宮中より西に二十里離れた所に五階建ての建物が七つ円をかく ように立っ ています。泰爛(たいらん)代十四集団居住区という のが正式名称なのですが、人々は 垢岱住(せきたいすん)と呼ん でおりました。 ここには 垢岱住と呼んでおりました。ここには華(か)という部 族が多くを占め、その民族が元々住んでいた土地、泰欄から二 千参百里ほどの所に崖袈(がか)という山があり、 この山の頂に だけ咲くという赤い葉の木の名から取ったという事です。 華の民族は、高原に住み風を神と崇め遊牧とその地を通る旅人 から通行税を取っていました。今から五百年程前鄭(てい)の侵略 によりその数は減り、散々に なってしまいますが、それでも純 血に近い民族として生きながらえてきまし た。
今は参議協定(さんぎきょうてい)が結ばれ華のような民族達の言 葉は消え、昔の事も大きな図書館に行かなくては知ることも出 来ませんが、他の民族とは、やはり何かが少し違うようでし た。 当時はよく争い事が絶え間なく、二百五十年程前秦(しん)はその 繋がりを尊重し、八大都市に居住区の住み分けを執り行ないま した。 これにより治安が大幅に良くなったという事です。
そしてここ垢岱住中央広場では屋台が並び人々の生活を支えて いました。 そんな一角に小さな小屋があり、その裏手には六畳ほどの台が 置いて在りま した。 三年程前から時折、夜この台の上でなにやら怪しい儀式が行わ れてい ました。そして今日も日が沈むと四十人程の人々が台の 前に集まっていました。 一人 の仮面を被った男が台に上がると、片手に短剣を持ち舞を 舞い始めるました 。すると人々は手を合わせ祈り始めました。
「「「白蓮信教(ビャクレンシンキョウ) 、世に現れる。白蓮信教、 世を正さん。白蓮信教、天現れる。白蓮信教、天昇る・・・」」」
仮面の男が舞を舞い終えると、小屋の戸が開き二人目の仮面を つけた男が人を抱えて立ち、後ろには桃色の鳥の刺繍の入った 着物を纏った、とても綺麗な女が初老の男の手を取っていまし た。 人々は小屋の前と台の間から退きました。 三人は人々の作った道を歩き、台にあがります。 人々は祈りながら仮面の男が抱きかかえている人を見つめてい ました。初老の男が最後に台に上 がると、にっこりと微笑みな がら一人一人の顔を見回すと言いました。
「今日又ここに天に帰りし者がいる。しかし地の民よ悲む事な かれ。我が白蓮の血が天に帰れし者に別れの言葉を告げさせ ん」
そう言うと初老の男馬(マオ)歌玖(カク)は右手を広げ天に掲げま した。
「白蓮の聖なる血を受け」 台の上の女馬(マオ) 玉玲(ギョクレイ)がそう叫ぶと、仮面の二人 文喩(ブンユ)、蛇黄(ジャキ)もそれの続きまし た。
「「白蓮の聖 なる血を受け」」
三人は交互に叫び、術を完成していきます。
「天昇る者、今再び地に戻れし」
「「天昇る者、今再び地に戻れし」」
「みなに告げよう、別れの言葉」
「「みなに告げよう、別れの言葉」」
叫び終えると蛇黄は歌玖の横に片膝をつき、舞いに使った短剣 を渡しました 。 それを受け取った歌玖は、短剣を天に掲げた手の中指に押し当 てると、ゆっくりとその手を胸のところに下ろしました。玉玲 は歌玖の指から流れ落ちる血を筆に含ませ、紙に梵字(ぼんじ)を 書き文喩の抱える人 、いや死体の顔にのせました 。
「オン マユキリ イン アラ ソバカ」 玉玲は手を合わせ唱えました。
「天に旅立つものよ、今一度地に戻りてみなに別れを告げよ」
と歌玖が言います 。 「みなに別れを告げよ」
「さぁみなの者祈るのだ」
「祈れ、祈れ」
蛇黄と文喩は交互に呼び掛けました。
集まった人々達は白蓮経という宗教の信者達で、今日その信者 の一人が死んでしまったので告別の儀式を行っているのです。
「「「白蓮信教世に現れる、白蓮信教世を正さん、白蓮信教天現れ る、白蓮信教 天昇る、白蓮信教地を清めん、白蓮信教光に闇 を、白蓮信教闇に力を、白蓮信教・・・」」」
信者達は叫び、祈りを術者玉玲に届けました。
そして信者達の祈りが玉玲の術を通し、死者は蘇り立ち上がり ました。
「みなの者静まれい。今白き蓮の子、采(ツァイ)晋宥(シンツー) は再び地に降り立った」
歌玖が静かに言いました。
「今我天に帰る、父よ母よそして地の民よ聞くがいい。我白き 蓮の花びら一 つとなりて、御釈迦様(おしゃかさま)のもとに帰 る。これ全て事の理なり、しかし地の友よ我追って天に昇る事 なかれ。地に咲く白き蓮の根となり、葉となり又花びら 一つ一 つとして、生きて世を正すが勤め。白蓮の名の下に集えし子 よ、御釈迦様の教えを元に世を正したもうれ」
死者は言葉を伝えると、目をつぶり土に帰りました。
儀式が終わると、死者の家族達が台に上がり、信者達に深々と 何度も頭を下げました。そして、その土を壷に入れました。 台の上から家族が去ると歌玖は語り始めました。 「信者の皆様方今日はお忙しい中、采さんの為にお越し頂き大 変感謝いたします。生前の彼とは私個人としてははあまり存じ 上げませんでしたが、文喩が働いております製鉄所で所長さま をやられていたそうで。大変可愛がって 頂いたらしく。四年前 私ども家族がここ泰爛の北門をくぐり、あまりお金がなった 頃。私達家族のため文喩に前借も快く取り計らったとの事で、 一家の 主としてなんのお礼も出来ず恥ずかしく思います。この 場を借りお礼を言わさせていただきたいと思います。采さんあ の時は本当に有難う御座いました。さて、信者様方の日頃のご 活躍は色々な形で私どもの耳に入って おります。皆様方のご活 躍により私は今日新たな道を民様と一緒に歩んで行きたいと思 います。千五百年前、御釈迦様のお残しになった二百十五の 経 典の中から、三十一の経典に手を加えたのが我らの経典、 白蓮経七星典(ビャクレンキョウシチセイテン ) で す。この経典 の中に 心神効形(シンシンコウギョウ) という物があります。こ れは魔法、法力、仙術などを記したもので、今やりました死者 蘇生術もこの中より学んだものにご ざいます。皆様も知っての とおり術や法力は異界の人々しか使えませぬ。しかし、昔まだ この世が神様の闇の一部だった頃、異界やこの世、あの世は混 沌と黒い世界でした。その時代の事は様々な形で各地で神話と して残されて おります。その話の中にいくつも神や魔物、悪魔 などと交わった人間達の話が出てきます。そしてその子孫達は 歴史にも知るように、時代の節目節目にこの世に転生いたして おります。秦の言葉でいう 仙子( センシ)で 御座います。我が娘 玉玲も、十二の時に仙子として神より力を授かりました。私達 家族は、泰欄の北西にある小さな村に住んでいました。私は皆 様と同様白蓮経の一信者でしたが、玉玲に授かったこの力を世 のために役立てねばと導師(ドウシ) となり白蓮の教えを広める ためここ泰爛にやって参りました。そして昨夜皆様方の日頃の 祈りが天に通じ、私の夢の中に御釈迦様が現れ世の貧困を救う べくこの玉、天地動転の玉(てんちどうてんのたま)を譲り受けま した。これは本来帝様の下にあったのですが、時の命によりお 釈迦様を通して私の枕元へ運んでくれたのでしょう。信者の皆 様方、この天地動転の玉と心神効形、そして我が娘玉玲が今か ら奇跡をお見せいたします。この玉を持ってすれば天の雨も、 地の民に味方する事でしょう」 歌玖の語りが終わると、蛇黄と文喩は信者達に祈らせました。
「白蓮の名の下に集まれし地の民よ、信じるのだ、祈るのだ。 白き蓮の花は 信じる者にのみ咲く。祈った者にのみ咲くのだ」
「白蓮信教世に現れる、白蓮信教世を正さん、白蓮信教天現れ る、白蓮信教 天昇る、白蓮信教地を清めん、白蓮信教光に闇 を、白蓮信教闇に力を、白蓮 信教・・・」
信者達は今から起ころうとする、歌玖の言う奇跡に心を躍らせ ながら賢明に祈りました。 「天地動転の玉よ我に力を与えたもうれ、我の願い聞きたもう れ。オン マユキリ イン アラ ソバカ オン マユキリ イン アラ ソバカ」 術者玉玲が、天地動転の玉を胸元に掲げ最後の呪文を唱え始め ました。 「地の民よさぁ祈るのです、信じるのです」 歌玖は目を見開き、信者達に訴えました。 「祈れ祈れ祈れ」 蛇黄も文喩も、歌玖に続き信者達に訴えました。 「祈り手姉さまに力を」 「力を」 「力を」 「力を」 三人は大声を張り上げ叫びました。それに応え、信者達はより 一層に一心に祈りました。
信者達の大半は華の民族で元々仏教では無いのですが、風を神 と崇め仙子の使う術をそれはそれは大事に扱っていました。又 術者の力も祈りで大幅に変わることを知っていました。歌玖が ここ垢岱住に拠点を置いたのも、華の民 の力が必要だったから です。
「天は」
玉玲はゆっくりと目を細め言いました。
「「「天は」」」
三人は玉玲の顔を覗き込み、息を呑みました。 信者達も祈りをやめ、玉玲の 次の一言に真剣な眼差しで見つめ ました。
「我らが祈り・・・聞き入れたり」
そう言うと、玉玲は目を見開き両手を天に広げました。 すると空に輝いていた月と星は黒い雲に覆われ、天が一瞬光輝 いたかと思うと、地を割るような雷鳴が響き大雨が降り始めま した。
『天候奇術』これこそが天地動転の玉の持つ最大の力でありま す。 信者達はこの奇跡に歓喜の雄叫びを放ちました。