メイドをクビになりまして   作:蟹のふんどし

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episode 14

再び箒に乗って空をかける。彼女の後ろに乗るのも大分慣れてきた。

「魔理沙」

「ん?」

「貴方の帽子どうなってるの?」

先ほど河童の里で見た異様な光景を聞くべく、質問を口にする。

薬品庫にたどり着いてから。大きなガラス製の容器とあの黒い箱が二十九個出てきた。入っていい体積じゃない。

「空間拡張魔法の応用だぜ」

「前も応用って言ってなかったかしら」

彼女の店に初めて招かれたときに聞いた気がする。

「今回はさらにその応用だな。色々考えたんだがこういうのは私が無駄に時間を費やすより、できる奴にやらせた方が早いだろ?」

「そう…?」

魔理沙もできる奴だと思うのだけど。

「大体そうだ。そんでまあ、能力ってのは無意識に大なり小なり発揮してるものだからな。そこの強度を少し上げてやればいいわけだ」

「どういうこと?」

魔理沙がバツの悪そうな表情で頭を掻く。

「あー、つまりだな。この帽子はお前が近くにいるときだけ、無限に物を内蔵できる収納場所になる」

ん?

「…それって私の能力をかすめ取ってるってこと?」

「表現が悪いな。ちょっと借りてるだけだ」

「返済期限は?」

「死ぬまで」

ふうむ。

私はポッケからある道具を取り出して、魔理沙の右脇腹に押し付けた。そしてスイッチを押す。

バチッ!

そんな空気が跳ねるような音がした。

「痛ってええ!」

直後魔理沙が叫ぶ。箒がふらふら揺れて危うく墜落しそうになる。

「何やってるのよ。しゃっきりなさい」

「こっちのセリフだよ!お前今なにした⁉」

彼女は脂汗を額に貼り付け、物凄い形相でこちらを振り返った。

「これよ」

だから使った道具を掲げる。

「あっ!スタンガンじゃねえか!」

「あの河童、これを忘れていったでしょう?返すために持ってきたのだけど、中々便利ね、これ」

外傷は残らないのに痛いっていうのがとても良い。素晴らしい。ぞくぞくする。次会ったらあの河童に作ってもらおう。

ボタンを押すと金属の突起の間を光が一瞬走る。

「お前、それ洒落になんねえから!滅茶苦茶痛いんだぞ!」

今にも逃げ出しそうな声音だ。

ふふふ。箒に乗ってる限り、私とあなたは密着せざるを得ないのよ。

「じゃあ、もう一度聞くわね」

「あぁ?」

「返済期限は?」

「…」

「期限は?」

「…死ぬまで」

もういっちょ。

バチッ!

「いっっ!」

私は平等なので、対称性を考えてちゃんと左の脇腹にかましてあげた。偉いわ。

魔理沙の呼吸が出産前の妊婦みたいになっているので、これぐらいで許してやることにする。

「帽子を使うたびに一回ね」

「料金が高すぎる…」

「無断でやるのがいけないのよ」

言ってくれれば許す可能性が僅かにあった気がするのに。

「それで、交換したあの薬品ってなに?」

彼女が持ってきた商品と引き換えにして、河童からボトルに入った薬品を大量に受け取っていたがあれは何なのだろうか。

「あ、ああ。あれな、咲夜も使ったことあると思うぞ」

「私も?」

「シャンプーとリンス、トリートメントだよ」

「…」

「お、おい!やめろ!スタンガンを顔の前に振るんじゃない!」

ふざけたことを言う魔理沙が悪い。

「ちゃんと売れるんだよ!考えてもみろ!私たちは今どこに向かってる!」

「天狗の里よね」

とりあえずスタンガンをしまう。

「はぁ。天狗の里ってことはもちろん天狗がいるだろ」

「そうね」

「天狗の特徴はなんだ」

「偉そう」

「…間違っちゃいないが、こう、身体的な特徴を言ってくれ」

「翼か、尻尾ね」

烏天狗には翼が、白狼天狗には尻尾がある。最も分かりやすい身体的特徴だろう。

「だろ。で、あいつら基本的に水浴びしかしないから毛並みがぱさぱさなんだよ」

つやつやの天狗というのは確かに見たことない。

「私も最初はふざけてやったんだが、椛っていただろ?」

「椛?」

「この前うちに来た白狼天狗だよ。にとりの御守りの。あいつの名前、犬走椛っていうんだ」

「ああ。あの天狗」

「にとりがあいつの服を汚したことがあってな。その時にあいつをうちの風呂に入れたんだよ。無理矢理。で、あいつの尻尾をシャンプーとリンスで洗ってやったらさ、滅茶苦茶つやつやになってさ!いっつも険悪な雰囲気醸し出してるのに、毛並みは血統書付きのお犬様みたいになってやがるんだよ!腹筋が壊れそうになるほど笑ったよ!」

あの天狗の魔理沙に対する態度は正しかったのかもしれない。

「まあ、それでな。椛が里に帰ったら運悪く、いや運良く、海姫に見つかっちまったんだな」

海姫。また出た。

「そのさっきから何度か出てる海姫というのは誰なの?」

気になって夜しか眠れない。

「天魔の娘さ」

「天魔って天狗の統領っていう、あの?」

「その天魔。ボスの娘ってことだな」

天魔の娘が海姫。天狗なのになぜ海?

「その海姫が椛の毛並みがあまりに綺麗な理由を知りたがってな、椛が私のことをげろった。結果、私は海姫に呼ばれて、天狗の里に入る許可を得て、今天狗たちの中で私の商品がバカ売れ中ってわけだ」

「海姫が欲しがっただけで、何で流行るのよ?」

「年頃の統領の娘だぞ。それでいて顔がいい。若い連中に影響力がないわけない。有難いねえ」

魔理沙は嬉しそうにニヤニヤ笑っている。

「…」

友人の笑みを見ていて、何故か脳裏をよぎったのは河童の族長が浮かべていた苦しそうな笑みだった。同じ山の中でも片や暮らすことに身を削る者たちがいて、片や自分を着飾ることにはしゃぎまわっている者たちがいる。別にどちらが間違っているというわけではない。ただ立場が違うだけだ。どの世界にも落差はあって、でも私はこの落差になれそうにない。

「そうね」

そう笑顔で言った私の胸中では、友人もそうであることを必死に願っていてとても滑稽であったと思う。

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「そろそろだとは思うんだが」

山の上を緩やかに飛行しながら魔理沙はあたりを見回す。

天狗の里に入る許可があっても、監視役は必要らしい。指定された時間と場所でふわふわと浮遊して待つ。

「その案内役は烏天狗なの?」

「ああ」

空中で待機しているのだから当たり前か。

「会う前に一応言っておくが、心の準備はしておいてくれ」

「どういう意味?」

「頭は切れるが、ちょっとヤバい奴なんだよ」

「ヤバい?」

「ヤバい」

ボスの娘の我儘のせいで仕事をさせられていると考えれば、ある程度邪険にされると予想はしていたが、ヤバい?この魔理沙をしてヤバいと言わしめるヤバさとは?

考えていたら一陣の風が吹いた。一瞬だけ目をつむるような風だ。

「光栄ですねぇ。ヤバいだなんて」

後ろから声が聞こえた。反射的に振り返る。そこにいたのは身を覆い隠せるほどの翼で羽ばたいている烏天狗であった。セミロングの黒髪、その上に赤い頭巾、白を基調とした和装をしているが縁が黒居りになっていて、何故か肩にスリットがいれてある。すこし博麗の巫女服に似ている。烏天狗たちがこれを着ている姿はよく見かけるので正装なんだろうが、設計思想がよく分からない。飛ぶ際の空気抵抗を減らすためだろうか?

「遅かったな、文」

「いやぁ、すみませんね。ちょいと他の仕事が長引いてしまいまして。遅れたところで待たせているのは人間ですし、そっちを優先した次第です。面目ない」

というか、いつもの文屋だった。

謝っているのか、喧嘩を売っているのか。

「そういうところがヤバいんだよ。自覚しろ」

「いやですねぇ。自覚してやっているに決まっているじゃないですか」

「他の烏天狗はここまで露骨にやらねえよ」

「困ったものですよ。よくもまあ、あんな綺麗な笑顔で思ってもいないことを口に出せるものです。恥ずかしくないんですかね?」

肩をすくめる文屋。

「恥を知るべきはお前だ」

「なんと。清く正しいをモットーにしている私が恥を知らないと」

「知らないね。統領の娘の客をないがしろにする奴が恥を知っているわけがない」

「私は清く正しいですから権威を盾にして脅す輩には屈しないのです」

「ああ言えばこう言う」

「私の教養が深すぎるんですねぇ」

「言ってろ」

厚顔無恥、いや、慇懃無礼だろうか?相も変わらず面倒な天狗である。

「ん?んー?あれぇ?」

烏天狗はこちらに視線を向けた。新しいおもちゃを手にした子供のように目が輝いている。

「誰かと思えば紅魔館のメイドさんではないですか。なぜこんなところに?」

わざとらしい言い方だ。まるでここに至るまでの経緯知っているような言い方だ。

「転職よ」

「ふむ…転職。それは驚きです。傍から見てもよく分かるほど忠誠心にあふれていたあのメイドが転職。何やら秘密のにおいが致しますねぇ」

「残念だけど、私がクビにされただけだからネタになるような秘密はないわよ」

「おお?」

大仰に驚いたふりをする文屋。一々癪に障る天狗だ。

「あのスカーレット卿が?吸血鬼の腹心、紅魔の懐刀とまで呼ばれる貴方をクビに?ふーむ。にわかには信じがたいですねぇ。いったいスカーレット卿はいかなる意図でそのような行いをしたのでしょうか?」

知らない呼び名がまた増えてしまった。

魔理沙がお腹を抱えてプルプル震えている。笑いをこらえてるわね。後でお腹を殴っておきましょう。

小刻みに震える魔理沙は笑顔で言った。

「いいだろ?そんな優秀な人材を引き入れた霧雨魔理沙。鮮やかな手腕と強運。新聞の一面にしてもいいぜ。次世代を担う幻想郷の若きリーダー、なんてのでどうだ?」

文屋が舌打ちをした気がした。

「遠慮しておきましょう。私は事実しか記事にしませんので」

「あの新聞が?」

「もちろん記者の意見は述べていますがね。断定してあるのは事実だけですよ」

「本当かよ」

「当たり前でしょう。事実だから読者は面白がるんですよ」

文屋はつまらなさそうに空を見上げた。

「少し時間を食いすぎましたかね。急がないと飛行市場の搬入に間に合いません」

「うおっ。そりゃいかん」

魔理沙が振り返った。

「売り場に行くから掴まってろよ」

「市場に行くの?」

「おう。今回は今までみたいに卸すわけじゃないぞ。客に直に売りさばくからな。忙しくなるぜ」

それは楽しみだ。

「行きますよ」

先導する文屋に魔理沙は追随した。

 

 

 




咲夜に腹パンされすぎて、腹筋が固くなり始めた魔理沙。なお全て自業自得。



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キリが悪いので今回は短めで。
本日から、二章終了まで駆け抜ける模様。多分。
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