性別反転が好きなマイノリティだっていいじゃない。 作:菊池 徳野
なんやかんやと戦闘を終え、携帯電話のメアドを聞くように念話が通じるかなのは達とやり取りをして昨日は家路についた。
基本はサポートに徹してなのはの成長を妨げないようにしていただけなので、怪我などはなくさらっと解決してしまった。…バリアジャケットがペアルックみたいになったのだけが少し気掛かりではあるが、そうそう他人に見られる事は無いので気にしないことにした。
それにしても普段から狙撃や射撃に重きを置いた訓練をしていたので近接戦闘の後は暫く腕の痺れに似た違和感に慣れるのに時間が掛かった。
しかも戦闘の興奮冷めやらぬままに寝床に入ったので、あまり眠れないまま一夜を過ごすことになり、おばあちゃんから寝不足を指摘される事になったが夜間の外出についてはバレていないらしいので胸を撫で下ろした。夢見が悪かったと言えば、誤魔化されてくれたのでとりあえずは大丈夫だろう。
あ、一緒に寝るのは大丈夫です。動きにくくなるし。
うん、今度の休みはおばあちゃんに孝行しよう。ごめんね、おばあちゃん。おうどん美味しいよ、いつもごめんね。
まあ、我が家の人間関係がギクシャクしてるのは置いておこう。今はジュエルシードをどうするか、それが重要なのだ。
基本方針はなのはとユーノに協力する形でジュエルシード集めをして、封印術式がリリィでは修得が難しいらしいので、私は捜索と有事の際の戦闘補助ということになった。
封印術式が覚えられないというのは予想外だが、原作を大きく変えずに済みそうなのは安心である。
なのは曰く、女の子を戦わせるなんてとの事だったが、魔法使いとして割り切った考えを持っている同性のユーノに援護射撃をもらい、むしろ魔法を知ったばかりのなのはの方が心配という空気を作り事なきを得た。
また、その流れを利用してなのはにユーノの面倒を…もとい
ユーノになのはの家に住んで、魔法を教えてあげるように言っておいた。
「そういや、ユーノの性別とか人間形態の事とかなのはに言ってないや…。」
このままだとなのはの方がユーノにラッキースケベを決める事になるのか…。まぁ、それはそれで面白いからいいや。何より私がそれを知っている事を説明する方が難しいだろうし、ユーノには悪いが犠牲になってもらうとしよう。
「…なんの話?」
「いやごめん。こっちの話。」
「それで、ジュエルシードを渡してくれるの?」
現実逃避もそろそろ限界かなぁ。目の前でどこか張り詰めた空気を纏う少年にからかい半分、時間稼ぎ半分で適当なこと言ったのだが、流石にそろそろ此方がはぐらかそうとするのに気づいたらしい。5分どころか1分もたなかったや。フェイトはピュアだから騙せるかと思ったんだけど、流石に無理だぁね。
「実はこの宝石を落としたって人と知り合いでね。もしかして、君もその人に頼まれたの?」
なら切り口を変えるとしよう。誤魔化すようなら色々とつっこめばあと少しくらいは時間稼ぎもできるだろう。その間になのは達がこちらの様子に気づくかもしれないし、何にせよ近接主体のフェイトと私の相性があまり良くない以上、この距離で勝てるとは思えないので時間稼ぎに賭ける他ないのである。
「…知らない。でも、ジュエルシードが必要なんだ!」
「うーん、気持ちいいくらい潔い返事だぁ…。」
賭けは負け。真っ直ぐストレートに言われてしまうと敵対する他ないんだよ、これが。
「set up LiLy.」
「バルディッシュ!」
まずはできるだけ距離を取ろう。主導権を握っている以上、先手はこちらのものである。とはいえスピードで勝てるとは思えないので空中に爆速で逃げながら牽制射撃といこう。
誘導弾を仕込むだけの余裕は無いので、ただスコープに映る標的を捉えて引き金を引くだけの偏差も何も無い射撃。だが、真っ直ぐ逃げる私を追いかける以上、フェイトも直線的な動きになる。
トップスピードを出させない様にする程度でフェイトに当たる様子は微塵も無いが、今は近づけさせない様にするだけでいい。
『Photon Lancer.』
「Fire!」
飛んでくる弾をいくつか撃ち落とす様にして、姿勢制御はリリィに任せて牽制射撃を続ける。フェイトの使う射撃魔法が誘導型で無いことを今程感謝した事は無い。
「リリィ、操縦完全に任せてるけど後ろ向きでも平気?ちゃんと何かあっても避けれる?」
『No problem.(お任せ下さい。)』
ただ、後ろ向きに凄まじいスピード(当社比)で足も着かずに飛んでいるので私の恐怖値はマッハで溜まっていく。
それもあって残念ながら他のことにあまり思考を割けないので、フェイトに射撃する事以外にはなのはに念話を一方的に送り付ける程度しかできない。へるぷみー。
そろそろ対応されつつあるのか明らかにフェイトとの距離が縮んできている。曲射弾なんて咄嗟に撃てないし、無理めな速度を出す他ない。気絶しそうで嫌なんだけどなぁ。
「行こう、バルディッシュ。」
『Scythe mode.』
この短時間で射撃の癖が見切られつつあるのは気づいていたが、まさか射撃ではなく近接を選ぶとは。私の牽制射撃をほぼ移動することなく躱し、直線的に突っ込んでくるフェイトの姿は正直恐怖以外の何物でもない。
救援要請をしてからまだあまり時間が稼げてないし、かなりまずい。というか私フェイトと対面してから結局5分ともってなくないか?
悲しいが、こと戦闘においてフェイトやなのはは天才である。射撃訓練をしてきたからと言って、そんな彼らに戦闘経験値ほぼゼロの私がどうにかできる筈がなかったのだ。だからといってどうにかできる手段が今現在ある訳では無いので止めることも出来ない。
というか、あからさまにトップスピードが負けている。
「リリィ!どこか着地できる場所は!?」
『That's over there.(あそこです。)』
それならばいっその事、飛行も射撃も気にしなくてもいい地上で近接戦闘に切り替えた方がまだ何とかなる気がする。残念ながら気がするだけだが。
「ジュエルシードを渡して」
「ごめんだけど、危ない物は子供に渡せない…ッな!」
いつの間に接近してたのか振り下ろされるバルディッシュを射撃デバイス本体で受け止めるようにしながら、払われる勢いのままに地上に向かう。
用意もなくシールドを広く張れる程戦闘慣れはしていないので、普段からデバイスの保護用にと張っているシールドを利用したが、思っていた以上に怖いし手が痺れる。これはラウンドシールドか何かを早急に覚えるのが課題かもしれない。守備は苦手なんだけど。
「いっったぁ!」
『Please be quiet.(うるさいですよ。)』
想定よりも出たスピードによる衝撃を受け流しきれず、着地の際に足から変な音がした気がする。折れてないと思うけどめちゃくちゃ痛い。5ミリ位浮いて戦いたい気分だ。
「君じゃあ僕に勝てないよ。だからジュエルシードを渡して。」
「1合しか切り結んでないのにエラい自信ですこと。」
「…でも事実でしょ?」
当たり前のことに疑問を覚えました、みたいな顔されると流石に怒るぞコノヤロウ。
一先ず近接用にと準備しておいた剣型デバイスと射撃デバイスを入れ替えて正眼に構え、迎撃の意志を見せる事で威嚇する。
足が痛いので待ちの構えである。正直剣道の基本くらいしか知らないので何とかなるとも思えないが、知っている構えがこれしか無いので先人の知恵に頼る他ない。バッター持ちもできるが、私ではあの攻めの姿勢では戦えない。
「こんな危ないもの集めて何に使うのさ。」
分かりきっているがとりあえず聞いてみる。正直喋りすぎたせいで相手して貰えないかもしれないけど、聞くのはタダ。おうおう、その美少年ボイス聞かせてくれよ()。
「…君は知らなくていい。」
「顔に知らないって書いてあるぞ。」
バッと手を顔に持っていく辺り、やっぱりこの子ピュアなんやな。正直そんな苦虫を噛み潰したような顔で絞り出すように言われたら私じゃなくても何となく分かるぞ。
「誰かに頼まれたのか、やらされてるだけなのか。」
「ジュエルシードを渡して。」
「…他人を傷付けてでも必要なのか?」
「煩い!」
このまま話をしながら仲良くなって愚痴のひとつでも聞き出してあげたいが、残念ながらフェイトの方は時間切れらしい。
癇癪を起こした訳では無いようで、怒りに任せて攻撃してきている感じはしない。初対面ならこんなもんか。
「問答無用かよ。」
有言実行。ふわりと身体を浮かせることでバルディッシュの一撃を貰うことなく衝撃を流しきる。勢いがありすぎて視界が回るがその辺はリリィに任せてある。私はただ距離を取るようにブーストを吹かせるだけでいい。
「逃がさない!」
私にできるのは遠距離と搦手ぐらいのもので、近接戦闘なんて今ですら目が追いついて行かない。ただ、鎌というのは薙ぎ払いが主体となる。つまるところ剣の腹を身体の前に掲げておけば手を斬られない限りある程度は防ぐことはできるのだ。申し訳程度にバリアジャケットもあるし、耐えるだけなら何とかなるはず。
「腕痺れてきた!苛烈すぎやしません!?」
『BE QUIET!(煩いですよ!)』
目に見えてシールドが削れているような気がする。射撃だけじゃなくて守りも鍛えるべきだったかなぁと思うが今はどうしようもない、現実は非情である。
「いい加減にして!」
フェイトさん、プチ怒である。まぁ雑魚相手に粘られると腹が立つのは仕方ない。
…けどやっぱりまだまだ子供だね。
「Lily,wake-up.」
『Aye aye ma'am.(了解です)』
瞬間、視界を眩い光が破裂音と共に遮った。
互いに距離を取るように離れるが、フェイトが咄嗟に退く先は空か真後ろ。そう。今まで私たちが移動してきた真後ろである。
「わっ!?何これ!バルディッシュ!」
『Sorry,Master.』
ねこだまし最強伝説。
空いた思考で仕掛けておいたバインドを発動させてフェイトを一時的に無力化する事に成功した。
破裂音にびびった相手を捕縛して逃げる為の時間を稼ぐための緊急用の秘策である。フェイトの攻撃を適当にいなす傍ら黙々と術式と魔力を練っていたので、若干おざなり過ぎてバリアジャケットがボロボロになっているが、結果的に間に合ったのでよし!
しかし捕縛されたフェイトくん、えっちでは?これは薄い本案件待ったナシ。私色(の魔力)に染めてやるぜ!と行きたい所だが、今の私に余裕などない。魔力は殆どカラッケツである。
「悪いけど、君と真正面からやり合うつもりないから。」
じゃあね。と一方的に告げて飛び立つ。えっちなフェイトの姿を網膜に焼き付けてからさっさと撤退。スタコラサッサだぜ。
フェイトも暴れている様だがそのバインドは今使える魔力を全力で注ぎ込んだものなので、少なくとも1分は拘束してくれることだろう。それだけあれば逃げおおせる筈だ。
これに捕らわれたら、大魔王閣下(なのは)ですら逃れることはできないと自負している。…1回本当に試してみようかな。
しかし、これだと明日の散策は無理だなぁ。なのはには悪いけど、明日は一人で動いてもらうか、ちょうどいいしフェイトについて作戦会議するのも
『Warning!Master!(危ない!マスター!)』
襟首を引っ張られた様にリリィに身体を無理矢理動かされた衝撃の直後、あまりにも暴力的な風圧が目の前を通り過ぎていく。
まさかリアルで前髪を風圧に持っていかれる経験をするとは思わなかった。
「大丈夫かい!フェイト!」
鮮やかな髪色。しなやかな身体。そして何より
フェイトの使い魔、アルフの乱入である。
「逃げるよ!」
『Of course.(勿論です。)』
フェイト一人ですら厳しかったのに、二人がかりで来られてはたまったもんじゃない。幸いアルフにフェイト程のスピードはない。全力で空に逃げれば撒けるはずだ。
「悪いけど、あんたはここまでだ。」
背骨が軋むような音と何かが抜けるような喪失感が自分の身体からきているものだと理解すること数瞬。
リリィの呼びかける声を聞き取る事ができないまま、私は意識を失った。
瞬発力で獣に勝てる人間は居ない。