性別反転が好きなマイノリティだっていいじゃない。   作:菊池 徳野

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主人公の幸せは明確なのに、ハッピーエンドが想像できない稀有なパターン。


黒髪美人のクール系女子大生(彼氏持ち)

なのは達全員を曇らせるというのは、もしや贅沢が過ぎるのではないだろうか。

ずごご…と緑茶を啜りながら庭を眺めているとふとそんな事を思った。実に長閑でゆったりとした時間が流れている中で何考えてんだお前と思われるかもしれないが、私は気づいてしまったのだ。

私如きが複数人の心を占めるのは問題なのでは?それはある種のハーレムなのではないか?と。

 

ハーレムはいけない。多くの推しを侍らせる程の甲斐性を持つものだけが至れる1つの極地。

それが悪い訳じゃないが、実物を見たことない私には実現出来るイメージが湧かないので少し厳しいものがある。

それに転生して皆に好かれて「私達いつまでも友達だよ(はぁと)」みたいなよく分からない生き方は出来ない。十中八九胃に穴が空いて気が狂って死ぬ。

 

では、誰か1人を選んで重点的に曇らせるのが良いのだろうか?それもまた否である。

それはもう、ただのイチャイチャである。いたいけな少年を誘惑して逆光源氏するだけの育成ゲームをする為に転生してきたのではない。目的が曇らせる事とはいえ、中間にイチャイチャがしっかり入るのはそれだけで目的を見失いかねない。そうなっては女神様に申し訳が立たないし、気が狂って全身から血を吹き出して死ぬだろう。

 

それに背中の激痛と引き換えに網膜に焼き付けたフェイトの眩いばかりの白いおみ足を見て思ったのだ。

「あ、アリやな。」と。

 

元々転生などという精神的に不安定になる経験をしている私にとって、やはり性別を超えてトゥンクする事は容易に過ぎた。性別的に見ると間違ってはいないのだが、思った以上に自分がチョロかった事がショックだった。

戦闘の興奮や敵として相対した事や、色々と精神の箍が外れていたというのもあるが好きな物に性別は関係なかったよ。

 

画面の中にしか居ないはずの推しを前にして理性が蒸発するのは必定。触れて話せるアイドルよりも近くに居られるのに仏僧宜しく「足るを知る」などと言っていられるかって話である。

 

「我ながらなんて業の深い人間なのだ…。」

『My master has a lot of soliloquy.(また独り言か。)』

 

なのはと初めて会った時、つい身体が動いてしまった時点でどうしようもなかったのかもしれない。あの時はそこまで考えていなかったが、無意識下で「陰のある美少年いい…。」とか思っていた可能性だってゼロではないのだ。

 

私の中にある想いは純粋な曇らせたいという欲求であることは揺るぎない事実であるが、今ならなのは達に「長生きして(はぁと)」と言われたら曇らせも忘れて健やかに生きる自信すらある。頭でも打ったのではないかと疑うほどの思考のブレであるが、私は正常である。

 

「いや、背中思っきし殴られて吹き飛んだわ。頭ぶつけたっけな。」

『You are always a strange.(それは頭をぶつけたせいでは無いです。)』

 

あ、そう。

じゃあやっぱり私がチョロインだった事が露呈しただけらしい。

しかし深い関係(意味深)にならない程度に近くに居て、失うには大きすぎる近しい存在になるにはどうすれば良いのだろうか。

 

それにしてもおかきに手を伸ばしながら、答えの出ない問題に頭を悩ませるのも1つの贅沢だなぁ。なのはは頑張ってジュエルシード集めをしているというのになんと罪深いのだろうか。バリボリ。

 

「あ、思いついた。リリィ、恭さんが今家に居るか分かる?」

『Yes Master.At-home.(ご在宅ですよ。)』

 

そう、考えても分からないことは知っている人に聞けばいいのである。

 

高町恭弥。もとい、高町恭はハーレムを築けるゲームの主人公であるはずの存在なのだ。現実は忍さんとラブラブしている花の大学生であるが、そんなことは関係ない。

朴念仁気取りながら無自覚にハーレムを構築する、その精神性を暴きたいのである。ちょうどなのはも居ないし恭さんの口からバレることもあるまい。

あと、ついでに近接戦闘の手ほどきを受けたい。

 

 

 

「それで、道場まで押し掛けてきたのか。」

「はい!よろしくお願いします!」

「…まぁ、いい。なのはは剣の才能はからっきしで子供に教えた経験はないが、それでもいいなら好きにするといいさ。」

 

乙女は強くなくっちゃね!というガバガバな説得に目を瞑ってくれる恭さんは天使かもしれない。

戦闘の心得だけでも教えて欲しいッス。うっす!

 

「基本的に運動神経がどうしようもないレベルでない限り、近距離戦を行うアドバンテージというのは鍛錬の量に比例すると言っていい。」

 

努力こそ力。実に夢のある言葉である。

 

「しかし、努力量こそ同じでも歩むスピードは変わってくる。所謂才能と呼ばれる物が目の前に横たわっている事実は知っておいてほしい。」

 

天才剣士が言うと説得力ありますね。大丈夫です、人の身のままに残像作れる様になれるとは思ってませんから。

 

「今から適正とどの程度動けるかを見ていくから、自由に動いてくれ。」

「自由にってどうすれば、ばぁ!?」

 

今の今まで正座で目の前に居た恭さんが消えたと思ったら眼前に竹刀の先が現れた。神速とかいうレベルではない。

 

「あぁ、気にする事はない。今から私が切り掛るから好きに動いてくれ。」

 

パシン。という小気味よい音を立てておでこを打たれた後、流れるように竹刀を握らされた。これは、判断を誤った可能性が出てきたな。

子供用と思われる軽い竹刀を握ってみるが、手に馴染む感覚は特にない。自分の掌の柔らかさを再確認しただけである。

 

「安心してくれ。痛い思いはさせない。」

 

そう言って今度は自前の竹刀を振るう。耳に風を切るやばい音が届く前に脇腹に寸止めされていた。今度は初動は見れたが、過程の一切が分からなかった。

 

「ただ怪我をさせない自信はないから、全力で避けて欲しい。」

 

アッアッアッ。

 

「取り敢えず1時間、様子を見るとしよう。」

 

手が爆発したのではないかという衝撃が突然やってきた。それが打ち合ったゆえのものだと理解して、目の前にめちゃくちゃいい笑顔をしている恭さんがいる理由を理解した。どうやら無意識に竹刀を身構えていたらしい。

 

「君はスジがいい。気配を察知する能力は十分と言っていいだろう。」

 

急激に距離を取られ唖然としていると、今度は頭に軽い衝撃が来た。いつの間にか後ろを取られていたらしい。訳が分からない。

 

「見えている物に意識を向けるなとは言わない。だが、気配を無視してはならない。」

 

パシンといういい音をさせて今度は恭さんが完全に消えた。超人怖い。

無闇矢鱈に動く訳にはいかないので視界を巡らせる。なんか右から嫌な感じ!

 

「よしよし、やはり意識を向けると反応できるね。次は視線に反応できるようになろうか。」

 

今度は竹刀が吹っ飛ばされた。防ぐ度に威力が上がっている様な気がするのは気の所為ではないだろう。

次の攻撃を防げなかったら…恐怖で身体が強ばるのが分かった。

 

「さぁ、構えなさい。」

 

私の記憶があるのはそこまでである。

 

 

 

 

 

強くならねばならぬと、なのはは心に誓った。

 

訳の分からぬ化け物に喋る動物。初めて感じた命の危機にそれを救ってくれた幼馴染。なのはの中の常識は確かにあの日崩れ去った。

 

――目標の捕縛に成功。とどめはお願い。

 

持ち前の正義感や特別への憧れなど、様々な理由からなのはは非日常を受け入れる決断を下したが、それでも決断の多くを占めるのは成り行きである。

 

目の前には先程まで暴れていた化け物が、身動きひとつ取れずに佇んでいる。巨大な体躯は恐怖でしかないが、それも危険がないならデカいだけの的である。

大きな理由がある訳でもなく、めいいっぱいの全力で、天才の域であると言われた魔力の奔流を化け物に叩きつけた。

 

男心を擽るビームと女の子みたいなピンク色の自分の魔力の色に、なのはは内心複雑であった。しかしそれを言葉にする力がない事と、誰かに言うには気恥しいという事実が、堪らなくもどかしかった。

そしてそれ以上の事を考える余地がない程度には、なのはは今成り行きのままに生きていた。

 

「封印完了。お疲れ様、なのは。」

 

ユーノが労いの言葉を掛けてくれる。自分は力任せに魔力を振るっただけなので、爽快感はあれど疲れなど微塵も無かったのだが、何となく直前の思考が恥ずかしくて無難な言葉が口をついた。

 

「なのは、どうかした?」

――特に怪我も無いみたいでよかった。こっちは引き続きジュエルシードの捜索にあたるけど、一度合流しようか?

 

返答に違和感を感じたのか更に追求をするユーノの言葉を遮るように、彼女から念話が入ってきた。それに一も二もなく頷いて、ユーノの追及を無かったことにしたかった。

ピンク色の魔力はダサくないかなどということをバカ正直にユーノたちに話すほど、なのはは子供ではなかった。

 

「彼女はなんというか、仕事熱心だね。」

 

離れた場所で狙撃していた彼女が飛んでこちらに移動しているのを眺めていると、ユーノがふとそんな事を言い出した。仕事熱心かどうかはよく分からないが、巻き込まれたなのはと喋るフェレットの言葉を信じて力を奮う彼女は、親切ないい人だとなのはは思っている。 

 

「そうだね。なのはの友達はなのはと一緒でいい人だ。」

 

照れくさいことを平気で言うフェレットである。だが友人を褒められるのは悪くない気分なので、深くは突っ込まないようにした。

結局自分も彼女と昔のように話せる事が嬉しくて仕方ないのだ。若干不完全燃焼だったなのはの機嫌は、とうに治っていた。

 

そうして今日の探索を一度終了して遊びに行こうとしたところで、なのはは友人と約束をしていた事を思い出した。

なのはには、こういううっかりとした部分がある。大きな失敗に至った事は無いが、買い物が終わってから足りないものに気づく様な些細な失敗がよくあるのだ。

 

なのはには、「友達の友達は友達。」「一度会ったら友達。」という世界平和もかくやという考えがある。実際は目の前の幼馴染に影響を受けた故のものなのだが、影響を与えた本人は「これが主人公が持つピュアさか…尊い。」とか考えているのだが、今はそれは置いておくとしよう。

 

そんな考えに基づいて彼女も一緒にと誘うのだが、断られてしまった。曰く、初対面の状態で突然約束していないのに混ざるのは如何なものかというものである。

彼女のデバイスは、

『Why do you say a strange thing?(何言ってんだこいつ。)』

と言っているが、気持ちが分からないでもない。やはり一度彼女も含めて遊びたいと一言入れるのが礼儀だということはなのはにも分かる。ただ気のいい二人の事、突然混ざっても受け入れてくれるだろう事は想像に難くない。

 

結局、今回は彼女の気持ちを優先することにした。

これから暫くは一緒に行動するのだし、今日約束を取り付けてしまえば次は巻き込んでもいいだろうという割と打算的な理由であった。

そういう意味ではなのはは子供らしくなかった。

 

 

 

 

強くなろうと、なのはは心に決めた。

 

 

謎の魔術師による襲撃で、彼女から救援要請があった。不運な事に偶然ジュエルシードを見つけてしまった所を補足されたのだという。

なのはは走った。友人2人を何とか誤魔化して飛び出した時には最初の念話から10分近く経過していた。

 

戦闘しているのか念話は途中で切れてしまい、こちらからの連絡も出来なくなっていた。ユーノの助けを借りて彼女の魔力反応を頼りに移動している間、なのはは気が気でなかった。

それこそ、公園の隅ですやすや寝ている姿を見て、どっと疲れが押し寄せるまで生きた心地がしなかったのだ。

 

ジュエルシードは取られたものの無事だった事を彼女のデバイスから聞いた後は、幼馴染が起きるまで迷惑料代わりに頬を抓って玩具にしていた。抓るたびに魘される姿を見て、ついついやり過ぎてしまった気もするが、吹っ飛ばされた時に顔も打った事にして彼女の疑問は握りつぶしたので、問題はなかった。

 

本人は呑気に近接戦闘クソザコナメクジなどとよく分からない事を言って笑っていたが、隣で聞いているなのはは笑っていられる状態ではなかった。

リリィによると魔力枯渇と処理限界による精神疲弊が起きた結果意識を失うことになったらしい。早い話が無茶をしたということである。

 

なのはは男の子であった。父や姉達に無意識に影響を受ける程には正義感が強く、また人を守ることを是と言える精神性の持ち主であった。

 

無茶をしないように言い含め、少なくとも今週は魔法を使わず大人しくしておくように約束させて、彼女を家に送っていった。

 

念話を使って対策会議を行う程度に済ませ、ジュエルシードと共に謎の襲撃者にも気を配る様にしつつ次の日からの捜索はなのは単独で続ける事にしたのだが、これが案外大変で、ユーノと二人あっちへふらふらこっちへふらふら。人目を気にして念話をしつつ問題があれば魔法を使ってガチンコ勝負。威力を突き詰めて殴る思考が矯正されるのにさほど時間は必要なかった。

 

ユーノとレイジングハートのサポートがあったとはいえ、2人がかりで倒す楽さを知ってしまっていたなのはは、身勝手ながら幼馴染がさっさと戦線復帰するように願ってしまうのであった。

 




「恭さん、手がチマメで痛いです…。」
「Σ(・ω・;ノ)ノ!」
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