【対魔忍RPG】――若き疾風――秋山達郎 作:unko☆star
「そう。では術後の経過は良好ということね」
東京キングダム中心街にある錬金術師シュヴァリエの館を訪れたふうまは、先日の戦いの結末と達郎の怪我の様子を館の主に報告していた。
「ウチの学園には腕利きの魔科医の先生がいてな、右腕もなんとか復元できるらしい。…だが、フラッシュ・パンサーの後遺症だけはこっちじゃどうにもならん」
「そうね。貴方が持ち帰ったサンプルを調べたけど、大陸の古い医学の製法をもとに作られているわ。その悪党たちも人体実験の駒としてこれを掴まされたのではないかしら…おそらく、中華連合あたりに」
「…達郎を鉄砲玉にしようとしたという点では、あんたもそいつらと大差ないけどな」
「あら、ずいぶんな言いようね。シュヴァリエにそんな意思はないわ」
「じゃあなんでもっと早く教えてくれなかった?達郎がここに来た時点で言ってくれていれば、こんなバカなことをしでかす前に止められたのに」
「それが彼の希望だったからよ。仲間の手を借りず、自分だけで解決したいとね」
「ふん…」
それならなぜ、最後になって達郎のことを連絡してきたのか。そもそも、任務中の自分たちが駆けつけてギリギリで間に合うようなタイミングで連絡がきたこと自体ができすぎてはいないか…。様々な疑問が浮かんだままではあったが、これ以上追及するのはやめた。
この錬金術師は話をはぐらかすのが上手く、それでいてヘソを曲げると何をしでかすかわからないことを、付き合いの長いふうまは熟知していた。
今日は口論をしに来たのではない。フラッシュ・パンサーのサンプルをもとにシュヴァリエが作り出した治療薬を受け取りにきたのだ。
「手段は選ばない、強くなりたいと彼は言った。シュヴァリエは人間用の薬は作っていないけれど、ちょうど港湾部に住み着いた人間たちが面白いドーピング薬を使って暴れていることを耳にはさんでいた。彼がそれを奪ってこれたら、それをもとに新しい薬を作れる。これで契約成立」
「例のN・T・Sか」
「ええ。もともとは何年か前に人間の科学者が開発して話題になっていたのだけれど、その科学者が失踪してしまって、薬もろとも行方知れずだった…。実際は、ノマドが製法を入手していたようね。悪党どもがカオス・アリーナから抜ける際に持ち出したのでしょう」
そこまで言うと、シュヴァリエは部屋の隅から大きな瓶を持ってきた。
中にはなにやら茶褐色の液体が詰められており、ところどころに白い米粒のようなものも見える。
「とりあえず、これを1日2回、コップ1杯の水とミキサーして飲ませなさい。次第に良くなるはずよ」
「……それ、なんだ?」
「フラッシュ・パンサーの治療薬」
「いや、そうじゃなくてだな…」
「何で作られているのかという質問ならば…肉を腐らせて蛆をわかせ、特製の味噌で漬け込んだものよ」
ふうまは言葉が出なかった。
もう一度瓶の中身を見ると、米粒の様に見えたものは全て、丸々と太った蛆だったことがわかる。
蓋は明けていないが、見ているだけで殺人的な匂いが漂ってきそうだ。
「中国に伝わる秘伝の薬よ。大陸の医学には大陸の医学で対抗するのが一番」
「……なあ、もっと普通のものは…」
「ないわ。シュヴァリエの薬だもの」
達郎によろしく、とシュヴァリエはふうまに瓶を押し付けた。
――――――
――――
――
数日後。
ふうまが病室を訪れると、達郎は目かくしをされた状態で寝かされていた。
フラッシュ・パンサーの後遺症で、まだ視覚が異常に敏感になっているためだ。
それでも、あの怪しい薬の効果もあって徐々に回復してきているらしい。
「たつろ…」
「わりい、もっと小さな声で喋ってくれ。さっきまでゆきかぜに怒鳴られてたせいで耳がキンキンするんだ」
「ああ、悪いな」
「ゆきかぜがよ、退院したら一発殴らせろだとさ。あとついでに電撃もぶちこんで黒コゲにしてやるとかなんとか」
「…大変だな」
「ま、自業自得だからな」
達郎が天井に顔を向けたまま、自嘲気味に口角を歪ませた。
ゆきかぜにおしおきされる以前に、退院したら五車学園からの聴取と、それによって決まる処罰を受けなければならない。
「いっそ、あの化物と刺し違えてたほうがあと腐れなくて良かったかもしれねぇな」
「バカ言え。こっちが必死で助けてやったってのに。ゆきかぜがどれだけ心配してたと思ってるんだ」
「えっ」
「…お前には話すなって言われてたんだけどな、シュヴァリエから連絡が入った時、真っ先に応援に名乗り出たのはゆきかぜなんだよ。今だって、お前の処分が軽くなるように報告をまとめて先生たちにかけあってる。俺も手伝ってるけどな」
「昨日アサギ校長とも話したんだが、理由はどうあれお前とあの爺さんのおかげで大勢の人が助かったんだし、そこまで問題にする気はないってさ。少なくとも退学にはならないだろ」
信じられない、という思いが達郎の胸中に広がった。
もはや幼馴染は自分のことなど眼中になく、たまに顔を合わせてもふうまとの任務について顔を輝かせながら語るばかりであった。
だからこそ、危険を冒しててでも力を手に入れたいと思った。
「幼馴染ってさ、いつの間にか一緒にいることが当たり前になっちまうけど、いざ居なくなると寂しいもんなんだよ。ゆきかぜだって普段はキツイけど、お前や凛子先輩のことは特別に思ってるはずだ」
「……」
「正直、羨ましいよ…。俺の場合は、ほら、あんな感じになっちまったろ」
(ああ、そうか…コイツは…)
先年、ふうまの幼馴染であった
もともとふうま一族は先代当主『ふうま
しかし現当主のふうま小太郎にその気はなく、骸佐の度重なる嘆願も聞き入れずに昼行燈の生活を行っていた。それにしびれを切らして反乱を起こしたのだ。
「今でも思うんだよ。もっとアイツの声に耳を傾けていれば、違う道があったんじゃないか…ってな」
「………」
ふうまが独立遊撃隊を任されたのも、骸佐の追跡が目的だと達郎は聞かされていた。
しかし、今なお骸佐一派は闇の世界で勢力を拡大し続けている。
「まあ、幼馴染は大事にしとけよ。それじゃ…」
「――ふうま」
立ち去りかけたふうまを達郎が呼び止めた。
ずっと天井を見上げていた首をゆっくりとふうまのほうに向ける。
「お前さ、朴念仁って呼ばれてねぇか?」
「は?……ないけど」
「へっ、そうかよ…」
ニヤリと笑う達郎に、ふうまは「少し薬が効きすぎたのか…?」と、首をかしげるばかりであった。
――――――
――――
――
遠ざかっていくふうまの足音を聞きながら、達郎は目隠しの下で先日の出来事を思い起こしていた。
手術が終わってから今日まで、あの日のことを思わなかった日はない。
少女――血――刀――鬼――味噌――風――名も知らぬごろつき達―
――そして、共に戦った仲間。
『お前さんは強い。何しろ対魔忍にとって一番大事なものを持っておるからな――』
老人の最期の言葉が聞こえてくる。
あの刀は学園の教員たちに取り上げられてしまったが、再び手にすることはできるだろうか?
(いや、必ず取り戻す。オレは生まれ変わって、あの刀にふさわしい対魔忍になる)
目隠しの下の暗闇のなかで、達郎は自分の中に何かが宿ったような感覚を覚えた。
(ゆきかぜ、見ていてくれ。オレは強くなるぞ。必ず――)
左手を握りしめると、あの日受け取った刀の感触がまだ、そこにあるように思えた。
最近のシリーズでは影が薄い(というかいなかったことになりそう)な達郎ですが、私は初めてプレイした対魔忍がユキカゼ1・2だったので、非常に思い入れのある主人公です。
寝取られゲーの主人公なので基本無能なのですが、トゥルールート等ではバッチリ決めてくれるのがいいですね。
ただ、書いてて思ったのがとにかくRPG主人公のふうま小太郎とキャラが被っているということ。
なので口調を粗暴にしたりしてみたりしましたが…難しいですね。
これは出番無くなっても仕方ないかなーと。
ユキカゼ3も出るかどうか微妙なところですが、出るなら今度こそ不知火を救出して達郎とゆきかぜの関係にも決着をつけて欲しいところ。
寝取られにもふたりの幸せにも、大いに期待しています。