「少年、大丈夫かい!?」
気が付くと僕の側に大柄な筋肉質の男が立っていた。
オールマイト。
多分、世界一強い人でNo.1ヒーロー。
誰でも知っている有名人はいつものように笑顔を浮べてながら僕を見る。
「あ...はい、大丈夫です。」
「それは良かった!では、少年、頭を下げなさい!」
僕はその言葉に従って頭を抑えて、蹲ると黒服の男が離れようとする。
「DETROITSMASH!!!」
頭上に台風が通り過ぎたと思うような轟音に身を縮ませる。音が止むのを待って、顔を上げるとオールマイトが小さく息を吐いて、拳を下げた。
「やれやれ、時間切れだね。」
声のする方に顔を向けると黒服の男が浮遊しながらオールマイトの一撃でできたであろうスーツの破れた部分を確認して嘆息する。
「そっちはどうだったかな、黒霧?」
「善戦してはいたのですが、彼が来た途端、劣勢になりまして...」
後はお察しの通りで。
黒服の男は近くにいる黒い靄と話し終わったのか、半身を靄に沈める。
「また僕の仲間を大勢奪ったみたいだね、オールマイト。代わりに僕も君と同じように奪ったから痛み分けと言った所かな?」
「戯言を言うな、オールフォーワンッ!
そっちが起こさなければ、出なかった無用な犠牲、ヴィランが被害者側に立つんじゃない!」
「ヴィランだって被害者さ、君という光のね。
誰もが明るい日の元で生きられる訳じゃない、この世界は我々には些か居心地が良くないのさ、平和の象徴。」
オールマイトが空かさず反論しようと口を開くが、その前に黒服、オールフォーワンは掌をこちらに向けて、静止させる。
「そういえば、名前を聞いてなかったね。
流石に君を連れて行くのは厳しい、名前だけでも聞かせてくれないかな?」
オールフォーワンは顔が見えない為、こちらに顔を向けて僕に問う。
オールマイトはこちらに首を振るが、僕は何か胸騒ぎを覚え構わず答えた。
「風谷 終無です。」
「少年!?」
「ふむ、終無君か。
また追って君を迎えに来るとしよう、きっと僕達は仲良くなれる、そんな気がするよ。」
直感だけどね。
オールマイトが牽制とばかりにまくしたてるが、オールフォーワンは無視して黒霧に飲み込まれていく。
「おっと、最後にひとつ。」
オールフォーワンは思い出したかのように靄から顔だけ出す。
「君の個性には成長の先がある、君がその受け継ぐ個性の真意を読み取ればね。」
その答えが分かったら、また会おう。
それを最後に靄が跡形も無く消える。
今度こそ終わったのだろう。
「君なぁ、駄目じゃないか!
あんなヴィランに名前教えちゃあ!」
「ご、ごめんなさい。」
オールマイトは鼻がくっつくんじゃないかと思う程、近付くと開口一番に僕はお小言を頂くも頭を下げるとため息を吐いて、彼は僕の背後に視線を移した。
「これが奴の言っていた個性かい、少年?」
恐らく僕の母を見ているであろうオールマイトに頷くと眉を顰める。
「彼女はトルネイカ君だね、私も何度か面識はある...少年、何があったか話を聞かせてくれないか?」
僕はオールマイトに今までの経緯も説明する。
最初は冷静に聞いてくれるも後半に連れて、凄まじい怒気を孕むのを感じ、内心臆しつつ僕が話を終えるとオールマイトは拳を地面に叩きつける。
しばらくそうしていたが、僕がいる事を思い出したのか顔を上げる。
その顔は怒りと悲しみをないまぜにしたようなそんな複雑な表情をしていた。
「すまない、私がもっと早く来てれば...」
「いいんです、もう。」
オールマイトが僕に謝るも僕はそう制した。
僕は悲しく無かった。
お母さんはここにいるから。
オールフォーワンには最初は恨みこそすれ、今は寧ろ感謝している。
過程は兎も角、結果として僕は個性を発現させ永遠を手に入れられたんだ。
遠くからサイレンが聞こえる。
ふと両手に視線を移すと鮮血を宿したナイフが現実だと教えてくれてるようで僕は笑った。
それはとても歪でもう以前の僕はそこにいなかった。