性別反転が好きなマイノリティだっていいじゃない。 作:菊池 徳野
なのはの本格的な攻略に乗り出した私の前に、大きな壁が立ちはだかる。会えない時間が二人の心を引き離すのか!
次回!なのは、塾に行く。我が家に私立小学校に行かせる余裕はありません。
私の未来はどうなる!?
「いやまぁ、どうしようもなかったんですけどねー。」
小学生になるって悲しいことなの。とでも言うかの如く、ある日を境になのはと交流を深める機会が減った。勿論小学校に通うようになれば遊ぶ時間は減るし、他の友達が出来れば時間をそちらに割くようになるのは必定。
それは私も理解していたが、まさか入学先が普通の公立小学校だとは考えておらず悲しい事にそれを知ったのは休みが終わる間際の事であった。なお、仕方なくなのはに会える時間が減ると言ったら泣いた。私も泣きたくなった。
「いや、確かにおばあちゃんに私立の学費払わせるのは無理があるとはいえ、気づけよ私…。」
転生して浮かれぽんちになっていた私に、結果的に冷水をぶっかける事になった祖母の顔は、とても申し訳なさそうにしていて色んな意味で心苦しかった。
それでもできるだけ鍛錬の時間を削り、放課後は公園でなのはを待つようにして会う時間を確保していたが結局休日に遊ぶ程度に会う時間を減らすことにした。
というのも鍛錬の時間が欲しかったというのもあるが、小学校で馴染めずなのはが孤立したらなのはの為にならないのではないかと考えたからである。
お前、なのは達の顔を曇らせたいんじゃないのか?と思われるかもしれないが、誤解しないで欲しい。
私は別になのは達に不幸になって欲しい訳では無い。むしろ人並みの幸せを土台に持ち、常識と倫理観を確保した状態で絶望して欲しいのだ。
ほら、そうしたら自殺や発狂なんてしにくいと思うし、何より私は別に彼らに依存して欲しい訳じゃない。結果的に心の一部を占める存在になったとしても、消えないトラウマになりたいだけでそんな大それたものに成らなくていい。ここ重要。
想像してみて欲しい。例えば私が彼らが原因となった事故や事件で死んだ時、自責の念に押しつぶされそうになりながらも、両親や家族の顔がチラついたり理性的な部分が「不幸な事故だった」と考える度、自分への明確な罰を与えられることも無く、かと言って今まで培った倫理観によって自殺や自傷行為に走ることもできず、己への不甲斐なさや心の弱さに打ちひしがれ、男であるというただそれだけのプライドでそれでも生きることを続けなくてはならない…。
最高じゃない?
心を折ると人は死んでしまうが、心に穴が空いても人は死なない。こういうことなのだ。
逆に愛されたいなら心が折れるように仕向けてそこにつけ込むか、自分がその人の心を支える柱になればいい。例えばなのはと会う時間をこのまま持続して、彼の視野をできる限り狭めてやって、彼の選択全てを肯定してやればいい。そうすれば簡単になのはの心の中に潜り込めるだろう。
「突き放すって、大事だよなぁ。」
『What are you talking about?(何の話ですか?)』
「こっちの話だよ。」
しかし現実も私の考えもなのはと少し距離を置くことを肯定している。それは一種の拒絶であり、子供心には裏切りに感じる事もあるだろう。
私立と公立では授業内容も違うし、放課後に取れる時間も大きく変わる。他の友達と遊ぶ時間も必要だからって言うのはあの時点で他に友達のいなかったなのはには堪えただろう事は想像に難くない。
それでも結果的になのはは親友と呼べるアリサとすずかとめぐり逢い、初めての同性の友人(2人も性転換してた)を作り、小学校での自分の居場所を作り上げることが出来たのだから私としては文句はない。
その後なのはは彼らと共に塾に通うようにもなり、私と会う頻度は今では月に一、二度休日にあるかどうかとなっているが、それも文句はない。
それが寂しくないかと言われると肯定するしかないがその結果作れた時間で付け焼き刃とはいえ鍛錬もできたし、簡易神棚作って祈り捧げていたら時間は割と早く過ぎていった気がする。
他の友達?なのはに言ったのは方便で、私に他に友達が出来るわけないだろう!?神棚制作に精を出してる間に友達グループが既に出来上がっててどうしようもなかったわい。
あぁ、そういえば月村すずかが存在し、なのはの父である士郎さんも存命であったのでこの世界は女神様にお願いしたように、なのは世界にほど近い存在である事が確認できた。ヤバそうな事件の類もなかったので原作の事件を気にしていれば良さそうで少し安心した。なお、兄の恭也さんはお姉さんになってた。美人だった。
――――誰か助けて!
『Master.』
「リリィ、声の主の位置は分かる?周囲に人の存在は?」
『There are three people.(3人います。)』
脳内に直接届く声。記憶のそれより若干高い気がするが、それは私の望んだせいだろう事は直ぐに合点がいった。
やっと、原作が始まったのだ。
元々、今日は妙な魔力反応があるからとリリィに言われ、警戒ついでに外に出てきたのである。時期からして十中八九ジュエルシードだろうと考えていたが、間違いなかったらしい。
「なら少し様子を見ようか。ここからだと距離もありそうだし、何より一般人に魔法がバレるのは避けたい。」
なんて適当な理由をリリィに言いながら自分の取るべき行動に思考を巡らせる。巡らせると言うよりも再確認の意味合いが強い。何せ考える時間だけはめちゃくちゃあったからね。
原作通り彼らがユーノを保護するなら今夜からジュエルシードの捜索が始まり、それを援護する。もし保護しないなら私が保護した上で、ユーノとなのはを会わせるように動けばいい。
『She was protected by them.(どうやら声の主は彼らと同行するようです。)』
「了解、なら取り敢えず接触は控えようか。」
ベンチから下りて、リュックに借りてきた本をしまう。この公園で本を読む事も暫く無くなるだろうな。
そう。なのはが魔法に目覚めるということはつまり、念話ができるようになるということである。それ即ち携帯電話などという高度文明機器を持っていない私にとって、それはとても大きな進歩なのだ!
「まさか1番の障害が金銭面とはなぁ…。」
『What are you talking about?(何の話ですか?)』
「…こっちの話だよ。」
やっぱり連絡手段少ないと疎遠になるのよなぁ。メール教えて?って言われた時に愕然としたもの。
いや、この世界にスマホがまだ無いって事も驚いたが、骨董品と揶揄っていたものにマウントとられるとは思ってなかった。
「なのはも最近の子だよなぁ。」
『My master has a lot of soliloquy.(また"こっちの話"ですか?)』
「私のデバイスが今日も可愛くて辛いわぁ…。」
二年で本当に遠慮なくなったね、リリィ。
感謝の手紙とみかんの入っている編みかごに向かって、合掌しながら祈りを捧げる。
いつか絶対簡易じゃない神棚作りますからね、女神様。
『Please hurry up! Master!(急いでください!)』
願掛け…そう、これは願掛けだから。必要な事なんだよリリィ。もしかすると加護の1つでも得られるかもしれないだろう?別に時間稼ぎじゃないから…。
――――聞こえますか、私の声が。
うん、覚悟は決めた。決めたからそんなにピカピカ光らないで。今は夜だから目立つとまずい。ほら、バリアジャケットも着たよ。
「リリィ、お婆ちゃん起きちゃうから、あんまり五月蝿くしないでね。」
『It's an emergency now.(今は緊急事態です。)』
すすすっと音を立てないように戸を引き、廊下の窓から外に出てリリーに音を消してもらうようにお願いして宙に浮く。目指すは声の主、ユーノの元へ。
「取り敢えず声の所に着いたら周囲の索敵。状況を確認したら場合によっては戦闘行動に入るから、人払いとシールドの準備よろしくね。」
『Yes Master.』
あまり煩くないように少し高度を確保してから空を飛ぶ。残念ながらはなのはの家は別方向なのでなのはの姿を確認するのは難しいだろう。とはいえ飛んでる間はやることも無いのでスコープで動物病院の方を覗いてみる。
…なんか荒れてるなぁ。
「あそこの病院だったよね?」
『Yes.』
ユーノの声が聞こえる頻度が減ってきた気がするが、おそらく襲われている真っ最中なのだろう。つまりまだなのはと合流していないということである。急ぎすぎない方が良かっただろうか。
「リリー、周囲に人影は?」
『There are one people who is your friend Nanoha.(一人、マスターのご友人がいます。)』
どうやらちょうど良かったらしい。ユーノと接触するかどうか少し様子を見たいけど、どうするかなぁ。
「距離近いならサーチャー飛ばして様子を確認したいんだけど、スコープに映せる?」
『OK Master.』
あー、もうほぼ病院まで来てる…、というか私より先に着きそうでは?これは実はちょうど良かった感じだろうか。
とはいえ、今ここで飛び出すのはまずい。2人には逃げながら状況を確認してもらい、流れで魔法少女…もとい魔術師になってもらわねばならない。しかしリリィに事情を説明するのは今更難しいし、何か適当な言い訳…言い訳…。
『…Why are you hiding?(…なんで隠れてるんですか?)』
「いや、何か改めて考えたらバリアジャケット姿見せるの恥ずかしい気がして。大丈夫、必要になったら出ていくから。今は様子見しよ?」
『Master…』
いや、だって普段こんな短いスカートとか履かないし?バリアジャケットのイメージがなのはで固定されてる私のバリアジャケットが原作なのはのそれと似通うのはね?私今から本人の前でコスプレするみたいなもんよ?
あ、なんかマジで恥ずかしくなってきた。
「声の主はあそこのオコジョ?」
『She is a ferret.(彼女はフェレットですよ。)』
あれ?オコジョは別の魔法使いだったか。こっちに来てから、細かい部分の記憶が曖昧になってきている気がする。自分の記憶を過信しないように気をつけないとな。
二人が移動するのを確認して、追跡を再開する。黒い靄の化け物も一緒に追いかけているが、これから初めての戦闘になるかと思うと少し身震いする。
ぶっつけ本番。訓練だけで経験値ZEROの初戦闘である。
なのはとユーノの会話は聞き取れないが、二人の動きが止まった瞬間が飛び出すタイミングだ。イレギュラーは無いと思うが、靄の化け物の動きは気にしておいた方がいい。
「リリィ。いつでもシールド張れる様にしておいてね。」
『Yes. Master.』
「行こう、リリィ!」
靄の動きに追随する様にスピードを上げる。なのは達を庇える位置に着地して、防御姿勢!
あぁ、なのはの驚いた顔久々に見た気がする。美少年やなぁ…。
「ごめん!勢いよく飛び出してきたけど対処の仕方とかよく分かってない!時間稼ぎはできるから、そこのフェレットさん指示ちょうだい!」
戦う意思は見せつつも、頼りにはならない様に言葉を選ぶ。こうすればなのははレイジングハートと契約してくれる筈。それでダメそうなら少し怖いが目の前でやられるしかないだろうか。
しかし、初戦闘がよく分からない生物というのはかなり怖いな。展開が分かっているから動けているが、私は戦闘にはあまり向いてないのかもしれない。
何にせよ、これで原作に介入できた。覚悟決めて行こう!
女神「愛(信心)が重い。」