ヤンデレだらけのクリスマス   作:四月朔日澪

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※2025年12月30日に改正ストーカー規制法が施行されました。紛失防止タグ等での無断での位置情報の特定が規制されましたが本作はフィクションであり犯罪行為を助長する表現でないことを今一度申し上げます。


悔告の果てに

-池袋駅

 

西武百貨店の本店があり、飯能など埼玉への玄関口でもある池袋駅。

俺にとっては池袋は立ち止まることのないただ西武線の乗換駅でしかなかったが、理香ちゃんと会ってからはここで出会うことが多くなった気がする。

 

「久しぶり光輝くん」

 

「理香ちゃん、理香ちゃんに聞きたいことがある」

 

「うん。私も話したいことがあるの」

 

 

4月になり、3月の寒さを残した春から陽気が暖かい春へと移り変わった頃だった。一ヶ月ぶりくらいに理香ちゃんとのデートだ。

でも、これまでのレンタル彼女と利用者の関係ではない。

レナさんから話を聞いて理香ちゃんがレンタル彼女ではないということを知った。今日はそのことも聞きたくて理香ちゃんに会いに来たのだが...

 

「光輝くん、気が付いた?」

 

理香が首を傾ける。理香の格好はいつもの可愛らしいものとはまた違う、それどころか既視感があった。

 

ややくたびれたライトグレーのパーカーに黒のチノパンツ

俺が由佳との情事の中で考えていたことは予想通りだったんだ

 

「やっぱり..理香ちゃんがあの時の」

「うん。東京駅であったあの女の子だよ。でもね、光輝くんとはずっと前から会ってたんだよ。」

「え...」

「今日のデートはね。本当の私を知ってほしくて、少し遠出しよ?」

 

理香は光輝の手を握って改札へと向かう。いつも思うが女の子の手というのはなんでこう暖かくてこう細いんだろうか。軽く握るだけでも砕けてしまうのではないかと心配になるくらいに肌がやわらかい。

パーカーの袖から少しだけ出ている手が余計可愛らしい。これまで見てきた理香ちゃんも女の子らしかったが、こういう素朴な私服姿も十分可愛かった。

 

西武線の改札にもう一度入り、西武池袋線-ちょうど俺がいつも帰りに利用している路線に二人で乗る。

ホームには緑と青のコガネムシみたいな色の電車が入り、ホームには機械的に流れるチャイム音と生温い排気ガスのような空気が場を包む。

 

通勤ラッシュとは無関係の反対側の路線だからか、車内は閑散としておりシートに並んで座ることができた。

ドアの上にあるモニターには椎名町、東長崎、江古田、桜台...と各駅停車の路線図が表示される。行き先は何も聞かされていない。

 

「光輝くん、しばらく連絡なかったけどどうしたの」

 

理香ちゃんから口火を切る。ラインの履歴をあの後見返した。俺が家にこもってから一日に何件も送っていた。そんな相手に「心配させてごめん」なんていう常套句を使うことなどできなかった。

 

「実は理香ちゃんとサイゼで別れた後、由佳と喧嘩したんだ。それから由佳と連絡がつかなくなって...そしたら他の男に由佳を盗られたのを知ったんだ」

「それって私のせいだよね」

理香は目を見ずに呟くように話す。

 

「私が煽るようなことをしたから由佳ちゃんが怒ったんだよね。あの子の性格だからきっと光輝くんにあたると思っていたよ。由佳ちゃん....ううんあの女、ずっと光輝くんのこと束縛していたよね。」

 

西武線は住宅街を走り抜け、気が付けば電車は江古田に停車していた。

 

「チョコレートのこともあの女が捨てたんだよね?光輝くんは優しいから食べたことにしてくれたよね。」

「本当にごめん」

「ううん。気にしていないよ。あのチョコね光輝くんの言う通りちゃんとテンパリングして艶を出した自信作だったから光輝くんに食べてもらいたかったな。生まれて初めてのバレンタインチョコ」

「俺の言う通り...?」

「そう。あの女からバレンタインチョコを貰ったあの日に光輝くんが言っていたこと...私ね東京駅であの時再開したときから光輝くんのことずっと見てたんだ。ずっと。光輝くんが筑波大の付属にいた時からずっと遠くから見ていたんだ。だから、光輝くんがあの女の家庭教師を始めたのもしってたし、チョコを貰ったこととかあの女とふしだらなことをしたのも全部知ってるんだ...」

あの時俺と由佳しかしらない秘密を理香ちゃんが知っていたことを思い出した。英単語帳を渡したあの子がこれだけ俺に執着しているなんて...驚きを隠せなかった。

 

「もちろん、光輝くんがレンタル彼女を借りようとしていたことも...ね」

「だからレンタル彼女のふりをして俺に近づいたんだ」

「さすが光輝くん、察しがいいね」

「いや、実はあの日本当に来るレンタル彼女の人に最近出会ったんだ。その人は理香ちゃんのことを知らなかったけど...そういうことだったんだね」

「うん。だって、光輝くんが他の女と形だけでも付き合うなんてゆるせなかったから...」

 

点と点がようやく繋がったような気分だ。だけど、何か一番肝心なことが聞けていない

 

「どうして理香ちゃんは駅であの一回しか会っていない俺のことをそんなに好きでいてくれるんだ?理香ちゃんはあの時に一目惚れ....みたいなことをしたってこと?」

「半分当たりで半分外れ。確かにあの時また光輝くんに会って私の気持ちは本物だったんだと確信した。でもそれよりもっと君に惚れていたの....だから今日はこの『大久保理香』という偽物の私じゃなくて本物の私を見てもらいたいと思って光輝くんをデートに誘ったの」

 

電車は高架の上を走り続けている。理香ちゃんがどこを目指しているのか分からない。中村橋駅を超えて最寄り駅の石神井公園駅に近づいていることは分かる。恐ろしくて聞けないが、おそらく理香ちゃんは俺の自宅も知っていそうな気がした。

隣に座る理香ちゃんを見る。今まで見た華やかな理香ちゃんも可愛かったが、こういうラフな姿も似合っている。今車内にいる誰よりも可愛いといっていいだろう。こんな子が俺のストーカーをしていたなんて誰に言っても信じてもらえないだろう。俺自身も半信半疑だ。しかし、これまでの話を聞いて彼女が俺に好意を持ってくれていることは伝わった。

 

「なんで今本当のことを俺に話そうと思ったの?」

「それは理香じゃなくて私を愛してほしかったから....私ね。本当は名前理香じゃないの。本当の名前は榊原紀香。これがあなたのことをずっと付きまとっていた女の名前。

大久保理香として光輝くんの前では頭が悪くて甘えたがりのいい女の子でいようと思ってた。けど、そんな『理香』に私自身が嫉妬しちゃったの。私の方がずっと好きなのに...って」

 

榊原紀香....どこかで聞いたような.....

 

「あ、光輝くんここで降りよう」

俺は何か手がかりを掴みそうになったとき、理香もとい紀香ちゃんが席を立つ。

たどり着いたのは大泉学園駅だった。

 

**********

-大泉学園 ショッピングモール

 

駅を降りてすぐのショッピングモールへと紀香に連れられる。

「懐かしい。もう十何年も来てないな。うちの姉がここのスーパーで働いてて学校が終わったら姉の仕事が終わるまでずっとここにいたんだよ」

「そうだね。あの頃の光輝くんも同じこと言っていたね」

「あの頃?」

「うん。小学生の頃に私たち一回会ってるんだよ」

「もしかして....」

 

俺と紀香ちゃんは何も話さなくてもある場所へと足を向けていた。エスカレーターも曲がり角もまるで場所を知っているかのように歩く。いや、紀香ちゃんも俺にも確信があった。

 

そして、たどり着いた場所 「Kid'sランド」とポップな色で描かれた看板

カラーボールで埋め尽くされたプールにその真ん中に聳える大きな滑り台

パズルのようなクッションマットが敷き詰められた床にはおもちゃが散らばっていて、机でお絵描きをしている子どもがいた。

 

「やっぱり....ここなんだね」

「うん。小学生の頃、ここで宿題をしている君と出会ったんだ。宿題を教えてあげたら、君は私に『優しい』って言ってくれたの。私ね男の子に優しいって言われたの生まれて初めてだった。すごくドキドキした。あの時は分からなかったけど今ならわかるよ。君のことを好きになったんだって。あれからまた君に会いたいと思ったけど、もう高学年だったし一人で出かけられるようになっていったらもう光輝くんもここにはいなくなっちゃった...それから数年後、駅で偶然光輝くんに声をかけられた。運命だと思った。ずっと光輝くんのことを忘れられなかったから。もうこの機会を逃したら二度と光輝くんに会えないと思ったから.....だからストーキングしたの」

 

紀香の長い間秘めていた告白から二人の間に沈黙が生まれる。周囲は子どものはしゃぐ声がガラス越しから聞こえてくる。

 

「ねえ、光輝くん私のこと好き?」

 

俺は何か言おうとすると、「言わなくても答えは分かるよ」と紀香が切り込む。

「こんな気持ち悪い女好きなわけないよね...たった一度あっただけで運命とか言って君のこと付きまとっていたんだから。

でも、私は光輝くんに想いを伝えられただけで十分だよ。やっと紀香としてあなたに会えて告白できたから.....もう光輝くんには近寄らないし、光輝くんにかかわるものは全部捨てるから。今までほんとにごめんね」

 

紀香はその場をあとにしようとしたとき、光輝はふと、紀香の腕をつかんだ。

 

「やっと思い出した」

「え?」

「俺も君のことをずっと探していた。俺もあの後また来ないかなってずっとここで待ってた。けど、高学年になってここも入れなくなってどうしたらまた会えるかなって考えた。彼女は頭がよかったからきっといい学校へ行けばいつか会えると思っていた。それから中学受験で筑駒に入学して段々と君のことは頭から消えていった.....そうか、紀香ちゃんも俺と同じことを考えていたんだね」

「会いたかったって....」

「俺も君のことが好きだった。生まれて初めて好きになったのが紀香ちゃんだった....だから今まで俺のことを忘れずに好きでいてくれたのは正直、嬉しい」

「でも、私ストーカーだよっ?君のこと盗聴だってしてたし」

「俺さ爬虫類の研究をしてるからその生物の全てを知りたくなるんだ。だから紀香ちゃんもきっと俺のことを知りたくてそこまでしたんだと思う....最初は驚いたけど。

だから、今度は俺が紀香ちゃんを研究したい」

なんか今滅茶苦茶なことを言っている自覚はあった。けど、言ってしまったものは今更撤回できない、俺は顔が熱くなるのを感じながら初恋の相手に十数年ごしの告白をした

 

「研究のために俺と付き合ってください!!!」

 

**********

-上智大学四谷キャンパス

JR四ツ谷駅から歩いてすぐ、赤レンガの歴史ある校舎がたたずむ。校門には「SOPHIA UNIVERSITY」と書かれた看板がありキャンパス沿いの道も「ソフィア通り」と名付けられている。

ギリシャ語で「最高の叡智」という意味のソフィアは今では上智大学の代名詞となっている。

 

そんなソフィアの構内にスターバックスコーヒーがあるのはご存知だろうか。俺は初めて知った。東京大学の工学部の学部棟にもスタバがあるが、なんというか上智大学の方がスタバが似合う雰囲気があると特徴のある建物を見て感じた。

 

店の前には女の子が3人ほどいて、一人が俺に気がつき手を振る。

俺は手を振りかえしてその集団に近づく。

 

「光輝くんごめんね、急に呼んじゃって」

「全然いいよ、今日は大学だから近くにいたし」

 

ライトグリーンのカットシャツにジーンズ、黒い長い髪をポニーテールに纏めている彼女は俺の隣に立って手を添えた。

 

「お友達の大家光輝くん♪」




お読みいただきありがとうございました。

光輝は振られたのでしょうか?真相はまた次回に
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