「我々かね? 我々のプレゼントはこれだとも。フラン~」
「は~い。みんな~、サンタさんからのプレゼントだよ。メリークリスマス!」
「行くぞ!」
フランが手を上げると、隣にいたバベッジが勢いよく蒸気を噴射した。それは空気中で急速に冷やされて氷の粒となり、雪となって子供たちの頭上に舞い降りた。
「わ~、雪だ!」
「綺麗~」
子供たちははしゃぎ、大人たちも写真を撮ったりしている。
「と言う訳で、我々のプレゼントは人工雪だ」
モリアーティ教授は髭を摩りながら自慢げに両手を広げた。
「まあ、本来はこの程度で雪など降らぬのだが、そこは魔術の便利なところだよ」
藤丸とマンドリカルドは「ほ~」と舞い散る雪を見ていた。
「なるほど、ものじゃなくて景観をプレゼントにしたわけか……」
「こういうのも良いっすね」
感心する二人と異なって、間にいる紅閻魔は無表情で雪を見上げていた。
「お嬢ちゃんは楽しくなかったかね?」
「あちきは女将であって、お嬢ちゃんではありまちぇん」
「おっと、これは失礼。マドモアゼル」
マドモアゼルはイギリス英語ではなくフランス語なのだが、彼なりに紳士っぽく振る舞ったのだろう。
「モリアーティ様、あなたはなぜこの大会に参加したのでち?」
「もちろん、可愛い娘をサンタにするためさ。ミスター・バベッジも同じ気持ちだ」
フランはサンタの恰好をして子供たちの遊び相手をしている。あれも立派なサンタ活動と言えるだろう。
「その為なら何でもするという覚悟でちか?」
「もちろんだとも。どんな汚い手でも使うつもりだよ」
モリアーティが悪い顔をしたので、紅閻魔が無言で刀を召喚した。
「おっと、怖い怖い。安心したまえ。あまり黒い方法を使うとフランが悲しむからね。今回は自重しておこう。だがサンタ決闘を申し込むのなら、受けて立つが……どうする?」
紅閻魔は刀を消すと頭を下げた。
「あちきはサンタ決闘と言うルール事態が好きではありまちぇん。失礼しまちた」
「そうかね。では互いに頑張ろうじゃないか」
彼らしくない言葉に礼を言い、藤丸たちは歩き出した。
◇
「やあ、マスターじゃないか!」
「おう、よく来たな人間」
次に訪ねたのは坂本龍馬とお竜の元だった。2人は小さなテーブルの上に、お菓子やアクセサリーと言った小さな物を並べていた。
女の子が人形を指さすと、龍馬が包に入れて、サンタの恰好をしたお竜が「メリークリスマスだ。大事にしろよ」と言いながら渡した。サンタにしては随分な上から目線だが、子供たちは「変なの~」と笑うだけだった。
色々な商品があるため、子供たちが望んだ物をプレゼントできるという強みがそこにあった。
マンドリカルドは2人の後ろにあるソリの上部、高いところに取り付けられた看板を読み上げた。
「お竜屋?」
「お竜さんの名前からとったんだ。良い名前だろう?」
「とったっていうか、そのまんま……いや、大切な人の名前を使うっての、俺も良いと思うっす」
マンドリカルドの言葉に、龍馬が心から笑ったように見えた。
「それにしても懐かしいね、お竜屋……」
お竜屋は、ある特異点で坂本龍馬とお竜が二人でやっていた店だ。と言っても、今回はお金をとってないので店ではないが。
「確かあの時も、お竜さんがお店をやってみたいって言って、始めたんだっけ?」
「そうそう、よく覚えていたね」
「人間にしてはやるな、褒めてやるぞ。カエルいるか?」
「遠慮しておこうかな。嵩張るし」
やんわりと断っておいた。
「と言うことは、坂本龍馬様は、お竜さんをサンタさんにするために?」
紅閻魔がようやく口を開いた。
「もちろんそうだよ。ただ、実を言うとそんな真剣に狙っていないんだ」
「ふえ?」
「今回は遊びで参加しているだけだからね」
「遊び?」
「うんうん」と龍馬は別のプレゼントを包みながら答えた。
「お竜さんが、サンタをやってみたいと言ってね。カルデアでサンタは気軽に名乗れないだろ? だからこうして、一時的にだけれど2人でサンタを楽しんでいるんだよ」
包みを受け取ったお竜は、先ほどと同じように子供にプレゼントを渡した。心からサンタを楽しんでいるようだった。
「優勝できるかは二の次、僕たちはサンタ活動を楽しんでるだけなんだよ」
「……大切な人との時間を過ごしたい……でちょうか?」
「はは……言葉にされると照れるな~」
気恥ずかしそうに龍馬は頭後ろを掻いた。そこにお竜が戻ってくる。
「そういうわけだ。女将、お前も楽しんでいるか?」
お竜の言葉に、紅閻魔は何も答えられなかった。
◇
「行くぞランスロット卿!」
「来い、ガヴェイン卿!」
ガヴェインとランスロットが互いに剣を振り下ろした。見ていた子供たちが歓声の声を上げる。「やれー!」とか「頑張れー!」とか様々だ。
2人は何度か剣をぶつけ合うと、最後はガヴェインがランスロットを組み伏せた。
「ま、参ったガヴェイン卿! 私の負けだ……斬れ!」
四つん這いになるランスロットに、ガヴェインは恭しく手を差し出した。
「良き戦いであった、ランスロット卿!」
ランスロットはそれをとり、立ち上がる。
「こうして、偉大なる兄様……じゃなかった、勇敢なるガヴェイン卿はランスロット卿との雌雄を決し、2人は友となったのでした」
ガレスのナレーションが終わると、最初からずっと奏でられていたトリスタンの琴の音が止まった。パチパチパチと拍手が上がる。
ガヴェインがノシノシと大股で子供たちに近付くと、手に持った剣を掲げた。
「さあ良い子の皆、この太陽の騎士、ガヴェインの剣……ガラティーンをあげよう! これで君も円卓の騎士だ!」
「「わーい!!」」
「さあ、こちらに一列で並んでください」
ベディヴィエールが子供たちの列を整理した。ガヴェインがソリからガラティーンとよく似た玩具の剣を取り出し「メリークリスマス! 君も強くあれ!」と渡していく。
「これは卑怯っすよ……!」
「分かる、男の子なら嬉しいよね!」
藤丸とマンドリカルドはいつの間にか手に拳を作っていることに気づいた。本物の騎士が一騎打ちを演じて、玩具とは言えどその剣をくれるというのだ。これに喜ばない男の子はそうそう居ないだろう。
しかも受け取った後はガヴェインが握手し、帰りにはガレスとトリスタンとランスロットが見送ってくれるのだ。ランスロットに「頑張れよ!」と声をかけていく男の子もいる。
ちなみにイケメンがずらりとそろっているため、女性や女の子の受けもいい。
行列が終わったころに、藤丸はサンタの恰好をしたガヴェインに声をかけた。
「マスター、どうでしたか? 我々のサンタ活動は」
「凄いよ! もう最高!!」
「お、俺も見惚れてたっす……」
マンドリカルドからしたら、騎士としての尊敬の念もあるのだろう。顔が完全に紅潮していた。
「このプレゼントはなんで思いついたのでちか?」
紅閻魔が一歩離れたところで尋ねてきた。ガヴェインは彼らしい太陽のような笑顔で答えた。
「そうですね、皆で考えたのです」
隣にガレスが出てくる。
「私は、お兄様が剣劇を見せたら、沢山の人が喜んでくれるのではないかなと思ったんです」
子供たちに手を振りながら、ベディヴィエールとランスロットが続いて答える。
「子供たちは良く棒切れを持って剣のまねごとをするものです。なので剣の玩具は私が提案しました」
「ならばと私が剣の相手を申し出たのだ」
そして特に意味も無くポロロンとトリスタンが琴を奏でた。
「私としては歌をプレゼントしたかったのですが……悲しい。それは私のプレゼントであって、ガヴェイン卿のプレゼントではなくなってしまいます。ですから私はバックミュージックの担当をしました」
この企画は円卓騎士団の相談で出来上がったらしい。ちなみに、脚本担当はガレスらしい。
「アルトリア様がすでにサンタになっておりまちが、ガヴェイン卿はなぜサンタに?」
「決まっています。円卓の騎士として、我らが王に勝利を捧げるためです」
「勝利……?」
「はい!」
ガヴェインは雲一つない笑顔で答えた。
「大会と銘打たれれば、我ら円卓騎士団が参加しないわけにはいきますまい。我らが最強、偉大なる王に仕えし我らこそが最強! それを証明するために参加したのです!」
「……それはサンタを目指すための理由になるのでちか?」
「? 逆に尋ねますが、いけませんか?」
心底不思議そうに尋ねてきたガヴェインに、紅閻魔は首を横に振った。
「いえ、ただ気になっただけでち。気分を害してしまったのなら、申し訳ありませんでちた」
「い、いえ! 別に害してなどおりません! 顔を上げてください」
紅閻魔が顔を上げると、ガヴェインは手を差し出した。
「女将殿、どうか健闘を祈らせてください」
「はい、ガヴェイン様も……」
笑顔で握手を交わすが、それが無理矢理作っている物だということに、藤丸は気づいていた。いや、マンドリカルドとガヴェインたちもだろう。それほどまでに、今の紅閻魔は酷い顔をしていた。
◇
ガヴェインたちと別れ、藤丸たちは通りを歩いていた。
「う~ん……」
「どうかしたっすか?」
「いや、ずいぶんとお店の数が少ないなと思って……」
今日はクリスマスだ。もっと色々な移動販売車が通りに並んでいて、クレープなどを売っていても良さそうなのだが。
「なんか買って帰るっすか?」
皆まで言わなかったが、マンドリカルドの言葉の裏には「マシュと玉藻の前が待っているし」という意味が込められていた。今二人は、置いてきたソリの中で、フォウと一緒に待ってくれている。
彼が全て言わなかったのは、2人の後ろを歩いている紅閻魔のことを思ってだ。
ネロの言葉を受けて、紅閻魔はすっかり落ち込んでしまった。自分がなぜこの大会に参加したのか、なぜサンタになろうとするのか、その理由も動機も持っていなかったことに気づいたのだ。こうなると紅閻魔はもう動けなかった。
ただ悩んでいるだけでは解決に繋がらないと、藤丸は他のサンタ候補者たちの活動を見に行こうと提案したのだ。本当はマンドリカルドにも留守番をお願いしたかったのだが「女性二人と一緒に待てとか俺に死ねっていうんすか!?」という理由でついてきたのだ。
そして現在に至るという訳である。
藤丸は少し考えると、2人にベンチで座って待っているようにと伝えた。近くの自動販売機でコーヒーを三本ほど買ってくると、2人にそれを渡して自分も座った。
「紅閻魔先生、どうでしたか?」
紅閻魔はすぐには答えなかった。1分ほど押し黙ると、ようやく口を開いた。
「分かりまちぇん……」
消え入りそうなほど小さな声だった。
「あちきには、サンタになりたい理由がありまちぇん。なる理由もありまちぇん」
サンタになってレイシフトして、SPを貯める。全てはカルナに会うために必要だからやっていただけだ。
「けれど、皆さんにはなりたい理由がありまちた」
メイヴはスカディをサンタにしたい。
アルジュナはカルナに負けたくない。
ネロは歌を届けたい。
モリアーティとバベッジはフランをサンタに。
坂本龍馬とお竜はただ楽しみたい。
円卓騎士団は勝ちたい。
皆似ているようでありながら、それぞれの理由があってやっている。
「なんの動機も無くサンタ活動をしている。そんなあちきにサンタを目指す資格があるのでちょうか? あちきは皆さんの夢を邪魔しているだけなのではないでちょうか? いいえ、そもそも清姫にしたお説教が間違いだったのでちょうか?」
清姫の動機はとんでもなく自分勝手だったが、ネロが言った通り「自分の為に動く」と言うことは当たり前のことなのだ。紅閻魔は「清姫に言った事は誤りだったのではないだろうか」と考えているのだ、
と言っても、バレンタインに「アレ」を用意するような彼女のことだ。まともなサンタ活動をしたとは思えないが。
「あちきは、サンタとしてこの大会に参加しまちた。やるからには、しっかりとサンタをやりたい。そう思ったのは、プレゼントを受け取る側の気持ちを考えたからでち。サンタさんが来たのに、やる気無さそうにしていたら、子供たちはきっとがっかりするでちょうから。そう思って、ここまで精一杯やってきたでち」
紅閻魔は一呼吸おいた。
「でちが、それが他の皆さんの夢を阻むというのなら、あちきのやっていることは正しいのでちょうか? サンタになりたい動機が無い。理由が無い。そんな半端な気持ちで参加して……加えて、紅は子供の幸せというものが分かりまちぇん。こんなあちきには、大会に参加する資格すらなかったのかもしれまちぇん……紅は辞退して、いなくなってしまったほうが良いのではないでちょうか?」
「……じゃあ、辞退する?」
藤丸はできるかぎりゆっくりと尋ねた。だが紅閻魔はこれについても首を横に振った。
「カルナ様と早く会うためにも、SPを貯める必要がありまち。それに……メイヴ様も、アルジュナ様も、モリアーティ様もガヴェイン様もお互いに健闘しようと言ってくれまちた。ネロ様は辞退までしたのに、応援してくれ待ちた。あの人たちの思いを、無下にはしたくありまちぇん……」
紅閻魔は持っている缶コーヒーを握りしめた。
彼女の中では義務感や責任感、罪悪感に似たような気持ちなどがせめぎ合っているのだ。おそらく、彼女自身で把握できていないほどに。
藤丸はフウと息を吐いた。
「もう気持ちは決まってるんじゃないかな?」
「……え?」
紅閻魔が驚いたような顔で藤丸は見た。藤丸はその目を正面から見つめる。
「紅閻魔先生の中で、もう答えは出てるんじゃないかな?」
「あちきの中ででちか?」
「うん」
紅閻魔は小さな手で、自分の胸に手を当てた。この中に答えがあるのだろうかと言うように。
静かな時間が少しだけ流れる。町中に流れるクリスマスソングに藤丸は耳を傾けた。それを嘲笑うように悲鳴が聞こえてきた。
「なんすか、今度は!?」
マンドリカルドが苛立ち気味に立ち上がった。悲鳴の方角からは人が必死の形相で逃げてくる。
「行ってみよう!」
◇
現場に辿り着いてから数分後、戦闘は終了した。
「一体何なんすかこれ……?」
マンドリカルドがくたびれた顔で文句を言った。藤丸も同じ顔で項垂れた。
「見てのとおり……鮫だよ」
藤丸たちの前には、うつ伏せに倒れたジャンヌ・ダルクと6匹の鮫がいた。
肩で息をする藤丸たち3人。彼らの元に近づいてきたのは黒い聖女だった。
「ありがと。素直に助かったわ」
ジャンヌ・オルタに続いて黒いサンタ、アルトリア・オルタが近づいてきた。
「今回は礼を言っておこう。この突撃女よりかは役に立ったぞ」
「うっさいわね!」
アルトリア・オルタの喧嘩に、ジャンヌ・オルタが迷わず噛みついた。
ちなみにもう一人、一緒に戦ったナイチンゲールサンタは、倒れたジャンヌの治療を行っている。
「勢いで助けに入ったけれど、何があったの?」
「見てのとおりよ。馬鹿姉……じゃなかった、あの女がトナカイ役の鮫たちにソリを引かせようとしてたの」
「なにその地獄絵図?」
「御主人、地獄はこんな無法ではないでち」
紅閻魔も相当呆れているのか、何気に酷い事を口にしていた。
「よくケツアルコアトルの審査を通ったね……」
藤丸の言葉に、アルトリア・オルタが答えた。
「あの女のことだ。サンタとトナカイが揃っているから『まあいいでーす』というノリで許可したのではないか?」
「人選ミスでしょ……で、邪ンヌは?」
「水着の霊基でトナカイ役をするから、一人二役で良いでしょって理由で通ったわ」
「無理ありすぎない?」
「おそらく、『馬鹿だから好きにさせよう』だろう」
「聞こえてんのよ!」
また二人が喧嘩を始めた。そうしているうちに、ナイチンゲールに連れられてジャンヌが連行されてきた。
「ジャンヌ、なんでこんなことしたの?」
「いえ、この子たちの可愛さを知って欲しかったんです。芸だって覚えたんですよ。見てください。皆さん、謝罪を!」
ジャンヌがそう言うと、六匹の鮫たちは鼻先を地面につけて倒立した。なんだかこの体制で歩き出しそうな気がしてならなかった。
「ちなみに、お父さんとお母さんと、息子とその奥さんと、さらにその子供と親戚のおじさんです」
「1人おじさんなんだ……」
藤丸は黒いため息を吐き出した。
「分かるあんた? このあ……女を止めるために、一人で参加した私の苦労」
「お姉ちゃん思いなんだね」
「違うわよ! こいつが馬鹿やらかしたら、またこの性悪女に笑われるでしょ!?」
もう手遅れだと思う。と言う言葉を、藤丸は疲れすぎて言うのを止めた。とりあえず、大きな被害が無くて良かった。と思うことにしよう。
3人がかりで連行されていくジャンヌを見送りながら、藤丸は固く心に誓った。
「とりあえず、夏はジャンヌと関わらないでおこう」
「そっすね……」
「でち……」
モリアーティって、バベッジのことをなんて呼ぶのだろうとサマーレースの記録を見てきました。ミスターって呼ぶのですね。最初はバベッジ君にしてたので、危ないところで下。
現在、9節から11節を執筆中です。
全体的に見直している状態です。
完成できしだい、順次投稿していきます。
もうしばらくお待ちください。