「やったぜ...ようやくウィンチェスターに着いた....。」
目の前に鎮座するウィンチェスターの城門。
それを目に収めると笑みが出てしまう。
傍らにそれを眺める中古聖少女。
村を出た頃には全裸にローブとかいうどこの脱走奴隷だよと言わんばかりの恰好だったが、今や小綺麗な黒い法衣に身を包んでいる。
まっ、俺が通りがかった行商人から買ったからなんですけどね。
別にこのままじゃ可哀想とかそんな理由じゃない。
ウィンチェスターは大きな都市国家だ。
だからこそ、そんなところに14歳の少女をほぼ裸の状態で連れ歩いてはどんなふうに思われるか。
十中八九奴隷と思われるだろう。
すると奴隷反対派に絡まれたりなど面倒な事が起きる可能性が高い。
それならちゃんとした格好をさせてパーティーと思わせた方が良いだろう。
ただ、こんな勇者に会うまでの薬草代わりに高額な費用をかけるわけがない。
麻製を適当に黒く染めたような安物だ。
まぁでもちゃんと聖職者然とした恰好にしたんだから感謝しろよなwww
「わぁ....とっても大きいですね。」
「そりゃお前の居た村と比べたらどこもデカいだろ、何言ってんだ。」
小さいし、旅人には不正確な地図渡すし、村長は元とはいえ聖女の少女を襲う卑劣漢。
そう考えると誇れる所なにもねぇじゃねぇか。
いや~俺の故郷、お前の所のゴミ村じゃなくてよかったぁ。
「そうですね。....連れて来てくれてありがとうございます。」
そう言って彼女は微笑む。
なんだか旅をしている途中からコイツ妙に素直なんだよなぁ....。
まぁ魔法使いの餓鬼みたいに突っかかられても面倒なだけだ。
良い傾向だと言えよう。
「分かってるじゃねぇか。俺が連れてきたということを努々忘れるなよ。夜寝る前に神に祈る前に俺に対して感謝の礼拝をしろ。」
そう言って門をくぐる。
門番に簡単な身体検査を受けて、門を抜ける。
そこは沢山の店や建物が並び、人が多く行き交う。
馬車や飛脚も多く、物資や文書の出入りも激しそうだ。
都市国家らしく活気に溢れていて、見ているだけで楽しくなりそうな光景だった。
横の田舎中古娘は目をキラキラと輝かせている。
あんなしみったれた村で育ったのだから当然だ。
....さて、どこにユーサたちは居るのかなっと。
周りを闇雲に見渡しても良いが、それでは見つからないだろう。
それなら酒場や冒険者ギルドで聞いて着た方が良いに決まっている。
勇者パーティはそれだけで恩恵を受けられる。
つまりはその恩恵を受けたという痕跡が残るのだ。
歩き出そうとした瞬間、横の薬草が足を止めた。
なんだよ....。
彼女が見ている所を見ると、そこにはある光景が広がっていた。
「おらっ!テメェにいくらかけたと思ってんだ!」
「ひうっ!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
一人の粗末な恰好の少女が青年に殴られる。
すると少女蹲りながらも頬を押さえて謝り続けていた。
「ひどい....。」
それを見て、隣の薬草は呟いた。
まぁ確かに傍から見たらそう見えるな。
でも、誰も気にしていない。
俺もその一人だった。
横の薬草が足を止めるまでスルーするつもりだった。
ったく、下らないことで止まるんじゃねぇよ。
「ありゃ奴隷だな。ガキに労働でもさせてたんじゃないか?」
「奴隷...、だとしてもあんな、子供に暴行までするなんて。」
咎めるような目で彼を見る薬草。
....薬草をスルーしてギルドに入ろうとしたが、ここは彼女に話しをしておいた方が良さそうだ。
この街に居るならコイツがこんな風な目で奴隷のオーナーを見るようなことがあれば面倒ごとを起こしかねない。
「そりゃ、あんな風に物の扱いが酷い奴だっているさ。奴隷に限らず物に当たりがちな奴とかよくいるだろ?」
「でも彼女達は人間で!!」
「道具だよ。売り手と買い手の間で取引されたれっきとした道具だ。」
俺がそう言うと彼女は絶句する。
その目はまるで俺がそう言う風に言うのを予想出来なかったと言わんばかりだった。
「この都市国家では奴隷は合法だ。てか奴隷を禁止にしている都市なんか少数派だしな。もし助けたいなどと思っているならやめておけ。奴隷は奴隷主の所有物だ。手を出したり連れ出したりしちゃ人の所有物に手を出したということで逮捕される。覚えておけ。奴隷を暴行している現場を見ても、さっきみたいな咎めるような目つきで見るな。そういう連中は大抵脳足りんで感情を自分で処理できない奴だからトラブルになりかねない。」
俺が説明すると彼女は目を伏せる。
...なんだよ。人がせっかく面倒なのを我慢して説明してやっているのに。
何が文句あるんだよ。
「そんな....見て見ぬふりだなんて。」
あ^~めんどくせ~
下手に元聖女だし、ガキだから面倒くせぇ~。
黙って言う事聞いてくれよ。
ていうかよく考えたら魔物の巣穴でそういうことなってたお前の方が目の前の暴行受けてるガキよりも境遇悲惨だっただろうが。
助けられてよかったぁとか思ってろや。
面倒だし、ここは強硬手段に出るか。
俺は腰を屈めると、彼女に目を合わせた。
「良いか。二度は言わないぞ。奴隷に関わるな。....もしそれでも聞かないなら、14歳くらいの女の子とか高値で売れるだろうなぁ?」
「わ、私を売る気ですか!?」
彼女はまさか奴隷が可哀想という話で自分を売るなどということに繋がると思わなかったのか目を丸くする。
「良いじゃん、どうせお前俺が助けなかったらもっと悲惨な境遇だったろ?奴隷でもマシだって。それが嫌なら俺の言う事を聞け。村から出るのに言う事聞くってお前言ったろ?」
「..そ、そうですね。わかりました。」
彼女は歯噛みしながらも頷いた。
コイツ本当に分かってんのか?
,,,,もし分かってないならコイツ切り捨てよう。
ユーサたちと合流すればどうせ切り捨てる。
なら遅いか早いかの違いだしな。
駄目な場合での彼女の処遇を決めると、俺はギルドの中に入る。
ギルドはどこも屈強な男や杖持った女などが酒飲んだり、パーティーメンバーと話していたりする。
前なら勇者と一緒にいることで恩恵を得ていたし、うわぁww勇者が幼馴染じゃなくて可哀想~wwwみたいなことを思っていたが、今は俺もこの凡百の中の一人。
とにかくギルドのカウンターへと向かおう。
「なんか....探している人?見つかりませんでしたね....。」
「....分かり切っている事態々言わないでくんない?」
ベンチに座って項垂れる。
受付に聞いても誰一人として分からなかったのだ。
オイオイ、勇者だぞ。
もしかしてアイツ、この街のギルドに寄っていないのか?
いやそんなはずは....。
「もう出てるなんてことは....」
「....なんで考えたくないことを言うのかなぁ?売り飛ばすぞてめぇ。」
考えたくなくて敢えて頭の中から除外していた選択肢を目の前の文句たれに言われる。
正直現実逃避していたところに突きつけられたからこそ、普段は心中でしか言わない悪態が口から漏れてしまった。
だけどそうなると馬車の営業所で聞いた方が良くなるなぁ。
すると、突然。
「お困りのようだね、お兄さん。」
鈴を転がしたような声。
顔を上げると、身なりの良い少年。
なんだコイツ。
他所を見ると、田舎娘はその少年に見とれている。
まぁ顔が良いもんな。
そこはどうでもいいわ。
「....なんすか。」
俺が困っている事くらい見たら分かるだろうがクソが。
....まぁ今の悪態はただの八つ当たりだ。
口には出さない。
てか基本的に初めてあった人はそう言うところを見せるべきではないのだ。
利用できるかもしれないからな。
だからこそ、彼に対してのこの対応は失敗だったな。
「なに、私はこの街に長くいるからね。見ない顔だし力になれるならと思ってね。」
「な、なんか凄い良い人ですよ!この人に聞けば探している人について知っていそうな所教えてくれるんじゃないですか?」
隣で浮足立った様子で薬草が言ってくる。
大方イケメンと話せてテンション上がっているんだろうな。
だが、彼女の言う通りかもしれない。
少なくともこの街に住んでいるということは利用価値があるということだ。
「おや、人探しかい?それなら門番とかのガードに特徴を告げたら良いんじゃないか?彼らの休憩場に案内しようか?」
彼がにこやかに聞いてくる。
まさかそちらから言い出してくるとは。
...なんか話がうまく行き過ぎてはいる。
少し警戒はしておくか。
警戒しつつも、最大限利用する。
「それなら頼みます。いや~あなたみたいな親切な人に出会えてよかったですよ。」
そうやって握手する。
すると彼は目を閉じる。
「....大きいね、手が。」
「?そりゃ戦士職やってるしな。それと何か関係が?」
目の前の男の反応に対して首を傾げる。
俺の手が大きいことに何か文句があるのか?
その細腕へし折るぞこの野郎。
「いや、なにも。それじゃあ行こうか。」
「はい!」
男はそう言うと、俺の手を引いた。
そして薬草は男の言葉に元気よく頷いてついて行き始めた。
「結局何も分からずじまいか....。」
「すまない。」
「そんな!あなたは悪くないですよ!!」
結局騎士たちに聞いたところでユーサたちの場所は分からない。
申し訳なさげにする男とそれを励ます薬草。
まぁ確かに悪くはない。
でも使えねぇわ。
「いや、こうなったのは私の不徳の致す所。さぁ私を思い浮かぶ言葉全てを使って罵倒してくれ!甘んじて受けよう!」
「なんだお前、急に。」
なんか急に叱ってくれ的なこと言ってるんだけど。
マジでコイツなんなんだ?
俺の手を両手で握ってやがる。
男に手を握られて嬉しい訳ないだろ。
「遠慮せずに、頼む!これは私のけじめだ!」
「いや遠慮とかそれ以前に気持ち悪いわ。」
そう言うと、彼はびくりとして押し黙る。
なんだ?気に障ったのだろうか。
でももうコイツには会うつもりはないし、どうでもいいわ。
利用価値ないし。
「なんてこと言うんですか!」
俺の言動を聞いて薬草は詰め寄ってくる。
コイツ、調子づいてない?
もうマジで売り飛ばそうかな。
金は確実に多く入って来るしな。
「いや、ありがとう。今日はこの辺にしておくよ。探し人、見つかるといいね。それと...最近はこの辺りは治安が悪い。夜は宿屋の外に出ない方が良い。」
「忠告どうも。」
彼の忠告を聞いて形式だけの礼を言う。
すると、彼はそのまま歩き去っていく。
そんな後ろ姿を見て、薬草は抗議を訴えるように頬を膨らませる。
なんだその顔、クッソムカつくんだけど。
「....なんか文句あんのか。」
「べつにないですけど。」
売られるのが怖いのか明確に抗議を口にはしない。
口にしない抗議はないも同然。
なら無視して良いだろう。
こんな薬草代わりのことよりも今日の宿を見つけないと。
そう思い、宿屋を探して周りに目を向けだした。
「...へぇ、来たのかい?」
夜の路地。
あんなにも人通りの多かった路地は閑散としていて、人もあまり見られない。
そんな中を歩く顔の良い男とそれを取り囲むようにしている野盗のような恰好の集団。
集団はナイフを持っていて、腰を屈めて臨戦態勢だ。
「....まさか、レングンス家の末女が男装をしているとはな。おかげで探すのに苦労した。さぁ来てもらおうか。」
男の一人が手を差し出す。
それを見て彼?は挑発的な笑みを浮かべる。
「....嫌だと言ったら?」
「貴様には選択権はない。」
そう言って彼女に対して粉を振り掛けた。
口元を咄嗟に抑えようとするが、もう遅く。
身体が痺れてくる。
「毒蛾の粉だ。...やはり箱入りお嬢様だな。捕まえること自体は簡単だ。」
そう言うと二人が彼を抱えていく。
「そいつは奴隷解放の礎だ。奴隷を扱って成り上がったレニングス家の令嬢として、報いは受けてもらおうか。」
そう言って男たちは夜の闇に消えていく。
(せ...っかく、探していた人を見つけたのに.......)
思い描くのはさっきまで一緒に居た少女を引き連れた青年。
探し物が見つかっても、これではどうしようもない。
世の中、ままならない物だと心の中で自嘲しながら、彼?は意識を放り出した。
続かない....この小説は続かないんだ........