森の中、数体のコボルト。
彼等は手にナイフを数本持っている。
そしてそんな連中の前に立ち向かう集団。
「勇者!強化魔法!」
「助かる!」
「回復させます!」
一人の勇猛な青年と、二人のうら若い少女達。
彼等は勇者とその一行。
魔王の出現によって活発になった魔物を調伏し、魔王を打倒することが目的だ。
...いや、彼等だけでない。
いや一人だけでない、その傍らに鎧を身に纏う男が一人。
その男はコボルトを蹴ると首に剣を突き立てた。
「ギャッ!!」
詰まったような不快な声。
そしてそれを尻目に勇者がコボルトに同行していたオークを切り払う。
「...終わったか。」
「ま、アンタならこのくらい何てことないわね。」
「か、かっこよかった...です。」
勇者が剣から血を拭くと、活発な魔法使いの少女とオドオドとした様子の僧侶が彼に歩み寄る。
和気藹々とした雰囲気。
しかし彼らの会話は急に止まる。
それは血が視界の隅で噴き出したからだろう。
見ると男が何度も刃を振り下ろしている。
それはどうやら首を斬り落とそうとしているように見える。
「ッ、おい!その辺で!!」
「は?村人の依頼はここに魔物来ないようにすることだろ?俺に任せとけって。...おい、コイツギャッ!ギャッ!って....楽器みたいだな。」
勇者に目を向けることもなく、彼は剣を振り下ろし続ける。
笑みを浮かべる男。
そして首が切れると、短剣を取り出して洞窟の岩壁に突き刺した。
「...ほんと、胸糞悪いわね。」
「ひう.....」
魔法使いの少女は顔を顰め、僧侶の少女は勇者の陰に隠れる。
そして勇者が前に出る。
「おい、死んだ遺体は魔物とはいえ、辱める真似は許さないぞ。」
そんな彼を見て、顔を血しぶきで汚しながら男は一言いう。
「オイオイ、知ってるだろ?これはトーチカだよ。見せしめにすることでその場所を魔物避けする。他の冒険者もやってることだろぉ?」
「...それ以外の他意はないんだな。」
訝し気な目を向ける勇者。
そしてそれに対して笑顔で答える男。
「あぁないない。そうじゃないとこんな手間のかかる面倒なことするわけないだろ?てか逆にこれ以外どうするつもりだったの?後の事考えて対策取るくらい普通じゃないか?」
「どーだか。アンタの所業見てるとやりたくてやっているって思うわ誰でも。」
魔法使いがぼそりと呟く。
「おっ、何か言ったか?」
それが聞き取れずに聞き返すと彼女はそっぽ向いた。
どうやら男と話すつもりはないようだ。
そして僧侶もただ獣を見るような目で男を見つめて、怯えている。
彼は戦士。
しかしその戦い方は卑怯な手や残虐な手を躊躇いなく行い、苦しませるような殺し方をする。
彼はパーティー内でこう揶揄されていた。
〝外道戦士”と。
酒場。
もはや夜が深まっているにも関わらず、人々は酒をかっ喰らう。
その中で勇者と少女二人は密着して飲んでいる。
そして一方外道戦士は。
「がはっはっは!!戦士のあんちゃんまだまだ終わらねぇぞぉ!!」
「うるっせぇ!もっと持ってこいやぁ!このおっさんのおごりでなぁ!!!」
「おいゴルルァ!!!」
勇者たちの後ろ、親父たちの中に紛れてどんちゃん騒ぎを起こしている男。
酒をただかっ喰らい、顔は真っ赤。
品性の欠片もない有様を晒している。
そして、しばらくすると外道戦士はフラフラとその集団を抜ける。
「うわっ....こっち来た。」
魔法使いの少女が嫌そうな顔をする。
すると、彼はヘラヘラと勇者たちに話しかける。
「おいおいおい!なにしんみりとしちゃってるわけぇ!?両手に花なんだからもっと嬉しそうにしろよ!!!ほらもっともっと飲んで!!そこの僧侶も胸付けて喜んでんじゃねぇよ。」
「ヒャッ!そ、そんなこと....ないです.......。」
僧侶は顔を赤くして伏せる。
外道戦士が静かに飲んでいた勇者に絡みだす。
すると勇者がゆっくりと席を立つ。
周りは雰囲気が変わったのを察したのかざわざわとしだす。
喧嘩か....?
勇者は口を開いた。
「なぁ....ちょっと話がある。来てくれ。」
「おっ、二人きりで話しか?いやー懐かしいなぁ。ガキの頃はよく二人で星を見ながら話したよなぁ?」
神妙な様子の勇者に反して、ジョッキを煽る外道戦士。
ヘラヘラと笑っており、心底酔っていることが分かる。
「ゆ、勇者...アンタ大丈夫なの?」
「勇者.....様。」
二人は心配そうな表情を浮かべている。
それに対して勇者は返答した。
「...大丈夫だ。話をするだけだから。行くぞ。」
「へいへい。」
そう言って彼等は外に出た。
外は暗くなっており、冷たい風が吹いている。
街の人も夜遅くてまばらだ。
「おいおい、なんだよ態々。もしかして男二人で飲みなおすとかか?くぅ~粋なことしてくれんじゃん!」
そう言う外道戦士に対して勇者は口を開く。
「....ずっと考えてた。幼馴染のお前のことについて。」
勇者は口を開き出す。
その口振りは重々しい。
「お前は確かに強いし、足手まといじゃない。...でも、お前が居ると足並みが乱れるんだ。さっきみたいなセクハラもあるしな。」
「??????」
コイツ何言ってんだと言った顔でジョッキを煽る男。
幼馴染二人で飲みなおすつもりだと思っていたからこそ、今その場で鎮座している勇者が分からない。
そして勇者は意を決したように口を開いた。
「...お前にはパーティーから抜けてもらう。戦士の役割なら代えは効くし、他の二人の戦意を減衰させるわけにはいかない。本当に悪いが、受け入れてくれ。」
そう言う勇者。
しかし、外道戦士は目を丸くした後に噴き出す。
「んんぇ~~~~?なんだそれ?面白い冗談だな。それとも脅しか?でも興醒めだぜ。ただの説教とか....別に羽伸ばすくらいしても良いだろォ?おれもどる。」
「ちょっ、おい......」
勇者の静止すらも聞かずに酒場に戻る。
「おっ、兄ちゃん大丈夫か?」
騒いでいたおっちゃんの一人が聞いてくる。
そこでおっちゃんの隣の席に座って酒を注ぐ。
「あぁ大丈夫大丈夫。なんか小言言われただけだから。んじゃもっと酒飲もうぜ!!」
そうしてそれぞれの夜が更けていく。
◇
「ヴァ~~、頭いてぇ。」
頭を押さえる外道戦士。
なんかこの世の終わりかのように痛む。
酒を飲み過ぎたのだろうか、記憶がない。
しかし取り敢えず身支度を整えて水を飲むとしばらくゲボを吐く。
しばらくゲボ吐くと、あることに気づく。
そう言えば勇者が起こしに来ないな。
もしかしてアイツも悪酔いしたか?
そう思って落ち着いた頃合いで部屋を出て、隣の部屋をノックする。
「おい、朝だぞユーサ!おいユーサ!?」
勇者の名前を呼ぶ。
しかし返事がない。
ならばと隣の彼女たちの部屋に行くも、誰も返事しない。
それどころか.....
「...いねぇ。どうなってんだ。」
茫然として呟く。
下に降りると宿屋の主人が男を迎える。
「おっ、戦士の兄ちゃん!?なんでまだこんなところに居るんだ!?」
「えっ....?」
宿屋の主の言葉に固まる。
そして宿屋の主人は続けて口を開いた。
「もう馬車に乗って行っちまったぞ!!」
「はぁ!?マジで!!?」
思えば、なんか夜言われたような気がする....。
もしかすればそこに何か重要な事があったのかも。
「いや、後から来るって言われたから俺が厨房に引っ込んだ時に行った物かと。」
どうやら勇者はそう言ったらしい。
...昨日俺は酔って何を言ったのだろうか。
もしかしてこの街でやりたいことがある的なことか?
だとしたら急いで合流しないと、向こうで待っているかもしれない!
「おっちゃん!宿代は今払うし、飯は良い!!とにかく馬車を手配できないか!?」
外道戦士が詰め寄ると、宿屋の主人は頷く。
「わ、分かった!手配する。それと宿代はもう貰ってるから馬車代だけ用意しろ!!」
そう言われて宿屋の主人は外に出た。
急な申し出だが、大丈夫だろうか?
どうやら奇跡的にも荷物を運ぶ用の馬車が空いていたようだ。
藁や籠に入った鶏。
その荷台の中で揺られている。
正直、乗り心地はお世辞にも良いとは言えないが、まぁ仕方ない。
揺られること3日。
宿屋のおっちゃんからウィンチェスターという街に向かったと聞いたが、もう着いたのかな?
外に顔を出すと、馬車が動きを止める。
外に出て、馬車の前に行くと馬が泡を吹いていた。
「...おっさん、どうしたんすか?」
聞くと、御者のおっさんは困ったように頭を掻く。
「いや、悪いが馬がイッちまったようでな。ここまでしか無理だ。」
マジかよ.....。
態々金まで払ったのに馬が途中で死んじまうなんてなんて日なんだ。
今日は厄日かもしれない。
ていうか.....。
「じゃあ俺はこのまま野宿ってことすか?」
そう言うと御者のおっちゃんは少し考え込むとお金を渡す。
「こりゃ俺の所の落ち度だ。金は返す。ウィンチェスターの途中に村があるからそこで一旦止まると良い。本当にすまんな。」
「....まぁ、そこまでしてくれるなら良いっすけどね.....。」
複雑だが、金を返してもらってその上村の場所も教えてもらえた。
なら別にもう文句はない。
夜になれば魔物が活発になるだろう。
速く森を抜けないと。
「そういえばおっちゃんはどうするんすか?」
外道戦士が聞くと御者は答える。
「伝達結晶とか売り物以外ないからな。伝書鳩は送ったから夕方くらいには馬車が来るさ。そうすれば荷物が詰め込める。
それに、聖水も自衛用に積んでるんだぜ。」
人が来るのか.....。
ならやられた後に、物資とかスカベンジする為に張り込んでおくのはやめておいた方が良いな。
「...そうっすか。なら俺、行きますわ。」
そう言って早歩きで北東に歩き続けた。
周りはそこまで魔物の気配はない。
だがこれは今が昼で、また日光のよく当たる道だからだろう。
北東に歩みを進めていると、村が見えてくる。
こじんまりとした村。
結構歩いたからこそ見つけた時はとても嬉しかったな。
そう思い、村に入る。
看板を見るとアバダン村という名前らしい。
...やっぱどっか寂れてるな。
正直、早くアイツらに追いつかないといけないわけだし、こんなところに滞在する暇はないのだが。
だがしょうがない。
村に入るも、村人はみんな静かだ。
どこかみんな元気がないように見える。
どうしたのだろうか?
見ると建物の一つが壊れていた。
荒らされたかのような様相だ。
「...旅の人か。」
村の中をうろついていると、おじさんが話しかけてくる。
「あっ、はい。あの、ここって宿屋ありますか?」
外道戦士が聞くと、おじさんが首を振る。
「そんなもの、この村にはないよ。魔物の襲撃で壊滅しちまったのさ、この村は。」
なるほど...だからこんな状態なのか。
...まぁ正直関係ないけど。
旅人をもてなす余力もない村には何の用もない!
「...旅の人、少し頼まれてくれんか?」
「え?」
おじさんは急にそんなこと切り出し始める。
そして俺の返事を待つことなく話はじめた。
「魔物共に攻め込まれて若い男はみんな殺されてしまって、そんで奴らは交換条件を出してきたのだ。....村のうら若い聖女様を差し出すように言ってきたのだ。ワシらは村を残すには差し出すしかなかった。だが、それはワシらの背信を意味している。....村は活気がなくなった。ワシらのせいで今も聖女様が苦しめられているとな。」
自分語り長いよー。
もう正直コイツが何を言い出すか分かっている。
だが、そんなことする時間はない。
俺はアイツらに追いつかないといけない。
考えてもみろ。
俺が居ないとなるとアイツらはどうするか。
待つか?
勇者はまぁ幼馴染だし?
待ってくれるだろうが、女連中がなぁ。
アイツら俺のこと嫌いだろうし、これ幸いに新しい戦士を探してきそう。
そうなると、せっかく勇者と幼馴染で同じパーティになることで、勇者パーティとして恩恵を受けていたのが、全部パー。
後世に名前も残らず、魔王を倒した場合の報酬も貰えない。
勝ち馬を横からかっさらわれちゃ堪らないのだ。
しかし目の前の男が考えていることなんておじさんには分かるはずもなく、おじさんは頭を下げる。
「頼む!聖女様を助け出しに行ってくれんか!?やってくれればワシらは出来る報酬はなんでもする!!」
そう頼まれてもなぁ....こっちの都合も考えてよぉ。
そんな暇ないってそれ一番言われてるし、断ろう。
そう思った瞬間、ある事を思い付く。
ここで引き受けた振りしてすっぽかしちゃおう。
宿屋はなくてもここにコイツラが住んでいるなら、その家に泊めてもらう事が出来る。
それにせっかくある金をここに落とすのはもったいない。
ならば、助けてほしくば今日の飯と宿を寄越せと言おう。
うん、中々良い感じの考えじゃないか。
「分かった。引き受けた。」
「ほ、本当か!?」
「ただ....俺は本来はウィンチェスターに向かう身。ここではなんの寄る辺もない。その住食を提供してくれると助かる。」
外道戦士がそう言うと、おじさんは頷く。
「それくらいいくらでも!お願いしますぞ旅人殿!」
俺の手を取って振るうおじさん。
バーカ。
イヤー騙しやすくて助かった。
正直朝ごはん食べてないから腹減ってたんだよね。
まっ、受けれる待遇受けたらとんずらこきますか。
翌日、前日にパンやスープなどを食べてふかふかのベッドで寝たからか、身体は活力にあふれている。
まぁ食べられるなら肉が食べたかったが、襲撃受けた村だ。
仕方ない。
そして村の連中も聖女様とやらを助けに行く俺に対して出来るおもてなしをしてくれた。
まっ、今からとんずらこくつもりなんですけどね。
てかそもそも聖女様差し出しといてやっぱ村の雰囲気悪いし、苦しんでいると思うと胸糞悪いから助けにいけとか勝手すぎだろ。
そんなお願い、誰が聞くかってんだよ。
...いや、お人好しのユーサなら聞くか。
ま、でも俺はユーサじゃないし、好きにやらせてもらうけど。
魔物の居る洞窟への道順をもらったが全て無視。
ウィンチェスターに向かう道を進む。
すると目の前に岩壁と洞窟が見える。
どうやらここを抜ければいけるようだ。
宿屋のおっちゃんや御者のおっさんに聞いていてよかったわ。
洞窟に入る。
中は湿っていて、薄暗い。
一応魔物が出てきた時の為に、唐辛子を練り込んだ火薬玉などそこら辺のアイテムは前日に何個か作っていた。
まぁ正直魔物が出て来たなら首落としたいのだが。
あんなこと出来るのは相手が魔物であるという大義名分があるから。
あくまで俺は人類の味方だからね。
そう思い歩いていると前方から歩く音が聞こえる。
「ッ!?」
近くの大きな岩陰に隠れる。
そして顔だけ出す。
そこには取るに足らないゴブリンが2体。
そして後ろにはレッドキャップ。
微かに奴らの声が聞こえてくる。
「オンナ...ヤッタ.....」
「ナグッタ....オモシロイ......」
愉快そうにきゃっきゃっと飛び跳ねながら魔物はそう言っている。
....女性を巣に連れ込んでいるのか。
やれやれ。
別の洞窟には聖女様。
そんでもってここでも女か。
魔物の繁殖力は無尽蔵か?
...今度、首を斬るのではなく性器を切って見てもいいかもしれない。
そう考えていると連中はどこか横穴に入っていった。
こういう巣穴は警戒する必要がある。
アイツらは賢くはないが姑息だ。
罠や落とし穴を仕掛けている可能性がある。
気を付けて進もう。
忍び足で慎重に進んでいくと光が見える。
おっ、もう出口か。
いやたわいないな。
さっさと合流しないと。
そう思い、足を踏み入れるとそこは....。
何匹もの魔物と、縛られた少女。
そして....いやこれは口に出すのはやめておこう。
つまりはそういうことだ。
魔物捕まった奴の末路、ありがちな最後だ。
ただヤバいのが。
ここは広場上になっている。
隠れる場所はない。
魔物はこちらを見ると、獲物が来たとばかりにガシャガシャと武器を鳴らす。
うっわぁマジで今日厄日だろ。
後ろに後退するか?
いやあそこは横穴があった。
逃げれば奇襲されかねない。
ここは広く、見通しが良い。
それは隠れたり奇襲したり出来ないことを意味するが、それは相手も同じだ。
でも数が多いな。
そしてレッドキャップなども舌なめずりしている。
傍らには女と共に、冒険者であった者たちの骨。
多分非常食にされたんだろう。
そしてそいつらは使っていた少女を体に縛り付けている。
こちらに余裕の笑みを浮かべてきた。
それはさながらこれならこちらを狙えないだろと言わんばかりに。
....なんだカモか。
こういう人を盾にすれば大丈夫と思い込んでいる連中ってのは楽なんだよなぁ。
盾にするということは自分の耐久に自信がないということ。
じゃあやり様はある。
相手がこちらに肉迫する前に唐辛子爆弾を投げる。
相手は獣の癖に生意気に火とか盛ってるしな。
そしてゴーグルとマフラーで敏感な所を覆った。
次の瞬間、洞穴内を赤い霧が包み込む。
「ゴッギュァァァアアアアア!!!」
「イダイ!イダイィィ!!!」
小鬼共は転がる。
はえ~すっごい面白い。
その隙に相手に向かって走り込む。
「ッッ!!!」
そのまま走り際に、剣で首を斬る。
そして隣の小鬼はこちらのたいまつを狙ってくる。
「へぇ~たいまつが欲しいのかよ。ほしけりゃくれてやるよwww」
そう言って目に押し付けた。
絹を裂いたような声を発するゴブリン。
うっはwww何だその声。
メスかな?
そして苦しんでいる奴からナイフを取ると、脇差しで喉笛を掻き斬る。
矢を持つ者や、杖を持つシャーマンもいるけど、辛みと痛みのせいでまともに集中することも出来ない。
「寄越せよぉゴミ共!!テメェらに文明の利器は百年はぇぇよ。」
そんな遠距離勢に毒ナイフを投げつける。
片っ端から小鬼からナイフを取ると、それを投げつけた。
ゴブリンのナイフは毒が塗られている為、刺されるわけにはいかない。
だが、それは相手から見てもそのはず。
投げるナイフは彼らが盾にしている人間にも当たる。
しかしそんなこと知ったこっちゃない。
なんならゴブリンのガキ生む奴も一緒に殺せるんだから感謝してほしいわwww
魔物は同族すらも厭わずに攻撃してくる相手に動揺する。
相手は今までの冒険者が人質によって思い通りに動けないところを襲ってきた。
だからこそ、敵がその前提を壊してきたので対応できないのだ。
「おら!追加の爆弾だwwここイカ臭かったんだから匂い消せて嬉しいだろwww」
唐辛子爆弾を投げつける。
再度魔物達は動けなくなる。
彼等の感覚器は暗い洞窟の中で発達して敏感だ。
だからこそ唐辛子爆弾は彼らにとっては天敵に等しい。
相手のやりたいことを完封して勝つ。
それがゴブリンたちの必勝法だった。
だが、それが通じない。
完封される恐怖。
それが彼等を苛む。
そして外道戦士は歩きながら、地面に蹲るレッドキャップに対してなにも言わずに剣で何回も体を刺す。
噴き出す血。
執拗に刺すその姿は笑みを浮かべていた。
ゴブリンたちは後ずさる。
この群れにおいて一番強い種族であるレッドキャップ。
それがすぐにここまで殺されたのだから。
すると、ゴブリンの一体がナイフを構えて飛び付こうとする。
目を刺すことで視界を奪おうとしたのだろう。
だが、彼はそれを腰のこん棒でボールを撃ち返すように殴ると、ゴブリンを踏みつけて頭を連続で殴る。
直ぐに殺したければ剣で斬ればいいだけだ。
それなのにこの男は打撃武器を使っている。
痛めつけるのを楽しんでいるのだ。
そしてゴブリンが動けなくなるのを見ると、鼻を踏み潰してゴブリンたちを見る。
「あれ、5体だね。」
「ギャッ....ギャッギャッ......」
後ずさるゴブリン。
しかしそんな彼らに無常にも近づく外道戦士。
そして彼は笑いながらナイフを投げる。
ナイフは足や胴体、腕など見境なくゴブリンの体に刺さった。
そして足をやられて逃げずに匍匐前進するゴブリン3体を後ろからもぐらたたきをするように剣を振り下ろした。
「アッハハハハ!!!ユーサが居ないから言えるけど弱い物虐め楽しいぃ~。どうだ!人間様は偉いだろ!えぇ!?首切ってトーテムポールにしてやるからな?いろんな人間殺してきた、村も潰した。これが報いだ。....まっ、俺魔物になんの恨みもないんだけどさ!勇者が出るような村だから?」
血を浴びて笑う様はまさしく悪魔。
しかし間違いなく、捕まっている女性たちにとっては救世主とも言える存在だろう。
残り2体は棍棒でぶん殴って処理すると、奴らのナイフを使って岩壁に死体を刺し留める。
まるで蝶の標本のようだった。
そして外道戦士は捕まっている女性たちに近づいていく。
ほとんどは涎を垂らしている。
唐辛子爆弾のせいでもあるが、もう壊れているのだろう。
腹も膨れている。
人類に害なす魔物の子。
「....腹膨れてるならしょうがないな。これ、ギルドでも言われてる処理の仕方だし。俺悪くねぇよ?」
そう言って彼は首を抑え込むと目を閉じさせて、刈り取った。
一度魔物によって壊された人は戻ることはない。
なら楽にしてやるしかないというのが冒険者ギルドの見解だ。
まぁユーサはそれを良しとしないが。
でも情にほだされてガキが生まれれば必然的に敵が増えてしまう。
殺すのも、...冒険者の義務だろう。
それを何人かに行う。
どうやらほとんどの人が壊されてしまっているようだ。
まぁ、こんなもんだろうな。
そんで....コイツだ。
金髪のガキ。
ガキと言っても14くらいか?
奴は意識を持っているようで、唐辛子の辛みに咳をし、涙を流して苦し気にしている。
全裸に剥かれた身体は打撃痕や火傷痕がある。
顔に傷つけなかったという事は、ゴブリンの中でも顔というのは大きな要素なのだろうか。
まっ、そんなことはどうでもいいか。
腹は膨れてないが....でも、コイツ多分やられてるよな。
隣で淡々と同じ境遇の女性をやったのだ。
目の前の戦士に対して怯えている。
そんな彼女に声を掛ける。
「そんな怯えるな....、お前は腹が膨れてない。ギルドの規則に則っていない以上、殺すわけにはいかない。」
「ほ、本当ですか!?あ、有難うございます!も、もしかして貴方、アバダン村からの救援ですか!!?」
アバダン村?
はて、どっかで......。
あっ!俺が依頼受けた振りしたところじゃん。
えっ、もしかして.....。
「お前が聖女か?」
「は、はい!わ、私アンリエッタって言います!た、助けに来てくれて有難うございます!」
アンリエッタという少女は今にも泣き出してしまいそうな様子を見せる。
聖女ってガキでもなれるのか。
てか貫通してるなら元聖女じゃね?
いやそんなことどうでもいいわ。
奴らが言った洞窟。
あそこから移動してきたのだろう。
もし大真面目に受けていれば何もない洞窟を彷徨うことになっていたのだ。
クズ村人め。
確かにこいつを連れ帰れば、報酬がもらえる。
でもなぁ....場所がなぁ。
元々の洞窟から見つけてない以上、なぜそこに行かなかったのか追求されそうだ。
それに早く勇者の元に行きたいのだ。
...いや待てよ。
良い事思いついたぞ。
コイツを助けて報酬をもらう。
そしてこの洞窟を抜ける際に誰か肉盾を護衛として用意してもらうのはどうだろう。
正直、ここまで派手に喧嘩を売った以上、残った敵が俺に復讐しようとしてもおかしくはない。
ならば誰か身代わり要因を用意しておくのはどうだろうか。
一緒に街に行きたい人ー!みたいに言ってさ。
それに....勇者と一緒に居るあの魔法使いのガキ。
ことあるごとに突っかかるし、魔法が使えるからって俺を下に見ているガキ。
ちょうどそのガキと同じ年齢くらいか。
この子には悪いけど、八つ当たりさせてもらおう。
「誰が助けるって言った?」
「え....?」
目の前の少女は目の前が真っ白になったかのような面を見せる。
「こちとらボランティアでやってじゃねぇんだよ。助けてほしければそれ相応の振る舞いって物があるだろ?」
「そ、それ相応の振る舞い....そ、それって.......」
凍り付いたかのような表情で震える聖女。
その間も後ろには注意を向けておく。
この間にやられちゃ世話ないからな。
そして少女は息を呑むと、足を広げ...て待て待て待て!
「ど、どうぞ...わ、わたしを...」
「待て待て待て!!ちっげーよ!!何勘違いしてんだ!!」
目を逸らし怒鳴る外道戦士。
そんな彼の声にびくりと震える聖女。
外道戦士は手を広げる。
「誰が魔物の中古なんか欲しいっつたよ!!...いや、これは俺が悪いな。言わないと分からないのは当然だ。てか八つ当たりするなら俺が言った方が早いじゃないか。」
そう言って外道戦士は彼女の腕を縛っている縄を切る。
「逃げようとしてもいいぞ。...まぁまだ魔物が残っているかもしれないのに、一人で逃げるのはお勧めしないけどな。」
「い、嫌です!逃げません!逃げませんから!!」
そう言うと、彼女は叫ぶ。
このまま捨て置かれれば死ぬ。
それがはっきりと分かるからだろう。
「土下座して靴を舐めて復唱しろ。申し訳ございません、私は無力です。魔法が使えるだけのガキなのに見下しちゃったりしてごめんなさい、助けてくださいお願いしますってさ。」
彼女は言われた通り土下座をして靴を舐めながら言う。
「も、申し訳、ございません...私は無力で身の程知らずの馬鹿女です。...ま、魔法が使えるだけのガキなのに見下してごめんなさい。た、助けてくださいっ!お願いします!!」
その様を見ると外道戦士は笑う。
「そこまで言えとは言ってないが、くっ...くく.....ハッハッハ!!ざまぁ見ろ魔法使い!いい気味だ!!!よしっ!気分が晴れたから助けてやるよ!これでも着てろ!」
そう言って彼は鎧の上から身に着けていたマントを彼女に着せる。
「お前は前を歩け。後ろに居ると、やられてるのに俺が気づかないとか起きかねないからな!」
「は、はい....あ、ありがとうございます。」
マントで体を隠しながら、外道戦士が元来た道を行く聖少女。
男はその後を付いて行った。
村に戻った夜。
彼が聖少女を助けたと知れ渡ると、村中は歓迎ムード。
宴会が開かれて、酒や食べ物を振る舞われる。
そしてなによりも金が入ってきたのだ。
帰り道
酒を煽りながら、夜の道を歩く。
今日は農家のおじさんの家に泊まることになっているのだ
それにしても最初に話しかけられたおじさんが村長とはな。
しかし、顔を見なかったな。
そうして歩いていると、誰かが走って来る。
誰だ?こんな夜中に。
そう目を凝らすと、服をほぼ破かれた金髪の女。
自分が助けたアンリエッタその人だった。
彼女は俺に気づくと抱き着いて来る。
「ひっ...うぅぅ....村長さん、なんでぇ.......ひぐっひっ.....」
嗚咽交じりに鳴き声を上げる。
しかし村長の名前、そして村長の家。
破かれた服を見ると何が起きたか分かった。
彼女は襲われたのだ。
人間に。
ゴブリンにやられたように。
そんなことはよくある。
いちど魔物にやられた女性が街に戻っても人間による二次被害がある。
魔物がやったからこそ、自分もやっても良いとかそんな下衆な理由で。
正直、魔物の後とか絶対嫌だろと俺は思うのだが、世の中には物好きが居たものだ。
...いや、もしくは自分よりも弱いと確信できる相手にやることで優越感を満たしたいのか。
なんにせよそれ以外で優越感を満たす方法何て幾らでもあるだろうに理解できないな。
彼女は嗚咽交じりに話しを切り出す。
「えぐっ、おねがいじます!この村からつれ、だしでぐだざい!もう、ここにはいられな.....」
「いや、俺もパーティと合流する必要があるからな。重荷を抱えるわけにはいかないんだ。」
「そんなっ!お願いします!おねがいします!!!」
彼女は歩き去ろうとする俺に縋りつく。
やっぱ助けたのは失敗だったな。
面倒なことになった。
彼女にとってみれば村の代表である村長から襲われたのだ。
権力のある大人に襲われた後、どうなるかなんて想像に難くない。
ずるずると他の連中も追随してくるに決まっている。
さっさと振り払ってしまおう。
そう思った矢先に、彼女は叫ぶ。
「わ、私!ヒールが使えるんです!それに、毒の浄化だって出来るんです!なんでもしますし、役に立つのでお願いします!お願いしますぅぅ!!!」
ヒール、だと。
それに毒の浄化も出来るのか。
...ちょうどパーティ―から外れている都合上、そういう回復手段は持っておいた方が安心だ。
......勇者と合流するまでの間に利用してやるか。
どうせコイツはこの村には居られない。
なら同じ一人でも街の方がいいだろ。
彼女が魔物に襲われたということを知っている人も居ないし、それにそういう取り柄があるならすぐにどっかパーティーに入れてもらえるだろうし。
「....良いぜ。でもこれは俺の慈悲によるものだ。言ったことはなんでもやってやる。それでもか?」
彼女は息を呑むも、頷く。
「そ、それでも良いです!有難うございます!有難うございます!」
「よし、それなら早速やるか。」
外道戦士がそう言うと彼女は首を傾げる。
「やるって何をですか?」
すると彼は笑う。
とても悪い顔で。
「決まってんだろ。負けっぱなしで狸寝入りじゃ悔しいだろ?」
「わははは!大漁!大漁!」
彼は金貨袋を腕一杯に笑う。
彼がやったこと、それは村長さんの家に火を放ち、彼の庭先に毒を撒いたのだ。
そして村長が外に出た後、すぐに家に忍び込み片っ端から盗んだと言う。
曰く、これで村長は社会的財産を失ったらしい。
今は村を誰かに見られずに出る為に、彼の部屋に居る。
正直、彼が金が欲しかったからと思えてならないが、自分の為に行動してくれたのだ。
感謝はしよう。
それにしても、私が捕まって乱暴されている時、必死に祈っていると聞こえて来た神の声。
それはもうすぐ自分を救ってくれる私の運命が現れるというお告げ。
あぁ...神よ。
「こう、ピシッと儲けられるのは良いなぁ。また誰か悪い事しねぇかなぁ。大義名分がねぇとこういう過激なことは出来ないからなぁ。」
こんな男が、私の運命の相手なのですか?
少女は目の前の男を見て、神の声に問う。
だが、当然返答はない。
組み伏せた村長が言っていた言葉。
『貴様は姦淫を犯した!もう聖女ではない!!ただの餓鬼の淫売だ!!!』
教義からすればそうだろう。
最年少の聖女から穢れた元聖女。
村には居場所がない。
それに、目の前の男の人は下衆ではあるが、私を襲ったりはしない。
なら、まだ信用出来た。
そうして男は村の人に惜しまれながら、歩いていく。
その肩にはたくさんのプレゼントを収めた大きなバックパック。
しかしその後、人目がなくなれば道なき道を歩く影は一人から二人になっているだろう。
多分続かないです。