紅閻魔サンタのクリスマス   作:悲傷

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前回投降した1話を修正して、
1話の後半だった部分がこの2話となります。

今年中の完結は無理ですねこれ。
来年の1月中を目指します。


第2節

 サンタ大会などという血迷ったイベント。そんな変なイベントを開くというカルナのあり得ない行動。そして微小特異点。またいつもの、それでいて甘く見てはいけない問題がまたしても起きたのだ。

 そう思うと、廊下を走る藤丸の足にも力が入った。早く、一秒でも早く管制室に行きたい。歩きなれた廊下を走り抜けると、管制室のドアが見えた。少しだけ速度を緩めて、自動ドアを押しのけるように中に飛び込び……

 

「お待たせしました!」

 

 中にいるであろうゴルドルフ所長に向かって力強く叫んだ。だが彼を迎えたのは腹の底から響くような高い声だった。

 

「ワ~オ、マスター! あなたも参加してくれるデース?」

 

 目の前にいたのはサンバの恰好をしたケツアルコアトルだった。サンタとサンバを間違え、なぜか血で血を洗うプロレスを繰り広げた伝説のサンタだ。

 当のゴルドルフ所長はというと、少し離れたところで、疲れた顔で項垂れていた。ダヴィンチちゃんが「よしよし」と背中をさすっている。

 真面目なゴルドルフ所長では、やはりカルデアのクリスマスのノリにはついて来れないらしい。マシュと紅閻魔ですら困った顔を隠しきれていないくらいなのだから。彼の心境を察しつつも、藤丸はケツアルコアトルに尋ねた。

 

「あなたがここに居るってことは、やっぱりもう始めているんだね、サンタ大会?」

「ハーイ! 絶賛開催中デース!」

 

 なぜかサンバのリズムをとりながら答えてきた。

 

「現在、レイシフトは私達サンタが管理下に置かせてもらっていマース! レイシフトできるのは、サンタ大会の参加者だけデース!」

「という訳なんだよ」

 

 ダヴィンチがゴルドルフ所長の体を支えながら歩み寄ってきた。マシュが慌てて手を貸すと、ゴルドルフ所長もようやく顔を上げた。

 

「小僧、何とかしてくれ……今は人類の危機だというのに、また奇妙なイベントか? また水着剣豪とかなのか?」

「大丈夫だよ、ゴルドルフくん。あれよりかはマシだと思うから」

「匹敵するレベルの可能性はあるのだな……」

 

 とりあえず、所長には休んでもらおう。「まあまあ」と宥める役をマシュと紅閻魔に任せて、ダヴィンは「コホン」と咳払いして説明を始めた。

 

「微小特異点があるから調べたいのに、サンタサーヴァントたちにレイシフトを乗っ取られるし、サンタ大会とやらは勝手に開催されてしまうし、困っているんだよ」

 

 ダヴィンチの説明が終わるのを見計らったかのように、ケツアルコアトルがサンバの動きを止めた。

 

「サンタ大会は次なるサンタを決める聖なる決戦場です。例えマスターと言えど、参加者でない限りは手出しはさしません。それが私の役目デース」

 

 最後はいつもの明るい口調だったが、目は一切笑っていなかった。ケツアルコアトルは賑やかではあるが、自分が決めた一線は絶対に破らないし超えさせない。彼女に言葉の説得は難しいだろう。

 これは少々困ったことになった。

 

「どうしよう……」

 

 もちろん力づくなんてもっての他だ。ケツアルコアトルは南米の神格サーヴァントである。とんでもなく強いし、闘えばただでは済まないし、そもそも仲間を傷つけるようなことを藤丸はしたくない。

 対処のしようがない。あるとすれば一つだけだ。

 

「小僧、もう状況は飲み込めただろう? 貴様の出番だ」

 

 足元をふらつかせながらも、ゴルドルフ所長が近づいてきた。マシュに「よいよい」と優しく手を振り払ったのは、所長としての意地だろう。フォウが心配そうに近づいていく。

 

「この微小特異点の調査、および修復を貴様に命じる。えっと、サンタとトナカイだったか? になってくれるサーヴァントを選び、すぐにレイシフトしたまえ」

「やっぱり、それしかないですよね」

 

 藤丸は大きく頷いた。サンタサーヴァントたちの土俵に上がるようだが、これしかないだろう。ゴルドルフ所長の言葉を受けて、紅閻魔がスッと藤丸の前に出た。

 

「ならばこの舌切り雀の紅閻魔、ご主人の力になりまち」

「え、なってくれるの?」

「はい、弟子の不手際は師が負うもの。清姫と巴御膳の起こした騒ぎの責、まだ紅は償っていまちぇん。ぜひともご主人に協力させてくだちゃい」

 

 あの2人の責任を紅閻魔がとる必要はない。藤丸はそう言いたかった。だが無駄だとも理解していた。紅閻魔は、茨木童子が犯した悪事すら自分の責だと考える人だ。藤丸が言っても彼女は聴かないだろう。

 

「分かりました。紅閻魔先生、協力してください」

「はい、お供させていただきまち」

 

 紅閻魔がニッコリと笑った。最優と言われるセイバーで、やや支援よりだが攻撃もできるバランスの良いサーヴァントだ。心強い。赤いし施しの英雄だし、サンタにぴったりだろう。

 

「うむ、これでサンタ役は決まったな」

「ハーイ! 紅閻魔ちゃんのご登録完了ネー! トナカイ役はマスターね」

「うん、それで」

「先輩、私も行きます!」

 

 ゴルドルフが頷き、ケツアルコアトルがどこからかタブレットを取り出して入力していく。サンタ役には紅閻魔が、トナカイ役には藤丸とマシュの名が入力される。

 

「え?」

「では紅閻魔ちゃん、衣装はありますか?」

「え? あ、衣装……」

「刑部姫さんに頼んではいかがでしょうか。色々と衣装を持っているとお聞きしています」

 

 マシュの提案が一番いいように思えた。紅閻魔の地獄料理教室の生徒らしいし、引き受けてくれるだろう。快くはいかないだろうが。

 

「緊急の参加となりますが、プレゼントは用意できますか?」

「え、あ……ぷ、プレゼントなら……閻魔亭に連絡を入れるでち。確か、保存が利くお菓子が沢山あったはずでち。あれなら子供たちに配ってもいいかもしれないでち」

「ちょうど玉藻の前さんたちが閻魔亭に行ってましたね。連絡して持ってきてもらいましょう」

 

 そう考えると、清姫と巴御前の犠牲も無駄ではなかったのかもしれない。

 

「女将、刑部姫にはこちらから連絡しておく。寸法を測る必要があるだろうから、すぐに向かってくれたまえ。カルパッチョくん、連絡を」

「ムニエルだって言ってんでしょ!」

 

 シバの観測を受け持っていたムニエルが、文句を言いながら連絡を入れ始めた。ゴルドルフ所長も、会話をすることで普段の調子を取り戻して来たらしく、先ほどとは異なって落ち着いた口調になっていた。紅閻魔は落ち着かない様子で頷くと、管制室を後にした。

 これでサンタ役、トナカイ役、プレゼントに衣装、全てが揃った。後は待つだけだろう。だがここでダヴィンチが「う~ん」と顎に手を当てた。

 

「藤丸くん、トナカイ役は君たちだけで良いのかい。戦力のバランスがやや悪い気も……」

「あ……」

 

 藤丸とマシュの顔が合った。

 藤丸はマスターだ。戦えない。的確な指示は出せるし、多少は魔術で援護もできる。だが戦闘員にはなれない。

 マシュはシールダーで守りに特化している。オルテナウス形態になってからは多少は攻撃もできるようになったが、やはり彼女の強みは守りにある。

 紅閻魔は味方へのサポートと、素早さを活かした剣術だ。だがその分撃たれ弱い。

 紅閻魔の弱点をマシュが上手くサポートできているのは良いだろう。だが肝心の攻撃役がいないのである。

 

「技術顧問の言う通りだな。悪いことは言わん、もう一人くらい連れていけ」

 

 ゴルドルフ所長がケツアルコアトルを見た。彼女もその意図を察したらしい。

 

「安心してくださ~い! トナカイ役は何人いてもオーケーです! ただ、多すぎるとサンタさんが目立ちにくくなるので、多くても4,5人が良いかと」

「そうだね、多すぎると統制がとり辛くなるし」

 

 藤丸が普段からサーヴァントを5,6人しか呼び出さないのもそのためだ。ただでさえ、一人一人が一騎当千であり、なおかつ英雄にまで上り詰めた我の強い連中ばかりなのだ。多過ぎると必ず衝突して争いになる。

 

「となると……前線で戦える人が望ましいね」

「私とその方で前線を張って、紅閻魔先生が隙を見て切り込んでくれる形が良いですね」

「それでいて、俺たちの都合に結構合わせてくれる人がいいよね……?」

「武器も大事じゃぞ。今回のレイシフト先は町中じゃ。そしてサンタをやるのだろう? ならば剣や槍は怖い印象を与えてしまうじゃろう」

 

 ゴルドルフ所長の指摘に、3人は「なるほど」と頷いた。それは盲点だった。ケツアルコアトルだけが「よく気づきましたね~」と感心している。全身凶器が言っても説得力が無い気もするが。

 

「でも、そんな都合の良いサーヴァントいるんすか?」

 

 ムニエルが口をはさんできた。刑部姫への連絡は終わったらしい。今頃、紅閻魔がやってきて悲鳴を上げている頃だろう。

「う~ん……」と全員が首を傾げた時だった。ウィーンと管制室のドアが開いた。

 

「ウイース、訓練させてもらいに、来た……ッス……」

 

 マンドリカルドが入ってきて、すぐに硬直した。いつもと様子が違うことに気づいたからだろう。いやサンバやってるサンタがいる時点で異常だと気付かないほうがおかしい。

 怖気づく彼と異なって、藤丸たちはマンドリカルドの頭の先からつま先までをジーッと見つめていた。

 ヘクトールの鎧と盾で敵の攻撃を受け止められる前衛。協力を求めれば、見返り無しで引き受けてくれる人物。そして武器は刃がない木刀。

 

「いたあああああああ!!」

 

 ダヴィンチが大きな声を上げた。

 

「え? え? なんすか!? 俺なにかやらかしましたか!?」

 

 逃げ腰になっているマンドリカルドの両肩に、藤丸は襲い掛かるようにつかみ掛かった。そしてなぜ思いつかなかったのだろうと自分を責めた。

 

「マンドリカルド、力を貸して!」

「へ? お、俺っすか? いや俺なんかよりアキレウスとかオデュッセウスとか、牛若丸さんとか……なんならアストルフォがいいんじゃないっすか? 俺なんかと違ってシャルルマーニュ十二勇士だし!」

「アストルフォだけはない」

 

 ダヴィンチが鋭く否定した。困ったらアストルフォを頼れと言うのは、カルデア広しと言えどマンドリカルドくらいな気がする。

 

「いいや、マンドリカルド。君の力が必要なんだ!」

「え? 俺!? 俺っすか!? いや、俺が必要とか、そんな状況あるわけない、有るわけないっす……」

 

 彼の面倒な部分が始まった。「まあまあ」といったん落ち着かせて、一から再度説明を試みた。最初はパニックになっていたマンドリカルドだが、話を聞くうちに段々と納得してくれた。

 

「なるほど……そうっすか、俺の武器が木刀ってのに、そんなメリットがあるだなんて……」

 

 正直言うと、木刀も結構物騒ではある。だが槍やら剣やら刀よりかはマシだろう。オデュッセウスのロボットとかは町中なので展開し辛いというデメリットもある。やはりマンドリカルドが適任だろう。

 

「分かったっす。それなら協力するっす!」

「よし。ありがとう、マンドリカルド!」

「い、いえ。マスターのためなら、俺でよかったら喜んで」

 

 チクリと藤丸は胸の痛みを覚えた。今の暗い顔は隠せただろうか。

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