真剣で私に恋しなさい!S ~無冠の弓聖~   作:霜焼雪

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暗紅

 

 

 

 交流戦、開始。

 

 始まりを告げる法螺貝の心身を揺さぶる重低音が轟き、士気の高ぶった両陣の兵士たちが騒然たる大喝がそれと共鳴し、工場地帯を壊さん勢いで響き渡る。鼓膜などあっさりと突き破ってしまいそうな爆音に身を委ね、敵首求め己が武器を振るい始める。

 

 日本刀や西洋剣、槍やら刺又やら、十手に三節棍まで入り乱れる文化の坩堝、現代化された戦場の体現。拳だけで立ち向かう者まで混じっている戦場の異常性、果てや情報操作まで行われるこの争いは戦争とすら名状し難い。

 

 熾烈を極めた喧嘩の昇華は、単なる東と西の交流戦だけとは最早言えない。

 

 これは、文化と時代、主義主張の交流戦だ。

 

 現代に複雑な形で蘇った戦争の舞台、工場地帯のある一角。人気のほとんどないパイプの入り組んだ暗闇の奥、両軍の士気を最高潮に高めて破裂させんばかりの轟音であった開始の法螺貝の音を一身に受けたのにも拘らず、のんびりと双眼鏡片手に周囲を見渡しながら、気怠そうに呑気に欠伸をしている一人の少女がいた。

 

 

 

「奴さんはどんな感じの編隊なのか、観察しなきゃ始まらねーっすよねー」

 

 

 

 川神学園所属、単独行動認可の射手、藤巴織鶴。

 

 彼女は足下で戦っている戦士たちの様に戦意を向上させている素振りは見せず、自分が任された案件を済ませようとしている。兵士と言うよりかは傭兵か、はたまた暗躍し任務をこなすことに特化した忍か。

 

 どちらでもない、今の彼女はただの傍観者だ。

 

 

 

「現代の学徒出陣、とでも言うべきなんすかね。皆さんお元気なことで」

 

 

 

 これは徴兵じゃなく志願兵っすけどね、そうぼやいた織鶴の目には天神館の生徒と川神学園の生徒が拳で殴り合っている光景が移っている。あまりの暑苦しさに双眼鏡が曇ったような錯覚を受けた織鶴は苦笑し、頭に乗せていた眼鏡と双眼鏡をハンカチでささっと拭く。

 

 工場の排煙もふき取り、心なしか満足気にレンズを光らせる双眼鏡を再び目に添え、敵方の部隊状況を詳しく頭に刻み込む。できる限り角砂糖に働き蟻が群がっているような交錯した状況の場所から優先して。

 

 

 

「……十勇士、いるっすね……。大将首は流石に見えねーっすけど、部隊を率いている連中は分かりやすくて恩の字っす」

 

 

 

 獲物を前に胸を撫で下ろした織鶴だったが、そこに現れた頭を確認して項垂れた。

 

 

 

「…………ヘルメットとか、ヒキョーっす。分かりやすく突出してきてるのに、あれじゃ一撃ダウンさせらんないっす」

 

 

 

 黒地にドルマークの刻まれたヘルメットをかぶり、ぎっしりと中身の詰まったドラム缶のような大きさの大槌を振り回す少女は、織鶴ら川神学園の兵士に通達された要注意人物の一人だ。

 

 天神館が西方十勇士、宇喜多秀美。身の丈以上のハンマーを軽々振るうパワータイプ、エセ関西弁が特徴で――――

 

 

 

「――――どうしようもない守銭奴。金次第で意見を変える綺麗とは言えない人間だが、頭の回転は速くキレ者。宇喜多金融の娘で、ってなんすかこの要らん情報」

 

 

 

 宇喜多の情報が書かれた一枚の報告資料を、織鶴は適当に折り目を付けて紙飛行機を作る。何の躊躇いもなくそれを戦場に投下し、それは兵士たちの熱気に充てられて天高く上昇して闇夜に消えて行った。

 

 

 

「狙う必要ねーっす」

 

 

 

 織鶴作宇喜多飛行機が視界から消えたところで織鶴は他の戦場を注視する。出来うる限り役に立てるような戦場を頭の片隅にでも置いておこうとしているのか。

 

 

 

「…………十勇士のほとんどが部隊を引き連れないのは聞いてたんで驚かねーっすけど、うちの腕自慢たちも単身突撃してるもんすね」

 

 

 

 資料に目を通しながら十勇士の様子を確認していく。

 

 宇喜多の大槌には及ばないものの、十分に身の丈より大きな大筒を二本抱えて戦場を更地にしようとしている少女、大友焔。武芸はからっきしのくせににここに何をしに来ているか分からない、広告塔と称されるだけの素人、龍造寺隆正。

 

 宇喜多秀美を含め、十勇士を既に三人も視界に納めた織鶴はそのまま自軍の主要人物へ視線を移した。

 

 織鶴のクラスメイトでイケメン四天王(エレガンテ・クワットロ)として名高い、赤いバンダナを頭に巻いた俊足の異端児、風間翔一。同じくクラスメイトで常時筋肉と女の子としか考えていないような単細胞、島津岳人。

 

 彼らもまた十勇士同様、部隊を率いずに単身で軍に向かって行く姿勢を見せている。

 

 

 

「開始からそろそろ一分。どこかしら、動きそうっすね」

 

 

 

 そう言うと、織鶴は周囲を見回す速度を上げた。

 

 

 

「まずは同業潰し、これ大事っす。えーと、弓兵にうってつけの高台はどこだったかなっと」

 

 

 

 今回の川神学園の参謀を担当している二人の頭脳派から渡された地図を広げる。そこには赤い印がいくつも打たれた、戦争に使われているように包囲や角度まで示された正確な地図。

 

 

 

 ――――下見だけでも十分っすよ、直江君。

 

 

 

 今回、有効な作戦を立てることができなかったと悔やんでいたクラスメイトに対し、決して口に出しはしない慰めを心の中で解き放った。

 

 その地図を活用し、織鶴は見つけてしまう。

 

 

 

「……むむむ、あんなに無防備に固まっちゃって。一〇人はいなさそうっすけど……。二〇〇人の内二〇人以上狙撃に任せるような阿呆なこと、天神館はしないっすよね、流石に。上杉軍は一〇分の一も銃兵を入れなかった、なんて記述があったりなかったりするみたいっすけど……。お、二つ目の弓集団発見す」

 

 

 

 嬉々としてその二つ目に見つけた弓の集団に目を付けた織鶴。しかも、その集団はまだ弓を構えていない。まだ弓を引くようなタイミングを見つけていない証拠であると判断した織鶴はしばし観察、二つの弓兵集団のそれぞれの頭を判断する。

 

 

 

「一番口が動いてるのは……。七人部隊のあの女っすか。あれを潰して、残り六人はじっくり頭を射抜くことに――――」

 

 

 

 敵軍の検討を終えようとした織鶴の目に衝撃的な光景が映った。

 

 なんと、敵の弓兵の頭の片一方と思しき女生徒が携帯電話を取り出し、もう片方の弓兵集団の一人と連絡を取りだしたではないか。

 

 

 

「――――お間抜けっす。わざわざ一番の頭、教えてくれちゃって……」

 

 

 

 織鶴は勢いよく立ち上がり、抑えきれない破顔を左手でグッと押し付けて堪えようとする。何も標的が明確になったからと歓喜しているわけではない。

 

 これは、敵の愚かさを嘲笑う歪んだ笑いだ。

 

 織鶴は自身の小袋の中身を全て取り出し、黒の生地を何度も洗濯して色褪せたような溝鼠(どぶねずみ)の手袋の上から、これまた使い古して色褪せて琥珀色(こはくいろ)になってしまった(ゆがけ)を取り付ける。

 

 さらに取り出したるは細かな粉が入った二つの瓶。右手の(ゆがけ)に燦々と降り注ぐ陽光を浴びたような蒲公英色(たんぽぽいろ)の、左掌には火起こしの跡の木炭からとれる灰のような利休白茶(りきゅうしろちゃ)の粉を振りかけて馴染ませる。

 

 ぎゅりぎゅりと、両手が唸る。

 

 パイプに立てかけてある「二つの弓」から、弓道場で使っていた金糸雀色(かなりあいろ)の弓を左手に持ち、弓の握られる部分にまかれた握り皮(にぎりかわ)との摩擦を確かめた。滑りやすすぎず、引っかかり過ぎない状態を創り出した後、学園から支給された亜麻色の矢を手に取ろうとし、それを凝視する。

 

 

 

「――――それにしてもこの矢、どうやってできてるんすかね。頭射ぬいて死なないとか、ファンタジーっす、SFっす」

 

 

 

 

 などと漏らしつつも、織鶴は矢を二本握る。

 

 

 

「――――お願いします」

 

 

 

 戦場に場違いな道場にいるような立ち振る舞いを以て、探弓者は覚醒した。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 天神館の学生は皆血気盛んなところがある。川神学園と違い、武力のあるものを率先して集めた、言わば西の武士の血を引く者たちの集積場だ。

 

 その武人たちの中でも特に優秀な十人の男女を十勇士と総称し、天神館は名を馳せていた。

 

 しかし、その十人の学生の影に隠れてしまい、日の目を浴びることの少ない優れた学生も多い。

 

 因幡の韋駄天、安芸の謀将、薩摩の剛剣、語られることは少なくとも、一人の若者としては十分に磨き抜かれた技術を持っている。天神館は十勇士だけのワンマンアーミーならぬ、十騎当千(じっきとうせん)ではない。無名の生徒たちが十勇士を立たせているからこそ、天神館は西日本最強とまで言われるようになったのだ。

 

 さて、西日本最強の天神館に引き寄せられる人間もまた、最強を目指し自己研鑽を怠らない武人である。今日の東西交流戦において弓兵の総指揮として参加した、弓道部次期副部長候補、星野(ほしの)紗代(さよ)もその一人だ。

 

 彼女は小学六年生の時点で成長期を終えて、身長を一六五センチという高身長に引き伸ばした後に弓道を始めることとなった。

 

 彼女の実家の近所にある弓道場に親とともに通い、「肥前弓道愛好会(ひぜんきゅうどうあいこうかい)」という若干胡散臭い名前の団体に所属することとなる。

 

 その団体の現代表である吉井という定年退職後は弓道だけを生きがいとしている老人から手ほどきを受け、彼女の弓道人生は加速した。吉井という人間の優しくも厳しい、所謂「切り替え上手」な性格に惚れ込み、親以上に弓へのめり込んでいったのだ。

 

 中学への進学は弓道部がある学校を第一条件とし、受験を乗り越えて紗代は晴れて中学生となった。吉井からはそのお祝いとしてなかなかに高い弦を買ってもらったものの、一週間で切ってしまい彼女は泣きながら謝ったという。その弦を用いて吉井は小さな草鞋のストラップを作って彼女をあやしてやった。その二人の姿はまさに孫と祖父であったそうな。

 

 吉井は弓道の「射型」にこだわる人間だった。

 

 的に矢を中てる喜びが身体に馴染んでしまうその前に、道場内で矢を放つ許可を出す前に徹底的に形を反復させ、紗代を美しい弓道家として育て上げ用と画策していた。体に「美しさ」を滲ませることを第一として。

 

 勿論、紗代自身もそれを喜んで受け入れて練習に臨んでいた。しかし、通う学校の部活での仲間たちが嬉々として矢を的に中てる姿に触発されてしまったのだろうか、やはりまだ精神が未発達な中学生という時期において、矢を放てないということはフラストレーションとして蓄積し彼女を蝕んでいった。

 

 

 

 ――――どうして私は矢を発せないの?

 

 

 

 その不満気な表情から紗代の心内を読み取ったように、ある日の練習後、吉井は彼女の前で己の射を見せてやることにした。優しくも厳しい吉井の第三の顔を、小夜は目撃することとなる。

 

 優しくもない、厳しくもない。どんな心持ちで臨んでいるか分からない吉井の射に、紗代は涙を流した。吉井の射を羨んだことで溢れた淀んだ物か、それとも、吉井の射に得も言われぬ感動を覚えて零れた清らかなものなのか。

 

 吉井の射が終わったのと同時に床に頭と手を付けて謝ったことから、その涙が汚れたものではないことはすぐに分かったが。

 

 それから数ヶ月後、彼女はようやく射場に立つことを許された。弓道を始めて一年以上経過してのことだった。

 

 吉井のマンツーマンの教えもあり、的に中たろうが叱責され、的に中たらずとも褒められたりと、射型を第一とした練習ができた。高校にも入学していない若人では異例なまでの美しい射型は「肥前弓道愛好会」の看板になった。

 

 部活でも百発百中、といった異様な命中精度は出せぬものの、学生としては異常な八割以上の命中率を射形を崩さぬまま打ち立て、個人戦期待の星として中学校の学内新聞に取り上げられた。勿論吉井も口には出さないものの、その学内新聞をどこからか仕入れ、それを筒状に丸めて紗代の頭を叩いて老獪に笑って喜んでいた。

 

 全国中学生弓道大会、彼女の成績はベストエイトだった。

 

 

 

 吉井は言う。

 

 ――――最後まで自分を崩さなかった、私の誇りだよ。

 

 

 

 彼女の親は言う。

 

 ――――自分を曲げて勝つよりは何百倍もいい。

 

 

 

 部活の顧問は言う。

 

 ――――我が校の歴史的大記録だ、おめでとう!

 

 

 

 その時の紗代は満足していたことだろう。師匠にも両親にも教師にも褒められ、このまま突き進んでいればいいのだと。

 

 そのまま天神館に入学、弓道部でも期待の一年生として手厚く歓迎され、個人戦でも優秀な成績を収めて行った。

 

 天神館に入学して一年後、「天下五弓」の審査があった。そこに紗代は書類審査である一次審査に参加させられていたのだ。 誰が彼女を推薦したのかは分からない。吉井も「本人の意思なく勝手にやることではない」と憤怒を顕にしていた。

 

 あとあと分かることではあったが、これを提出したのは紗代のクラスメイトだった。「自薦他薦も問わない」という要項を見つけたそのクラスメイトは、芸能人のオーディションは他薦で通るケースがある、という多くの意味で間違った知識を元に面白半分で書類を提出したそうだ。

 

 「天下五弓の一次審査不合格」、と唐突に紗代の家のポストに投下されたその通告は、彼女の細々と積み上げてきた自信にヒビを入れた。

 

 「天下五弓」は精度だけに限ったものではなく、「分野を問わず、弓を極めた者」に与えられるもの。勿論、精度も距離も威力も及ばないと分かっていた。それでも、「美しさ」は学生一だと誇っていた自尊心は酷く傷つけられたのだ。

 

 紗代は自分の射型をさらに洗練させるべくより鍛錬に及んだ。より滑らかに、より違和感なく、見る者が虜になるような美しさを目指して切磋琢磨していた。

 

 二年生になったある日、天神館の十勇士と呼ばれる優秀な十人が選抜された時のこと。紗代は一種の絶望を覚える。

 

 十勇士の中に、天下五弓の一人がいたのだ。それも、まともに弓道などしたことのないようなボウガン使いときた。

 

 

 

 紗代は悟ってしまった。

 

 ――――天下五弓は、弓道じゃ入り込めない世界なんだ。

 

 

 

 己の限りを尽くしても辿り着けない世界、壁を感じた。練習にも限界が見えてきてしまった。後は的中率を上げるだけだと吉井も感じてしまうほど、学生弓道家としては申し分無い出来まで至っていた。

 

 しかしそれでも、天下五弓には到達できない、

 

 目指していたわけでも憧れていたわけでもない。それでも、天下五弓の存在は彼女を小さく見せてしまった。

 

 星野紗代は、高い壁を見たのだ。

 

 それでも、彼女の弓の腕は変わらず確かだった。その腕を買われ、彼女は弓道部の副部長候補まで至る。

 

 しかし、紗代はそれに納得していない。なぜならば、弓道部の部長が宣伝のためだけに天下五弓を採用したからだ。はらわたの煮えくり返る思いを紗代は必死飲み込んで妥協する。

 

 届かない世界の人間であることは確かだったから――――

 

 

 

「紗代、どないした?」

 

 

 

 仲間の呼びかけで彼女の意識が掬い上げられた。目の前で手をふりふりと翳して視界を遮る二段構え、視覚と聴覚から彼女にアプローチしていたようだ。

 

 わずかに瞳孔を開いて意識を取り戻した紗代の様子に、心配そうに顔をのぞき込む道着姿の少女。紗代が意識をはっきりさせたのを確認してから、少女は起き上がりこぼしのように体を左右にもったりと揺らしながら微笑む。

 

 

 

「顔色悪いでー?」

 

「……なんでもないわ。ちょっとだけ、ぼーっとしてただけよ」

 

 

 

 ゆらゆらとしながら顔をぐいっと近づけてきた少女の口を覆う様に顔を掴み、引き剥がす様に押し返して息を整える紗代。

 

 顔を抑えつけられてしまっているせいで少女の顔はおちょぼ口のようだ。流石に恥ずかしいのか、両頬をむにゅむにゅとされている現状を打破すべく力づくでそれから脱出する。

 

 

 

「ぷはぁ、堪忍してや。星野が活躍してくれな話にならへんのや」

 

「……そもそも、私はこういう実戦になれてないのだけれど」

 

「弓道歴最長のくせしてなに弱気になってんねん!」

 

 

 

 背中をバシバシと叩いて紗代を元気づけようとする少女だったが、紗代の表情は見る見るうちに不機嫌になっていく。

 

 

 

「……浩美(ひろみ)、少し黙りなさい」

 

 

 

 ギロリと睨まれた浩美と呼ばれた少女は、何事もなかったようにヘラヘラと笑いながら弓を肩に引っ掻けて遊んでいた。

 

 

 

「あいあい。ほんならとっとと指揮とってや。どっから攻めるん?」

 

「飛び込んできた部隊を狙い撃ちしたいところ。出来るなら敵の同業者を潰したいけど、ここいらの高台では見当たらないのよ」

 

「ほんなら、先陣切り込んできおった目立ちたがりを、フルボッコやな」

 

「そうね。さあみんな、弓を手にとって」

 

「あいあい」

 

 

 

 浩美と紗代を含めたその場にいる七人の弓道部員が弓を持って目を凝らす。敵の軍隊を確実に射抜くため、慎重な布陣を組んでいた。

 

 猛禽類のように飢えた瞳で周囲を見渡し狙いを品定めする、天神館が誇る弓兵の真骨頂だ。

 

 

 

「第二部隊、準備はいい?」

 

『問題ありません』

 

 

 

 文明の利器、携帯電話を用いて分隊長に連絡を取る。紗代はこのようなことは慣れていないものの、二年生代表として任されたからにはきっちりとこなす、責任感の高い性格が如実に表れている。

 

 四人全員が一列に並び、各々支給された矢を査定しながら弓の準備をする。

 

 

 

「紗代ー。あのパツキンのねーちゃん、狙い目やないか?」

 

 

 

 浩美が矢で戦場の一部を指定する。そこには、川神学園の制服を着た金髪の偉人が、戦闘意欲が増徴して暴れ回ってもおかしくないような屈強な学徒を率いて中央を分断している。その背後にはそれを補佐するスキンヘッドの男子生徒の姿も見える。

 

 

 

「かったいでぇ、あの突破部隊。潰したら大金星や。あれ分断させて、ゆっくり甚振ったら痛快やで、きっと」

 

「……そうね。第二部隊、聞こえた?」

 

『問題ありません。構えます』

 

「ありがとう」

 

 

 

 携帯電話の連絡をそのままに、紗代も浩美も弓を構えた。

 

 狙うは敵兵の大きな部隊の中央から戦闘にかけて。上部を切り離して一気に士気を奪い指揮を潰す、弓兵の最も狙うべき目的の一つ、敵部隊を錯乱を引き起こし分解させることに彼女たちは重きを置いた。

 

 

 

「構え」

 

 

 

 紗代の合図と同時に、第一部隊第二部隊を合わせた弓兵総勢十二名が一斉に弓を引いた。各々の射形、各々改造された弓で川神学園の突破部隊に狙いが定まった。

 

 約三〇メートルほど離れた的を狙う弓道とは違い、これは弓という遠距離武器を使った狙撃行為。中てればいいのだ、中てればいいのだ、そう自らに言い聞かせる天神館の弓兵たち。

 

 ギリギリと、限界まで張られた弓が悲鳴を上げている。天神館の弓兵はそれを耳にして快楽を覚え、いざ解き放たんと両手の力を調節し――――

 

 

 

 

 

 ――――そうはさせじと夕闇のような暗紅(あんこう)の空間から、ずるりと鈍く、探弓者の左腕が伸びる。

 

 

 

 

 

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