紅閻魔サンタのクリスマス   作:悲傷

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あけましておめでとうございます。
2021年になりましたが、作中の時間はいまだにクリスマスですw


【修正報告】
2021/01/02
アルジュナとラーマを神霊と勘違いしておりました。
英雄に書き直しました。
失礼しました。


第5節

「メリークリチマちゅ……クリちマス! プレゼントでち」

「ありがとう」

 

 女の子は紅閻魔がくれた紙コップを受け取ると、口にして笑みを浮かべた。

 

「甘~い! 美味しい!」

「それは良かったでち」

 

 次にやってきた人たちにも紅閻魔はプレゼントを配っていく。

 

「今回は好評みたいだね」

「ええ、やりましたよ先輩!」

「フォウ!」

 

 ソリ……屋台の中で藤丸は心苦しい思いに駆られながら、落雁をハンマーで叩き割った。綺麗だった落雁の花が砕けて、砂糖の塊になってしまう。それをマシュが紙コップの中に入れる。

 

「玉藻の前さん」

「はいはい~、こちらもちょう~ど、いい温度にな、り、ま、し、た!」

 

 玉藻の前はコンロにかけていた片手鍋を持ち上げ、温めたミルクを中に注いだ。紙コップの中から湯気が立ち上がる。

 

「ホットミルク、新しいのできましたよ先生」

「ありがとうでち、玉藻」

 

 8個ぐらい出来上がったホットミルクをおぼんに載せて、玉藻の前が紅閻魔に渡す。それを紅閻魔が「クリちゅマちゅ」やら「クリちマち」など時々言い損ないながら渡していく。ちなみに手が熱くならないよう、紙コップは二重にしてある。飲み終われば、町中のゴミ箱に捨てれば良いので、気軽に受け取れるというのも利点だ。

 

「マスター、SPはどんな感じっすか」

 

 マンドリカルドが10キロはありそうなミルク缶を軽々と持ち上げて、中身を鍋に注いでいく。

 

「えっと……うん、順調だね」

 

 まだまだ最下位だが、先ほどと比べると貯まる速度が速い。

 

「マシュの提案のおかげだね」

「い、いえ。私は皆さんのお役に立てればと……」

「謙遜することは無いと思うけれど……」

 

 そう言いながら藤丸は町の人たちを見ていた。ホットミルクを口にして、温まる人たちが道を行きかっていく。

 マンドリカルドはその様子をチラリと見ていた。

 そんな彼らの元にガタガタという荷車を引く音が聞こえてきた。藤丸は嫌な予感がしてそちらを見た。

 

『藤丸くん、君の予想通りサーヴァント反応だ。大丈夫、カルデアのサーヴァントだから、警戒はしないで』

 

 ダヴィンチの言った通り、そのサーヴァントは藤丸を見ると、丁寧にあいさつをしてきた。

 

「マスター、あなたもこちらにいらっしゃったのですね」

「アルジュナ。それにラーマも」

 

 アルジュナとラーマが荷車を引っ張って尋ねてきたのだ。藤丸は屋台から降りて二人を出迎えた。

 

「アルジュナ、やっぱり今回参加した理由って……」

「はい、これはカルナからの挑戦状。受けて立つために参加しました!」

 

 背筋を伸ばして答えるアルジュナはどこか風紀委員のような印象を与えてくる。そんな彼はオーソドックスな赤いサンタ服を着ている。頭に被った帽子が中折れしているところがなんだか可愛らしい。

 

「アルジュナから頼まれてな、この通り余がトナカイ役をしているのだ」

 

 男性にしては少し高い声の持ち主、ラーマが並んで説明した。

 ラーマにはアルジュナのことを快く思っていない時期があった。原因はアルジュナのあるエピソードである。だが、インド異聞帯以降は共にバナナを食べて談笑する仲になっている。

 

「カルナができたのです。私にできぬ道理はありません。今年は私がサンタさんになってみせます!」

「うん、頑張ってね」

「マスター、余たちはライバルだぞ?」

 

 ラーマが笑って答えた。3人の談笑をあまり快く思っていないのか、玉藻の前が屋台の中から顔を出した。

 

「で、そのライバルさんが私たちになんの御用で?」

 

 気づくと、屋台の周りから人の波が退いていた。アルジュナたちが来てから、町の人たちの賑わいは鳴りを潜め、ヒソヒソと何かを囁きながら距離をとっていた。

 紅閻魔も配れなかったホットミルクとおぼんを手に戻ってくる。

 

「用ですか? そんなの、決まっているでしょう」

 

 そう言ってアルジュナは弓を手に持ち、ラーマが剣を抜いた。

 

「サンタ決闘です」

「悪く思うなマスター。余は友の助けになると決めたのだ」

「また!?」

 

 藤丸が言うより早いか、玉藻の前に続いて、マンドリカルドとマシュが屋台から降りた。それぞれ木刀と盾を構えて藤丸の前に立つ。

 

「ったく、なんなんすかこの大会! 倒すことが前提なんすか!?」

 

 マンドリカルドの悪態に完全同意しつつも、藤丸はまずいと歯噛みした。

 アルジュナもラーマもインドの大英雄だ。インドの英霊たちはこぞってとんでもない強さを持っており、ステータスはBランク以上が当たり前というレベルだ。戦いはステータスが全てではないと言っても、強さの目安であることに変わりはない。頭数ではこちらが2人分多いが、それでも勝てるだろうか。

 戦況を分析すればするほど、こちらが不利に思えてならない。紅閻魔たちを勝利に導くのがマスターの役目。なにか手を考えなくてはと、勝利の手順を脳内で計算しだす。

 

「ちょっと待ってくだちゃい」

 

 その計算が止まった。他ならぬ紅閻魔の手によってだ。

 

「なんです? 決闘は拒否できませんよ」

「はい、分かっていまち。でちが、その前に尋ねたいことがありまち」

 

 アルジュナは吊り上げていた眉を少し下げ、隣のラーマを窺った。彼が頷くと、すぐに眉を戻した。

 

「分かりました。いいでしょう。なんです?」

「はい、何か困っていまちか?」

 

 アルジュナが唇を噛んだ。どうやら図星らしい。

 

「サンタ活動がうまくいかずに、困っている。違いまちゅか?」

 

 アルジュナとラーマは目を合わせると、観念したように頷いた。

 

「よく分かりましたね」

「先ほどのメイヴ様たちも、同じ理由でサンタ決闘を申し込んできまちたから」

 

 紅閻魔は刀を召喚することもなく、アルジュナとラーマに歩み寄った。玉藻の前が身を案じて慌てだす。

 

「サンタ決闘が、申し込まれれば断れないのは重々承知していまちゅ。でちが、する必要性が無くなれば、取り下げてもらうことはできまちよね?」

「……ええ、問題ないかと」

「あちきはサンタ決闘をしたくありまちぇん。でちから、何に困っているのかあちきに教えてくれまちぇんか? 何かお力になれるかもしれまちぇん」

 

 

 このやり取りの間、アルジュナとラーマは武器を構えたまま、それを下すことは無かった。だが紅閻魔が笑みを絶やさないでいると、とうとうそれぞれの武器を下した。

 

「分かりました。では、聴いていただけますか?」

「はい、紅でよろしければ喜んで!」

 

 

 サンタ大会の参加者同士が、それぞれの荷台を置いて談笑。少々変な光景かもしれない。決闘を挑んできたインドの英霊2人に、紅閻魔はホットミルクをご馳走した。

 

「これは美味しい……」

「うむ、余のバナナとも合いそうだ」

 

 そう言いながら、もうどこからかバナナを取り出してほお張っている。

 

「これなら多くの者たちが喜んでくれるであろうな。敵ながら見事だ」

 

 ラーマの絶賛にお礼を言い、紅閻魔はアルジュナを見た。

 

「では、一息つきまちたし、話を伺ってもよろしいでちか?」

「はい、では……」

 

 こういう時に話を切り出しそうなのはダヴィンチだが、紅閻魔の意図を組んでいるのか、モニター越しに見ているだけで黙っている。

 アルジュナはホットミルクを一口飲むと、またいつもの険しい顔つきになった。

 

「私たちのプレゼントですが、女性しか受け取ってくれぬのです」

 

 マンドリカルドが白い目をした。

 

「サンタさんとして、道行く人たちにプレゼントを配っているのですが、寄ってくるのは女性ばかり。サンタさんは子供たちを喜ばせる物です。ですが、私たちがを喜ばせるのはなぜか女性ばかり……これではサンタさんではありません!」

「なんすかそれ? 陽キャっすか。陽キャの自慢っすか?」

「どうどう……」

 

 相手がインドの大英雄であることを忘れているのか、マンドリカルドが白目をむいたまま喧嘩口調になっていく。藤丸が肩を抑えて静まらせた。

 

「女性ばかりが喜ぶ……余にも分からぬ、なぜだろうか?」

「顔じゃないですか?」

 

 直球な質問をしてくる天然ボケな2人に、玉藻の前がストレートに撃ち返した。正直、まともに相手にするが馬鹿らしくなってくる。

 アルジュナとラーマ。顔立ち整った2人が並んでプレゼントを配っていれば、女性が寄ってくるのは当然だ。大自然の理だ。

 

「顔? では顔を隠すかラーマ?」

「そうだな。覆面をかぶろうか?」

「それただの不審者だから!」

 

 アルジュナとラーマがボケだけで回り出した。放っておくと何をしでかすか分からない。

 マシュが手を上げた。

 

「本当に女性たちしか近づいてこなかったのですか? 男性も子供も無関心だったのですか?」

 

 これは町中で暮らしたことのないマシュだからこその質問だろう。女性たちが集まってキャーキャー騒いでいる場所に近付く勇気は、さすがの藤丸も持ち合わせていない。

 

「実を言うと、最初は男性も貰ってくれてはいたのだ」

「ですが女性たちが集まりだすと、いつの間にかいなくなっていたのです」

 

 藤丸が思った通りだった。

 

「……子供には配れたのでちか?」

 

 紅閻魔が尋ねた。

 

「そう、そこなのです!」

 

 突然アルジュナが声を上げた。彼の反応を見て、藤丸は少しだけ反省した。女性ばかり近寄ってくるとか、アルジュナにとってはどうでも良い事だったのだ。彼が大切に考えているのはただ一つ、子供たちにプレゼントを配りたい。それだけだったのだ。

 紅閻魔はこの話題に辿り着くまでずっと黙っていた。最初から気づいていたのだろうか。

 

「子供たちにプレゼントを渡そうとはしたのでちね?」

「はい、ですが……何故でしょう。皆逃げてしまうのです」

「逃げる?」

 

 紅閻魔がオウム返しに尋ねると、ラーマが荷車から包を取り出した。

 

「もしかしたら余たちが用意したプレゼントが悪かったのかもしれぬ。見てはくれぬか?」

 

 紅閻魔だけでなく、藤丸たち全員に渡してくれた。取り出して、藤丸は「お!」と声を上げた。

 

「ロールケーキ?」

「美味しそうですね、先輩!」

「フォウ!」

 

 マシュが一口食べ、フォウにも少し分けてあげた。玉藻の前は「むむむ、やりますね」と少々悔しそうな顔をし、マンドリカルドはというとさっきの怒りはどこへやら、満足そうな顔だった。

 

「中にバナナが入ってるんすね」

「そうだ、余が厳選したバナナだ。自信があるぞ。そもそも、このバナナは……」

 

 褒められたのが嬉しいのか、ラーマがマンドリカルドにバナナ自慢話を始める。陽キャに絡まれて動じたマンドリカルドだが、話を聞くだけなら何とかなるのだろう。「へ~、そうなんすか」と頷いている。

 その傍らで、紅閻魔は

念入りにバナナロールケーキを観察していた。包装の仕方、そして黄色いスポンジ生地、二つに割ってからスポンジを引っ張る。生クリームをじっくりと見ると、クリームを少しだけ指で掬い取り、手でこねる。そこまでやって、ようやく一口だけ租借した。

 

「うん、合格でち。玉藻の前には及びまちぇんが、鈴鹿御前に見習わせたいできでち」

「おお!」

 

 アルジュナが子供のような笑みでガッツポーズをした。ラーマの話を聞いているマンドリカルドだが、その時だけ紅閻魔の方に目を向けた。

 

「鈴鹿御前さんですか?」

 

 彼女の名前にマシュが反応した。

 

「料理ができるとお聞きしています。それほどの出来栄えだったのですか?」

「鈴鹿御前はもう一人前でち。ただ、味付けも盛りつけも大雑把で、繊細な料理は苦手なんでち。

 その点、このロールケーキはバッチリでち。生地も崩れないほどに柔らかく、クリームはバナナの味を邪魔しない程度に甘みを抑えている。

 なによりバナナが素晴らしいでち。バナナは鮮度管理が難しい食材でち。熟れる前だと甘みが足りず、かと言って熟れすぎるとすぐに傷んでしまい、見た目も悪くなるでち。早すぎず、遅すぎず……最も良い熟れ具合のバナナを使っていまち。文句なしの合格でち!」

「そうであろう!?」

 

 バナナ自慢をしていたラーマが胸を張ってふんぞり返った。玉藻の前もこの評価を聞くと、認めざるを得なかった。

 

「紅閻魔先生にこれだけ言わせるとは……こちらからも、敵ながら天晴と返しておきましょう」

「うむ、受け取ろう。どうやらプレゼントでは互角なようだな」

 

 ラーマが握手を求めてきたので、玉藻の前も応えておいた。

 

「女将殿、私からも礼を。これで私たちも自信を取り戻せました!」

 

 2人は礼を言う。が、事態は何も解決していない。

 

「では、なぜ子供たちだけがプレゼントを受け取ってくださらなかったのでしょうか?」

「そうなのです……」

「余もさっぱり分からぬのだ」

 

 途端に落ち込むアルジュナとラーマ。藤丸も疑問だった。

 

「これだけ美味しいのなら、受け取ってくれそうだけれどな……」

 

 子供たちも喜んでくれるバナナケーキ。女性ばかり集っているから渡せないのではなく、これを渡そうとすると逃げられたという。どういうことなのだろう。

 藤丸が腕組みをする傍らで、紅閻魔が静かに口を開いた。

 

「なるほど、もしかしたら分かったかもしれまちぇん」

「え?」

 

 声を上げたのは藤丸だけではない。マシュや玉藻の前もだ。

 

「な、何か分かりましたか。教えてください!」

 

 アルジュナは体に力が入ったのだろう。また背筋を伸ばして、胸に手を当てて、真剣そのものと言った顔つきで、紅閻魔を見下ろすようにして尋ねた。

 紅閻魔は動じることなく、スッと手をアルジュナに差し出した。

 

「アルジュナ様、あちきにプレゼントを渡そうとしてみてくだちゃい」

「あなたにですか? 分かりました」

 

 アルジュナは荷車からプレゼントを一つ取り出すと、咳払いした。

 足の位置を微調整し、反りそうなほど背筋を伸ばし、肘の角度を90度に固定し、スウッと大きく息を吸い込んだ。

 

「メリークリスマス! プレゼントをどうぞ!」

 

 と叫ぶように言いながら、紅閻魔にプレゼントを渡してきた。

 

「やっぱりでち」

「え?」

 

 アルジュナが素っ頓狂な顔をした。ここまでくると、藤丸たちも理解していた。

 

「怖い……」

「え?」

「怖いです……」

「え? え?」

「フォウ……」

 

 藤丸の言葉に、マシュとフォウが頷いた。

 アルジュナの身長は177cm。現代日本人としては平均よりやや高め程度だ。だが子供達から見れば、とても大きな大人に見える。それが先ほどのような力んだ顔で、几帳面な動きで、上から迫りくるように大きな声で「メリークリスマス」などと叫ばれれば、かなり怖いだろう。ただでさえ、人は上から見下ろされると圧迫感を覚えるのだから。

 紅閻魔が一つずつ丁寧に説明すると、アルジュナは肩を落とした。

 

「そんな、私は子供たちを喜ばせるどころか、怖がらせていただなんて! サンタさん失格です!」

 

 頭を抱えてしまう彼だが、これはある意味仕方ない結果なのかもしれない。子供たちにプレゼントを渡すときも全力で……アルジュナの生真面目さが仇となっていただけなのだから。

 

「っていうか、ラーマは気づかなかったの?」

「すまぬ、余も似たような感じだった」

 

 ラーマは尊大な人柄だ。子供たちからしたら近寄りがたかったのかもしれない。

 

「紅閻魔先生! 私はどうすればいいのでしょうか!?」

 

 いつの間にか、アルジュナが紅閻魔を先生と呼んでいた。なんだろう、スポ根漫画のような構図になってきた。

 

「アルジュナ様、笑顔で子供たちにプレゼントを配れまちか?」

「……難しいと思います」

 

 アルジュナは笑うことが少ない。常に完璧にあろうという向上心ゆえのことだ。笑顔でプレゼントを渡せと言われても難しいだろう。

 

「これは私が完璧なるサンタさんになるための試練であり、カルナとの戦い……そう、いうなればここは戦場!」

「商店街です」

 

 藤丸は小さく突っ込みを入れた。

 

「戦場で笑みを浮かべるなど、気を抜くと同義! 私はカルナとの戦いで手を抜くなどできません!」

「……そうですか……」

「バフォウ」

 

 フォウが物凄く深いため息をついた。何か悪口を言った気がしたのは気のせいだろう。

 1人苦悩しているアルジュナの背中を、ラーマがポンと叩いた。

 

「アルジュナ、お主は真面目すぎたのだ。少々向いていなかったのだ」

「ですが、これで諦めるわけにはいきません。私は、何としてもカルナに勝ちたい……」

 

 これ以上、誰もアルジュナに声をかけることはできなかった。ボケを展開しているように見えるが、本人はいたって真面目なのだから。アルジュナとカルナの因縁はあまりにも有名。皆それを知っているからこそ、何も言えなかった。

 

「分かりまちた」

 

 ここでもまた紅閻魔が声を上げた。

 

「アルジュナ様、よろしければこちらから提案がありまち」

 

 

「紅閻魔先生、良かったんですか?」

「はい、接客は教えられたからと言って、すぐにできるものではありまちぇんから」

 

 藤丸と紅閻魔は、プレゼント配りを再開したアルジュナとラーマを見ていた。彼らが言っていた通り、すぐに女性たちが集まる。だが今度は、子供たちの姿もそこにあった。

 

「可愛い~」

 

 アルジュナたちの周りには三羽の雀がいた。紅閻魔の奉公雀たちだ。

 

「メリークリスマスちゅん!」

「プレゼントをどうぞちゅん!」

 

 雀たちがそう言うと、アルジュナはしゃがんで子供にプレゼントを渡した。人は上から見下ろされると圧迫感を覚える。なので目線を合わせる。紅閻魔が与えた助言はそれだけだ。

 相変わらず真顔だが、雀たちの存在がそれを和らげる。アルジュナが腹話術でしゃべっていると皆勘違いしているのだ。

 

「ですが、閻魔亭もお忙しいのでは?」

 

 マシュの質問に紅閻魔は首を横に振った。

 

「いいのでち。アルジュナさんのサンタになりたいという気持ちは、よく分かりまちた。紅はそういう人には頑張ってほしいと思うでち」

「先生、そういうところですよ……」

 

 玉藻の前の言葉に、紅閻魔は不思議そうな顔をした。無自覚なのだ、彼女は。

 そんな彼らの元にアルジュナが近づいてきた。プレゼント配りは一時中断したらしい。

 

「ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ、秦広(しんこう)初江(しょこう)宋帝(そうてい)、アルジュナ様とラーマ様のお手伝い、しっかりするでちよ?」

「「「はいちゅん!」」」

 

 三羽が敬礼で応えた。

 ラーマはそれに微笑むと、抱えていた数箱のダンボールの中身を見せた。

 

「手伝ってもらった礼だ。貰ってはくれぬか?」

 

 中にはバナナが大量に入っていた。

 

「いいのでちか?」

「女将殿の得意な和食には合わぬかもしれぬが、使ってくれるのなら余も嬉しい」

「いえいえ、ありがたく使わせていただきまち」

 

 マンドリカルドが箱を抱えて屋台へと運んでいく。

 

「私はカルナに勝とうと思うばかりに、子供たちの気持ちにまで考えが至っておりませんでした。ましてやサンタ決闘など……サンタさんとして間違った行為でした。取り下げさせていただきます」

「そういえば、そういう話だったね」

 

 2人のボケが激し過ぎて、藤丸もすっかり忘れていた。

 

「良いのでち。間違いは誰だってするものでちよ。それよりもアルジュナ様、ラーマ様、クリスマスを楽しんでくだちゃい。あちきはただ、皆さまと一緒にこの大会を楽しみたいだけなのでち」

 

 アルジュナは少し罰の悪そうな顔をすると、頭を下げた。

 

「サンタさんとして大切なことに気付かせてくださり、ありがとうございます。紅閻魔先生は、子供たちの気持ちをよく分かっているのですね」

 

 紅閻魔が少し口を開いた。それを一度閉じると、ニッコリと笑って見せた。

 

「アルジュナ様、ラーマ様、えっと……お互いに頑張りまちょう?」

「は、はい……」

「……うむ、ではそちらの検討を祈る」

 

 アルジュナとラーマは、雀たちを連れて自分たちのソリへと戻っていった。

 紅閻魔は彼らを見送ると、少しだけ俯いた。藤丸は訝しく思って声をかけようとした。

 

「あの、紅閻魔先……」

「このバナナ、どうするっすか?」

 

 ソリの上からマンドリカルドが声をかけてきた。紅閻魔は気づいたように振り返った。

 

「本来、和菓子にはバナナは使いまちぇん。でちが、最近は西洋の果物を使ったものもありまち。山羊の牛乳もありますし、何か買い足ちて、新しいプレじぇントを考えてみまちょう」

 

 紅閻魔の提案に藤丸たちは頷いた。だが1人、マンドリカルドだけは無言で紅閻魔をみていた。




「アルジュナは卑怯な真似をしない」
と作中で書こうとしましたが、調べてみると結構卑怯な事やってたみたいですね。
FGOでは生真面目なキャラなのに。

あと、書いているうちにラーマの台詞が卑猥に思えてきたのは、私の心が汚れているからなのでしょうね……w
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