性別反転が好きなマイノリティだっていいじゃない。   作:菊池 徳野

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話を中抜きする癖があることに最近気づいた。


苦悩の果ては

睡眠障害と呼ばれる物がある。

 

詳細な医療の知識は無いので付け焼き刃ではあるが、具体的には夢遊病とか睡眠時無呼吸症候群とかむずむず脚症候群とかそういうのである。レム睡眠ノンレム睡眠。

 

そんな睡眠障害であるが、寝ている時に自分の寝言で起きるのも夢遊病関連の睡眠障害らしい。「かっとばせー!」とか叫んで更に腕まで振ったなんて事があれば一発で睡眠障害に認定される。

だから私が腕を振り上げた痛みで目を覚ましたのも夢遊病の気があるのかもしれない。

 

「…いや待て、なんでベッドの上にいるんだ?」

 

寝起き10秒。もはや取り留めのない思考でお馴染みの私である。

自分の状況整理を斜め上方向に行っているのを自分で修正する為に声を出すが、それに若干現実味が薄いのは寝起きだからというだけでは無い。白い壁、機械っぽい天井。周辺の様子からここはアースラの医務室だろうか。つまり怪我人なのか、私は。

 

それ以外に分かったことは、人は寝起きに知らない天井を見て「知らない天井だ。」と言うだけの余裕はないらしいことくらいである。

 

「私はさっきまでフェイト君の青ざめた顔を堪能していた筈…もしや夢だったのか?」

 

思えばあんなにすんなりと相手を罠に嵌めて上手く立ち回るなど、できる方がおかしいのである。

現実だとしたら、あの後「じゃあ、死のうか。」くらいのこと言いながらリリィを首筋に突きつけるなりなんなりしていた筈だがこの感じだと私は負けたみたいだし余計に夢オチの可能性が出てきた。

 

『Y…oUr re…mArk iS w...rong.』

 

「リリィ!?どうしてそんなボロボロなの!?」

 

ベッド脇から声をかけてくれたリリィは、しかし普段は綺麗に輝いている宝石が罅だらけになってしまっていて、音声もかなり不安定になっている。

いや待ておかしい。明らかにおかしい。

リリィの姿から分かること。即ちそれは私が戦闘を行い敗北したであろう事実。夢オチ以前に記憶の欠落がある。

 

「何か忘れてるはずだ。思い出せ。フェイトと戦った後、あれだけ勝ちを確信した状況から何があったらこんな事になる?」

 

よく見れば私の身体もボロボロだし、腕には包帯も巻かれている。動かすと少し痛むが、骨折などはしていないらしい。腕振り上げて痛かったのはこれが原因かぁ。

 

いや、まず何でこんな大怪我してるんだ!?大怪我する要素なくない?

 

「記憶が飛んだって事は何か衝撃的な事が起こったか、強い衝撃に晒されたかだ。いや、それなら念話で誰かに聞けばいいじゃない。」

 

そうと決まれば善は急げ。とはいえ誰なら確実に手が空いていて詳しい話をしてくれるか…ユーノかな。なのはは混乱して具体的な事話せなさそうだし、他は皆仕事してるはずだしね。身体を起こして早速聞いてみる。

Hey ユーノ、私に何があったか教えて。

 

『要!目が覚めたんだね。よかった。皆心配してたんだ。痛むところは無いかい?』

 

腕が痛いのは間違いないが、身体の痛みよりも記憶が無い方が問題である。何があったか教えておくれよ。フェイトを追い詰めてたはずなんだけど?

 

『君は次元震に飲み込まれ掛けたんだよ。強い光が立ち上ってあの山の一部が崩れたんだけど、どうかな?思い出せそうかい?』

 

次元震か。いや、確かにジュエルシードを探しているのなら巻き込まれる可能性は十分ある。実際アニメだとそれを観測したアースラが介入してくるという流れだったし、私としてもイメージはしやすい。

ということはあの後フェイトがジュエルシードを見つけて取り合いになったのだろう。フェイトを私が追いかけて、2人分の魔力に反応したジュエルシードが次元震を引き起こした…辻褄は合う。

しかし流石に主人公。いくら追い込まれても何かを持っている。突発的に曇らせるのは難しいかもしれないな。

 

生憎とすぐには思い出せそうに無いが、時期に思い出せるようになるだろう。とはいえ思い出したところで必要な情報は無いだろうしこのまま戻らなくても支障はない。

そんな旨の事をユーノに返答して具体的な話の詳細について促す。飲み込まれかけたってかなり危険だったんじゃないの?

 

『うん。今回起こった次元震は小規模とはいえ、人1人くらいなら消滅してもおかしくない物だったって聞いてる。目の前でそれが起きた時、要は運悪く木にぶつかって吹き飛ばされなくて、次元震の渦に飲み込まれかけたって。』

 

あ、それは死にますねぇ(笑)

 

『でもリリィが頑張ってくれたみたいだね。要がデバイスへの魔力と権限の移譲とを行っている事は知らなかったから肝が冷えたよ。今回はそれのおかげでリリィが気絶した要を無理矢理遠ざけてくれたんだ。相手の魔導師は取り逃したけど、仕方ないさ。』

 

「ありがとう、リリィ。」

 

『No pR...obl...eM.』

 

つまり私は余裕ぶっこいている間にフェイトに出し抜かれ、あまつさえその副次的な現象のせいで死にかけたということか。

小物が調子に乗ると命に関わるのか…。なんて行きづらい世界なのだろう。

 

…これは記憶戻らない方がいいかもしれないな。ユーノ曰く気絶していたらしいが、意識が残っていて死を目前にして過剰なストレス負荷が掛かった事による防衛機制が働いた可能性もある。記憶が戻った途端SANチェックなんてことになっても困るので、積極的に思い出すことは控えよう。

 

『アースラの人に要が起きたって伝えておくから、安静にしてなよ?まだ気絶してからあんまり時間も経ってないし検査は受けるようにね。』

 

あ、はい。ほんとご心配お掛けしました。

 

『後でなのはと一緒にそっちに行くから、無茶しちゃダメだからね。』

 

そないな事言われても、普段は私そんなに無茶な事して無くない?寧ろサポートがメインで前に出るのはなのはとユーノだし、何故こんな扱いを受けているのか。甚だ疑問である。

 

念話を切って再び一人、じっと手を見る。包帯のせいで分かりにくいが、かなり激しく擦り切れたらしい。逆剥けの激しい版のような痛みが全体的に主張している。

若返ってからはもちもちすべすべの肌で生活していただけにこの違和感は懐かしさも伴って、凄く気になる。

 

「リリィ。私と接触してたら直りが早かったりしない?」

 

『nO』

 

さよか。まぁアニメでレイジングハートもバルディッシュもかなりのスピードで再生していたし、明日にはリリィも直っているのだろう。

魔力を流して物を直すのはまた違った技術が要りそうだし、私も大人しく寝て体力を回復する他ない。

 

起き上がっていても仕方ないと分かったのでボスンと枕に頭を埋める。

しかし、フェイトと戦ったのは夢じゃないのかぁ。

 

 

 

『君の夢は叶わない( *`・ω・)キリッ』

 

 

 

だっておwww勝てるんじゃないかってイキリ散らした結果がジュエルシードもフェイトも取り逃すとかwwwファーwww

 

いっそ殺せよォ!!秘策とか言いながらやってる事理科の実験レベルやぞ!?何ドヤ顔してんの?余裕かまさず確保しろやァ!私ィ!!

 

しかも曇らせるとか言いながらやってる事腹パンおじさんだぜ?暴力に訴えかけて良いジャンルじゃないんだよ愉悦っていうのはさぁ!

もっとこう、心?心に重たい一撃を食らわせるの!小さい積み重ねで逃げ場を無くして心を折るのが愉悦なの!腹パンじゃないの!

 

ってかそれより酷い。腹ショットガンとか何考えてるの?リョナの世界の人なの?自分で自分が怖いわ。非殺傷設定に甘えて容赦無くなり過ぎじゃない?それ以前に設定したっけ?出力的に平気でしょとか言いながら何にも触ってなくない?フェイト君顔真っ青でしたよ!?

 

何よりも推しに腹パン、もとい腹ショットガン食らわせるとか何考えてるんだ…。お前はなのはの世界をどうしたいんだよ。指詰め案件だぞこれはぁ…。

 

「愉悦、愉悦とは一体…?私は何をして何を考えて生きているのだ…?私の知能が高ければ…INT3の己が憎い…。」

 

その苦悩はアースラの職員ともに見舞いに来たなのは達が医務室のドアを開けるまで続き、その時の様子を書いたカルテには『死の恐怖からか精神錯乱の傾向が見られる。本人に自覚は無く、無意識的に自身を責めているようである。カウンセリングを検討されたし。』とメモしてあったらしい。

そしてそれを読んだリンディが、見当違いの罪悪感で胃に穴を開けるのは私の知るところではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイト、大丈夫か?怪我は痛くないか?」

 

「平気だよ、アルフ。大した傷じゃないから、1日も経てば治るよ。」

 

そう言って笑ってこちらを見るフェイトの顔は未だ青白くとてもでは無いが平気なようには見えない。一日で治るような傷ではない事は、治療を行ったアルフにはそれこそ痛いほどに分かっていた。

広範囲の内出血というのは元々治りが遅い。それに加えてフェイト達の状況では安静を確保する事も難しいだろう。

 

「もう止めよう。管理局も出てきた以上、俺達だけじゃ無理だよ。」

 

フェイトがあの小娘に良いようにされている間、アルフだって指を食わえて見ていた訳では無い。いくら不意打ちを食らって脳震盪を起こしていたとはいえ、自立したインテリジェンスデバイス程度の牽制射撃を躱してフェイトの元に駆けつける事くらいアルフには容易に出来た。

 

それを阻んだあの管理局の余裕ぶった顔。無意識に握っていた拳に力が入る。あの生意気なガキに全てを邪魔された。

相手は明らかにアルフの妨害のみを意識した立ち回りをしていた。攻め手に掛けているように見せて、その癖アルフが動こうとしたら的確に止められる。明らかに格上の存在だった。

傷付いたフェイトの姿が視界に入る度、フェイトの悲鳴が耳に届く度、アルフの中に有ったはずの冷静さは抜け落ちていく一方であった。

 

戦闘において焦りは何より禁物である。そのセオリーを守れず、結果自分は逃げることも助ける事も叶わず地面に叩きつけられた。

今こうしてフェイトと2人、逃げ延びて来れた事自体奇跡に近いのだ。

 

「でも、ボクは母さんの願いを叶えてあげたい。」

 

だからごめんね。そう言う己の主の笑う姿の何と痛ましい事か。フェイトの笑顔を守ると言う誓いはどこへ行ったのか。

次元震を引き起こす様な危険な代物を我が子に奪わせる様な母親の、何がそんなにいいものか。アルフは喉から出かかった言葉を飲み下す他なかった。それはフェイトを守れなかった自分に言う資格が無いと感じた事もあるが、何よりフェイトにその言葉をぶつけるには、今のフェイトはあまりにも痛々しかった。

 

アルフは己の不甲斐なさに震えるしか無く、だがそれでもフェイトの願いに異を唱える事はアルフの心が許せなかった。自分が肯定しなければ、フェイトは本当にひとりぼっちになってしまうと。

その事を誰よりも理解しているが故に。

 

「ごめんね、アルフ。ごめんね。」

 

震える自分をそっと抱きしめるフェイトの手は温かく、アルフは堪えきれずに声をあげて泣いた。

俺がもっと強ければ、俺が不甲斐ないばっかりに、謝るのは自分の方だと口から出掛けた言葉は、結局その全てが意味の無い嗚咽と幼稚な謝罪の言葉へと変換された。

 

夢叶うまで、と誓いを新たにした2人にとって、苦い教訓を産んだ冷たいコンクリートに閉じ込めた忘れられない春の夜の事だった。




苦悩の温度差が凄い。
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