メイドをクビになりまして   作:蟹のふんどし

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episode 24

 

 

危うく裁判が終わってしまうところであった。危ない危ない。

裁判所内の全員の視線がこちらに降り注ぐがそんなものは知らん。

ずらりとなんでいる烏天狗どものど真ん中を突っ切る。

おら!どきな!

天狗たちが両脇に引いていく。

さながら気分はモーゼである。

途中で見知った白狼天狗が安堵のため息を吐いているのが分かった。

「間に合ったか。流石に冷や冷やしたぞ」

陪審員としてまぎれている犬走が横を過ぎる私に呟いた。

「警備が多すぎたのよ。三百六十度全方位警戒してるなんて馬鹿じゃないの」

壊れた宮の奥に建てられたこの裁判所に入るのにどれだけ苦労したか。

「それでもやってしまうのだからな。やはりお前は十六夜だよ」

犬っころが意味不明な呟きをこぼしたので無視して烏どもの真ん中を突っ切った。

そして河城にとりの隣までくる。

「遅れて悪かったわね」

彼女は驚いたような、泣いてるような、でもやっぱり驚いた顔をしていた。

「え、え…え?」

「貴女の弁護は私にまかせなさい」

この子の表情、面白いわね。

そんなことを思っていると隣に座っている海姫が机を叩いた。

「警備!何をしている!この不届き物を捕えろ!」

にとりの後ろに立っている警備は全く動かない。

他の警備はどうすればよいか迷っておろおろしている。

不甲斐ないわね。それでも統領がいる場の警備を任されたものなのかしら。

「貴女の言う通り、後ろ暗いところがないから堂々と出てきたんじゃない」

目を吊り上げている海姫に言ってやる。

「さっき自分が言ったことでしょう?自分の言葉ぐらい守りなさい」

───正々堂々と出てくればよいのです!やっていないならやっていないと、ここに来て述べればよいのです!

彼女が大勢の前で宣言したことだ。自分が言った言葉を守れないのは政を担う大天狗としては失格であろう。

「……」

海姫が悔しそうに歯嚙みした。

ねえ、どんな気持ち?自分の言葉に首絞められて、いまどんな気持ち?

「そうであっても、今ここであんたが弁護していい理由はない。被告人の弁護をするには天魔様の印が入った許可証が…」

「はい、許可証」

彼女にその天魔の印が入った許可証を見せる。

「これで文句ないわよね」

海姫は目を見開く。穴が開くほど食い入るように見つめ、それから天魔と許可証に視線を往復させた。

「進行役の、ええっと、司法官でいいのよね?」

海姫が首をかくかくさせている間に、黒いローブのような衣装をまとった天狗に声をかける。

「は、はい」

「弁護人ということで、彼女の弁護を始めてもいいかしら」

司法官も困ったように眉をしかめる。

そして振り返り、後ろの大天狗に指示を仰いだ。

大天狗たちは眉をしかめている者、欠伸しているもの、笑いをこらえている者、にやついている者がいたが、誰一人として指示を出さなかった。

流石天狗の幹部どもだ。責任を一ミリも取るつもりがないことが伝わってくる。

司法官はそのまま視線をあげ、天魔を見た。

まあ、そうなるだろう。誰も責任を取りたくないのなら、最高責任者にお鉢が回る。

天魔は溜息をつき、口を開こうとしたとこで横やりが入った。

「こんなものは無効でしょ!指名手配犯が弁護人だなんて笑わせんなっつーの!」

海姫がきゃんきゃん騒ぐ。

「警備!大天狗として命じる!こいつを捕えろ!」

他人が慌てているのを見るとなぜか落ち着く。

無様ね。

流石に大天狗の命令は彼らにとっても従うべきものなのか、警備が動き出した。

「静まれ」

しかし突如響いた声に動きを止めた。

警備だけじゃない。私を含め、その場にいる者たち全員が動きを止め、壇上を見つめた。

有無を言わさぬ威圧。格によるカリスマ。そんなものを内包する声だ。

お嬢様はたまにこういった声を出す時があった。天魔もやはり統領だということだろう。

「天宮裁判での無法は言語道断。その者が我々の決まりを守るというのなら、我々もまた決まりを守れ」

天魔が海姫をにらみつける。

天魔の視線を受け、海姫は固まった。

司法官へ視線を下げる。

「続けろ」

司法官も脂汗を流して直立している。

「はっ」

司法官は回れ右をして、こちらを向いた。

「で、では弁護人、論を説いてください」

よし。

許可が下りたので弁論台に立つ。

隙あらば食らいついてやろうという視線をそこら中から感じた。端的に言ってアウェイだ。

アウェイだけど、私の場合ホームで戦うという経験がほとんどない。ホームと呼べる場所が出来たのがつい最近だったからだ。そのホームも今やそう呼ぶことが出来なくなってしまったが。

まあ、つまりいつも通りだった。

「では弁護を始めます。」

顔を上げる。

「まず最初に私が申しあげたいのは、海姫様がおっしゃったその軍刀。それは本当に天狗の軍刀であったのか。そして盗まれたものなのか。ということです」

私の発言にいくらかの天狗が眉を顰める。

「こちらをご覧ください」

私は能力を使って、いじった空間からあるものを取り出した。

妖力をまとった古い刀。妖怪の山に入る前に多々良先生から受け取ったものだ。

「それは…」

海姫にも見覚えがあるようだ。

「こちらは大天狗である飯綱丸様の軍刀でお間違いありませんね?」

四人のうち中央でにやついている大天狗に確認する。

大天狗はこちらの持つ刀を見て、頷いた。

「間違いないな。私の刀だ」

第一関門突破。

「なんでそんなもの…」

海姫があっけにとられている。

「こちらは射命丸文を経由して、修繕を外注して頂いたものです。こちらは契約書約款です」

あの分厚い書類も取り出した。天狗の里に来てすぐに受け渡しの予定だったらしいが、色々と面倒ごとに巻き込まれてそれどころではなくなってしまった。その偶々に助けられた。

「そしてこちらの約款にはですね、“刀の錬区上部、樋に彫ってある『天』の字は天魔様に属する物品証明の故、損なうことを禁ずる。損ないが出た場合、損害はすべて請負人の負担とする”とあるんですね。つまり天魔様が賜った本物の軍刀ならば『天』の字が彫ってあるわけです。確認しても?」

刀を掲げて、所持者である大天狗を見る。

彼女はにやっと笑った。

「構わんよ。抜き給え」

有難く抜かせてもらう。

その刀の柄下の樋には『天』の字が刻まれていた。

「と、このように字が刻まれていますね。ですが…」

私は先ほどの台車から刀を一本とり、刀身を抜く。

その刀身の樋には彫られた文字はどこにも存在しなかった。

「おかしいですね。この刀には『天』の字がありません」

海姫を見る。鼻で笑ってやる。

「つまり、河童が天狗から刀を盗んだ、なんて事実はありません。そもそもこの刀は天狗が使っている軍刀ではないわけですから。事実無根。噓八百。ただのでっち上げというわけです」

河童が隠れて製造していたと言われたら弁護の仕様がなかったが、隠れて盗んだというのならこれがただの贋作であることを証明してやればいい。

先日に犬走に言われたことを思い出す。

───天宮裁判で与えられる弁舌の機会は一度きりだ。ただの出来レースだからな。論じる気がない。だが逆に言うと後出しの被告側は相手の矛盾点をつきやすく、反論されない優位性があるということでもある。まずはそこをつけ。

犬走アドバイスその一。矛盾を見破れ。

詰めが甘いのよ、ど素人が。

「軍刀が正式な天狗のものでないと分かったところで二つ目です。宮が爆破されたとき、現場にいたのは私と相方、被告人、あとは使用人だけだったと海姫様はおっしゃいました。なるほど?それではこれはどう説明なさるのでしょうか?」

懐から取り出したのは数枚の写真。

そこには海姫が宮から飛ぶ瞬間が映っている。時刻が記載され、ご丁寧に私と魔理沙も小さく映っている。

宮の正面に着いたとき、私は彼女が飛び立つ瞬間を目撃したが、おそらくその瞬間に撮影されたものだろう。

海姫の表情が崩れる。

「この時刻、そして私達が映り込んでいることからも、これが爆破直前の宮であることは疑いようがありません。つまり海姫様は我々と同じく現場にいらっしゃった。にもかかわらず、その事実を隠されていたわけです」

さてさて。

「なぜでしょうか?ああ、そういえば海姫様は先ほどこんな事をおっしゃられていましたね」

ありがたーく引用させて頂こう。

「“隠れるということは後ろ暗いことがある”でしたっけ?と、言うことは海姫様には現場にいた事を隠さなければならない後ろ暗いことがある。現場で?後ろ暗いこと?……それって犯行をしたってことではありませんか?」

煽ったら彼女が立ち上がった。

「この不敬者が!下らぬ推測で私を謀ろうなど…」

簡単に乗ってくれる。

私は司法官に視線を向けた。

「司法官。今は私の弁論の時間のはずですが」

司法官は苦々しい表情で海姫を諭した。

「海姫様」

公平性を担保しなければならない司法官としては動かざるを得ない。そして天魔がいる以上、海姫が駄々をこねることもないだろう。

予想通り、海姫は怒りに震えながら席に座った。

────海姫様は大天狗の中では新参者だ。急進的な政策を進める分、あの方をよく思っていない者も多い。だから裁判中にできるだけ恥をかかせろ。彼女と対立する派閥の天狗なら、海姫様を貶めるためにこちらに票を入れる可能性がある。

犬走アドバイスその二。とにかくコケにしろ。

私個人としては、直属の上司に恥をかかせろとためらいなく言えるあの天狗が怖い。

「さて、皆さんに聞いていただきましたように、海姫様が被告と河童にかけた嫌疑、その根拠は単なるでたらめでしかないという事が分かって頂けましたでしょうか?」

大げさに振り向く。

「彼女は何の罪がないにもかかわらず、私欲のために河童という種族に罪をかぶせたとという事です。こんなことが許されていいのでしょうか?」

私は手を重ね、少し乞うような表情で口を開く。

「天狗の皆様。清く正しく賢い皆様ならすでにお分かりのはずです。今まで皆様の生活に貢献してきた涙ぐましい河童たちの努力と賢しらな頭で回された屁理屈。どちらがあなた方に害をなしているか。どちらに罪があるのか。皆様の良心に従ってください」

────最後はとにかく聴衆を持ち上げろ。天狗は総じてプライドが高い。能力が高いならわかるだろうという論法を使えば流される馬鹿は割と多い。

犬走アドバイスその三。接待すべし。

あの天狗、見かけによらず辛口だわ。

「以上で弁護を終わります」

聴衆と天魔に一礼して、にとりの元に戻る。

にとりが尊敬のまなざしでこちらを見上げていた。

「す、すごいね!さくや!」

「それほどでも…あるわね。褒めていいわよ」

「う、うん!かっこよかった!ほ、ほんとの、弁護人みたいだったよ!」

「私は本当の弁護人よ」

「え?で、でも、弁護人には、て、天魔様の印が、ひ、必要だって」

「ほら」

彼女にも許可状を見せる。

信じてなかったのか。まあ、無理もない。

「こ、こんなもの、ど、どうやって…」

そう。そこだ。問題はそこなのだ。

この許可状も、海姫のあの写真も射命丸から渡された箱の中にすべて入っていたのだ。さらに言えば、あの大天狗の刀と約款もあの文屋経由で頼まれてこちらにやってきた。

つまり、海姫を論破するための論拠は、すべてあの烏天狗に用意されていたことになる。いったい何が目的なのか?あれだけこちらをかき回していった癖に敵に塩を送るなど。

あの烏の意図が全く見えてこない。

「あ、あれ、なんか、すっきりしてる?」

考え込んでいたらにとりに言われてた。

それはそうだ。

「この山に来て、ずっとストレスが溜まってたのよ。言いたいことをぶちまけたから、ようやく落ち着いたわ」

「そ、そうなんだ」

「ふんぞり返ってる馬鹿にはケツに蹴りをくらわすぐらいが調度良いのよ。貴方もそう思うでしょ?」

隣で目を吊り上げている海姫に尋ねる。

こちらを射殺さんと睨めつけてくるが、精々かゆみを感じるくらいだ。

「調子に乗んじゃねーよ」

「調子に乗ってたのは貴女でしょ。何でも好き勝手できるなんて思わないほうが身のためよ」

「勝ったつもり?」

「つもりではなく、もう既に勝ったのよ」

「ボロ雑巾にしてやる」

負け犬の遠吠えは聞き心地がいい。

「鳥から負け犬にジョブチェンジ?」

「黙れよ」

肩をすくめる。

にとりの肩を軽くたたいた。

「そういうわけだから、貴女も言いたいことがあったら言いなさい」

「え?…う、うん」

「丁度良い機会なのだし、心の底の本音を吐き出してしまいなさいな」

何か、彼女の表情が変わったような気がした。

「わ、わかった。つぎ、わたしが、やるね」

にとりの返事の直後、司法官の声が響いた。

「では今から投票判決に移ります。陪審員の皆様は投票のためお立ち下さい」

正直に言って、これで勝てるとは思っていない。勝敗を決するのはこれからだ。

 

 

 

§

 

 

机を私と魔理沙と犬走、そして河城さんで囲っていた。

「ここまで言ったはいいが、第一審はほぼ確実に負けるはずだ」

弱気な犬走に魔理沙がケチをつける。

「負けんのかよ。第一審で無罪とれりゃそれで終わりだろ?」

「海姫様は馬鹿じゃない。半数以上の不動票は確実に得ているだろう。こちらがどう頑張っても半分以下の票しか得られない」

「じゃあ、なんのために一審でこんな必死こいて戦うんだよ」

「第二審で圧倒的に負けるためだ」

私も、魔理沙も、河城さんも目を見開く。

「ちょ、何言ってんだお前⁉負けたら終わりだろうが!まさか咲夜にコテンパンに伸されたこと恨んでるじゃねえだろうな」

犬走は眉をしかめる。

「話を聞け」

魔理沙が口をつぐむ。

「いいか?不動票が半数以上あるのならば第二審だって確実に負ける。なら私達の勝利条件を私達の敗北にするべきだ」

敗北が勝利?

「どういうことでしょうか?」

河城さんも少し前のめりだ。

「私たちが天宮裁判に勝機を見出すなら、有罪から決闘裁判に落とし込むしかない。だが決闘裁判には原告側が罪状を決闘裁判と主張した上で、9割以上の票が原告側に入った時にのみ行われる」

「なぜ?」

「法規で解決するために裁判を行っているのに、結局暴力を使いましたというのは外聞が悪いからだ。それに公認で決闘を行うと些細な刺激で余計な血が流れる場合がある。上はそれを望まない」

正しい。形だけの裁判で、殴って解決しましたでは司法は名乗れまい。血が流れれば少なくとも賢者たちには嫌煙されるだろう。

「決闘裁判はあくまでも原告側の名誉毀損と聴衆の不満が余りにも高まりすぎたときの対症療法なんだ」

「だから一審で暴れるというわけね」

「そうだ」

犬走が頷く。

「まず一審で海姫様を侮辱しろ。何が何でも顔に泥を塗って、赤っ恥をかかせるんだ。それで彼女に決闘裁判を主張させろ」

犬走の言い様に魔理沙の顔が引きつる。

「次にだ。第二審では聴衆をこき下ろせ。一審で持ち上げた聴衆をどん底に引き落とせ」

「どうやって?」

「十六夜。お前がうまくやれば、票がそれなりに拮抗するところまで持ち込めるかもしれん。そうしたら言ってやれ。“お前らには芯がないのか!天狗としてのプライドがないのか!外様の私に言われただけで、票を動かすなんて笑止千万!片腹痛いわ!”とな」

びっくりするほど外道だった。

「プライドの高い奴らのことだ。顔を真っ赤にして票を動かすだろうよ」

犬走は牙をむき出しにして豪快に笑った。

愉快!愉快!って。

「椛。お前あいつらに恨みでもあるのか?」

魔理沙の問いに犬走はにやりと笑った。

「当然だ!上は烏天狗ばかりで身内贔屓に忙しいからな。足を引っ張ってばかりのクズどもにはいい加減飽き飽きしていたんだ!そろそろあの間抜けどもに一発かましてやれ!」

また豪快に笑った。

河城さんがとても良い笑顔で頷いている。さらには犬走の手を握った。

「椛さん」

「なんでしょう?」

「落ち着いたらぜひまた河童の沢までいらして下さい」

「え、ええ」

「にとりを守ってくれたご友人でもありますから、盛大に歓迎させていただきます」

「あ、ありがとう、ございます?」

凄い圧だ。

娘を守ってくれたことに加えて、同じ苦労を背負うものなら、まあ、ああなるかもしれない。意外な繋がりができたところを目撃した。

「とはいえ、だ。これは決闘裁判に持ち込むまでの話だ。決闘裁判自体は霧雨、お前にかかっている」

魔理沙がにやりと笑う。

「分かってるよ」

「空中戦について私は門外漢だが、本当に大丈夫か?奴らは腐っても天狗だぞ?空を飛ぶことに関して右に出るものはいない」

「まあ、そうだろうな」

「さらに言えば、海姫様は天魔様の血を受け継いでいる。並の烏天狗と同じと思はないほうが良い」

宮の正面で彼女が飛んで行った瞬間を思い出す。それなりの距離があったはずなのに飛び立つだけで体が飛ばされかねない風圧を受けた。

「そりゃあ、むしろ好都合だな」

犬走が訝しげに魔理沙を見る。

「……大丈夫か?」

「大丈夫だよ!」

心外だと言わんばかりに眉を寄せる。

「椛。お前だって咲夜にそこまでボコボコにされたんだから感じたんじゃないのか?」

ボコボコというところで犬走はむっとしたが魔理沙のように叫ぶことはしなかった。

「何をだ?」

「体の物質化だよ」

椛が目を見開く。

「霧雨。それは…」

「もっと正確に言えば人間化だな。博麗大結界の呪いは全ての妖怪の体に積層してる。強い奴ほど影響を受けやすいのに、強い奴ほど無自覚だ。こちとら生まれてからずっと人間やってんだよ。最近人間感じたばかりのよちよち歩きに負けられるかってんだ」

 

 

 

§

 

 

 

 

博麗大結界の呪い。

私だけでなく、お嬢様や妹様ですらパチュリー様に言われて始めて気づいた事なのに魔理沙はすでに知っていた。

それどころか人間化?すべての妖怪に積層?

あの呪いの影響は妖力の強い妖怪だけではないのか。

そもそも魔理沙はなぜそれを知っているのか。どうするつもりなのか。

「第一審、投票採決の結果を言い渡す」

天魔が物々しい声で口を開いた。

考え込んでいる間に判決が確定したようだ。

余計なことを考えている場合ではない。ここでそれなりの票を獲得できていなければ、第二審の計画が全て水の泡になる。

さて、どう出るか。

「原告側二百八十票、被告側二百二十票。ゆえに被告を有罪とする」

よし。

思わずこぶしを握る。

半数マイナス30票。狙い通りだ。というかうまく行き過ぎだ。もしかしたら私、弁護士の才能があるかもしれない。

「そ、そうだよね…」

隣でにとりが落ち込んでいた。

落ち込むとこじゃない。

「喜びなさい。天宮裁判なのに、たったの30票差よ」

「え?」

「相手が間抜けなのが幸いしたわね。第二審は案外勝てるんじゃないかしら」

ついでに海姫の挑発も忘れない。

「あんたは私が殺す」

眼の中には殺意しか感じられなかった。

「二足歩行で生まれたことを呪って死ね」

確約までいただいてしまった。

「そうですね。では悪魔にでも祈るとしましょうか」

神に祈るのはナンセンスだ。

「第二審を行う」

 

 

 

 

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