性別反転が好きなマイノリティだっていいじゃない。 作:菊池 徳野
鳥はどうして空を飛べるのか。それは翼があるから。
「ヒット。目標、バランスを崩して降下。こちらに気づいたみたい。」
そして翼で浮かべる軽い身体を持っているからなのだが、如何せんスコープの先でキレ散らかしてる姿を見るにあの鳥はトラックくらいの重量はありそう。改めて魔法というものの奇っ怪さを痛感する。
「作戦通り行こう。僕がバインドを入れるからトドメはなのはが。」
「4.3.2.1.…fire。」
翼を片方だけ撃ち抜くと左右にブレるので正確に両方を狙い撃つ。真っ直ぐ向かってくる標的など恭さんとの訓練に比べたら止まってる的と大差ない。
それにしても数日の間に考えられないほど成長したものである。恭さん曰く『才能が形になるのは早いが磨くのは時間がかかる』との事で、今の状態が地力らしい。
そしてリリィとの連携も慣れたもので、弾の同時撃ちなどお手の物。こちらは磨いた努力だろう。
「動きは止めたよ!」
僕っ子ユーノがバインドで化け物を縫い止めたのを確認して私も引き金に指を掛ける。
こうして見ていると魔法ってもっと煌びやかなイメージの筈なのだが、空を飛んでいる以外私の使い方ってほぼ銃器と同じでリリカル感が足りない気がする。
これじゃあ幼女戦記である。
ただ的に弾を撃ち込む爽快感は悪いものでは無い。小難しいこと何も考えなくて済むし、射撃だけに思考を割いていると戦闘の恐怖を感じることも無い。もしかすると、未だにどこか現実と認識出来ていないだけのかもしれないが。
「反撃は撃ち落とすから、決めてなのは。」
怪鳥が動きを封じられた腹いせか、火球らしき魔力の塊を首から上だけで撃ちだそうとしてくるのを散らすように魔力弾を撃ち込む。
巨体の割にこちらを真似たような勢いのある射撃だが、口から撃ち出している為予備動作がわかり易すぎてその速さが死んでいる。
もはや条件反射で撃ち落とせるレベルなので、撃ち漏らす心配は無さそうで少しだけ安堵する。
しかし、思えば女の子を2人はべらせて怪物退治に励む美少年が佇む現状。どこかで見たような俺TUEEEE作品の様な状態に少しだけ笑ってしまいそうになる。
まぁ、事実、
「スターライトブレイカー!」
最強主人公様なんですけどね。
回収作業が終わりアースラに帰還し、なのは達と共にリンディさん達アースラ組を混じえてブリーフィングをしているのだが、私は今心穏やかではなくなっていた。
撃墜されたなのはを回収した後、原作通りに協力体制を敷きジュエルシード集めを継続する事となった訳だが、少しまずい事になっているのだ。
それは、我々の回収したジュエルシードの数が原作より多くなっているという事である。
なんだいい事じゃないかと思うかもしれないがこの原作との乖離はとてもまずい。このまま数が違うとプレシアが引き起こす次元震の規模が変化するのである。それ即ち最後の時に何が起こるか予想できなくなるという事と同義なのだ。
下手をすればなのは達の命に関わってくる可能性も十分有り得る。数が減ったから被害の規模が小さくなると言いきれないのもロストロギアの怖いところである。
原因自体は分かっている。
これはアースラの存在をフェイト達に隠したままで協力体制を敷いたことで、表立って行動する面子が今までと変わらないことによりフェイト達が無理に探索のスピードを上げていないせいだと思われる。
しかし!このままではフェイトの危険が危ない。
何故それがフェイトの身の安全に繋がるのか。ぱっと思いつくだけで2つ考えられる。
まず、プレシア・テスタロッサの起こす癇癪が激化する可能性があること。これは想像に容易く、最終的に9個集めたフェイトにかなーりえげつない罰を与えていた事からも間違いないと思われる。まぁ、壊すまで痛めつけるような事は無いとおもうがそれでも激化する可能性は否めない。
アニメだと擦り傷程度の描写だが、蚯蚓脹れに炎症、下手すると骨折なんてことも充分有り得る。鞭打ちというのは元は拷問なのだ。フェイトにもしもの事が起きぬとも限らない。
曇る前に死なれたら困る(本音)、もしフェイトに一生物の傷が残ったらそれは世界の損失ですよ!?(本音)
え?欠損?いや、そういう結末になったらそれはそれで美味しくいただきますが、私にはそんな性癖は無いです。(嘘)
話を戻して。
次に、なのはがフェイトを下す事となる一大イベント「タイマン、ジュエルシード全賭けバトル(命名私)」が発生しないと思われることだ。
ジュエルシードは1つでも危ないとはいえ、数で勝ってるのに危険な勝負に乗る必要は無いよね?となるだろう事が想像出来る。だってリンディさんだぞ?あの合理的判断に躊躇の無さを子供の前で見せられる人が「1度ちゃんと向き合って話したい。」というなのはの言葉を聞き入れるだろうか?…正直私にはそうは思えない。
よしんば聞き入れられたとして、今度はフェイト側が信用してくれるかの問題も出てくる。
原作では、話に乗る他ない状況かつアルフを保護している状況下だったのもあって、
「女と女、意見が真っ向からぶち当たった。なら、タイマンでしょう!!」
と言った具合に戦闘が始まってくれたが、窮地に追い込まれた相手であればあるほど自分に有利な条件を提示されて信用するというのは難しいものだ。
君が負けても何も無いけど、私が負けたら好きな物あげる。なんて敵から言われて飛びつく奴が居たら見てみたいものである。
「そこはなのはに頼るしかないかなぁ。」
原作よろしく、お友達になりたいのパワーで説得してくれる事を期待したい。
汚れた大人の記憶がある身では、正直どうしたらいいのか検討もつかない。これが嫌だから原作に沿った行動を心掛けていたはずなのに…。おのれアースラ!!
「3人ともお疲れ様。ジュエルシードの封印も問題ありませんでした。」
「これで6つ。順調に集まってきてるね。」
「残り14個。あの子が持っているのもあるから正確な残りが幾つかは分からないけど、それでも着実に回収できてる。」
あーあ、難しいこと考えても分かんないや!(小学生4年生並感)
キャッキャと喜んでいる2人を見て浄化されよう。(隠しきれぬオッサンの残滓)
それにしてもユーノ君、もといユーノちゃんの人間形態可愛いわぁ。金髪美少女が好きだというのもあるが意志の固そうな使命を帯びたあの瞳が堪らない。とても曇らせ甲斐がありそう。
容姿にしたって、ちょっとローブとか邪魔だけど、あれはそれなりの物をお持ちだろう。
アタイ分かっちゃうんだから!Bはあるわね!
…女になって目算の付け方を知ってしまっただけなんだよなぁ。カップ数の計算方法とか知らなかったのに、女として生きるのには必要な能力だったんだ。
そんなくだらない能力要らないから目で見るだけでステータス分かる能力とか身につけばいいのに。
「要さん?どこか具合でも悪い?」
「あ、いえ。大丈夫です。少しぼーっとしてました。」
戦闘の後は思考回路が元に戻るせいかなんなのか、いつも以上に思考があらぬ方向に飛びやすい気がする。戦闘の昂りってやつの弊害かねぇ?
それにしたって最近悩む事が多くて人前で気が抜けている姿を晒している気がする。気を引きしてなくては。
安全の上で行っている事とはいえ、私は今のいままで戦闘を行っていたのだから、フェイトが襲撃をかけてくるとは思えないが、それでも警戒を怠ってもいい理由にはならないだろう。
「彩々木 要。君が何を悩んでいるかは聞かないが一応アースラの協力者となったからにはもう少し…」
クロノの口からお小言が漏れているが正直耳に入ってこない。
最悪、私が人質になってジュエルシードを渡す様に仕向ける事も選択肢に入れるとしようか。それかフェイトと接触する度にジュエルシードを譲るか…。とりあえず聞いているフリぐらいはしておくべきだろう。
水飲み鳥のように首をかくんかくんと振るタスクをリリィにお願いして思考をあらぬ方向に飛ばしていく。
それにしても次元航行を可能とする技術がどれほどのものかは私には分からないが、この近未来感のあるアースラの内装には心が踊る。
一昔前のロボット物、もといこの世界だと今流行りになるのだが、こういったメカメカしさと未来技術がひと目で分かるデザインはとてもいい。何故か空中に浮かぶ液晶画面バリの画素を誇る映像投影技術とか、是非身に付けたいものである。
「ジュエルシードの反応はもう無いですか?」
クロノのお小言の隙間を縫ってなのはからそんな言葉が飛び出す。
一仕事終えた後にも関わらず、次のジュエルシードの捜索にやる気を出すとは流石に私も目を向けざるを得ない。
だからリリィ、もうタスク解除してくれていいから。首むち打ちみたいになるから!
疲れている訳では無いので私も協力は惜しまないつもりでいるが、なのはのように自分からから言い出す程の気力はないので流れに任せるとしよう。
真面目な雰囲気のなのはの様子を隣に座るユーノと二人、ぼけーっと眺めながらアースラの内装評論に勤しむとする。
ねぇねぇユーノ、あれってなんで浮いてるの?魔力で…?エネルギー保存の法則に魔法エネルギーを使っている感じ?位置エネルギーを固定みたいな。違う?まじわけわかめだな、魔法。
「艦長、魔力反応を捉えました。ジュエルシードの反応と思しき反応が2つ。どうしますか。」
魔力で球体を浮かしている理由についてユーノに尋ねている間に話が進んだらしい。魔力反応が見つかったということは、相手も見つけている可能性がある。分散して動いているならタイマンに持ち込んでどちらかをクロノと協力して打倒すればいいが、私達が警戒されている場合、二人一緒に行動している可能性がある。とはいえアースラの存在は気づかれていない筈なので、有利なのは私達である事に変わりはない。
「僕達が行きます!」
「そうね。ごめんなさいクロノ執務官。もう暫く我慢してちょうだいね。」
「母さん!いや、艦長!職務中ですよ。」
自由に暴れられずにフラストレーションが溜まっているというのはエイミィからの情報だっただろうか。もしや先程の小言も憂さ晴らしだった可能性が微レ存…?
しかしあのおっそろしいクロノが手玉に取られているのを見ると溜飲が下がる。大人気ないって?ほっとけ。
今の私には手玉に取られる美少女を眺めることでしか得られない栄養素が必要なんだ。
そうしてまたぼーっとしていると話がまとまったらしい。
善は急げ。二手に別れて確保に向かうと。なるほど。
「では二手に別れましょう。なのは君とユーノさんは先程の場所から北東のA地点に要さんはもう1つのB地点へ。クロノ執務官を要さんのバックアップに付け、もしもの場合に備えます。それでいいかしら?」
「はい。構いません。」
完全に同意。さらにバックアップもつけて貰えるなら問題などある筈ない。なのはの方を視線で伺うが、あちらも頷いている。
「では、これよりA地点への移動ゲートを開きます。もしも敵魔導師と接敵した場合、無理はしない事。順番の都合でなのは君の側に応援が向かうのは遅れる可能性があります。無茶はせず、継戦を心掛けるように。」
「行ってらっしゃい。2人とも気をつけてね。」
「行ってきます!」
「要の方こそ気をつけてね。」
ゲートに入る2人に軽く激励を送り、出撃の準備を行う。といってもリリィにフリーチェックをお願いするだけで私は何をする訳でもない。
それにしてもなのははジュエルシード集めに積極的である。
それがユーノを助ける約束をしたからなのか、自分の存在理由と思っているからなのか、確実な理由は本人に聞かなければ分からないが、実のところ当初私はなのははジュエルシード集めを途中で止めるかもしれないと考えていた。
自惚れるつもりは無いが、私はなのはの心の隙間が埋まるまでの時間、一緒にいたつもりである。さらになのははある程度の社交性を身に着け同性の友人を獲得し、新しい環境にも適応した。それ即ち、魔法に依存するほど執着を見せないだろうと予想したのだ。勿論1割ない程度のあくまでも可能性の話だったが、そうなっていたら私はたぶんお手上げだった気がする。
原作とズレてきた事をアースラのせいみたいな言い方をしたが、割と最初からなのはが魔法にそこまで興味を見せなかったらどうしようかと危惧していた。私からなのはを協力するように誘導する事も考えたが、やはり確実性に欠けるため原作ブレイクが起こらないよう祈る他なかっただろう。
実際は原作みたいにジュエルシード集めに精を出しているので無問題なのだけれども。
「では、私も行ってきます。クロノさん、もしもの時はよろしくお願いします。」
「あぁ。気をつけて行動してくれ。」
ファーストコンタクトこそ最悪だったしお小言も貰う間柄ではあるが、普通に接してみればクロノはただのクール系美少女である。無愛想なところもあるが優しい人という印象が強い。
こうやって手を振るとちょっと格好つけながら軽く返してくれるあたりとても可愛い。ぜひその笑顔曇らせたい。でもクロノは
目的地周辺に着いたため空から捜索を行っているがあまり芳しくはない。
「サーチャーを飛ばしていますが…なんか不安定な感じです。」
元々精度はあまり良くないのでコンパス替わりに使っているのだが、それにしたって今日のサーチャーの調子は最悪である。
どっか壊れたのか?
『System all green.』
『どうやらジュエルシードの魔力がジャミングに似た現象を起こしているみたい。大変だろうけど目視で捜索をお願いします。』
あいあいさー。
とはいえ割と難しい要求である。足元にはちょっと面倒臭いくらいに広がる森、というか山。せめてどの山辺りか分かんないとキツいかも。
『Master. I catch trace of magic.(魔力反応を感知しました。)』
「ホント!?」
どうやらリリィもサーチャーを動かしていたらしく、ジュエルシードらしき反応をキャッチした。でかしたリリィ!
「こっちか。取り敢えず付近まで近づいたら降りようか。」
リリィの操るサーチャーを目印に移動する。足元から500m程離れた位置にあるのを見つけてウキウキで移動を開始する。
それにしてもリリィには感謝しかない。偉いぞぉ、今度ピッカピカに磨いてやるからな。
『もしかすると活性化しているかもしれないので、周囲への警戒を怠らないでください。』
あいあいさー。あいあいさー。
リリィに誘導用に出しているサーチャー以外をしまってもらうよう指示を出し、余剰の魔力を防御関係に回してもらう。しかしこのシールド、森に入るにあたって虫よけ要らずというかなりありがたい副効果もついてくる。バリアジャケットも合わせるとさらに安心。魔法万歳。
「森を焼き払えば効率よく探せるけど、その魔力にジュエルシードが反応すると危ないからできないのがなぁ。」
『My master lost humanism or didn't know kindness. (その発言は物騒に過ぎます。)』
結界張ってあるし大丈夫だって。ジュエルシードが活性化してなかったらきっとみんなやってるよ。タイムイズマネー。
「それには同意だね。もの探しをするのに効率を求めるのは間違ってない。」
ですよねー、なんて言っていられる状況ではない。
『Wide shot.』
「不意打ちを二度も食らうほど、こちらも間抜けじゃないです。」
牽制に背面撃ちをばら撒いて、リリィには声の主であるアルフの妨害を指示して全力で距離を取る。デバイスに一定量の魔力を付与して射撃をオートでおこなってもらう。
視線を周囲に向けるようにして無理矢理アルフに向きかけた注意を全力で捜索する。
――視線の先に…いた!
「この間ぶりだね…フェイト君?」
「なんで名前を…!?」
目と目が合ったらポケモンバトルと言わんばかりに死角から切りかかってくるフェイトをいなしながら、言葉を投げかけて隙を誘う。小学生のフルスイングを食らえ!射撃デバイスアタック!
「なんで避けるのさ!」
「…君を普通の魔導士とは思わないことにしたよ。」
「フェイト!」
一人が注意を引き付けてもう一人が強襲をかける。実に教本通りの奇襲戦術である。
ただ、あちらの手札を知っている身からすればこの程度は対応できる範囲である。
相手が回避するのも想定内。相手が動くタイミングで90度になる方向に飛び出して、私からフェイトとアルフを同時に視認できる三角形となるような位置関係を作る。対処できるとはいえ、挟み撃ちの状態でいるよりもこちらの方がいい。
「おっきな声で名前呼ぶ人がいるんだもの。聞こえてない方が問題じゃない?」
返事はなし。敵意むき出しの視線にぞくぞくしてしまう。
前までの私ならすくみ上がってしまう所だが、たぶん道場での特訓が効いている。上背のあるアルフから睨まれても挑発できる程度には余裕がある。
ありがとう恭さん、貴女の教えは私の中で生きています。
「リリィ、この間の使える?」
『Yes Master.』
私だって頭を負傷して手を負傷してボロボロになっている間、何も準備してこなかった訳では無い。再度フェイトと遭遇すれば前使った搦手は意味が無い。
というか、あれってなのはが使う予定のやつだからあそこで使ったのは時期尚早だった気がするが、今は置いておく。
私だって落ち着いていて魔力が普通に残っていれば、真正面からでも戦えるって所をみせてやる!
「
『Chase Ballet.』
光って音がなれば、人というのは否応なしに反応してしまうものである。私の散弾は言わば目くらまし。魔力量こそ込めていないので威力はゴミだが、その発光と射出音は目を惹かずにはいられない。
「アルフ下がって!」
そこをリリィの予測射撃で撃墜する。こちらは物理的にも威力を出せる高密度弾。非殺傷なので本物の銃弾のような貫通力は期待できないが、フェイトやアルフ相手でもシールドの1枚2枚はぶち破って成人男性に殴られた位の威力を期待できる。
「目眩し!?小細工ばっかりしかけやがって!」
「避けて!!」
フェイトの声に反応して咄嗟に横に飛ぶことでアルフに向かっていた弾は躱されてしまった。仕方ないので牽制射撃をしてアルフの視線を誘導する。
数を嵩ましして本命を狙ったり、予測射撃を直線で行うだけが芸ではない。私の考えた秘策は名前負けする性能の物では無い。
チェイスの言葉の通り当然、曲がる!
「っがァ!?」
「アルフ!!」
不意をつく形での後頭部への重たい一撃。これでアルフは戦力としては大幅にダウンしたと見ていいだろう。
この間の借りを返せた事に握った拳に力が入る。
「リリィ、このままやるよ。」
『Aye aye ma'am.』
無駄に魔力を込めておいて一撃だけでは勿体ないからと、全ての魔力弾は、私達の手を離れた後も魔力切れまで自由軌道でフェイト達の周囲を漂う様にプログラミングしてある。前方から好き勝手撃たれ、避けながらも周囲への警戒を怠れないという相手にとってはいつ襲われるか分からない嫌な配置だ。
実際はコントロールを取り戻せないので完全なブラフなのだけれど。
しかしこれで脳の揺さぶられているアルフを連れての高速戦闘は不可能。純粋な2対1の状況は崩れたと言ってもいい。後はフェイトとタイマンを張って応援が来るまで粘ればいい。
リリィは引き続き自動射撃マシンとしてアルフの牽制を行ってもらい、私はフェイト1人に意識を割くタイマン勝負。
もういっそこのままクロノとなのはを待って捕獲してしまうのも悪くない!原作崩壊とか今更だぃ!
「僕が君を倒す。」
デンデン!
と空耳を聴きながら飛んでくるフェイトに散弾を打ち込む。今度は多少威力があるが、バルディッシュを盾に吶喊された。近接は苦手だと言うことは完全にバレているらしい。
リリィの砲身を分離して、中間のデバイスパーツだけで切り結ぶ。ブレードを出しているだけの余裕は無いのでこっちは鈍器で相手させてもらう。近接で精密な射撃も不可能なので魔力弾が出せないデバイスでもあまり戦力的には変わらない。
以前の戦闘よりも相手の動きは目で追えているし、なにより隙を見て押し返す程度の反撃は出来ている。
だが2対1を回避したからと言って、この状況が有利な訳では無い。リリィには射撃をお願いしていて、協力が望めない以上近距離戦が不利なのは変わりない。恐らくフェイトもそれを分かっている。分かっていてアルフの回復までの時間を稼いでいるのだろう。
お互い時間との勝負だと、そう考えているに違いない。
「でも、対策しない訳ないじゃん。」
私のデバイスであるリリィは少し古い(らしい)。具体的にどんな不具合があるかと言うと、私の考えとデバイスの動きがリンクしない事が最も大きな欠点である。
というのもスコープに映る標的を自動でロックオンしたりだとか、即時のサーチャーの展開だとか、リアルタイムに行動を起こすことにワンテンポを要求される。或いはできない。
ただ自立型のAIとしての出来はよく、痒いところを勝手に掻いてくれるだけの機転が利く賢さを持っている。
しかしそうやって色々痒いところに手を伸ばすためにリリィはデバイスにしてはパーツが多く必要となっている。以前装備一覧を見せて貰った時、知識のない私では使いこなすのは難しいと感じたものである。
とはいえ長く使って行くうちにリリィの方から合わせてくれるようになり、私の技術向上もあって少しづつパーツ過多問題は解決しつつあり、リリィも少しスマートになっている。
だがやはり完璧という訳には行かない為、一時的な対策を講じた。
「
メインの部分を切り離した今、デバイスが無ければ私は魔法を使えないのか。
勿論魔法
「デバイスの…パーツ!?」
はい御明答。グリフィンドールに10点。
衝撃を食らった腹を抱えて、息も絶え絶えにこちらを驚愕の目で見てくる美少年。最高やなって。
魔力を適切に処理して魔法に書き換える作業に必要なのがデバイスなのではないか。そう考えた私は自分の戦法を見直して気がついたのだ。
私の使ってる魔法、飛行だけなのでは?と。
シンプルな話、魔力をそのまま撃ち出すことと魔力を魔法に置き換えて撃ち出すことに威力上差はない。燃費が悪い事や範囲指定などの制御が難しいものの、原則デバイスで射撃を行う主な理由は2つ。
『精密射撃』と『発射速度の確保』である。
遠くの物を狙うのに制御が必要になる事、距離を稼ぐために効率よくエネルギーの減衰を抑える事。この2つをデバイスは主に担っていると考えたのだ。
厳密には先程の曲射のように指向性を持たせたり光らせるなどの属性を付与したりと他にも色々と活用されるのだが、撃ち出すことだけを考えればその2つが主な使用目的である。
「ごめんね。私、普通の魔導師じゃないらしいから。」
それを無理矢理補ったのが、
問題は
目の前で苦しみ悶えているフェイトの姿からもわかる通り、今頃直撃を食らったお腹は広範囲に青黒く変色している事だろう。込められる魔力量の関係で内蔵を傷付ける事は無いが、それでも内蔵をかき乱された不快感は絶大だろう。嘔吐を我慢する姿も素敵だよ。
「悪いけど、ジュエルシードを君に渡す訳にはいかないの。」
空気を圧縮して撃ち出すように、魔力をデバイスの砲身に無理矢理詰め込む事でそれなりの速度と方向性を手に入れた私なりの秘策である。
本来ならもう1つデバイスを持てば済む話なのだが、今の私には用意する伝も手段もない。それにフェイトの様にこちらのデバイスがリリィ1つだと知っている相手に奇襲をするにはこちらの方が役に立つ。とはいえ私の方も打ち出した方の手が痺れて少しどころじゃなく痛いのでデメリットも大きい。やっぱりもうひとつ小型デバイス欲しいよ。
「負けないっ…!」
「お友達も限界みたいだね。君が頑張っても助けは来ないよ。」
一気に不利になったフェイトに対し、できるだけ高圧的に言葉を向ける。できるだけ相手の嫌な部分を突くように心掛けて。
折れよ心、砕けろハート!絶望しなよフェイトく〜ん?
アルフの方はいつの間にか来てたクロノが抑え込んでるし、君は今ズタボロ(はぁと)。
クロノに言われたのかリリィも手元に帰ってきたし、状況は不利になる一方。君には勝ち目どころか、逃げる事すらままならない。
「それでも僕は母さんに!」
「君が何を願ってジュエルシードを求めてるのか知らないけど、」
本当は私だってこんな事したくないし、仲良くなるには悪手だと分かっている。
でも…別に後で曇るなら、今曇らせてもいいよねぇ?
「君の願いは叶わない。」
フェイトの心が軋む音を聞き取り、被っていた仮面が崩れそうになるのを必死に抑える。
こういうのは頭の回る奴ほどいい音を立てるのだ!
あぁ^~心の折れる音ぉ^~!
残念!フェイトの冒険はここで終わってしまった!
The END...?