紅閻魔サンタのクリスマス   作:悲傷

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第11節

 サンタ大会は終わった。後は優勝者の発表を行うだけだ。発表会場となった噴水広場では、参加していたチームが一同に集まっていた。

 

「もうほとんどの皆さまが集まってるみたいですね」

「フォウ」

 

 マシュの言う通り、紅閻魔が関わったガウェインたちも、坂本龍馬とお竜も、すでに集まっているようだった。

 

「あら、ちゃんと最後まで頑張ったようね」

「メイヴ様」

 

 どうやら彼女たちもすでに到着していたらしい。

 

「あれからいかがでちたか?」

「おかげ様で、スカディちゃんのアイスケーキは大好評だったわ! 『たくさんプレゼントを配れたぞ』って喜ぶスカディちゃんの可愛い顔って言ったら……」

 

 メイヴはうっとりとした顔をしたが、紅閻魔の後ろを見るとゴホンと咳払いした。振り返ると、藤丸が少し意地悪そうに笑っていた。珍しい物を見れたとか、そういう類いのものだろう、あれは。

 

「とりあえず! おかげでスカディちゃんと楽しい時間を過ごせたわ。……その、あり、がとう……」

「いえ、どういたしまちて」

「こ、光栄に思いなさい! 私にお礼を言ってもらえるだなんて、とっても栄誉な事なんだから!」

「はい、記念にさせていただきまち」

「そ、そう。分かればいいのよ! あと言っておくけれど、今年のサンタはスカディちゃんだからね!」

 

 クルリと華麗に背中を向けて戻っていく彼女に、紅閻魔は小さく手を振った。

 それを見計らったかのように、紅閻魔の後ろから足音が聞こえた。

 

「雀の女将よ、宣言通りお前たちの結果を未届けに来たぞ」

「ネロ様」

 

 ネロは紅閻魔の顔を見ると、力強い笑みを浮かべた。

 

「どうやら、サンタを目指す理由が見つかったようだな?」

 

 紅閻魔は少しだけ目を暗くした。

 

「サンタ活動をする理由は思いだしまちた。ただ、サンタになって何がしたいのか……それはまだ見つけられまちぇん」

「ほう、聞かせよ」

「はい。御主人や他の参加者の皆さんと一緒に楽しい時間を過ごしたい。町の人たちを幸せにしてあげたい。その気持ちだけでサンタ活動をしまちた」

「……ふむ」

「その最後にサンタになれれば良い。それぐらいの気持ちしか持てまちぇんでした」

「……そうか」

 

 ネロは物足りないという顔だった。紅閻魔が出した答えは、自己向上心を煽ったり、目的をやり遂げる、と言った強い動機足りえないものだ。

 

「できれば、お主とマスターたちには本気で優勝を狙ってもらいたかったのだがな」

「……申し訳ありまちぇん。やっぱりあちきは……」

 

「誰かを押しのけてまで上を目指せない」と言おうとした彼女の口が止まった。ノッシノッシと地面を揺らすような足音がした。集った英霊たちの目がその人物に注目する。

 2メートルを超える巨体と、丸太のような太い腕と足。そして頭にはトナカイの角を模した被り物……ヘラクレスだった。

 彼の肩には紫と白のサンタ服を着た少女。更に後ろからシロクマがついてくる。

 

「シトナイとヘラクレスのチームか」

 

 ネロの口調が変わった。紅閻魔も話には聞いている。

 

「確か、一番SPを貯めていたチームでちたか?」

「そうだ。奴らのプレゼントはなかなか巧みだったぞ」

 

 ネロが言うと、隣にいたカリギュラが袋から何かを取り出した。卵型のチョコレートだった。

 

「これがシトナイ様のプレゼントでちか? ただのチョコレートでは……」

「と、思うであろう」

 

 ネロの言葉に合わせて、カリュギュラが卵型チョコをパカリと割って見せる。すると中から赤い物体が出てきた。一目で兎の顔を模しているのだと分かる。

 

「お、これは赤い兎だから、ストロベリー味だな」

「イチゴ味のチョコレートでちか? 中にそんな物が……」

「他にも……」

 

 ネロは自分の袋から中身を取り出した。手には紫色の狼、黄色の猿、黄土色の猫、青色のコアラ、白色の熊……白熊が並んでいた。

 

「紫がブルーベリー、黄色がカスタード、黄土色がキャラメル、青がミント、そして白がホワイトチョコ味だ。白はレアだぞ、レア! 何度貰いに並んだか分からぬ」

「こ、こんなに色々とあるのでちか? というか、何度も貰えるのでち?」

「うむ、それが奴らの上手いところよ。中身が違うから友達同士で見せ合ったり、好きな物が出れば自分の勝ちとのたもうたり、交換する者たちもおったな。子供たちの遊び心を広げる工夫ができておる。余もついつい全種類揃えてやろうと夢中になってしもうたわ」

 

 紅閻魔はポカンと口を開けて聞いていた。動物の形を模す。幾つもの種類を用意する。こんな方法、思いつきもしなかった。

 

「ちちゅ? これが……子供心、なのでちか?」

「うむ。それに加えてあれだ」

 

 ネロはヘラクレスと白熊のシロウを指さした。

 

「白熊はマスコット。ヘラクレスはあの巨体とトナカイの被り物だ。目立つので人を引きつけやすく、子供たちも寄ってくるし、大人からすればインスタ映えとやらにもなる」

「で、でちか……」

 

 小柄な紅閻魔とフォウでは出せない強みだった。

 

「これら全て、シトナイの発案らしい。小娘ゆえの視点なのかもしれぬな。何はともあれ、よいプレゼントであった」

 

 ネロは満足げに集めたチョコレート達を見た。

 彼女たちが話している間に、噴水の前に五人のサンタが出てきた。そろそろ結果発表らしい。カルナの姿は残念ながら見えない。

 

「では、余は少し離れたところで見ておる」

「は、はいでち」

 

 辞退した身ゆえなのだろう。ネロとカリュギュラは参加者たちの群れから離れたところに移動していった。

 紅閻魔も藤丸たちの元へと戻った。

 

「御主人……」

「どうしたんですか、紅閻魔先生?」

「……いえ……」

 

 紅閻魔は少しためらってから口を開いた。

 

「優勝できていなかったら……その……」

 

 自分でも何を言っているのだろうと思う。楽しむのが大事だ。優勝は二の次。そう決めたはずなのに、発表が近づいてくるとひどく緊張してきている自分がいる。

 そんな彼女の手が握られた。藤丸の手だった。

 

「俺たち最後、頑張ったじゃないですか。それでよくないですか?」

 

 なぜこのご主人はこうも人を落ち着かせるのが上手いのだろう。紅閻魔は自然と頬が綻ぶのを感じた。そして、とうとうこの時がやってきた。

 

「ハーイ、皆さんお疲れさまでしたー!」

 

 ケツァルコアトルの高く力強い声が辺りに響いた。

 

「先刻お伝えした通り、皆さんのおかげで、この町にSPが溢れかえりました」

「ホッホッホ、よくやったぞ」

 

 ジャンヌリリィが感謝を述べ、アルテラが付け髭を付けてから褒めたたえた。

 

「何はともあれ、怪我人がほとんど出なかったのが一番良かったと思います」

 

 その隣ではナイチンゲールが控えめに告げた。怪我人らしい怪我人と言えば、ジャンヌと鮫たちくらいだろう。

 サンタ4人の一言が終わると、中央に立つアルトリア・オルタが一つ咳払いした。

 

「では前置きはせずに、早速優勝者を発表する」

 

 そして彼女は自分の端末を開く。

 

「優勝者は……」

 

 彼女の目が集ったサーヴァントたちを見渡していく。紅閻魔と目が合った。ドキリと胸が痛くなるのを感じた。だがその目は紅閻魔から少しずれ、ある場所で止まった。アルトリア・オルタは指をさした。

 

「シトナイチーム」

 

 シトナイの歓声の声と、大きな拍手と、少しばかりの落胆の声が上がった。紅閻魔は拍手の一員に加わっていた。そして自分に幻滅した。シトナイのことを心から祝福できていない自分にだ。

 彼女が優勝して夢をかなえた。とても素晴らしいことだ。もし自分が参加者でなければ共に喜んでいただろう。だができない。できなかったのだ。

 

「紅閻魔先生」

 

 藤丸の手が肩に置かれて、紅閻魔はビクリと体を強張らせた。

 

「ご、御主人……あ、あの、これは……」

 

 何か悪いことをしている気になって、言い訳の言葉を探してしまう。だが藤丸は優しい目をしていた。

 

「良いんですよ。俺だって同じ気持ちですから」

 

 言われて周囲を見ると、マシュも、玉藻の前も、マンドリカルドも、口でこそ笑っているが、目には落胆の色があった。他の参加者もだ。メイヴは頭を抱え、モリアーティ教授に至っては明らかに悔しそうな顔をしている。

 シトナイを称える彼らの拍手は本物だろう。それでも、落としてしまった気は隠しきれていなかった。

 ちなみにマシュの肩の上にいるフォウは、俯いて耳まで垂れ下げている。

 

「これが普通なんです」

「……そうなのでちね……」

 

 紅閻魔は目をつむると、大きく息を吐き出した。

 

「皆さま、すいまちぇんでした」

 

 自分が悩んだりしたからだ。もっと本気で優勝を目指していれば、彼らにこんな思いをさせずに済んだのだ。だから一言謝罪をしようとした。

 

「あちきがもっと……」

 

 そこにアルトリア・オルタの声が聞こえた。

 

「それともう一つ、紅閻魔チーム」

 

 今度は拍手は起こらなかった。代わりに「え?」という疑問の声と、静寂の空気が満ちた。

 

「シトナイチームと紅閻魔チームが獲得したSPは同値だ。よって、両チームを1位とする」

 

 紅閻魔たちも同じだ。5人と1匹が目を丸くして、アルトリア・オルタの説明を聞いていた。「ちちゅ?」と紅閻魔は気の抜けた声を出した。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 次に声を上げたのはメイヴだった。

 

「紅閻魔ちゃんのチームは最下位だったはずよ! ……私が調べたのは最初の方だったけれど……」

「ホッホッホ、今から説明をする。だから落ち着くのじゃ」

「落ち着けないわよ!」

 

 アルテラがまあまあと抑えている間に、ナイチンゲールが皆に向かって説明をした。

 

「私たちも不思議に思ったのですが……どうやら、紅閻魔さんのチームが、他の皆さんのチームを助けたのが原因みたいです」

 

 アルジュナやフランが紅閻魔を見た。当の紅閻魔はオロオロと周囲を見渡している。

 

「紅閻魔チームは、SPを稼げずに困っている他のチームを助けました。そのチームが町の皆さんを幸せにしてSPを生み出しました。紅閻魔さんたちがきっかけとなって、多くの人たちが幸せになれた。このため、他のチームが獲得したSPの一部が、紅閻魔チームのSPとしてカウントされたみたいですね」

「そんなのありなの!?」

 

 メイヴが納得できないのは当然だろう。自分たちが頑張って稼いだポイントが、紅閻魔チームの物としてカウントされたのだから。いくら助けてもらったとは言えど受け入れられるものではない。これでは利用されたようなものではないか。

 アルジュナやガヴェインたちも不満な顔をしていた。

 紅閻魔は不安げな顔で、事の成り行きを見守っていた。その手を藤丸が握ってくれていた。

 

「確かにアイスケーキのアドバイスとかは貰ったわよ! けれど配ったのは私達。紅閻魔ちゃんたちじゃないわ!」

 

 メイヴの言い分はもっともだ。だがジャンヌリリィは首を横に振った。

 

「SPはプレゼントを配った数ではありません。町の人たちをどれだけ幸せにしたかというポイントです」

 

 メイヴが「うっ」と口ごもった。

 

「紅閻魔さんが皆さんを助けたことがきっかけで、幸せが町全体に伝わっていったんです。多くの人が幸せになれるようにする。それこそがサンタ活動です」

「でも……紅閻魔ちゃんが実際にプレゼントを配ったわけじゃ……」

「そもそも今回はチーム戦。サンタの皆さんも、トナカイさんがいたから沢山のプレゼントを配れたでしょう?」

 

 それでもメイヴは納得できないようだった。アルジュナやモリアーティも同じようだ。

 

「良いんじゃないかい?」

 

 そこで肯定する意見が上がった。紅閻魔も他のサーヴァントたちと同じく、その発言者を見た。口を挟んだのは坂本龍馬だった。

 

「僕は好きだよ。幸せの連鎖みたいな感じで」

「まあ、お竜さんたちは何も助けてもらってないけれどな」

 

 この場にいるチームの中で、紅閻魔たちの助力を貰っていないのは坂本龍馬たちだけだ。その彼らが良いと言い出したのだ。こうなると恩を受けた他のチームは反対意見を言い出しづらくなってしまった。

 

「他に異論のある者はいるか?」

 

 アルトリア・オルタが尋ねる。数秒後、大きな笑い声が上がった。

 

「ハッハッハ、これは反論のしようがないな。よかろう。我ら円卓騎士団も認めよう」

 

 ガヴェインが言うとガレスたちもそれに倣った。儀を重んじる騎士だからこその発言だろう。

 

「そうですね。紅閻魔先生に感謝こそすれど、反対意見を言うのは間違っています」

「う~、いいとおもう」

 

 アルジュナも潔く認め、フランは手を上げて賛成した。ラーマはアルジュナの肩を叩き、不満げだったモリアーティも「やれやれ」と諦めた顔をした。

 最後まで首を縦に振らないのが女王のメイヴだった。そんな彼女の背中にスカディの手が置かれた。

 

「メイヴ、私はもう充分楽しんだ。お前と……あの女将のおかげでな」

 

 この言葉は卑怯だろう。メイヴからしたら最高のクリスマスプレゼントなのだから。彼女もとうとうこの結果を認めた。

 ジャンヌリリィは一同を見渡すと、笑みを浮かべた。

 

「シトナイさんは何か言いたいことはありますか?」

「別に無いわ。意見を言える立場の人たちが賛成したのだもの」

 

 これで全てが決まった。

 

「それでは、シトナイさんチームと、紅閻魔さんチームを同率1位とします」

 

 ジャンヌリリィが言うと、紅閻魔チームに向けても拍手が送られた。

 

「御主人、これで良いのでちょうか?」

 

 この事態を飲み込めていないのが紅閻魔だった。自分に向けられる称賛を不思議そうに見ていた。

 

「良いんですよ、紅閻魔先生」

 

 藤丸の言葉を聞いて紅閻魔は胸を抑えた。鼓動が高まっているのが分かる。マシュたちも藤丸と同じ顔をしていた。

 

「やりましたね、紅閻魔先生」

「先生の人徳の賜物です」

「えっと……おめでとうございます……っと」

「フォウ!」

 

 まだ色々と飲み込めていない。だがこれで良いのだろう。紅閻魔も釣られて笑みを浮かべようとした。

 その時、アルトリア・オルタが声を上げた。

 

「しかし! サンタの席は一つしかない」

 

 拍手が止まった。彼女の言葉をケツァルコアトルが繋いだ。

 

「なので~、戦ってくださーい!」

 

 紅閻魔とシトナイの目が引きあうようにぶつかった。

 

「間違いなく怪我人が出るため、個人的には賛成したくないのですが……」

「ナイチンゲールよ、それについては先ほど話したはずだ」

 

 アルテラの言葉にナイチンゲールが頷いた。ケツァルコアトルが後に続ける。

 

「サンタとは時に、その力を持ってクリスマスを守らなくてはなりませーん!」

「クリスマスに悪いことをしようとする人も多いですからね」

 

 辛そうな顔でジャンヌリリィも賛成した。

 サンタたちを代表する様に、中央のアルトリア・オルタが前に一歩進み出た。

 

「さあ戦え」

 

 紅閻魔とシトナイの周りから皆が退いていく。

 

「最後のサンタ決闘だ。シトナイチーム、紅閻魔チーム、今年のサンタの座をかけて……戦え!」

 

 2人の間を遮るものが無くなった。紅閻魔はシトナイではなく、その後ろに立つ巨大な人影を見た。

 今まで何度もカルデアで見かけたことがある。廊下ですれ違ったことも、食堂で会ったこともある。

 だが敵として対峙したのはこれが初めてだった。

 茶色い肌、筋肉で膨れ上がった足と腕、それが持つ巨大な斧。ゆっくりと顔を見上げる。目が合った。赤い眼光が走る。彼の口から湯気のような物が湧きたつ。

 紅閻魔は手が震えるのを感じた。知識として知っている。ヘラクレスの数々の武勇伝を。対峙して思い知る。伝説の英雄の力を。立ち向かう? この人に?

 

「良いわよ、受けて立つわその決闘」

 

 巨人の側にいるシトナイは、余裕の笑みを浮かべていた。

 

「私にはバーサーカーがいるんだから。負けるはずないわ」

 

 その通りだ。無理だ。勝てるわけがない。

 これが閻魔亭やマスターに仇なす敵なら、紅閻魔も覚悟を決める。だがこれはそのような大きな戦いではない。サンタの座を賭けただけの試合だ。

 その程度のことのためにヘラクレスと戦うことを選ぶのか。藤丸や玉藻の前たちを巻き込むのか。ここまでサンタ活動を共にして来てくれた者たちを危険に晒すのか。

 そうだ、自分がサンタに立候補したのは「仕方がなかった」からだ。ゴルドルフ所長が早とちりして、流れで決まったからだ。確かに皆で頑張ったこの先に、優勝とサンタがあれば良いとは思った。だが、その前にこのような戦いが立ちはだかるのなら……藤丸たちが傷つくくらいなら……。

 

「御主人はカルデアのサーヴァント同士が戦うことを、好んではいまちぇん……」

 

 皆を傷つけてまで、サンタを望む理由が無い。辞退しよう。それが正解のはずだ。誰も傷つかない道だ。

 紅閻魔が決意を口にしようとした時、彼女の横から誰かが出てきた。彼は紅閻魔の前に立つと、背中から木刀を引き抜いた。

 

「そう言えば紅閻魔先生、俺、もう一つ武勇伝があったっす」

 

 マンドリカルドだ。左手の盾を前にかざし、木刀を肩に置いた。

 

「俺、1人で巨人を倒したことがあるんすよ。それに比べたら、まだ小さいっすね」

 

 そう言う彼の手は少し震えていた。

 

「マンドリカルド様!?」

 

 何をしているのだ。いくら試合と言えど、相手はあのヘラクレスだ。戦えば怪我程度で済むか分からない。

 

「こ、こんなことまでしてもらわなくっても、あちきは……」

「先生」

 

 今度はマシュだった。マンドリカルドと並ぶように紅閻魔の前に立つ。

 

「ここまで来たんです。だったら、優勝したいじゃないですか!」

 

 驚く彼女の肩に玉藻の前の手がそっと置かれた。

 

「先生、たまには生徒を頼ってください。そんなに頼りないですか? 玉藻、拗ねてしまいますよ」

 

 わざとらしく口を尖らせて見せた。

 そして皆の後ろに立つ人影が一つ。

 

「紅閻魔先生」

 

 藤丸の強い瞳が紅閻魔を見ていた。

 

「俺は、紅閻魔先生にサンタになって欲しいんです。この町に楽しい時間をくれた……この特異点の人たちに、色々な形でプレゼントを考えてくれた、あなたに!」

 

 藤丸が言っているのは他のチームを助けたことだろう。紅閻魔は彼の目を見つめ返していた。そして気づいた。今度こそ自分を恥じて責めた。自分のことに必死になりすぎて、こんなことにも気づかなかったのか。

 

「……シトナイ様」

 

 紅閻魔の目はシトナイへと移っていた。

 

「あなたはなぜサンタになりたいのでちか?」

 

 力強く尋ねてくる紅閻魔に対し、シトナイは口を軽く開いた。そして不思議そうなものを見る目で首を傾げた。

 

「あなた、おかしなことを訊くのね。そんなの楽しいからに決まっているじゃない。私はバーサーカーと一緒にクリスマスを楽しんで、優勝してサンタになりたいの。それだけよ」

「その為なら、この決闘も辞さないと?」

「もちろん!」

 

 無邪気で明るい笑みだった。だがうっすらと開かれたその目には、残虐な色が光っていた。

 

「あなたが私とバーサーカーの道を阻むのなら、例えマスターだって容赦はしないわ。もちろんあなたもね」

 

 当たり前で、そして予想通りだった答えだ。ならば腹は決まった。

 

「シトナイ様、あなたにサンタを任せることはできまちぇん。もうしわけありまちぇんが、今年のサンタにはあちきがなりまち!」

 

 左手に大太刀を召喚する。小さな手でそれをしっかりと掴むと、左足を滑らせるように後ろに下げ、腰を落とした。燕雀裁縫抜刀術。彼女が修めた居合の構えだ。

 

「あら、ならあなたにはあるのかしら? 他のチームを助けてしまうようなあなたに、どうしてもサンタになりたい理由が」

 

 なおも平然とした顔をしているシトナイに、紅閻魔は頷いた。

 

「実を言うとその時はありまちぇんでした。でちが、今できまちた!」

 

 その目に迷いは無かった。

 

「あちきにはサンタになって、やりたいことがありまち! それをシトナイ様が継いでくれるのなら、譲っても良いかとも考えまちた。でちが、どうやらあちきにしか叶えられそうにないみたいでち」

「ふーん、そう? まあ私には関係ないけれど。それに無理だよ」

 

 シトナイの前にヘラクレスが立った。

 

「さっきも言ったでしょ。バーサーカーは誰にも負けないんだから」

 

 身丈130cmしかない紅閻魔の前に立ちはだかる、253cmの巨人。それを見上げると、紅閻魔は刀を抜いた。

 

「ヘラクレス様の武勇伝はお聞きしていまち。でちが、あちきは知っているでち。ここにいる皆様の力があれば……勝てまち!」

 

 マシュが、マンドリカルドが、玉藻の前が、そして藤丸が目で微笑んだ。

 紅閻魔とシトナイの目が合った。シトナイは余裕の微笑みを返した。そしてヘラクレスの手に触れる。

 

「私は何も心配してないわ。あなたがいれば大丈夫。どんな相手にだって、絶対勝っちゃうんだから」

 

 そして手を前に掲げた。

 

「やっちゃえ! バーサーカー!」

 

 ヘラクレスが吠えた。空気のみならず大地が震えた。それに体を少し震わせながら、藤丸が声を張り上げた。

 

「行くぞ!」

 

 紅閻魔たちは一斉に動き出した。




SPが紅閻魔たちに配られた説明、分かり辛かったなと反省しています。
ただ、ここを詳しく説明しすぎるとくどくなるし……難しいですね?
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