霧幻旅【秘封倶楽部】 作:萩崎紅葉
下に降りると、そこには夏楓の母、椿妃(つばき)がいた。紅茶やパイの用意をしていたのだ。
「はい、これがアップルパイでこれがパンプキンパイよ。材料が余ったから作ってみたの。」
「美味しそう!」
「これは本物の食材(天然食材)を使っているんですか?」
「いいえ、合成よ。夏楓は天然食材の殆どがアレルギーで食べれないの。味も見た目も同じはずなのにね。」
「もしかしたら、合成食品を食べすぎたのかもね。」
夏楓は合成食品以外は食べれない。身体が強烈な拒否反応を起こすからだ。それはアレルギーによるもの。だが、幼少期は普通に天然食材を食べていた。
「天然食材にアレルギーなんかあるんですね。改良されてるからてっきり無いものだと思ってました。」
「僕もそう思ってたよ。医者に聞いても分からないって言うし。今は定期的に体内のデータを国に送ってるんだ。」
アップルパイをペロッとたいらげた夏楓は蓮子とメリーを置いて一足先に部屋に戻った。
「夏楓。妙に急いでいるようだけれど何かあったの?」
「実はレポートが終わってないんです。提出が明明後日までだから急いでるんですよ。」
「そうなの。あ、メリーちゃんも蓮子ちゃんも味はどうだった?」
「とても美味しかったです!」
「はい、皮のサクサク感が凄かったです!」
「あら良かった。最近作ってなかったから心配だったのよ。ありがとうね2人とも。」
椿妃はとても喜んだ。
歳は40を超えているが、見た目も話し方も若者そっくりだった。勿論、京都には若く見える人も沢山いるが、ここまでの美人で若い女性は珍しかった。
「あの…後で森に行ってもいいですか?」
「あら、勿論良いわよ。」
メリーは蓮子に聞こえない程の小声で椿妃に話しかけた。あの白いのが気になっていたのだ。
その後、食べ終わった2人は客室へ案内された。夏楓の部屋と違い日の当たりが良い部屋だ。
(それにしても、この結界は何なのかしら。かなり歪んでいるし強い、卯酉新幹線の時よりも強い反応ね。)
夏楓の天然食材アレルギー、妙に歪んでいる結界、庭の外側の森、研究者だった夏楓の姉。
メリーは初めて会った時から夏楓の事を疑問に思っていたが、あえて何も言わなかった。この時代、そのように特殊な『モノ』を持っている人は多いからだ。
(夏楓は自分に能力があるって言ってたけれど、それっていったい何なのかしら...)
そもそも、こんな歪んだ結界の近くにいたら結界が見てなくても何かしら異変に気づくはずだ。しかし椿妃も夏楓も何も疑問に思っていないようだった。2人が何かを隠している可能性も否定できないが。