかかりそう?」

 

くだらない雑談(クロノの追及)を切り上げる為にクロノから離れて後ろでタイミングを図っているユーノに話しかける。バインド自体は難しい魔法では無いし、範囲が広くなったとはいえ時間はそんなに掛からないと思うのだけど。

 

「いつでもいける。ただ、確実にタイミングを計るなら少し時間が欲しい。」

「なら大丈夫。2人がうち漏らしても私とクロノが居るから。なのはと打ち合わせしてなのは達のタイミングに合わせて。」

 

となれば相手のヘイトを買う役を私とクロノの2人が代わることになるだろう。疲弊しているフェイトと戦闘慣れしていないなのはをあのまま動かしておくのは憚かられるし、バインドが入ればうち漏らしたとしても一人1つ相手にする程度で済むと思われる。

どちらにせよ広範囲に威力のある魔法を放てるのは二人しかいないのだから、出力を期待する意味も込めて早めに交代したい。

 

「クロノ、今の聞いてました?」

「私は構わないが君、近接は苦手だと言ってなかったか?」

 

そういえばクロノ達の前でリリィのブレイドモードを使っていなかった気がする。もしかして固定砲台じゃないと戦えないと思われていたのだろうか?

一応フェイトとタイマン張れるくらいには戦えるのだけど。

 

「リリィ。」

『Blade Mode.』

 

ほら全然戦えますよとアピールするが、どことなく呆れられている気がする。はて、今の行動に何か変なところがあったとは思えないのだけど…。

クロノと二人でお互いに首を傾げているとユーノ達の魔法が発動した。どうやら出番らしい。

 

目配せひとつで付き合ってくれるクロノに心の中で感謝しつつ、魔法の準備を始めたなのは達の前に飛び出す。クロノと私で二人の周囲をクルクル回る様に警戒態勢を取って、二人に安全アピールをしておく。

チラッと視線を送ると二人とも理解してくれたのか詠唱に集中してくれた。

 

被害と事態の収束を急いだだけに、予想通り拘束を逃れたジュエルシードがひとつ。とはいえ私が相手をしようと動くもその前にクロノがバインドで縛り付けていたため私の出番は無かったのだが。

 

「私達の仕事はなさそうだね。」

『No problem.(いいことじゃないですか。)』

 

バラバラっと索敵を行うが、拘束されているジュエルシードに抵抗以上の動きはないし数も問題ない。

やることがない以上、クロノについて行く形でなのは達の射線から身を躱し、邪魔にならないように移動する。

 

すると待ってましたとでも言うように荒れ狂う波を叱り飛ばすが如き魔力の塊が紫電を纏ってすぐ傍を通り過ぎていった。

 

この2人に置いていかれないように着いていくのは大変だなぁと光に目を奪われながらそんなことを考えていたらこつん、と頭の上になにか落ちてきた。

 

「おーまいがっしゅ…。」

『This is your credit.Master.(お手柄ですね、マスター。)』

 

きらりと光るその姿は紛れもなく私たちの求めているジュエルシードである。魔力の余波で飛んできたのかなんなのか、兎に角他のジュエルシードを確認するが、横にいた筈のクロノが原作宜しくアルフとジュエルシードの確保争いをしていたらしくその手には確かに光が3つ存在していた。

対峙するアルフは2つ手にしており、苦虫を噛み潰したような表情をしていることからこのまま撤退して行くだろうことは想像に容易い。

 

やるか?いいのか?やっちゃったら怒られないか?

 

頭にガリレオのテーマを流しながら私は必死に考えた。しかし悩む心とは裏腹に身体は予定通りの動きをし始める。

難しいことは先に考えた筈だ!なら後は心のままに動くべし!

 

「フェイト君!」

 

大声を上げ、不安を押し切ってジュエルシードをフェイトに向かってぶん投げる。ジュエルシードの数を調整する為!フェイトの警戒心を解くために!

 

許して!これで被害の規模が想定内になるはずなんだ。適当な言い訳も聞き逃して!

 

「これで、()()でしょ?」

 

この場にいる全員からの信じられないものを見る目を一身に受けながら笑顔を保ちながら鈍感を演じる。後でめちゃくちゃ怒られるのは分かっていても、今だけは取り繕っておきたいのだ。

 

撤退していくフェイトとアルフを笑顔のまま見送ってクロノが口を開く前に速攻でユーノの後ろに隠れる。

こちらを睨みつけている恐ろしい表情なんて見えないし、リンディからの念話も着拒である。

 

頼むユーノ!あの般若をなだめてくれ!私たち友達だろう?

…ユーノ?どうして離れようとするんだ?反省しろ?嘘だろ?せめて一緒に怒られてくれたり…。

 

「…話は艦長室でみっちり行う。」

「ヒェッ」

「要、流石に今のは庇えない。」

 

う、裏切り者ぉー!!

 

「いや、その言葉は要ちゃんが言われる側だと思う。」

 

そんななのはのつぶやきは私の耳に入ることは無かった。

私悪くないです!




転職活動が落ち着いたので執筆活動再開します。

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