【対魔忍RPG】――若き疾風――秋山達郎 作:unko☆star
東京キングダム湾岸地区にひっそりと佇む教会。
窓という窓にステンドグラスがあしらわれた豪奢な造りをしているものの、礼拝に訪れる信徒はなく、ほとんど廃墟同然の状態と化している。
新都心計画が成功し、本土から住民が移り住んできた際には信仰心にあつい者たちの祈りの場になる予定だったのだろうが、現在では貧民たちの住居となっていた。
しかし、ある日現れたならず者たちが貧民たちを追い出し、教会に住みついてしまった。
ならず者は全部で12人いたが、それぞれが本土または海外で犯罪を重ねて東京キングダムに流れ着いた犯罪者であり、なかでもリーダー格の『センセイ』と呼ばれる女性は暗黒格闘技場“カオス・アリーナ”の元ファイターで、闘技場の責任者に歯向かい、不穏分子として刺客を差し向けられたものの、身ひとつでその刺客を葬って脱走してきたのだという。
「おい、朝からケンゾーとケンゴの姿が見えねえんだが、どこに行ったか知らねえか?」
「ゆうべ中心街のほうに行くのを見たぜ。また風俗巡りでもしてんだろ」
「チッ…これから作戦会議だってのに、なに考えてやがるんだ…」
「別にいいんじゃねえの?ケンゾーはともかくケンゴのほうはいつも作戦なんか理解してねえし…」
スカジャンを着たヤクザ風の男がそう言ったとき、教会の正面扉が音を立てて開いた。
陽光を背負い、教会内に大きな影を落としながら大柄な女が入ってくる。
さらしを巻いた胸元をはだけさせた赤い特攻服を身にまとい、額には小さなツノのようなものが1本生えている。
鬼族かオーガか、なにかしら魔界の血が流れていることは間違いない。
「センセイすみません、ケンゾーとケンゴがまだで…」
「なんやしゃーないのお。まあええわ。今回はそう難しい仕事でもないしな」
『センセイ』はスカジャンの報告にフンと鼻を鳴らし、机の上に建物の平面図らしきものを広げた。
教会のあちこちでくつろいでいた男たちがわらわらと集まってくる。
「中心街に『マラスキーノ』って娼館あるやろ?そこの図面や。明日の夜に押入るで」
「えっ」
「センセイ、そこ、ノマドがケツモチしてる娼館ですぜ…?」
ノマドとは、米連を本拠地とする多国籍企業で、表向きは軍事・重工業を主体としているが、裏ではカオス・アリーナの運営をはじめとする様々な非合法活動を行っている。
噂では上層部のほとんどが魔族で占められており、魔界から人間界に流入してきた魔族の受け皿的存在になっているとも言われている。
「なに、支配人の手引きがあるでウチらは裏口から入って金目の物かっさらってくだけや。ビビることあらへん」
「支配人が…?」
「ほれ、こないだ連れてきた女な、支配人の女房なんや。人質と交換に店を捨てて、自分は女房と逃げ出すつもりいうこと」
「いや…交換もなにもセンセイ、あの女は俺たちで散々マワした挙句、センセイが新技の実験台にしてバラバラになっちまったじゃないスか…」
「お?せやったか?」
「そそそっそれに、し、娼館にいくのに、カネだけって、つ、つまらん!オンナ!オンナ!オンナ!」
目の焦点が合わない男が指をプルプルさせながら抗議するのを聞いたセンセイが、ニイ~ッと口を歪ませた。
「せやなあ…。お前らどうせそう言うと思っとったで…。ククク…」
「じゃあ…?」
「ま、支配人は用済みになったら適当に始末しとけ。お宝を運び出したら後は自由や。女攫うもよし、その場でヤるもよし。店の用心棒どもはウチが相手したるわ」
「しゃあっ!」
「それでこそセンセイですぜ!」
「とりあえず決行までは自由行動や。ハメ外さん程度にな。ケンゾーケンゴもそのうち戻ってくるやろ」
それを聞くが早いか、男どもは酒やドラッグを持ち出し、思い思いの“前祝い”をはじめるのだった――。
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「爺さん。連中、動くぞ」
風聴の術を解いた達郎が寝床の老人に伝える。
「そうか…いつ?」
「明日の夜。それまでに片付けねえと犠牲者が出るぞ」
「ふむ…今朝のように少しずつ人数を減らしていければと思っておったが…そう、上手くはいかんか」
老人がゆっくりと半身を起こし、腕・腰・足の順に自分の体を揉む。
錆びついたオモチャのような動きで、先ほど鮮やかに人を斬って捨てたのと同じ人物にはとても見えなかった。
達郎はタンクの水をくみ、濡れタオルでその背中を拭く。
よく見ると、まだ生々しい傷跡や青あざが体中に残っていた。
「…悪かった」
「うん?」
「悪かったよ。ヒーローごっこなんて言って」
「ああ…今朝のことか」
「別に気にしておらんよ。実際なにも間違ってはおらんしの」
老人が唇を歪めて自嘲する。
「ろくでもない人生を送ってきた老いぼれが、最後に流れ着いた貧民街で一宿一飯の恩に報いるために戦う…下手な映画の筋書きそのままじゃあないか。自分でも可笑しくなってくるわい」
「達郎君とはじめて会ったあの日も、ワシは自分に酔っておった。正面から挑んで、1人2人でも道連れにできれば御の字じゃとな。結果、あの女にいいように痛めつけられて、すんでのところでキミに助けられた…」
「…その話はもういいだろ」
身体を拭き終わった老人が着物に袖を通そうとしたが、痛みで肩が上がらなかったため達郎が手伝った。
薬を飲み、深く息を吐くと、徐々に顔に生気が戻ってきたように見えた。
「今夜乗り込もう。達郎君、なにか軽く腹に入れられるものを作ってくれんか」
「コメと今朝の味噌汁くらいしかねーぞ」
「充分じゃよ…あれは旨いからのう」