町の通りの一カ所。そこに大勢の人が屯していた。
その中央にいるのは青い和服に、狐っぽい耳と尾を付けた美女だ。
「は~い、寄って来なさい見てきなさい。ここに集った皆さまは大変運がよろしゅうございます。この度、不肖ながらこの私が……ちょっとした神秘の力をお見せしちゃいます!」
玉藻の前は札を手にとると、大きく手を振り、体を動かし、舞を踊って見せる。何やら神秘的な言葉の数々を並べながらだ。美女の舞だ。人々が食いついたように見とれる。
たっぷり10秒ほど舞をした後、玉藻の前は持っていた札を「そいや!」と宙に投げた。
それに合わせて、後ろにいたバベッジが蒸気を噴射する。水蒸気が雪となり、人々の上に舞い降りてきた。
「わ~!」
「お姉ちゃんすご~い!」
拍手が鳴り響き、玉藻の前は舌をペロッと出しながら、ピースとウインクをした。
「お~!」
「なるほど、ショーにするわけか」
藤丸と一緒に、フランとモリアーティ教授が拍手をしていた。
「ありがとう、紅閻魔くん。これならもう少しSPが稼げそうだよ」
「いえいえ、お役に立てて光栄でち」
紅閻魔と教授は握手し、フランも喜んで手を握った。
フランたちのクリスマスプレゼントは雪を降らせることだった。バベッジの蒸気を使っているので元手は
なんとか改良できないかと相談していたところに藤丸たちが通りかかり、紅閻魔が「演目にしてみては?」と提案をしたのだ。
玉藻の前が投げた札にはなんの魔術もかかっていない。バベッジの雪を別の魔術で急速冷却しているだけだ。
「ようは、ただそう見せかけるだけのフェイク……手品のような物だね。魔術を使っているのに手品とは変な言い方ではあるが……」
「それにしても、よく思いついたっすね」
「いえ、閻魔亭でも芸とかを行いまちから。それに、ガヴェイン様たちの演目を見ていたから思いつけただけなのでち」
教授とマンドリカルドの褒め言葉に、紅閻魔は頬を掻いた。
「ただ、玉藻の前さんをお貸しするわけには……」
「それは心配ご無用」
マシュの言葉に、モリアーティは人差し指を横に振った。
「つまり我々がやるべきことは……人を騙す。だろう? このモリアーティ、その道について右に出るものは居ないと自負しているとも」
「ぱぱ、わるいかおしてる……」
「おお大丈夫だよフラン。パパたちが楽しい演目を考えてあげるからね?」
ここはもう大丈夫だろう。藤丸たちは玉藻の前を回収すると、フランたちに手を振って別れた。
◇
子供たちの熱狂が上がる。「そこだー!」「頑張れ~!」と。
ガヴェインたちの演目の中に、紅閻魔、マシュ、マンドリカルドが加わっている。対するはガヴェイン、ランスロット、ベディヴィエールだ。
「さあ来なさい。ランスロット卿! この盾で受け止めてみせます!」
「え、いや……ど、どうすれば!?」
マシュが台本通りに煽るが、ランスロットは真に受けて動揺してしまっていた。ベディヴィエールが困ったように彼の肩を小突いた。
トリスタンの曲に合わせて、6人が入れ代わり立ち代わり、舞台の中で剣劇を繰り広げていく。少々大げさに動きを取り入れて、盛り上げていく。
最後はガヴェイン側が紅閻魔たちを退け、ガラティーンを掲げて見せた。見ていた人たちは大はしゃぎだ。演目に女の子が2人加わったことで、観客の顔ぶれも変わっていた。
ガラティーンの模造剣を配り終えると、ガヴェインたちが紅閻魔たちに礼を告げた。
「ありがとうございます。おかげで多くの方々に喜んでいただけたようです」
「何回も同じ演目をしていたから、飽きが来てしまっていましたしね」
ベディヴィエールの言う通り、紅閻魔たちが通りがかったところ、観客がひどく少なくなっていたのだ。演目が一つしかなく、飽きられてしまったらしい。そこで紅閻魔たちが協力した。3対3による剣劇にすると。演出の幅も広がり、大いに楽しんでもらえた。
「あとはこの流れを引き留めるだけでち」
マンドリカルドがミルク缶をランスロットに渡した。
「中にホットミルクが入ってるっす」
「かたじけない。観客に配ればもっと楽しんでもらえるな」
紅閻魔たちがずっと協力することはできないので、ホットミルクを分けておいた。ぬくもり目当てに集まってくる観客を掴めるだろう。
「本当にこれで大丈夫なのでしょうか?」
トリスタンが不安げに問うが、藤丸は「大丈夫じゃないかな」と答えた。
「もうすぐ時間帯が変わって人通りが増えてくるから。演目は最初のままでいいんじゃないかな? もしくはベディヴィエールが加わって敵側を2人にするとか」
「う~ん、私は今のままでもいいと思いますけれど……」
ガレスが腕組みをして唸る。そこは彼らの自由だろう。
彼らの礼の言葉を受けて、紅閻魔たちはその場を後にした。
「皆さま、お付き合いしてくれてありがとうでち」
ソリの中で紅閻魔は皆に礼を言った。藤丸は「良いよ良いよ」と返しておいた。マシュも玉藻の前もマンドリカルドも同じ気持ちだ。
「別のチームを助けることになりまちたが……あちきがサンタ活動としてやりたいことは、これなのでち」
美味しいお菓子で喜ぶ人もいれば、雪ではしゃぐ人や、劇を楽しむ人もいる。町にいる人の数だけ好みがある。それら全てを紅閻魔たちで用意することはできない。だから紅閻魔たちは他のチームを支援した。彼らが成功すれば、その分だけ幸せになってくれる人が増えるのだから。
「分かってるよ」
「そんな紅閻魔先生だから、私たちはお手伝いしているのですよ?」
玉藻の前の言葉を受けて、紅閻魔が照れくさそうに笑った。自然な笑みに藤丸も頬を緩めて辺りを見た。町に人が増えていく。それをただ見つめていた。
◇
他の参加者たちの手伝いをした一方で、紅閻魔たちも活動を再開した。
藤丸の言った通り、人の姿が町に溢れかえってきた。これから人ごみのピークなのだ。
「メリークリスマス! よし、言えたでち! あ、プレじントをどうぞでち!」
紅閻魔がどら焼きとホットミルクを渡していく。バナナ風味のどら焼きに、寒空でのホットミルクはちょっとした贅沢だろう。だんだんと列ができてくる。
「マンドリカルド、生地混ぜるの手伝う!?」
「大丈夫っす、マスターは休んでください!」
「そんなわけにもいかないよ!」
藤丸は腕が痛くなるのを堪えて、バナナを綿棒で潰していく。
マンドリカルドは汗と髪が入らぬようにと頭に三角巾をつけてボウルで生地を混ぜる。
玉藻の前は頭に熱が溜まって来たのか、氷水が入ったビニル袋を頭にのっけながら、鉄板の上で焼かれている生地を凝視している。
マシュはホットミルクを担当する一方で、出来上がったどら焼きの梱包を担当している。作業が二つある分、目が回る忙しさだ。
「皆さま、やっぱりあちきも手伝うでち!」
ソリの中を心配したのか、紅閻魔が中に入ってこようとする。
「ダメだよ紅閻魔先生」
藤丸が言うと、紅閻魔はソリに片足をかけたままで止まった。
「町中にサンタさんがいないと、寂しいですよ?」
マシュが汗を拭きながら藤丸に賛成する。
「センセ、ここは一番弟子にお任せあれ!」
「俺も生地作り頑張るっすよ!」
玉藻の前とマンドリカルドも額に汗を流しながら頷いた。
日が落ちて久しく、外は冷えてきている。その中でこの汗だ。彼らはどれだけの思いで、このサンタ活動に取り組んでくれているのだろう。
紅閻魔はそれでも中に入ろうかと少し迷ったが、フォウが外で「フォウ」と鳴いた。戻りなさいと言っているのだろう。
紅閻魔は唇を少し噛んで、外に出た。
「メリークリちマス! どら焼きとホットミルクでち。どうぞ貰ってくだちゃい!」
これが自分の役目だ。ならば精一杯頑張ろう。来てくれる人たち皆が笑ってくれるような、そんなサンタとして。
◇
汗と眩暈と、やりがいと楽しさに包まれた時間。そんな時間はなぜか物凄く経つのが早く感じてしまう。
「紅閻魔先生」
プレゼントを配っている紅閻魔の元に藤丸がやってきた。その後ろにはマシュたち3人もいる。皆険しい顔をしていた。
「御主人……どうしまちた?」
尋ねてはいたが、紅閻魔は何となく察していた。
「さっき、端末に通知が来たよ。この町のSPが一定以上貯まったって」
紅閻魔は顔に出さないようにと懸命に務めた。だが無理だった。
「そう……でちか……」
やっと楽しくなってきたのだ。自分のサンタ活動の中身を見いだせた。この5人での時間がかけがえのない物になっていた。それが唐突に終わると告げられたのだ。
「各チームは1時間以内に、大きな噴水がある広場に集まるように……だって」
誰も何も言わなかった。紅閻魔は目を強く閉じ、無理矢理笑みを作った。
「それでは、今ある分だけ配ってしまいまちょう。紅たちのサンタ活動は、そこでおしまいでち!」
「はいはーい! ではでは、最後まで手ぬかりなく焼いていきましょ!」
「玉藻、いくらお前でも手を抜いたら怒りまちよ?」
「ひや! これは大失敗! 雀の尾を踏んでしまいましたわ」
玉藻の前に釣られて笑いながら、5人は活動を再開した。
そして最後の一つを配り終え……彼らのサンタ活動は幕を閉じた。後片付けも終わり、マシュとマンドリカルドが屋台を引こうと位置に着く。
綺麗に片付いたソリの中を見渡してから、紅閻魔は藤丸に告げた。
「さあ、いよいよ任務の時でちね。行きまちょう。御主人、皆様!」
楽しい時間は終わった。後はカルナに会って、なんでこんな大会を開いたのか問うのだ。
紅閻魔たちは発表会場へと荷車を進めた。