紅閻魔サンタのクリスマス   作:悲傷

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第4節

 とある日本の町でサンタ活動を始めた藤丸たち。今は車の少ない道路に荷車を止めて、歩道を行く人々にプレゼントを配っていた。

 紅閻魔の可愛らしい衣装もあって、人も集まってきたのだが、彼らの活動はあまり上手くいっているとは言えないものだった。

 

「なにこのお菓子?」

「変なの~」

「私は好きかな、可愛い」

「チョコレートじゃないんだ……」

 

 プレゼントを受け取った子供たちだが、その反応は微妙だった。一度人の波が退くと、紅閻魔は渋い顔をした。

 

「あちきのプレゼントが良くなかったでちかね?」

「う~ん、どうだろう?」

 

 藤丸はそう言いながら、紅閻魔が用意したお菓子を見た。様々な花柄をした落雁だ。色とりどりで、一つひとつに丁寧な細工が施されている立派な落雁だ。藤丸も一ついただいたが、味は見事な物だった。スーパーで売っている安物とは大違いだ。

 だが子供たちには分かり辛い味付けだろう。子供たちはもっと素直に甘い物を好む傾向にある。素朴な甘味である和菓子は子供受けするとは言い難い。

 子供たちも興味を失ったのか、人が集まってくる気配はない。

 

「すみません御主人、皆様。あちきがプレゼントを用意したのが間違いでちた」

「いや、俺は好きだよこの味。ねえ、マンドリカルド?」

「え!? あ、はい。俺も美味しかったっすよ!」

 

 荷車の上にいるマンドリカルドが慌てて答えた。プレゼントを渡す役については「無理無理無理! 俺なんかに渡されたらそれこそサンタポイント……『SP』でしたっけ? なんて稼げないっすよ!」と拒否され、今は荷卸しという力仕事に回っている。

 

「ありがとうでち。マンドリカルド様は優しい方でちね」

 

 紅閻魔が力のない笑みを浮かべた。だがマンドリカルドはというと、どこか思いつめたような顔をした。

 

「しかしどうしまちょうか……? このままではカルナさんには中々会えまちぇんち、町の人たちをガッカリさせてしまいまち……」

 

 藤丸は自分の端末を開いた。そこには今まで自分たちが稼いだSPが書かれている。微量で、とても稼いでいるとは言い難い。ランキングを見ると、トップはシトナイとヘラクレスのコンビだった。自分たちとの差は一目瞭然で、雲泥と言えるほどだった。

 

「あ、あの……なんなら『SP』ってのは他のサーヴァントたちに任せてしまっても良いんじゃないっすか?」

 

 マンドリカルドの言うことも間違いではない。藤丸たちが何もしなくとも、『SP』とやらは稼がれていくだろう。時間はかかってしまうが、カルナには必ず会えるのだ。

 そもそも藤丸たちがこの大会に参加したのは、レイシフトしてカルナに会うためだ。現地の調査はその次。サンタ活動は『SP』を稼いでカルナに早く会うため……そして自分たちが楽しむ為だ。

 ここでサンタ活動を止めて、カルナが出てくるまで待っていれば、それだけでも事態解決に近付くのだ。

 だが紅閻魔は首を横に振った。

 

「いいえ、それはできまちぇん。お客様に満足していただけないだなんて、女将の名折れでち。閻魔亭を預かる者として、ここで諦めることはできまちぇん」

 

 紅閻魔は施しの英霊だ。ここで妥協は許せないのだろう。

 

「そ、そっすか……すいません、俺なんかが出過ぎたことを言って……」

「いえ、謝るのはあちきの方でち……」

「いや、紅閻魔……先生? が謝ることじゃないっす。俺が余計な……」

「いえ、そもそもあちきが……」

「まあまあ」

 

 このままでは謝罪合戦になりそうなので、藤丸は二人の間に入って治めた。 

 

『だがどうしようか……?』

 

 カルデアで腕組みをするダヴィンチの隣に、ゴルドルフ所長が出てきた。

 

『お前たち、一度カーマの元に戻って屋台を借りてきなさい。女将、お前さんの料理の腕の見せどころではないかね。玉藻の前も得意なのだろう?』

「そうですね、やっぱりそれが良いかも」

 

 用意したお菓子が受けなかったのなら、新たに用意したらいい。調理の時間はかかってしまうが、ここで手をこまねいているよりは良いだろう。

 

「玉藻、マシュ、手伝ってもらっても良いでちか?」

「ええ、もちろんです」

「私もですか? 分かりました」

 

 紅閻魔も了承したため、藤丸たちは一度戻ることに決めた。その時だった。

 

「あ~ら、随分と見すぼらしいサンタさんね」

 

 藤丸たちの元に3人の人物が近づいてきた。1人は荷車……いや屋台を引いている。

 

「あ、メイヴ。と……」

「スカディさんとフェルグスさん?」

 

 藤丸のサーヴァント、メイヴ、スカサハ=スカディ、フェルグスだった。メイヴとフェルグスは普段通りの格好だが、スカディだけがサンタの服を着ていた。

 これだけで藤丸はメイヴの意図を理解した。お気に入りであるスカディをサンタにするために、この大会に参加したのだろう。そしてソリを引くという力仕事をメイヴがするわけもなく、フェルグスを引っ張り出して来たのだ。

 

「メイヴさんたちも参加していらっしゃったのですね?」

「ええ、スカディちゃんをサンタにするためにね。今年のサンタはスカディちゃんで決まりよ!」

 

 思った通りだった。

 

「で、なんのようでありんす? 私たちはあなた達の相手をしているほど暇ではないでありんす」

 

 玉藻の前がメイヴに目くじらを立てた。玉藻の前とメイヴの関係は藤丸も把握はしていない。だが2人が仲良くできる間かと問われれば否だろう。

 

「ええ、そうよね。見たところ、サンタ活動で失敗しているじゃない。負け犬のくせして暇って言っちゃったら、それこそ負け犬、いえ負け狐かしら?」

 

 玉藻の前の顔が引きつった。彼女の生前の話を藤丸も大まかではあるが把握している。メイヴの発言は彼女の尾を踏みつける行為に等しい。

 

「すまない、玉藻の前とやら。メイヴは私のためを思ってやってくれておるのだ。許せとは言わぬ。だがそれだけは分かって欲しい」

「ああ、迷惑をかける」

 

 スカディとフェルグスが申し訳なさそうに言った。2人分のブレーキ役が居なければ、メイヴの口は止まらなかったことだろう。

 

「で、なんの御用で? 私達を笑いに来るほど、そちらも暇しているので?」

「あ~ら、このメイヴちゃんがあなた達ごときに無駄話をしに来るほど安い女だと思っているのかしら? そんなことも分からないの? 獣の頭じゃ人の考えは分からないのね、可愛そうだわ~」

「じゃあ、何か用事があるんだね。何?」

 

 藤丸が玉藻の前に躍り出た。これ以上はよろしくない。紅閻魔も玉藻の前の袖を引っ張って諫めた。

 

「マスターは狐と違って人間だから、話が早くていいじゃない。簡単な話よ」

 

 メイヴは一度スッと息を吸い込むと、大きな声で言った。

 

「私達スカディ一行、あなた達にサンタ決闘を申し込むわ!」

 

 シーンと辺りが静まり返った。誰も動かなかった。3秒ほどしてメイヴの余裕の笑みが少し崩れ、5秒ほどして「あれ?」という顔になる。7秒ほどでようやく、通信越しにゴルドルフ所長が口をはさんだ。

 

『サンタ決闘? 今度は何かね? サンタは闘うものではないだろう?』

 

 サンタサーヴァントを全否定する発言を藤丸は流すことにした。

 

「ちょ、サンタ決闘よ! カーマから聞いてないの!?」

 

 今度はメイヴが焦りだす番だった。藤丸は「そんなの聞いたっけ?」とマシュたちを振り返った。全員がそろって首を横に振った。彼女から受けた説明は荷車についてだけだ。

 

「あ~、アイツ説明し忘れたわね。ってことは私が説明しなくちゃならないの!? なんでそんなことを私が……」

「いい、メイヴ。私が説明する」

 

 癇癪を起しているメイヴをフェルグスに預け、スカサハ=スカディが前に進み出た。

 

「サンタ決闘。文字通りサンタさんによる決闘だ」

『だからサンタは闘わないって……』

『ゴルドルフくん、休んできていいよ?』

 

 ゴルドルフ所長が画面から姿を消した。

 

「サンタポイント……SPについては知っているな?」

「それはもちろん」

「それを賭けて戦うのだ。勝者は相手のSPを全て貰うことができ、敗者は全てのポイントを失う。また1から稼ぎ直すか、別の参加者に挑んで一気に逆転を狙うか。という物だ」

「そんなルールがあったなんて……」

 

 そんなこと、ケツアルコアトルからもカーマからも聞いてない。先ほどのメイヴの口ぶりからすると、説明担当はカーマだったのだろう。

 

「ちなみに、挑まれたら断ることはできぬぞ?」

「そうよ、さあ戦う準備をしなさい!」

 

 調子を取り戻したメイヴが颯爽と戻ってきた。2人の前にフェルグスが立つ。

 

「マスターが相手と言えど、ケルトの戦士として手を抜くつもりは無い! さあ、構えろ!」

 

 藤丸は皆の様子を窺った。寝耳に水な展開で皆動揺しているようだった。

 

「あ、あの……サンタさんがそういう理由で戦うのは良くないと思うでち」

「何、負けるのが怖いのかしら? リタイアしても良いのよ。負け犬、いえ狐のようにね」

 

 その一言で紅閻魔の目つきが変わった。

 

「……紅閻魔先生?」

 

 紅閻魔は静かに目を開くと、皆に振り返った。

 

「あちきはこの戦いに納得はしていまちぇん。でちが、教え子を辱められて、黙っていることはできまちぇん。皆さま、これはあちきと玉藻の問題でち。なので手出し無用でお願いしまち」

 

 玉藻の前が紅閻魔の隣に並んだ。

 

「いえ、お二人とも無茶です!」

 

 マシュが止めるのは当然だった。

 フェルグスは紅閻魔と同じセイバーだ。一見、敵の攻撃を受けながらパワーで押しつぶしていく重戦車タイプに見えるが、彼の敏捷はBランクもある。紅閻魔のA++ランクに比べると遥かに遅いが、それでも一流レベルだ。

 加えて腕力と耐久はAランク。紅閻魔はDとEランク。フェルグスの方がはるかに勝っている。

 2人の実力は拮抗していると言っていいだろう。だがそれは一対一ならばの話だ。 相手側にはスカサハ=スカディがいるのだ。身体能力の上昇や、宝具発動に必要な魔力の供給が得意としている。紅閻魔に勝ち目はない。

 そして玉藻の前も同じくサポートが得意だが、戦いが始まると即座にメイヴに倒されるだろう。クラス相性でメイヴが完全に有利なのだから。

 頭数も相成って、紅閻魔と玉藻の前に勝ち目はない。

 

「待って2人とも。せめてマシュかマンドリカルドも加えて……」

「ダメっすよ、マスター」

 

 藤丸の提案は、そのマンドリカルドによって止められた。

 

「マンドリカルド……」

「これは決闘っす。紅閻魔先生と玉藻の前さんが決めたことなんです。俺たちが良かれと思って手を貸しても、それは……2人の負けなんす」

 

 マンドリカルドはシャルルマーニュ伝説に登場する王であり騎士だ。決闘の心構えとやらを彼はよく理解している。藤丸も口を噤むしかなかった。マンドリカルドが辛そうな顔でそれを語る理由を、良く知っているから。

 

「あ~ら、じゃあSPを貰うわね」

 

 メイヴの言葉が開始の合図となった。5人が一斉に動き出した。

 

 

 戦いは1分もかからなかった。玉藻の前は早々にメイヴに打倒され、紅閻魔は3人がかりで攻撃され、膝をついた。藤丸の予想と一寸違わぬ展開と結果だった。

 

「は~い、スカディちゃんチームの圧勝~!」

 

 メイヴが紅閻魔を踏みつけて、声高々に叫んだ。直後にフェルグスがメイヴを引っ張ってどかし、スカディが紅閻魔を起こさなければ、藤丸は怒鳴っていたかもしれない。

 

「大丈夫ですか、紅閻魔先生?」

「……すいません、やっぱり無理があったみたいでち」

「申し訳ありません、先生」

 

 玉藻の前もマシュに肩を貸してもらって立ち上がった。

 

「いいえ玉藻、教え子の力になれなかった、あちきが未熟だっただけでち」

 

 そんなことは無いと言いたかったが、それは紅閻魔の慰めにはならないだろう。

 

「さあマスター」

 

 メイヴが催促してきた。藤丸は無言でメイヴが持っている端末にSPを譲渡した。雀の涙ほどのポイントしか稼げていなかったが、ゼロになるとやはり空しい。

 

「はあ? たったこれだけ? どれだけ少ないのよ」

「そう言うな、メイヴ。戦った相手に敬意を持つのも戦士だ」

「私は女王よ。一緒にしないで!」

 

 藤丸はランキング画面を開いて、メイヴたちの順位を確認した。そして眉をしかめた。

 

「あれ? メイヴたちってブービー?」

 

 ギクリとメイヴが飛び上がった。ランキング表の下から2番目……先ほどSPを奪われてゼロになってしまった藤丸たちの一つ上に、スカディたちの名前が書かれていた。

 フェルグスが「あ~」と頭を掻いた。

 

「実はそうなのだ。俺たちもプレゼント配りに苦戦していてな……」

「それで他人からポイントを奪う側に回ることにしたって訳っすか……」

「悪く思わないでくれ。これも戦いなのでな」

「いえ、俺はそんなこと言う気も、言う資格もねえっすから……」

 

 マンドリカルドは小さく肩を持ち上げた。藤丸はそれを一瞥してから尋ねた。

 

「プレゼント、何か悪かったの?」

「うむ、それなのだが……マスター、一つどうだ? マンドリカルドも」

 

 スカディが差し出してきた物を受け取ろうとして、藤丸は思わず手を引っ込めた。

 

「アイス?」

 

 スカディがいるという時点で予想するべきだった。バニラ味とチョコ味の棒付きアイスだった。

 

「いや、冬にアイスは……」

 

 無しではない。だがこの寒空の下で需要が多いかと問われれば、藤丸は否と答えるしかない。

 

「なぜだ? 夏と違って寒いから、アイスが溶けることなく、常に冷たい状態で食べることができるのだぞ?」

 

 そうではない。そうではないのだ。寒いからこそ温かい物が欲しくなるのが人なのだ。

 

「なんで2人は止めなかったんすか?」

 

 マンドリカルドが目を細くして尋ねた。彼も少々呆れているらしい。

 

「だって、スカディちゃんが選んだ物を配りたいじゃない!」

「と言う感じで、話を訊かなくてな……」

 

 どうやら、一応フェルグスは止めようとしたらしい。だがメイヴという女を知っている以上、無駄な説得をするつもりもなかったらしい。

 

「そうか、マスターもダメだったか……」

「い、いや貰うよ」

「じ、自分も……」

 

 魔術礼装あるので、アイス一本くらいなら問題ない。口にしてみるとバニラの味が口いっぱいに広がった。

 

「あ、美味しいっすね!」

「うん、これは美味しい!」

 

 マンドリカルドもチョコ味を食べて満足げな顔をし、藤丸と笑みを交わしあった。

 

「そうだろう?」

「当たり前よ、材料が違うのよ材料が。ケルト由来の山羊のミルクを使ってるんだから」

 

 メイヴがしきりに自慢して来る。藤丸は目を細めてメイヴを見た。

 

「乳……チーズ」

「それは言わない!」

 

 怒ってきたメイヴから、からかうように後退した。藤丸の足元ではフォウが喜ぶように鳴いていた。

 

「で、これからどうするの?」

「そんなの決まっているでしょ。色々なサンタたちにサンタ決闘を挑んで、SPを奪いまくるのよ」

「それは強盗っていうんじゃ……」

 

 この返答はいただけない。藤丸はチラリとスカディを見た。言い辛そうにしていたスカディだが、藤丸の視線を察して口を開いた。

 

「メイヴよ。私のためを思ってしてくれるのは嬉しいのだが、私は決闘をしてまでサンタになりたくはない……」

「え、そんな……」

 

 スカディは他者から奪うことを好ましくは思っていない英霊だ。メイヴとはこの部分では噛みあわない。先ほどの戦闘でもあまり乗り気でなかったのを藤丸は見て取っていた。

 

「さて困ったな。どうする?」

 

 フェルグスがメイヴに尋ねた。プレゼントは喜んでもらえない。スカディがSPを奪うのを嫌がる以上、これ以上の決闘はしないだろう。だがこれで、メイヴたちにはできることが無くなってしまったのだ。

 

「ふふん、いい気味でありんす」

「あんたねえ……」

 

 悪態をつく玉藻の前にメイヴが歯ぎしりをした。玉藻の前が悪態をつくのは当然だろう。藤丸も今回ばかりは共感する。だがここで意外な一言が上がった。

 

「御三方、使っている材料を確認させていただいてもよろしいでちか?」

 

 紅閻魔が立ち上がり、フェルグスが引っ張ってきた屋台……ソリを指さしたのだ。

 

「なによ? 何か嫌がらせでもしたいの?」

 

 早速メイヴが眼光をとがらせた。だがスカディが静止する。

 

「雀の女将よ、なにか思うところでもあるのか?」

「いえ、お前さまたちのプレゼントについて、あちきに一つ考えがあるでち」

 

 藤丸もメイヴも、そして玉藻の前も面食らった顔をした。

 

「先生、その人たちに何をされたのか、分かっていらっしゃいます?」

 

 玉藻の前が少々怒り気味に言った。彼女が紅閻魔に対してこんな態度をとるとは、それだけメイヴに対して腹を立てているのだろう。

 メイヴもそれを理解しているので、紅閻魔の発言が信じられないらしい。

 

「分かっているからでしょう? 私たちの材料に変な物を入れて、嫌がらせする気ね! そうはさせ……」

「そんなことはしないでち!」

 

 大きいというよりは、場を一刀両断するような声だった。あのメイヴが気圧されて黙ってしまった。

 

「あちきは女将であり、料理人でち。食べ物に変な物を入れるなど、そんな粗末なことしまちぇん!」

 

 そして耳を後ろ側に伏せさせている玉藻の前を見た。

 

「玉藻、お前さまが怒るのはよく分かっていまち。でちが、今はあちきのやることを、黙って見逃して欲しいでち」

「……はい、分かりましたわ」

 

 玉藻の前も口を閉ざした。

 

「では、材料を見せてもらってもいいでちか?」

「……ええ、良いわ」

 

 メイヴも紅閻魔の目に虚偽が無い事を見て取ったのだろう。この僅かなやり取りで相手を見抜く辺り、アルスターを支配した女王の資質が見てとれるという物だった。

 そんな彼女が目を丸くした。

 

「ありがとうでち」

 

 紅閻魔がお礼を言ったからだ。面食らう彼女を他所に、紅閻魔はソリに上がった。数秒遅れて、スカディが動いてソリに乗る。続いてフェルグスが動き、メイヴの肩を叩いた。彼女もようやく体が動き出した。

 

「フムフム、やはり材料は山羊のミルク、砂糖、卵黄、チョコレートにバニラエッチェンチュでちね」

 

 エッセンスと言いたかったらしい。ノートを取り出して何かを書くと、そのページを破った。

 

「フェルグス様」

「おう?」

「ここに書いてある物を買ってきてくれまちか?」

「どれどれ……金型とデコペン? 分かった、買ってくる」

 

 フェルグスはメモを受け取ると、走ってどこかへ行ってしまった。

 

「何を作るつもりなのだ?」

 

 スカディが尋ねてきた。

 

「いえ、アイスでちよ」

「はあ? あんた何言ってんの? アイスじゃ誰も受け取ってくれないって話したじゃない」

 

 ソリの外では、玉藻の前が一見鏡にしか見えない「水天日光天照八野鎮石」を取り出し、頭上に掲げていた。藤丸とマシュが慌てて抑えなければ、この立派な鈍器をメイヴに投げつけていただろう。

 

「はい、でちがスカディ様はアイスを配りたいのでちよね?」

「うむ、アイスは最も美味しいお菓子であろう?」

「それは人によると思いまちが……そしてメイヴ様はスカディ様の気持ちを汲み取りたい」

「ええ」

「なら……」

 

 

「メリークリスマス。プレゼントを用意したぞ」

「ありがとう、お姉ちゃん!」

 

 スカディが渡したプレゼントを見て、子供が目を輝かせた。

 

「わあ! ケーキだ!!」

 

 隣では一組のカップルが嬉しそうにはしゃいでいる。

 

「アイスケーキか」

「帰って食べよう!」

 

 他にも貰っていく人々が何人もいて、皆一様に喜んでいるようだった。

 少し離れたところで、藤丸とマシュがその光景を見ていた。

 

「なるほど、アイスケーキという手があったか……」

「冷たいアイスも、暖かくした家の中でなら美味しく食べれますからね」

「以前、スカディ様とメイヴ様が閻魔亭に来てくださったとき、温泉でアイスを召し上がっていらっちゃいまちた」

 

 同じく様子を見ていた紅閻魔が答えた。

 

「ケーキにすることで、家の中で食べてくれれば、喜んでいただけると思ったのでち」

 

 そして高級感も出る。もっとも、紅閻魔はここまで考えてはいないだろうが。

 

「作り方もアイスクリームと変わらないでち。

 材料を混ぜて、ケーキの金型にその生地を入れて、冷やして固めて土台を作る。

 その傍らで生クリームを作っておいて、出来上がったアイスの土台に絞る。

 チョコも丸い金型に注いで固めて、デコレーションペンでメリークリスマスと書いて、ケーキに載せる。

 作業は増えまちが、これと言って材料も増えない」

「凄く良いと思います!」

「ま、まあ、あちきはあまり西洋の料理には詳しくないのでちが……」

「いえ、これが大正解ですよ」

 

 マシュの言う通り、アイスケーキは好評の様だ。フェルグスが材料を混ぜ、スカディがルーンで急速に冷やし、メイヴが綺麗な飾り付けを行っていく。そしてスカディが梱包して渡す。この一連の手順が間に合ってないほどに、アイスケーキは貰われていく。ちょっとした行列ができつつある。

 

「さて、これでこのチームは大丈夫みたいでちね」

 

 紅閻魔が踵を返したので藤丸とマシュも続く。少し離れたところでつまらなさそうにしている玉藻の前に近付いた。側には気まずそうにしているマンドリカルドがいたる。既に荷車を返却して、屋台を貰ってきてくれている。

 

「玉藻、やっぱり機嫌が悪いみたいでちね」

「当たり前ですわ! 先生、あいつらに何をされたのか分かっていらっしゃるのでしょう!?」

 

 玉藻の前の怒りは当たり前のことだ。いきなり悪口を言われ、決闘を申し込まれ、攻撃を受けて痛い目に遭い、SPを根こそぎ奪われた。その相手に塩を送ったのだから。

 玉藻の前にしては面白くないどころか屈辱でしかない。

 

「先生、私があの女に何をされたのか分かっています!?」

「分かっているでち」

「ならなんで!」

「メイヴ様が玉藻の前に言ったこと、あちきも許してはいまちぇん」

 

 玉藻の前だけでなく、マンドリカルドも「え?」と呟くように言った。

 

「教え子を悪く言われて、気を悪くしない師などいまちぇん。あちきは今も、メイヴ様には怒っていまちゅよ」

「ではなぜ……」

「それでもやっぱり、クリスマちを楽しんでほしいからでち」

 

 藤丸は「やっぱりな」と頷いた。紅閻魔はこういう人なのだ。

 

「SPを奪い合うのはこの大会のルールでち。SPを奪われたのはあちき達の力が及ばなかった。ただそれだけのことでち。

 だから恨みはここでおしまい。

 それに、メイヴ様が楽しめないと、スカディ様とフェルグス様も暗い顔をするでち。あの2人には、玉藻も恨みはないでちょう?」

 

 最後だけは玉藻の前も頷くしかなかった。

 

「……ごめんなさい、先生。それでもやっぱり……」

「玉藻、プレゼントを受け取った町の人たちを見るでち」

 

 藤丸たちも改めて見た。アイスケーキを受け取っていく、嬉しそうな人たちがそこにいた。

 

「沢山の人が笑っている。それで良いのでち。玉藻に悪い事を言ったことと、混同してはいけないでち」

 

 玉藻の前は町の人たちをしばらく見つめると、フウッと深く息を吐いた。

 

「分かりました。紅閻魔先生はそういう方ですからね」

 

 玉藻の前も、紅閻魔がなぜこのようなことをしたのかは、頭では分かっていたのだろう。ただ気持ちが追い付いていなかったのだ。

 

「さあ、皆さま。あちき達もサンタ活動を再開しまちょう。落雁は残念でちたが、たくさんの人たちに喜んでもらえるようなお菓子を考えて、作るでち」

 

 僅かに稼いだSPも、今はゼロポイント。一からやり直しだ。

 気持ち新たに出発しようとした時だった。

 

「待ちなさい」

 

 メイヴが声をかけてきた。

 

「あ、メイヴ様。アイスケーキの方は……」

「良いの。ちょっと抜けてきただけだから」

 

 屋台の方を見ると、スカディとフェルグスが今もプレゼントを渡している。まだまだ忙しい筈だ。

 

「さぼり?」

「違うわよ。ほらこれ!」

 

 藤丸の言葉を否定して、メイヴが「よっこいしょ!」と言いながら重たそうな物を引っ張ってきた。マンドリカルドが慌てて手伝う。

 

「これなんすか?」

「さっき言った、山羊のミルクよ。あんたたちにあげるわ」

「良いのでちか!?」

 

 驚く紅閻魔を見ることなく、メイヴはそっぽを向いた。

 

「ま、アドバイス貰っちゃったし、スカディちゃんも楽しそうにしてるし。その借りを返しに来ただけよ。私、男からの貢ぎ物は遠慮なくいただくけれど、いやそうしてもらって当然なんだけど、女から受けた恩は返すわ。だって、私は完璧な女。女から借りを受けたままだなんて、世間が許しても、私が許さないわ」

 

 そう言って、山羊のミルクが入った何本もの缶を紅閻魔たちに渡してきた。

 

「そっちも今からプレゼントの内容を変えるんでしょ。使いなさい」

「これは助かりまち、ありがとうでち。メイヴ様」

 

 メイヴは少し顔を赤くすると、「フン」と背中を向けた。

 

「せいぜいSPを稼ぎなさい。ま、私たちに追いつくこともできないでしょうけれど」

 

 そう言ってスカディとフェルグスの元に戻っていった。玉藻の前については謝罪しなかったが、メイヴはそういう人だ。

 

「玉藻、許せとはいいまちぇん。でちが……」

「ええ、分かっていますとも」

 

 玉藻の前ももう何も言わなかった。

 

「じゃあ行こうか。プレゼントも考えないとね」

「それなのですが……」

 

 マシュが手を上げた。どうやら彼女に考えがあるらしい。




今年中にもう一話投稿…できないな、多分…
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