紅閻魔サンタのクリスマス   作:悲傷

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第3節

 人員が決まってしばらくすると、玉藻の前と巴御前がカルデアに帰還した。紅閻魔が指定したお菓子を大量に持ってきてくれたのだ。巴御前の怪力が役にたったというものである。

 ちなみにサンタ大会について説明すると、玉藻の前も協力を申し出た。「紅閻魔先生の為なら!」と言うが、閻魔亭で巴御前と清姫の面倒を見るという、面倒な仕事を放り投げる口実が欲しかったというのが本音だろう。

 そしてとうとう紅閻魔が戻ってきた。

 

「ただいま戻りまちた、御主人」

「お帰りなさい」

 

 藤丸たちは紅閻魔の恰好を見て「お?」と声を上げた。

 赤色で、袖と首元には白いモコモコとした綿がついている。紛れもなくサンタの服装だ。だが和服なのだ。布地を前で重ね合わせて、腰には帯をつけている。丈が短いのが少し寒そうではある。頭には帽子ではなく、小さな白い花飾りが髪の横に付けられていた。

 

「和服サンタですね? 紅閻魔先生にぴったりです!」

 

 マシュが興奮して拍手をした。藤丸も良く似合っていると思う。刑部姫のチョイスに関心するしかない。

 

「ほ、本当でちか?」

「うん、凄く似合っていますよ」

 

 藤丸に言われて、紅閻魔は恥ずかしそうに俯いた。

 

「あ、あの御主人。本当にあちきがサンタでも……」

「なあに、女将以上に適役がいるものかね」

「そうそう、君が適任だと私も思うよ」

 

 ゴルドルフ所長とダヴィンチも頷いた。

 

「ハーイ! これで立派なサンタさんとトナカイ一行が揃ったでーす!」

 

 ケツアルコアトルに皆の視線が集まった。

 

「皆さんはこれからサンタ大会に参加してもらいまーす! ルールは簡単、サンタ活動をして、町の人たちを喜ばせて、『SP』を貯めてください」

「SP?」

 

 変な単語が出てきた。

 

「『SP』。サンタポイントの略でーす」

「それはサンタパワーとは別の物ですか?」

 

 サンタパワー。文字通りサンタクロースとしての力であり、サンタサーヴァントたちの力の源だ。ケツアルコアトルはこの力を歴代のサンタサーヴァントたちから譲渡され、強敵を打倒した経験がある。

 マシュの問いにケツアルコアトルが「そのとーり」と頷いた。

 

「サンタポイントとは? 皆さんがサンタとして『町の人たちを、どれだけ楽しませたか』という、ポイントです。町の皆さんが楽しい、嬉しい、幸せ……という気持ちになると『SP』を稼ぐことができます。

 サンタパワーと名前が似ててややこしいので、以降は『SP』と呼びますね~?

 皆さんはサンタ活動をして、『SP』を貯めてください。最もたくさんの『SP』を稼いだ方が優勝。今年のサンタさんになりまーす!」

 

 簡単と言うが、少しも簡単ではない。肝心なことが言われていない。

 

「あの……サンタらしいことと言うと、いったい何をすればよろしいので?」

 

 玉藻の前が尋ねたが、ケツアルコアトルは「ノンノンノン」と人差し指を振った。

 

「それを考えるのがサンタでーす。他人に尋ねて、言われたことだけをするような人は、サンタには相応しくありませーん!」

「確かにそうですね……」

 

 ケツアルコアトルの言うことは尤もだろう。

 藤丸は「ふーん」と唸った。

 

「つまり、レイシフト先の人たちの様子を見て、何をすればいいのかを考えて、幸せにして、『SP』を稼いで行くってことか……」

「中々難しそうですね。サンタとしての役割から外れないようにしなくては……スコップを持って道路整備をしたり、配管作業をしたりしたら、それはサンタではなく、ただのボランティアですし……」

「フォウ……!」

 

 マシュの中でサンタとボランティアの線引きが粛々と進んでいるようだった。難しそうな顔をする二人だが、ケツアルコアトルはそうでもないらしい。

 

「大丈夫です。きっとマスターと紅閻魔ちゃんならできまーす!」

 

 藤丸は紅閻魔の横顔を窺った。どうやら緊張しているらしく、目を閉じて深呼吸を繰り返している。こんなに余裕のない紅閻魔も珍しいだろう。

 

「ところで、カルナとはいつ会えるのかね?」

 

 ゴルドルフ所長がさり気なくケツアルコアトルに尋ねた。これがこのレイシフト一番の目的だ。現地の調査とは言うが、ようはカルナに会えさえすればいいのだから。だがこれも「ノン」と答えられた。

 

「カルナさんはこの大会の優勝者発表までは出てきません。優勝者の発表は、皆さんが稼いだ『SP』の合計が一定の値になった時……町全体がある程度の幸せに包まれた時です。なので、カルナさんに会いたかったら、いっぱいサンタ活動をして、たっくさん『SP』を稼いでくださーい」

 

 ケツアルコアトルの言葉に、藤丸は少しだけ落胆した。藤丸たちの目的はカルナがなぜこんなことをしたのかを確認することだ。もし優勝者が決まる前に会えれば、事態はすぐに解決できたのだ。だがそう簡単には終わらせてくれないらしい。

 ゴルドルフ所長も苦虫を噛みしめた顔をした。こんな茶番劇、早く終わらせてしまいたいのだろう。だが大きく息を吐き出すと、顔を引き締めて司令官の顔つきになった。

 

「よし……では、オーダーを下す!」

 

 藤丸たち一同はゴルドルフ所長に体を向けた。

 

「藤丸立香、およびマシュ・キリエライト。2人に命ずる。この微小特異点を調査、および修復せよ」

 

 ゴルドルフ所長が言い終わると、隣にいるダヴィンチが流れるように引き継いだ。

 

「第一目的:カルナに会う。なぜ彼がこのような茶番劇を引き起こしたのか確かめて欲しい。

 第二目的:現地の調査。と言っても、何か被害が起きていないかを確かめる程度で良いだろう。もう何名ものサーヴァントたちが現地にいるしね。彼らが面倒を起こしていたら、その鎮火も君たちの役割だ。

 第三目的:サンタ活動。『SP』をある程度稼がないと、カルナとは会えない。だから沢山サンタ活動をするんだ。せっかく大会に参加するんだから、クリスマスを存分に楽しんでくるといい」

「が、がんばりまち……」

 

 紅閻魔がぎくしゃくと頷いた。やはり余裕がないらしい。

 

「同行者は紅閻魔、玉藻の前、マンドリカルド。以上三名。この必要最低限の戦力で、最大限の成果を期待する!」

「了解です!」

「分かりました!」

「フォウ!」

 

 藤丸たちが敬礼すると、ケツアルコアトルもレイシフト装置の入口から立ち退いた。

 

「さあ、マスター! 行ってらっしゃい。どうか楽しいクリスマスを!!」

 

 藤丸たちはプレゼントが入った袋を持って、転送装置の中に入った。そして白い光のベールが彼らを包み込み、その存在を微小特異点へと移したのだった。

 

 

 白い光が消えると、別世界が広がっていた。立ち並ぶビル群、夜を照らす人工の光、道行く人々に、街路樹にはイルミネーションが飾られている。

 

「新宿とよく似た町ですね」

 

 マシュが目を輝かせながら言った。あの亜種特異点のような物騒な世界とは違うが、現代日本と言う意味では正しい。

 

「これがマスターの世界っすか」

 

 マンドリカルドがキョロキョロとあたりを窺う。その傍らでピピーと電子音が鳴った。藤丸の通信機に、ダヴィンチからの連絡が入ったのだ。藤丸は2、3秒ほど遅れてから、慌ててホログラム映像を開いた。

 

『さて藤丸くん。現地の様子だけれど、こちらの計測器ではこれと言って変わったところは無い。見てのとおり平和な町みたいだ』

「そうですね、至って普通の日本です」

 

 藤丸は町を見つめながら答えた。

 

「ではどうしまちか、御主人?」

 

 紅閻魔の質問に、藤丸は頷いた。

 

「さっきダヴィンチちゃんが言った通りだ。サンタ活動をして、『SP』を稼いで、少しでも早くカルナと会おう」

「そしてサーヴァントの皆さんと会えたら、何か変なところが無かったか尋ねる。ですね?」

 

 ようはいつもの地道な捜査活動だ。

 

「じゃあ皆、クリスマスを楽しもうか」

「分かりました、先輩!」

 

 マシュが楽しそうに答えた。その傍らでマンドリカルドがソワソワしている。どうせ彼のことだ『陰キャの俺が皆でクリスマスとかありねえ。邪魔じゃねえ? 帰った方が良いかな?』とか考えているのだろう。藤丸としては一緒にしてほしいのだが。

 

「そうですよ、楽しんでくださいね」

 

 それはこの場にいない人物の声だった。藤丸たちの視線が、突然現れたその人物に集まる。そして全員が同じことを口にした。

 

「「「あ、いた。黒幕」」」

「黒幕じゃないですーーー!!」

 

 泣きそうな声で叫んだのはカーマだった。体格は子供の状態で、服装はサンタのものだった。頭には帽子もかぶっている。ただ赤ではなく、彼女に似合う紫色だったが。

 

「なんですか、人を見るなりいきなり黒幕って。私が何か悪いことをしているみたいじゃないですか!」

「いや、カーマ。何も説得力が無いよ……」

 

 

 藤丸の言葉に、マシュも申し訳なさそうに頷いた。

 

「今までの行いを考えると……カーマさん、疑われても仕方ないかと……」

「失礼ですよ! 私は今回、純粋に大会に協力してあげているだけなんですよ」

 

 ふくれっ面をするカーマだが、そう言われて「そうですか」と言うほど藤丸も甘くはない。

 

『君が協力するってのは少し考えられないね……』

「ダヴィンチさんの言う通りです。大奥に、レモネードにと珍事件を起こし、去年はヴリトラさんに協力して、カルナさんの敵に回ったではないですか」

 

 マシュの言葉に、カーマはコホンと咳払いした。

 

「いえ、今まで少々悪戯が過ぎてしまったので、今回は協力してあげることにしたのです。ほら、私だってカルデアの一員ですし? それに私は愛の神ですよ。サンタとして人々を愛してあげているのです」

 

 なんて説得力のない言葉だろう。

 疲れた顔をしたゴルドルフ所長がホログラム映像に映った。

 

『カーマくん、単刀直入に尋ねよう。君がカルナを騙してこの大会を行わせたのだろう?』

「いえ所長、それはあり得ませんわ」

『え?』

 

 カーマではなく、玉藻の前が否定した。

 

「カルナさんには『貧者の見識』というスキルがあります。それもAランクで」

『えっと、どういう内容かね?』

「簡単に言うと、騙されないというものです」

『データを送るね』

 

 ダヴィンチがデータを送ってきた。藤丸も把握はしていたが、内容を改めて確認する。

 

・貧者の見識(A)

 相手の性格・属性を見抜く眼力。言葉による弁明、欺瞞に騙される事がない。天涯孤独の身から弱きものの生と価値を問う機会に恵まれたカルナが持つ、相手の本質を掴む力を表す。

 

 確認が終わって、藤丸はデータを閉じた。確かに、このスキルを持つカルナが、カーマごときに誑かされたり、騙されたりするわけがない。

 

「カーマが黒幕と言うのはあり得ないのか……」

「私ではなく、カルナさんを信用するのですね。不満です、私」

 

 カーマは「ツーン」と言いながらそっぽを向いてしまった。とは言えど、カーマを信じるということは、キアラやコロンブスを信用しろと言うのと同義だ。無理難題だ。

 

「玉藻、よく知ってまちたね。カルナ様とは親しかったのでちか?」

「いえ、そういう訳ではありませんが、少々縁があったものでして」

 

 とりあえず、目の前のカーマをこれ以上疑っても進捗は無いだろう。

 

「と、に、か、く! 私はこの大会のアシストをしているのです。と言う訳で、ソリをどうぞ」

 

 カーマが指さしたほうを見ると、綺麗に飾られた荷車が何台か置かれていた。

 

「あれがソリ?」

「サンタさんは、トナカイが引っ張るソリに乗ってやってくるものでしょう? 流石に車輪が無いと道路を行くのは難しいので、荷車を用意してあげました。持ってきたプレゼントを乗せて、引っ張っていくと楽でしょう?」

「それは素直に助かるよ」

 

 紅閻魔が用意したプレゼントは結構な量で、皆で小分けにした袋で抱えているというのが現状だ。荷車は大いに助かる。

 

「よく見ると、荷車ではなく屋台もありますね。調理器具が揃っています」

「子供にお菓子をプレゼントするサーヴァントさんも多いですから。その場で作れるようにと言う私からのありがたい配慮です。コンロやガスボンベ、水道と貯水タンクなんかを積んでいるので、その分重くなりますけど」

「なるほど……それなら紅閻魔先生の力が最大限に発揮できる、屋台の方が良いのではないでしょうか?」

 

 マシュの言う通り、屋台にしたほうが良いのかもしれない。だが今は材料も無いし、重いとマシュとマンドリカルドの負担が重くなってしまう。今回、荷車を引けるのは彼らくらいなのだ。当然藤丸も手伝うが、マスターとサーヴァントの腕力の差は言うに及ばずだ。

 

「後から屋台に切り替えることもできますし、まずは荷車を使ってみたらどうですか?」

「ならそうしようか」

 

 カーマの提案を採用することにした。料理をすることになれば、一度戻ってきたらいいだけの話なのだ。

 

「そうと決まれば、早速出発すると良いんじゃないですか。他のサーヴァントたちはそれはもう凄い勢いでプレゼントを配って、『SP』を稼いでいますよ。マスターたちは当然0ポイント。最下位です」

 

 ここでできることはもうないだろう。ならばすぐにでも出発した方が良い。

 

「じゃあ行こうか。紅閻魔先生、何か言いたいことはある?」

「あちきでちか?」

「そうですね、今回の主役はサンタ役である紅閻魔先生ですから」

「さあ先生、私たちに何か一言を……」

 

 紅閻魔は少し目を閉じてから、口を強く結んだ。

 

「サンタ活動そのものは、調査に直結するわけではないでち。でちが、サンタをやると決めたからには、手を抜くことなくサンタをやりきる腹でいまちゅ。皆さん、サンタ活動頑張るでち!」

「おー!」

 

 藤丸、マシュ、玉藻の前が元気よく手を上げた。マンドリカルドはというと、未だに遠慮がちなようで小さく手を上げるだけだった。

 カーマに見送られながら、藤丸たちは町へと繰り出した。




サーヴァントを動かしたり、説明を書いたりって、なかなか難しいですね。
読んでいて怠くならないように、口調ややり取りを書いたりとするのが大変です。
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