霧幻旅【秘封倶楽部】 作:萩崎紅葉
卯酉東海道 ~ Retrospective 53 minutes
ヒロシゲ36号 ~ Neo Super-Express
53ミニッツの青い海
竹取飛翔 ~ Lunatic Princess
「ヒロシゲは席は広いし、早く着くし便利なんだけど──カレイドスクリーンの『偽物の』景色しか見られないのは退屈ねぇ。」
「これでもトンネルに映像が流れるようになって、昔の地下鉄よりは明るくなったのよ。まるで地上みたいでしょ?」
「でも、地上の景色は建物やら電線やらでごちゃごちゃしてるから僕はこっちの方が好きだな。」
秘封倶楽部の3人は大学の休みを使ってわ旅行に来ていた。新幹線「ヒロシゲ」、酉京都から卯東京までの53分の旅だ。旅行と言っても蓮子と夏楓の彼岸参りに便乗するだけだが、まだ東京や鎌倉に行った事が無いメリーは、今回の東京、鎌倉旅行を非常に楽しみにしていた。
卯酉新幹線が通るのは地下だが、それでも昼間の外と同じくらいの光が窓から射し、そして外には美しい富士と太平洋が映し出されていた。
──それが、卯酉東海道最大の売りと予算を使った装置『カレイドスクリーン』だった。
「地上の富士はここまで綺麗じゃないかも知れないけど、それでも本物の方が見たかったわ。これなら旧東海道新幹線の方が良かったなぁ。」
「何を贅沢言ってるのよ。旧東海道なんて、もう東北人とインド人とセレブくらいしか利用していないわよ。ま、メリーは東北人並にのんびりしているかも知れないけどね。」
「飛行機で言うところのファーストクラスだね。」
「私はセレブですわ。」
――ちなみに、卯酉東海道が出来たのは、二人が生まれる前の事である。
神亀の遷都が行われてから、大量の人間が東京と京都を行き来する必要が生まれた。旧東海道新幹線だけではすぐに交通インフラに限界が来て、政府は急ピッチに新しい新幹線の開発に取りかかったのだ。
そこでできたのが卯酉新幹線。京都―東京を通勤圏内にし、あっという間に日本の大動脈となった。 当時の最先端の技術を詰め込んでおり、速さも世界最速だった。しかし旧東海道新幹線に速さを抜かれてしまい、今では卯酉新幹線は観光メインの路線となってしまっている。
────驚くべき事に、卯酉新幹線の全てが地下に、そして直線的に作られている。始点から終点まで、空も海も、山も森も、太陽も月も、何も見ることは出来ないのだ。
「あっという間に着くのは良いけど、こんな偽物の景色を見てるだけじゃ蓮子は退屈じゃないの?夜は夜で空に浮かぶのは偽物の満月、ってのもなんかねぇ。
東海道も昔は53も宿場町があったというのに、今は53分で着いちゃうのよ? 昔よりも道のりも長いのに、こうなっちゃうと、もう旅とは呼べないわよねぇ。」
「大昔の人は東京と大阪まで新幹線を使っても8時間近くかかっていた訳だから、随分と技術は進歩したし、酉京都鉄道には観光用の減速運行なんかもあるみたいだけどね。」
「道中が短くなっただけで、旅行は旅行よ。東京観光巡りは面白いわよ?
新宿とか渋谷とかには歴史を感じる建物も多いしね。そういう観光の時間が増えたと思えば良いじゃない。」
「はいはい、そうですね。あーあ、偽物の満月には、太古の兎が薬を搗ついている姿が見えるのかなぁ。」
酉京都鉄道とは、観光用の電車で、京都の歴史的な場所を巡るものだ。レトロな雰囲気が人気で開通してから5年間、全国各地のファンに愛されている。