【対魔忍RPG】――若き疾風――秋山達郎   作:unko☆star

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重いまぶたを開くと、目を真っ赤に腫らせた幼馴染の顔があった。

 

「ゆき、かぜ……?」

「このバカ!バカ達郎!」

 

耳鳴りがする。

達郎は、自分がモーテルのベッドに寝かされていることに気づいた。

気を失う前の光景が徐々に脳内に甦る。

 

「なんで、ここが…」

「こっちのセリフよ!なんで1人でこんな所に来てムチャしてるのよ!私たちが間に合わなかったら…!」

 

ゆきかぜの声がかすれ、そのあとの言葉は出てこなかった。

よほど長い時間泣き続けていたらしい。

 

「シュヴァリエから連絡があってな。任務中だったんでギリギリになっちまったが…間に合って良かったよ」

 

ゆきかぜの隣、達郎の足元あたりに座ったふうま小太郎が答えた。

 

「シュヴァリエが……?」

「右手、止血と麻酔はしといたぞ。五車に戻って先生に診てもらえばなんとかなるだろ」

 

そこまで言われてようやく右手の感覚が無いことに気づく。

目をやると肩から手首にかけて包帯がぐるぐるに巻かれ、拳を動かそうとしてもびくともしなかった。

 

「聞きたいことも言いたいことも山ほどあるんだが…今はあとだ。立てるよな?」

 

そう言ってふうまが達郎に肩を貸し、ゆっくりと起き上がらせた。

 

「ふうま…爺さんは…?」

「外で待ってるよ。お前の目が覚めるのが早くて良かった」

 

 

――――――

――――

――

 

 

外はまだ暗かったが、東の空がほのかに青くなっているのが見える。

老人はモーテルの2階へと続く階段の途中に腰かけていた。

手当はしたが折れた肋骨が肺に穴を明けていてどうしようもない、とふうまがささやいた。

 

「爺さん…」

「おお…」

 

達郎の姿を見た瞬間、チアノーゼで紫色になった老人の顔がほころんだ。

ふうまはその隣に達郎を下ろし、静かに立ち去った。

 

「きたない天井見ながらよりは……ちょっとでも外の空気が吸いたくて…の…」

「その…オレ…」

 

言いたいことは山ほどある。

しかし、言葉が出てこない。

思えば、達郎のこれまでの任務では死体を見ることはあっても、仲間や顔見知りが死ぬことはなかった。

身近な人間の死を前に、どんな言葉をかければいいのか――。

 

そんな胸中を察したかのように、老人が沈黙を破った。

 

「ワシもな…キミと同じ、対魔忍じゃった…」

「えっ」

「もっとも忍法は使えんでの…。対魔忍の家系でもなし、民間の傭兵のようなものじゃった…。30年前、あの戦争がおこるまではな…」

「30年……台湾危機、か」

 

台湾危機とは今から30年前、中華連合が台湾に侵攻したことに端を発する米連との軍事衝突事件である。

当初は台湾近辺に戦闘が抑え込まれていたものの、形勢不利になった中華連合が沖縄や東南アジア諸国に侵攻、泥沼化。

最終的にEUの仲介で停戦に至ったものの、今なお米連と中華連合は冷戦状態にある。

 

「ワシは生き残ったが…守れなかった民間人や、斃れていった仲間たちがの、ず~~っと瞼に焼き付いて離れんでのう…」

「死に場所が欲しくて、あちこち旅をした…。魔族を斬り、ヤクザを斬り、ときにはヒトか獣かわからんようなものまで斬った…」

「自己満足とわかっていても…止められなんだ……。気づけばこんなじじいになって…ようやく、終わる……」

 

「…自己満足なんかじゃねぇよ。アンタは大勢の人を救ったはずだ」

「いいや…ワシもあの悪党どもと同じ……ただ衝動のままに斬り続けて…なにが善で…なにが悪かも……」

「刀を折られたとき…気づいた。ワシはあまりにも心を血で汚し過ぎた。それが……刀を錆びつかせた…」

 

そこまで言うと、老人は震える手で鞘入りの刀を差しだした。

10日間共に過ごした達郎も見たことがないものだった。

 

「昔…親友に貰ったものでの…。いろいろと危ない目に遭ってきたが……これだけは…抜くことができなんだ…」

「まだ、血は吸っておらん…。お前さんなら、これを…正しく使えるだろうて……。お前さんの力なら…」

「オレに、力なんて…」

「お前さんは強い。何しろ対魔忍にとって、一番大事なものを持っておるからな…」

 

達郎は両手で老人の手と刀を握りしめた。

ずしりと冷たい鞘の感触、そしてそれ以上に冷たい手――。

 

「最後の技…見事じゃった…。いかに優れた技を持つものでも、死の際で臆せばなにもできずに死ぬ…。ワシも、数えきれないほど見てきた…」

「あのとき…死を目の前にして感じたこと…感覚を…忘れるでないぞ…それが…キミの力じゃ……」

「――ありがとう」

「ワシこそ…。キミと出会ってから…本当に、楽しかった……」

 

「次に会えたときには…また…旨いものでも作ってくれ…」

 

 

笑顔を浮かべた老人の顔が、ゆっくりと前に倒れる。

 

すでに刀を握る手からも力は抜けていたが、達郎は、いつまでもそれを離せないでいた。

 

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