霧幻旅【秘封倶楽部】   作:萩崎紅葉

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お宇佐さまの素い幡

月まで届け、不死の煙



3

 

 

「あはは。朝からお酒が美味しいわね。そういえばこの新幹線、最初は京都と東京だけじゃなくて、鎌倉にも駅を作る予定だったらしいよ?」

 

「蓮子は物知りだね。」

 

「そりゃ、物知りだもの。なんでも、三つの都を繋いで名前も繋都(けいと)新幹線にしたかったんだって。」

 

「暖かそうな新幹線ね。って、鎌倉は都じゃないでしょ?それに鎌倉って、京都と東京の間にしては東京寄り過ぎじゃないの。」

 

「鎌倉が都...相当昔の話だね。」

 

「ま、そういう理由でお蔵入りになったらしいんだけどね。そういえば、『お蔵入り』の蔵って、何の蔵なのか知ってる?」

 

「そんなこと、最初から判りそうなものなのに……。蓮子は誰かに嘘情報吹き込まれたんじゃないの? 八幡様が好きな誰かに。」

 

 

 

富士と言えば北斎の『富嶽三十六景』が有名であるが、北斎は富士を幾ら描こうとも満足することはなかった。富嶽三十六景は実際には四十六枚ある事からも判る。

 

若い広重が『東海道五十三次』を出版し、それが人気を博すと、過去に三十六景を出したというのに、負けじと北斎は『富嶽百景』を出版した。

その位、富士に魅入られていたのだ。

 

何にしても現代の日本は広重を選んだのだ。

卯酉新幹線ヒロシゲは、地下を東に走り続ける。今はちょうど鎌倉辺りだろうか。

 

 

 

「ねぇ夏楓。トンネルスクリーンに映ってる富士山って、ちょっとダイナミック過ぎないかしら?」

 

「うーん。余りまじまじと実物を見た事がないから何とも言えないけど、こんな感じだと思うよ?きっと、周りに人工物が殆ど映っていないと、こんな感じに見えるんじゃないかな。」

 

「この富士は、広重と言うよりは北斎かなぁ。スケールだって、オートマチックビデオリターゲッティングの処理された様な感じがするわ。リアリティよりインパクトを重視した様な気がする。」

 

「2人とも、広重も北斎に対抗して、富士の三十六景を描いていたってのは知っている?」

 

「ええ? パクリ?インスパイア?」

 

「その名も、『富士(不二)三十六景』というの。しかも北斎の没後に出版したのよ。」

 

「あらあら。」

 

 

建物の少ないカレイドスクリーンの景色では、富士山は霊験あらたかで、迫力のある姿を見せていた。

本物の富士山も、富士山復興会の努力により今は綺麗である。本来の富士の姿の余りの迫力に圧倒されたか、復興会の厳しい掟に嫌気がさしたか、山を登る人の姿も少なくなり、観光協会が大打撃を受けたというのは皮肉だが。

 

日本が広重を選択したのは北斎の奇才を認める事が出来なかったからである。日本は狂気を徹底的に嫌ったのだ。

 

だがしかし、もしこの新幹線がヒロシゲではなく、ホクサイだったとしたら、カレイドスクリーンにはどういう情景が映し出されていただろうか。

 

きっと、今よりも目的地に早く着く、『36分間の狂気の幻想』を愉しめたに違いない。

 

 

 

 

 

 

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