紅閻魔サンタのクリスマス   作:悲傷

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第7節

 少女は町の人たちの声に耳を傾けた。

 

「サンタさんが喧嘩してた」

「サンタさんなのに、なんでそんなことするの?」

「あのサンタさん怖かった」

「お姉ちゃんが五月蠅い!」

「サンタサンタってなんだよ、クリスマスがそんなに楽しいのかよ!」

「サンタ大会? ふざけんなよ。あいつらが食べ物配るせいで、商売あがったりだよ」

 

 聞こえてくる声はこんな感じだ。少女はその場を後にすると、幾つもの荷車が並んでいる広場に戻ってきて、クスクスと笑い声を漏らした。

 

「フフフ、上手くいっているみたいですね」

 

 そう言って端末を取り出し、そこに書かれている数値を見る。

 

「ええ、貯まってきていますね。BSPが」

 

 カーマは荷車の一つに腰かけた。

 

「まったく、ダメですよ皆さん。サンタなのに決闘なんかしちゃ。せっかくのクリスマスを台無しにしているって、気づきませんか? 気づかないですよね。皆さん我欲の強い英霊さんたちですから」

 

 BSPの……バッドとか、ブラックとか言う意味のサンタポイント。サンタなのに周りを不幸にしてしまった数値だ。そのポイントのほとんどはサンタ決闘にある。

 

「曖昧な定義に設定して正解でした。皆おバカさんですね。全ての人がクリスマスを楽しんでいると思いました? 日本ではクリスマスは家族や恋人と過ごすものだと聞いています。つまり、クリスマスが盛り上がれば盛り上がるほど、独り身は辛くなるのです」

 

 BSPのもう一つの発生原因がこれだ。光が強くなれば、その分影も濃くなる。誰かが幸せになれば、その反対側には不幸になっている人もいるのだ。

 

「さあ、サンタ立候補のサーヴァントの皆さん、どんどんサンタ活動してください。どんどんサンタ大会を盛り上げてください。あなた達がSPを貯めれば貯めるほど、BSPも貯まっていきます」

 

 そう言って、カーマは自分の懐からある物を取り出した。金色に輝く盃……聖杯だ。

 

「フフフ、先輩たちは鋭いですね。そう、私が黒幕です。カルナさんのスキル『貧者の見識』? 知っていますよ。依代は別ですが、同郷のサーヴァントなのですから。だから願ったのです。『貧者の見識』をすり抜けさせてほしいと」

 

 結果、カルナを煽ってこの大会を開かせることができた。カルナは自分のスキルが無効化されていることに、気づいてすらいないだろう。変にばれないよう、大会が終わるまで静観する様にと言っておいたのも効果的だった。

 

「まったく、凄いスキルですよ。記録によると、あるサーヴァントがうどんを食べたときの思いつきなんかで、町一つ作り出してしまったほどの力を持つ聖杯……そのほとんどを使ってしまったのですから」

 

 一流サーヴァントの在り方そのものを捻じ曲げたのだ。無理もない。

 

「ですが代わりに、この大会のルールは完璧な物に仕上げました。後はBSPが溜まったころに、それを私が吸収。多くの愚かで不幸な皆さんの願いを受け止めて、私が今年のサンタになるのです。そう、だって私は愛の神。皆を愛してあげる私こそがサンタにふさわしい。クリスマスで幸せな人も、不幸な人も、み~んな私が愛してあげますよ。クリスマスの象徴、サンタとして……」

 

 カーマはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。後は時が来るまで、大人しくしていればいいのだ。

 

 

 カルデアの食堂。そこでは二人の男性が向かい合って座っていた。

 

「随分と賑やかでしたね」

「うむ、相手がエリザベート嬢なら仕方あるまい……」

 

 フィオナ騎士団団長のフィン・マックールと、その一番槍ディルムッド・オディナだ。食堂に来るなり、早速歌おうとしたエリザベートを、メルトリリスとカーミラが撃退したという一部始終を見ていたのである。

 

「それにしても、本当に協力しなくてよろしいのですか?」

「女将のことかね?」

 

 フィンの言葉にディルムッドは頷いた。2人は、紅閻魔とはそれなりに親しい関係だ。閻魔亭で働いて事件を解決したこともあれば、紅閻魔と茨木童子のトラブルの時に助力したこともある。ようはこの2人、紅閻魔のことを好ましく思っているのだ。

 紅閻魔が藤丸と共に微小特異点に行っていることを、2人は既に知っている。ディルムッドからすると不思議だった。紅閻魔が困って居ようものなら、ついつい手を貸したくなるのが彼だと思っていたからだ。

 

「よい。今回我々が何かをする必要性は無い」

「……」

 

 ディルムッドが難しい顔をした。それを見てフィンは違う違うと手を振った。

 

「いやなに、見捨てようとかそう言うのではないのだ、ディルムッドよ」

「……はっ」

 

 無自覚なのか、嫌味なのか判断し辛い言葉だった。

 

「確かに、私がマスターや女将のところに行って、この親指を噛めば、事態はすぐに解決できるかもしれん」

 

 フィンの宝具の一つ「フィンタン・フィネガス」。別名「親指かむかむ智慧もりもり」のことだ。これは「叡智を与える鮭の脂が親指に付着した」という彼の逸話から来るものだ。親指を噛めば知恵が高くなり、現在持っている情報や状況を整理して、最善の答えを導き出せるという、ちょっとしたチートスキルだ。

 もし彼が同伴していたら、今頃はカーマの企みも知ることができたかもしれない。もっとも、同行していない今の2人には知る由もないが。

 

「だがねディルムッド。私はこのスキル、基本的には使いたくはないのだ」

「なぜです?」

「人間性を失うからだ」

 

 その言葉で、ディルムッドは何となくではあるが理解した気がした。

 

「過程が無くなるからですか?」

「そうだ。人は悩み、工夫し、失敗してやり直し……それを繰り返して答えに近付いていくものだ」

 

 またしてもディルムッドは複雑な顔をした。

 

「そこに価値が生まれる。人間性はそこで成長していくものだと私は考えている」

 

 フィンの目を見て、ディルムッドは何も言えなくなった。便利な親指を持っているフィンだからこそ、あの時ディルムッドに嫉妬してしまったフィンだからこそ、先ほどの言葉を言えるのだろう。

 

「それとこれは私の予想だがね、きっと女将は自分と向き合うことになるだろう」

「それは勘ですか?」

「予想だよ。女将の生い立ちと性格を考えると、おそらくね」

 

 ディルムッドには分からなかった。この団長は何を見ているのだろう。

 

「では、今回は待機ですね」

 

 そう結論を出したが、ディルムッドは不安げな顔を消せなかった。フィンが柔らかく笑う。

 

「案ずるなディルムッド。我ら等いなくとも、彼女の周りには協力者がいる」

「マスターのことですか?」

「それもあるが……これから増えるとも」

「……それも予想ですか?」

 

 フィンは手で否定した。

 

「確信だよ」

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