紅閻魔サンタのクリスマス   作:悲傷

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第14節

 黒幕にしてはあまりにもあっけない倒された方だった。そんなカーマはうつ伏せに倒れており、ピクピクと痙攣している。

 紅閻魔は彼女の懐に手を伸ばして、それを取り上げた。

 

「御主人、これをどうぞ」

「ありがとう」

 

 藤丸が受け取った聖杯をダヴィンチが素早くスキャンした。

 

『どうやらBSPを元にして作られた魔力も聖杯の一部になったようだね。もう大丈夫だと思うよ』

「よし!」

 

 これからの戦いを考えると、聖杯はいくらあっても足りない。心強い魔力リソースだろう。だが代わりに、カーマの体は見る見るうちに小さくなり、子供の姿に戻ってしまった。

 

「後はカーマさんだけですね?」

 

 マシュがいうと、カーマがゆっくりと体を起こした。

 

「わ、私をどうする気です?」

「……さて、どうしようか?」

 

 今回珍妙な騒ぎを引き起こしたと言え度、カーマはカルデアの戦力だ。今回の彼女の悪事と言えば、サーヴァントたちを利用して魔力を集めて、サンタの座をとろうとした。だけだ。振り返ってみれば、なんて小さな目的の為に聖杯を使ったのだろう。

 大奥事件の時と違って大きな被害があったわけではない。かと言って御咎めなしと言う訳には行かないだろう。

 腕組みをするマスターの袖を、紅閻魔はクイッと引っ張った。

 

「御主人、カーマ様への裁きは下しまちた。もうこの辺でよろしいのではないでちょうか?」

 

 今の紅閻魔はサンタであり、裁判官だ。クリスマスを悪事に利用しようとするものを裁くのが彼女の勤め。そしてその判決と裁きは先ほど下された。カーマの処罰はもう終わったのだ。

 

「マスター、ここは今年のサンタを立ててやってはくれないだろうか?」

 

 去年のサンタであり、今大会の主催者であるカルナが紅閻魔に賛成した。この二人が言うのなら、もう藤丸立香から言うことは無い。

 

「分かった。2人がそう言うのなら、これで終わりにしよう」

「ありがとうございまち、御主人」

 

 だがこれで調子に乗ってしまうのがカーマと言う子である。温情によって救われたのに、胸を張って反り返ってしまう。

 

「フフフ、本当に甘いですね皆さん。まあ、私は構いませんよ。御咎めがこの程度だっていうのなら……」

「カーマ様」

「……なに?」

 

 不機嫌そうな彼女の言葉に、紅閻魔はきっぱりと忠告を入れた。

 

「あちき達は、クリスマスを守護するサンタとして、これ以上の裁きをあなたには下しまちぇん。それだけでちよ?」

 

 カーマはまたしても不機嫌そうな顔をした。

 

「何が言いたいんです? はっきり言ったらどうですか!?」

「はい……なら言いまち」

 

 紅閻魔はゆっくりと、語り掛けるように告げた。

 

「ここから先はそちらの問題であり、干渉しないということでち」

「先? そちら?」

 

 カーマがオウム返しに尋ねた時だった。ガシリとカーマの頭を掴む手があった。カーマはビクリと体を強張らせると、ギギギと壊れたロボットのように首を動かして振り返った。

 紫色のオーラを立ち上げた、満面の笑みを浮かべたパールバティーがいた。

 

「ぱ、パパパ……」

「皆さん、色々とご迷惑をおかけしました」

 

 パールバティーが丁寧に頭を下げたので、紅閻魔たちも同じく頭を下げておいた。

 

「後のことはお任せください。きっちりとお仕置きをしておきますから」

 

 言うが早いか、カーマのお腹を持ち上げて抱えたかと思うと、自分は正座して、腕でカーマの上半身を抑えた。カーマはお尻が上に持ち上げられたような姿勢になる。

 

「な、何するんですか!? 離してください!」

「悪い子への罰は、昔っから決まっています」

「ま、まさか……」

 

 パールバティーの右手が振り上げられる。そして思いっきり横殴りに振るわれた。破裂するような打撃音と、カーマの悲鳴。何度も上がるそれに、紅閻魔たちは静かに合唱した。

 

 

「さて、これでサンタ大会の工程は全て終了した。皆、ご苦労だった」

 

 カルナは集った面々を前にしてそう宣言した。

 

「後は……どうするか?」

 

 これで解散とういのも味気ない。と彼も思ったのだろう。では何をすればいいのかと考えても、特に思いつかないらしい。

 

「こういう時は、今年の主役から何か一言もらうものではないか?」

 

 手を上げるネロにカルナも頷いた。

 

「そうだな、今年のサンタから何か一言もらおうか」

 

 一斉に視線を向けられて少々戸惑ったが、紅閻魔は大きく深呼吸した。

 

「皆さん、サンタ大会お疲れ様でちた」

 

 メイヴたち、アルジュナとラーマ、ネロとカリギュラ、フランチームに、坂本龍馬とお竜に、ガヴェインチーム、シトナイチーム、歴代サンタたち、端っこの方で前屈みになって泣いているカーマと、それを見張っているパールバティー。そしてマスターたち。彼らの顔を一つひとつ見ながら、紅閻魔はゆっくりと言葉を紡いでいった。

 

「皆さんと沢山サンタ活動ができて、紅は嬉しかったでち。今年のサンタになれたこともそうでちが、やっぱり楽しい時間を過ごせたことが、一番の幸せでちた」

 

 この言葉を聞いてふと疑問に思ったのか、シトナイが手を上げた。

 

「女将さん、そういえばあなたがサンタになってやりたいことって何だったの?」

「はい、それなのでちが……」

 

 彼女が口にしようとした時だった。

 

「こ、ここかー!!」

 

 ドタドタと駆け寄ってくる男性の姿があった。彼は皆の前で立ち止まると、手を膝につけて荒い息を整え、顔を上げた。

 

「待たせたな! ゴルドルフ・ムジークここに新たなサンタ候補として推参した!」

 

 赤い帽子にモコモコとした赤い服とズボン。白くて長い付け髭に、肩には白い袋。見まごう事なきサンタの恰好をしたゴルドルフ所長がそこにいた。

 

「女将、すまなかったな。私の勘違いで君にサンタという重役を押し付けてしまった。だが安心したまえ、私のミスは私の手で清算するとも。君に変わって、今から私がサンタだ!」

 

 言葉と同じくらい力強く胸を叩いて見せるゴルドルフ。だがそんな彼を見つめるサーヴァントたちは、皆面食らった顔をしていた。

 それに気づいたのか、ゴルドルフ所長はキョロキョロと首を横に振った。

 

「……あ、あれ? 皆どうしたのだ? というか、なぜ皆揃っておるのだ?」

 

 流石に可愛そうになって来たのか、マスターが恐る恐ると手を上げた。

 

「あの、所長……サンタ大会、今終わりました」

「……え、そうなの?」

 

 驚愕するゴルドルフ所長。するとダヴィンチの意地悪な笑い声と共にホログラム映像が浮かんだ。

 

『いや~、ゴルドルフくんがやけに張り切っていたからね。止めるのも悪いと思って、レイシフトさせたのさ』

「いやそれ嫌がらせだよね、技術顧問!?」

 

 とうとう何人かのサーヴァントが堪え切れずに笑い出してしまった。次々と決壊して、爆笑へと変わった。

 

「酷すぎないかね!?」

「いえ所長……と、とってもお似合いだと思います……」

 

 その直後に「プクク」と吹き出すのだから、マシュも相当ひどい。もっとも、隣で大爆笑しているマスターほどではないが。

 

「私なりに責任を感じて、サンタの恰好をしてきたというのに……」

「いえ、ゴルドルフ様。とても助かりまち」

「世事はいらん……」

「いえ、本当のことでち。所長様、そして皆様にお願いしたいことがありまち」

 

 手の甲を口に押し付けていたカルナが、両手を上げて静かにとジェスチャーを送る。数秒後に静かになった。

 

「あちきがサンタになってやりたかった事……それは、皆さまと一緒にサンタ活動をしたい……でち。それもSPとかで競うのではなく、ただ純粋にこの町の人たちをクリスマスで楽しい思いでいっぱいしてあげたい。皆さま、用意したプレゼントはまだ残っていまちか?」

「まだまだあるわよ」

「こちらもです」

 

 メイヴとアルジュナが手を上げた。

 

「在庫がもう無いから、僕たちはお手伝いに回ろうか?」

「しかたないな、やってやるか」

 

 坂本龍馬の提案、お竜も乗り気の様だ。

 

「円卓騎士団とやら、舞い散る雪の中で演目と言うのはいかがかね? あ、もちろんヒロインはフランだよ」

「良いですね。なんならそちらも参加して下さい」

「腕……いや、蒸気の力の見せどころと見た」

 

 教授の提案に、ガヴェインとバベッジも賛成した。そこにネロが進み出る。

 

「なら世がコーラスを担当しよう」

「それはご遠慮しよう」

「それはご遠慮願います」

「遠慮する」

「なぜじゃ!?」

 

 

 こうして改めてサンタ活動が再開された。

 バベッジが降らせる雪の中、ネロがガヴェインと坂本龍馬を相手に大立ち回りを演じる。この演目目当てに集まる人たち。

 そんな彼らにメイヴ、アルジュナ、シトナイ達がお菓子や飲み物を配っていく。清姫と巴御前も呼び戻されて、包装などの手伝いをしていた。

 そんな彼らの隣では、カーマが笑みを引きつらせながら手伝っている。嫌だからなのか、痛いからなのかのどちらかだろう。前屈みなのでたぶん後者だ。パールバティーがお目付役についているので逆らおうにも逆らえないらしい。

 ゴルドルフ所長のサンタ姿も大好評で、子供たちに腕を引っ張られ、数名の女性が所長を真ん中に置いて写真を撮ったりしている。

 

「これが紅閻魔先生がやりたかったことなの?」

 

 お菓子作りの合間の休憩。その僅かな時間に、マスターは紅閻魔に尋ねてきた。

 

「はい、そうでち。ご主人はどうでちか?」

 

 道行く人たちが笑顔になってくれる。それを見て、マスターは笑みを浮かべた。ただし口元だけ。目には憂いが秘められていた。

 

「そうだね……」

 

 そしてふと紅閻魔を振り返った。

 

「先生、もしかして俺の為に……?」

 

 紅閻魔は少しばつの悪そうな顔をした。

 

「……おせっかいだったでちょうか?」

 

 マスターはようやく紅閻魔が考えていたことに気づいた。

 ここは日本だ。マスターの故郷だ。そして特異点だ。

 人類が白紙化されている今、この光景はあり得ない。もうじき消滅する幻想なのだ。この町も、道行く人たちも、この笑顔も。

 それでも、ほんのわずかで良い。この一晩だけでも良い。本来、ご主人がいるべき場所を笑顔にしたい。それが紅閻魔の願いだった。

 

「ありがとう」

 

 それはとても素直で、心から出たマスターの言葉だった。

 

「紅閻魔先生、素敵なクリスマスプレゼントをありがとう……」

 

 それに対して、彼女はサンタらしくこう告げた。

 

「御主人……メリークリスマスでち!」

 

 それは今宵、紅閻魔が初めて見た、マスターの少年のような笑顔だった。

 

 

 時間には必ず限りがあって、終わりがやってくる。

 噴水広場に設けられた小さな時計台。そこから0時を知らせる鐘の音が鳴り、しばらくしたころには人もまばらになり、藤丸たちのクリスマスはようやく終わりを迎えた。

 

「皆さま、最後にあちきのお願いを聞いてくださり、ありがとうございまちた」

 

 紅閻魔は皆に頭を下げた。

 

「礼を言うことなどないぞ、余も楽しかったのだ!」

「ああ、俺の時とは一味違う、良いクリスマスを体験させてもらった」

 

 ネロとカルナの言葉に多くの者たちが肯定した。カーマだけは拗ねてそっぽをむいていたが。

 

「それでは……これにて、今年のサンタ活動をおしまいとさせていただきまち。皆さま、御手を拝借……おつかれさまでちた」

 

 皆で手を合わせて、一本締めをした。やり遂げた喜びを各々で語り合い始める。

 

「今年も無事に……そして素敵なクリスマスにできましたね、先輩」

「うむ、よくやったぞ小僧」

「うん、今年は大きな問題も起きなかったし」

「フォウ!」

 

 マシュとゴルドルフ所長の言う通り、今年もクリスマスを無事に乗り越えることができた。問題といっても、せいぜいカーマが聖杯を無駄遣いした程度だ。

 

「マンドリカルドも、玉藻の前もありがとう」

「いや、これぐらいのことだったら、いつでも手伝うっすよ」

「いいんですよ。私も紅閻魔先生のお手伝いができましたし」

 

 そして呼ばれてもいないのに、清姫と巴御前が隣にいた。

 

「最後にますたぁとクリスマスが楽しめて、わたくしも幸せです」

 

 今にも抱き着いてきそうな雰囲気だったので、藤丸は半歩引いた。

 

「最後だけでもクリスマスに参加できたのは紅閻魔先生の温情があ……先生?」

 

 巴御前に釣られて振り返ると、紅閻魔が霊衣を変えているところだった。和服サンタから、いつもの割烹着に戻った。

 そして9羽の奉公雀達と共に、藤丸に深々と頭を下げた。

 

「御主人、あちきのサンタとしての役目は終わりまちた。申し訳ないのでちが、これよりしばらくの間、お暇をいただきまち」

「え?」

 

 藤丸が尋ねるより早く、紅閻魔は踵を返した。

 

「さあお前たち、急ぐでちよ!」

「「「がってんちゅん!!!」」」

 

 そして電光石火のごとくカルデアへと転送されていった。

 

「女将……急いでいるようだったが、なにかあったのか?」

「さ、さあ……? ダヴィンチちゃんは何か分かる?」

 

 ホログラム映像が広がった。

 

『うん……それがね。ちょっと言い辛いんだけれど……』

「教えてほしい」

『分かった。あのね、閻魔亭だけれど……お正月に向けての準備が滞っているみたいなんだ』

「……あ!」

 

 今回、紅閻魔は閻魔亭に保管していた落雁とあんこに、重要な従業員である奉公雀たちも提供してくれた。その分、閻魔亭にしわ寄せが行っているのだ。

 

「もしかして……儂らのせい?」

「他にないでしょうね……」

「ゴッフ……!」

 

 マシュもばつの悪そうな顔で言った。

 

『さっき、フィオナ騎士団のフィンとディルムッドが一緒に閻魔亭についていったよ?』

 

 と聞かされれば、藤丸がとる行動は一つだった。

 

「皆!」

 

 それぞれ思い思いに解散しようとしていたサーヴァントたちが、足を止めた。

 

「お願いしたいことがあるんだ」




次回、最終回です。
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