「硅胤(ケイイン)・・・四神の巻物については、まぁ・・・鴻飛(フェ イフォン)に・・」
帝様は祭殿と寝殿を結ぶ橋から見える宝物庫を横目に進み、真 中くらいに進む と下に流れる川の音を見つめました。
「問題は、天地動転の玉(てんちどうてんのたま)ですか」 硅胤は目を細め宝物庫を見つめました 。
「うむ、朱雀 明瞑(ミンメイ)様より託されし天地動転の玉。も し明瞑様のような術者の手に渡れば・・・」
「そしてもし術者が悪しきものなれば・・・地は割れ、天は太陽を 隠し民は光 を失いまする」
硅胤は帝様に続きました。
「・・・悪しき者の手に・・・渡ればな・・・」
帝様は顔を上げ寝殿に足を向け歩きはじめました。
「然し硅胤、賊が金品を盗んだ中に、たまたま天地動転の玉が 紛れ込んでいたのかも知れぬ」
「そう考えたいのも分かりますが、賊は四神の武具を壊し巻物 を手に入れておりまする」
硅胤は帝様の前に回り込みました。
「ふむー、天地動転の玉は主を選ぶ。余は・・」
「帝様!!世を乱すも世を正すも人でございまする。すなわち 絵を書き事を起 こし、人を結ぶものあらば、これ何にしても見 過ごす事あらず。」
「個をもって体となし動すれば闇、光にいずる・・・か硅胤」
「はっ」
その返事に帝様は耳たぶを摘むと、その場を二周三グルグルと 御自分の足先を 追い駆けていました。目を大きくし首を掲げ、 又つぶっては立ち止まり、大きく目を丸く広げクルクルと回し 大きくため息をつくと。又その場を今度は逆方向に回り。三、 四周すると、硅胤に背を向けた状態でうんうんと頷き手を耳か ら放し。硅胤に振り向くと何回か硅胤の目を見つめ直し。深い ため息をつくと、意を決したように大きく息を飲み込み、天井 を見つめながらおっしゃいました。
「昨日我が城より盗み出されし天地動転の玉、四神の巻物なら びに金品全て。これ全部を一月の内に余の元に取り戻す。これ を民に広く知らせ必ず一月の内に取り戻す・・・あってもなくても な」
「名案かと下手に隠し立てをし工作に労をせいせずとも、公に する事により広く民より情報が得られまする。又、期日を取 り、更に期日内に取り戻したとあらば、 民の信頼も得られます る」
硅胤は頷き答えました。
「民の信頼か・・・」
残った息を吐き出すと、口元を上げ目を細めながら首を横に 二、三度振り硅胤と目を合わせると、ゆっくりと見開き、淡々 と優しくそして確りした口調でおっしゃいました。
「硅胤、明日公開処刑を執り行う、適当な兵を二、三名用意し ておけ」
「帝様?」
「宝物庫ならびに城の警備の失態、誰がどう責任を取るのだ」
「しかしながら・・・」
「どうせ偽りの信頼ならば、真の余・・・いや秦(しん)の闇を見せ ねばならぬ」
「心の有り方を現すのですか?ならば他にも・・・」
硅胤の発する言葉をさえぎり帝様は言いました。
「無い。・・・これでいいのだな硅胤」
ゆっくり振り返ったその目に、硅胤は思わず目をそらし後ろに 一歩たじろぎました。
「帝様」
「・・・礼を言うぞ硅胤、明け方から続いておる政、お前との二, 三言で話はついた。血の繋がりが無い者のとの方が話が早い。 」
「帝様・・・私はただ帝様の望むがままに言わされたにすぎませ ぬ」
「言わされたか・・・情けないのー、人を使わねば余は己の闇さえ 出せぬ」
「帝様、私は好きでございまする。帝様のそのスタイル。帝様 の闇は秦の闇、 帝様の問題は秦の問題。然しながらその答えは 安易に口にする物でないと私も思いまする」
「・・・スタイルか・・・硅胤」
「はっ」
「生意気に余を見下しおって」
「帝様」
「ふっ、冗談じゃ冗談ハッハハ・・・」
「帝様」
硅胤は帝様を見送ると、しばし橋の真中で呆然と立ち尽くして いました。 そして川の音に呼び戻されると、大きく息を吐き目を見開くと 宝物庫を見つめました 。