あれから幼稚園は結局、行けずじまいでオールマイトとその間、過ごしている内に僕は小学生になっていた。
後から聞いた話だとあの幼稚園はヴィランの攻撃の余波で半壊したらしく、建て直しに数年かかるらしいから結局、緑谷君とは会えていない。
でも、あの幼稚園の皆も早めに避難したおかげで怪我が無かったようでとりあえず安心した。
「終那!そろそろランニング行こうか?」
窓から外を見るとコスチュームに着替えたオールマイトがこちらを見上げている。
「はーい、今行きます!」
手早くジャージに着替えて、少し長くなった後ろ髪を髪止めで縛りながら、階下に降りて外に出る。
「おはよう!気持ちのいい朝だね、実にランニング日和だ。」
「はい、お父さん」
「いや、hahaha!...やはり照れくさいね。その呼び方は。」
頭を掻いているオールマイトをみやり、僕はここに来た最初の夜を思い返した。
「君は強くなる必要がある。」
開口一番、オールマイトはそう言うとこちらに窪んだ眼窩を向ける。
慣れない痩せぎすな姿に違和感を感じつつも僕は頷く。
「奴は...君が戦った顔が無い男はとても危険なヴィランなんだ。そして、奴が君を連れて行くと言った以上、必ずもう一度君の前に現れる。」
「僕の力...お母さんも通じなかったし、あの人の個性はたくさんあるみたいだったし、只者じゃないのは分かるよ」
オールマイトは頷く。
「君を引き取った理由は心配というのも理由のひとつだが、それ以上に君が奴に連れ去られ、ヴィランになった場合を危惧したからなんだ。」
「そんなのあり得ないです。オールフォーワンは僕の仇でもあるのに、そんな相手の仲間になんて....」
「奴の能力に洗脳の類いがあっても不思議じゃない。
そう考えれば、連れて行かれた時点でアウトだし、最悪は命だって危うい。」
オールマイトは意を決したように僕を見た。
「私は君を育てる。いいかい、終那少年?」
僕はオールマイトを真っ直ぐに見かえすと大きく頷いた。
断る理由は無い、僕はお母さんの永遠を貰った時からきっと戦いは避けられないと薄々気付いていた。
寧ろ望むところだ、僕の目標である大切なと人と平和にずっと暮らしていく為にも。
それからは僕に合った練習メニューを作って貰って、オールマイトと共に特訓していった。
「個性がいくら強くても、基礎が出来てないと強くなれないからね。予め君に合わせてトレーニングプランを考えてあるから安心してくれて構わない。マンツーマンでコーチしていくしね。」
その言の通り、オールマイトはヒーロー活動が無い日は付きっきりで見てくれたお蔭で体を壊す事は無かったけど、まともに運動した事が無い僕にとって毎日ノルマをこなすだけでも大変だった。
「終那少年。」
「平気です。僕っ、まだやれます。オールマイト。」
が、数ヶ月も経つとノルマをこなしても余力を残せるようになったし、今の目標は目下オールマイトに組み手で一撃入れる事である。かすりもしないけど。
「では、行きましょうか。組み手が待ち遠しいので。
今日はお父さんに一撃入れて見せますからね。」
「気合十分だね。嫌いじゃないよ、その感じ!やっぱり男の子はそうでなくちゃね。」
「はい!...お母さんもやっぱり男の娘ね。今日も可愛いって言ってくれてます。」
「うん?なんかニュアンスとか違くないかい?
...いや、もう行こうか。時間が勿体無いしね!」
オールマイトが終那の背後に顔を向けようと危険を感じて、出口に駆け足で向かう。
僕もその後ろを駆け足で追いかけた。
「ペースアップしたけど、問題無さそうだね。」
「はい、きっと慣れですね。いつもの距離なら特にキツくも無いし...そのまま組手しますか?」
「いや、何事も慣れてきてからが怖いんだ。
つい油断してどこか怪我でもしたら、トレーニングも出来なくなるしね。終わったら、いつも通り柔軟して休憩しよう。」
「はい!...あっ、あの子」
ランニングコースにしている海浜公園は早朝な事もあり、人通りは少ない。
そんな中、僕の視界に見覚えのあるツンツンヘアーの男の子が走ってるのが見えた。
「やぁ、おはよう。爆豪少年!朝から感心だね!」
オールマイトの声にツンツンヘアーの男の子、爆豪君は顔を一瞬、顰めるとスピードを上げて、走り去ろうとする。
「お父さん、僕爆豪君と走ってくるね!」
「構わないよ。子供の交流を邪魔する程、野暮じゃない。
ただ、朝ごはんまでには帰って来るんだよ!
遅れたら、トレーニング追加だからね!」
「うん!」
返事すると同時に僕は爆豪君を追いかけた。