5年後の春と2分の1の君   作:クルスロット

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メリークリスマス




 

 

 「ああ、リリー」

 

 ごめん。ごめんなさい。本当にごめんなさい。レインは、瞳から落ちる雫が忌々しい。何を悲しく思うのか。こんなことをしながらこんな姿の彼女を生かし続けた謝罪? あまりにも愚かだ。あの子を想うならこんな姿にせず早くに開放しておくべきだったのだ。

 火の落ちた部屋。暗く、寒さが外から迫る部屋の中で、レインは、懺悔する。

 

 「ごめん、ごめんね……」

 

 かじかむ指に力を込める。細い首。冷たい首筋。熱がなく硬い首。視線を上げれば青ざめた肌には、鮮やかな紅が形作る唇。あどけない笑みを浮かべたのは、もう昔のこと。昔よりも更に綺麗になった君の笑顔が見たかった。でも君は、もう笑わない。唇は、一本に結ばれ、ただ澄んだガラス玉みたいな瞳で、見つめるだけ。

 

 レインの記憶よりずっと長く綺麗になったブロンドは、床に広がって、埃に塗れる。触れて感じる心地よさは、何故か昔と変わらない。事実、リリーのものだからだろう。

 死んでいるわけではない。生きているわけではない。そこにあるだけの状態。入力された情報を設定に従って、出力するだけの状態。見ていられない。絶えられない。限界だった。いや、勝手に折れただけ。身勝手に生かして、身勝手に折れて、殺す。

 

 破り、千切り、燃やす。

 

 レインは、喉を締める指に力を込めた。首に、リリーの魂が込められている。ここをへし折れば自然と彼女は、動かなくなる。

 リリーの冷たい頬に、馬乗りになったレインの涙が叩く。瞬きも感情の動きもリリーには、見られなかった。

 

 「ごめんなさい……!!」

 

 なんて最悪な女だろう。レインは、自虐と共に、親愛なる彼女(リリー)を再殺する。

 いつか野に咲き誇り、レインが憧れ、焦がれ並び立とうとした彼女は、最悪の形で、押し花(永遠)にされた。今日、その永遠を終わらせる――。

 

 

 

 +++

 

 

 

 ―― 一年前。

 

 「は?」

 

 革と金属の軽鎧を引き締まった体に纏い、黒髪を顎の辺りで切り揃えた女――レイン・エインヘーリアは、浮かべていた笑顔が消えていくのを感じた。笑みの残り滓が口端にあって、臓腑を鷲掴みにされたように息苦しい。大きく開いた黒い瞳が困惑の色に染まる。 リビングの空気は、酷く重苦しかった。暫く空き家ではあったが元の持ち主がいつ帰ってきてもいいようにとレインやレインの母が掃除や換気をある程度続けていたから埃が酷いわけではない。空気が淀んでいるわけでもない。

 レインと対面するこの家の持ち主である老人との間の問題だった。

 再開を楽しみしていた。足取り軽く、鼻歌混じりにスキップまでしてきたレインの鼻っ柱へ叩きつけられた言葉が現状を作っていた。

 

 「……あの子は、もう死んだ」

 

 レインが再開を待ちわびた幼馴染、リリー・エーデルワイスの父、サイロ・エーデルワイスは、レインの記憶とあまりに違った様相だった。白くなった髪、瞳は濁り、血走っている。言葉を作る口から覗いた歯は、白さなど欠片もない。酒瓶を握る手は震えていて、肌は、潤いがない。纏っているローブだけは、レインの記憶と同じものだった。ただ、色褪せて久しい様子は、やはりレインの記憶と食い違う。

 魔法使いとしてサイロ・エーデルワイスは、一流だ。一流の魔法使いは、どこに行っても重宝される。高待遇高収入というわけだ。だからローブにしろシャツにしろ良いものを着ていたはずだった。少なくともレインの記憶では。こんな薄汚れた服装なはずがない。汚れを落とす魔法なんてものもある。同じ服を着続けていても彼くらいの魔法使いならかなり誤魔化せるだろうに。

 

 「いや、え? は? そんな、そんなわけないだろ……!?」

 

 「私が、そうだと行っている……。あの子は、あの子は、随分前に王都で行方知らずだ。痕跡一つ見つからなかった。魔族か人攫いか。どっちかが有力だよ」

 

 「わ、悪い冗談は、止してよ! だって、ほら見てくれよ!!」

 

 頭を振るって、声を上げ、否定する。そう、そんな筈はないのだ。

 

 「この手紙を!!」

 

 「手紙……?」

 

 バンッとレインは、一番最近届いた手紙をテーブルの上に広げてみせた。インクで綴られた文字は、レインが見慣れたものであり、勿論、サイロが身近に見てきたものであるはずだ。

 

 「……確かに、あの子の字だ。間違いない。確かにそうだ」

 

 指に声を震わせて、サイロは、頷いた。

 

 「ああ、そうだろう!? だったら、そんな死んだなんて……!!」

 

 「しかし、あの子は、三年前に行方不明になって、今も帰ってきていないのは、事実だっ……!!」

 

 互いに語気を強めに言葉をぶつけ合う。どうやら冗談でもなんでもないらしい。レインは、ここになって、サイロの言葉を認め始めていた。しかし、手紙は届いているのも事実。サイロの言葉全てを鵜呑みには、できなかった。

 認識の食い違い、認識をぶつけ合った二人の間に、沈黙が帳を下ろした。しばし、互いに口をつぐみ、グラスに注がれた酒に口をつける。

 

 「――手紙は、いつから来はじめたんだい?」

 

 「え? あーっと……」

 

 沈黙を破ったのは、サイロだった。問いかけに、レインは、記憶を掘り起こす。

 

 「あーそうだ。これと一緒に届いたから……三年前だ」

 

 レインは、首に掛けた鎖の繋ぎ目を外して、胸元から引き出したそれをテーブルに置く。三年前、文通の始まりとなった手紙に同封されていた。よく割れずに届いたものだと当時思った。

 水銀色の液体が詰められた小瓶。口は、コルクで閉じられていて、ちょっとやそっとでは開きそうになかった。レインは、魔法でもかけているのだろうと納得していた。日光に当てればキレイな銀色に輝き、月光にかざせば青白く光る。

 

 『お守りです。肌見放さず、私だと思って持っていてね』

 

 冗談めかした文面は、手紙を見返さずともレインは、思い出せた。

 

 「――――――」

 

 小瓶を見たサイロは、文字通り凍りついた。わなわなと震えた指がゆっくりとテーブルの小瓶に触れようとして、寸前で止まった。

 「お、おい、サイロさん? どうしたんだよ」

 

 「――――君は、これが何かを知っているかね?」

 

 「へ? い、いや……。何か魔法の液体とかじゃ……」

 

 「魔法……魔法か……。間違いはない。確かに、確かにそうだ」

 

 怖気を覚えるような暗い声色がサイロの口からまろびでて、テーブルを転がる。何を言おうとしているのかレインには、予想もつかなかった。ただろくでもない事だというのは、理解できた。

 

 「これは、魔法によって抽出された魂だよ」

 

 「たま、しい……?」

 

 たましい。魂。理解は、できる。彼女は、魔法を使えない。しかし、魔法を使う相手と戦ったことはある。死霊使いという人の魂や肉体を陵辱する類の魔法使いと戦い、殺したこともある。何人もの冒険者を殺した魂喰らいの化物を討伐したこともある。

 だからそれが人の中枢を成すものだという知識はあった。

 

 「魂の抽出は、高度で邪悪な魔法と外科的な術が必要になる。人の魂は、体に強く紐付いているから引き剥がす為、もちいられる。私も詳しい工程は、知らない。しかしだ。一つ言えることがある。この工程には、酷い痛みが伴う。生まれたことを後悔するような痛みだという。想像を絶する痛みだ……」

 

 「どうして、こんなものをリリーが……」

 

 「あの子がそんなことをするはずがないっ!!」

 

 「分かってるッ……!!」

 

 殺意すら感じる視線と荒げた声をぶつけられたレインは、噛み付くように言い返す。分かっている。リリーがそんなことをするはずがない。しかし、これはなんだっていうんだ。

 

 「じゃあ、これは誰の魂だ?」

 

 二人ともが黙った。酒を運ぶ。酒瓶がついに空になった。喉が渇いていた。酒だけが理由じゃない。目の前の小瓶の答えをある程度察したからだ。

 

 「…………それは」

 

 ダメだ。それ以上いけない。レインは、サイロの言葉を止めたかった。言葉で止まらないなら手も出して。しかし、レインは、動けなかった。頭が認めてしまっていた。震える声が、酒焼けした声が事実を現す。

 

 「リリーだ」

 

 「……嘘だ」

 

 「これは、リリーだよ」

 

 「だって、手紙が……。この筆跡は、リリーのだ。間違いない。あたしは、リリーと一緒に勉強して来た。答え合わせだってした。だから見間違えるわけがない」

 

 レインには、確信がある。いたずら書きだって、なんだって一緒にやったんだから。

 

 「……君は、死霊使いを知っているかい?」

 

 「知っている。殺したことだってある。だけどあれが作れるアンデッドは、こんな字を書いたりとかできそうには見えなかった」

 

 「低位の死霊術だとそうなる。高位の死霊術は、生前を再現できる。外法中の外法。あってはならない術だ。禁術に該当する」

 

 「…………」

 

 「魂を肉やまた別のものに入れて、囚える」

 

 ふっと持ち上げた指をサイロは、振った。するとテーブルの小瓶がゆっくり浮き上がる。

 

 「……小瓶の内容量は、10と少し。元の魂の半分だろう。魂の腑分け。これもまた酷い痛みが生じる」

 

 サイロは、浮遊する小瓶を見つめながら淡々と言葉を作り――泣いていた。ぽろぽろと大粒の涙を零していた。偉大なる魔法使いとしての姿は、そこにない。在るのは、悲しみに暮れる一人の父親だった。

 

 「今、あの子の半分は、どこかにあるはずだ。でなければこんな事をしない。こんな挑発めいたことを……。人形が何かに入れて、囚われてる可能性がある……。文字が綴れるのならそれ相応に高度な入れ物になるからな……」

 

 「――ゆる、さない」

 

 怒りがレインの中で、強烈に吹き荒れた。言葉として零れた怒りが世界を揺らす。、

 優れた冒険者であり剣士である彼女の怒りは、物理的に世界へと干渉した。大気を乱し、物を揺らす。

 

 「……レイン、少し、抑えなさい」

 

 「分かっているけど、それでも……!! こんなの……!!」

 

 「いや、そうではない。私のためではいない……――」

 

 続く言葉を聞いた時、レインは、衝動的に首を掻き切りそうになった。それほどの衝撃だった。今までの自分の軽率な行動がそんなそれを抑えつけた彼女は、出来る限り優しく掌で包んで持ち帰った後、小瓶を布で包み、小さな木箱へ緩衝材と共に入れた。

 

 『剥き出しの魂は、刺激に、とても弱い。衝撃は、勿論日差しや月光に晒された魂は、強烈な刺激に、痛みを感じて悲鳴を上げるだろう。声は出せないからなんらか別の形で悲鳴を上げる。例えば色の変化(・・・・・・・)などだ』

 

 荷物をまとめ、剣を佩き、母へ書き置きをしてから馬を出す。出来る限り早く、王都へ。

 

 『分けられた魂が元の一つに戻る可能性は、引き裂いたのと同じく外法に頼る以外無いだろう。私も魔法使いの端くれ、心当たりがある』

 

 『あの子を取り戻したいというなら……まず大切にしてやってくれ。今、何よりも在るだけで、苦痛だから』

 

 『結論は、早く出してやってくれ』

 

 「分かってる……分かってる……!!」

 

 レインは、今にも泣き出しそうだった。

 

 「絶対に、許さない……!!」

 

 涙の蓋を怒りがする――王都のどこかに、リリーは、閉じ込められている。半分だけの魂で、酷い目にあっている。そう考えるだけでどうにかなってしまいそうなレインは、もっと早く、もっと早くと念じるように馬を走らせた。

 彼女の代わりとばかりに、突然降り出した春雨を裂き、急げ急げと外套の裾を翻すレインは、彼女を濡らす暴風雨そのものだった。

 ――この三年間、離れていた距離が今、どれほど大きな溝になっているかをレインは、まだ知らない。

 

 

 

 +++

 

 

 

 約束をした。レインとリリーの約束は、リリーが王都の魔導学院に通うことが決まった時、五年前に、交わされた。

 彼女らが遊び場にしている街を一望できる丘の上。誰かが作ったブランコとそれを繋ぎ止める大きな木があった。二人は、いつものようにそこにいた。

 しかし、それも今日で最後だった。明日の朝には、リリーは、王都に引っ越してしまう。

 

 「よし! 今日も勝った!」

 

 はっはっは! と腕を組んで高笑いを上げる黒髪を女の子にしては短く切ったレインからズタボロになった少年たちが逃げていく。覚えてろ! バカアホ間抜け! 鬼女!! などという何にもならない罵声を浴びせられるがレインは、気にもとめない。所詮、負け犬の遠吠えだと笑い飛ばす。

 

 「レイン、ちゃんと手加減してあげたの?」

 

 ブランコと金色のポニーテールをゆっくりと揺らすリリーに、「したよ」とレインは、頷く。

 

 「みっともないくらい泣きべそかかれても気まずいだけだからな」

 

 「まったくもう……。レインを舐めたやつなんて言える子なんてもうこの辺には、居ないんだよ?」

 

 「そうか? やったことないやつなんて腐るほどいるだろ。この街、広いしさ」

 

 丘から見える夕日に染まる港街。レインもリリー、二人共、今年で13になるが未だに隅々まで歩いたことはない。それほどに広く、なにより王国の玄関口の一つとして、数えられているのもあり活気ある街。

 

 「なるほど。それはそうかも。でもレインのほうがきっと、うんん、絶対強いよ。いつも私を助けてくれるしさ」

 

 「まあ、あいつら懲りないしな。リリーだって、魔法で抵抗すればいいじゃん」

 

 「いつも言ってるでしょ。私は、正しい事に使いたいし、あんな奴らに使うのは、私の魔法はもったいないのっ!」

 

 「はいはい、分かってる分かってる」

 

 「ほんとにー?」

 

 「ほんとほんと」

 

 リリーの青空みたいな瞳がじとーっと見つめるから、レインは、笑って頷いた。いつものやり取りだ。これも今日までだろう。レインの胸に、寂しさが湧き上がる。

 

 「でも毎回お願いするのも申し訳ないから次は、自分でどうにかするよ」

 

 「次、かー……」

  

 「そ、次」

 

 次、次かぁ……。いつになるんだろうか。二人共、同じことを考えていた。

 リリーといえば、学園の在籍期間。正直楽しみであるし、全力で勉強する気だった。学院は、望めば卒業試験を受けられる。しかし、リリーは、在学期間を目一杯使うと思っていた。学び屋を最大限に使おうという魂胆だった。

 レインといえば、何をやるか決めかねていた。雑貨屋の手伝い? 勉強? なんだろうしっくりこない。もっとこう、楽しいことがしたい。例えばこんな風に誰かを守ったり、例えば物語のようにロマンを求めてみたり。

 会えない時間をどう使うか決まっていたり、決まっていなかったり。ただ気がかりなのは、会えないこと。

 

 「ね、約束しない?」

 

 「約束?」

 

 「私は、次会うまでに、魔法使いになるよ。父さんみたいな立派な魔法使いにさ。だからレインも何か目標決めてさ、会えるまでそれに向かって頑張るってどう?」

 

 だったら、会えない間の寂しさとか忘れられると思うんだ。にへらとリリーは、はにかんだ。

 

 「それじゃあ……そうだな……」

 

 がしがしとレインは、髪を掻き混ぜる。つんつんと手のひらを突く髪。リリーの髪が羨ましいけど中々伸ばせない髪。あたしが行きたい道ってなんだ? やりたいことってなんだ? 顰めっ面で、うーんと悩んでからリリーを見て、思いついた。

 

 「ああ、あれだ。あたしは、剣士だ。剣士になる。強くて、女だって舐められないような剣士にさ。騎士とか冒険者は、置いといてとりあえず強くなる。リリーに、見劣りしないくらいのさ」

 

 「どうして剣士?」

 

 「そりゃ魔法使いを守るのは、剣士って相場が決まってるでしょ。それに剣が使えれば騎士にも冒険者にもなれる」

 

 「なるほど。でもできるの? 剣って難しいでしょう?」

 

 「頑張るよ」

 

 レインは、そう自信有りげに、小さな胸を叩いた。

 子供の夢想で済ませられないほどには、彼女らの能力は、突出していた。

 リリーは、優秀な魔法使いの娘。血と共に能力全てをも受け継いだ。生き写し、それ以上ともっぱらの評判だった。学院で学ぶという低位の魔法は、この時点で、マスターしていた。将来有望な魔法使いなのは、明白だった。

 レインといえばただの雑貨屋の娘だが――どうやら何かに先祖返りしたらしい。年齢や筋肉量にまったく釣り合わない身体能力。発達した五感。雑貨屋の店主では、終わらない。終われない素養だった。

 

 「じゃ、決まり!」

 

 ブランコから飛び降りたリリーが差し出した小指に、レインは、小指を絡ませる。指切りげんまん。

 

 「タイムリミットは、五年でどうかな?」

 

 「いいよ。五年後に、またここで」

 

 嘘ついたら針千本のーます。指切った!――そう、約束をした。

 

 「――――夢、か」

 

 慣れないベッドから身を起こして、レインは、呟いた。

 レインは、克明と思い出せる。ずっとこの思い出を支えにしてきたのだから。それがまた夢になった。夢になって蘇らなくてもすぐ思い出せるのに。わざわざ夢にまでならなくても……。

 

 「分かってる。すぐに見つけるから。絶対。約束したんだからさ」

 

 ベッドから下りて、日を受けてうっすら光るカーテンを引けば、眩さに目を細めた。少し寝すぎたようだ。日は、もう高く昼に差し掛かろうとしていた。

 仕方ない。夜通し走り続け、休憩も大して取らなかった。馬には、悪いことをした。今は、宿近くの厩舎で休ませている。

 今日からは、自分の足を使う事になる。

 

 「これが王都……」

 

 宿から見下ろす王都は、レインの知る街とは広さが段違いだ。城壁に囲まれた王都の街並みは、無数の家屋とその合間を蟻の巣めいた道が走り回っている。ここを探すとなると途方も無い。森の中で木を探すようで、川底に投げ入れた小石を探すようだ。

 リリーは、ここで忽然と消えた。学院に提出した外出届が彼女最後の痕跡。それ以降、彼女を見た人はいない。

 

 「それでも、やる」

 

 地道ではある。しかし、一応手がかりになりそうなものはある。

 旅立ってすぐ、レインへサイロから送られてきたものだった。優秀な魔法使いであるのは、変わらずのようで、翼の生えた鞄のような使い魔によって届けられたのは、一言二言の伝言書き、メモのついた新聞記事や地図のスクラップブック。

 

 『いくつか伝え損ねたこと、渡し損ねたものを送る。役立つかは分からないが君に渡す』

 

 綺麗とは言い難い文字で走り書きされているメモを後ろにやり、王都までの道のりで、何度と見返したスクラップブックに、レインはまた目を通す。

 王都は、見ての通り広く、人が多い。出入りも激しい。だから犯罪も多い。

 失踪事件の記事、殺人事件の記事。人が消えるか命を失うものがピックアップされていた。特に、失踪事件のものが多い。大小問わず貼り付けられている。

 リリーの失踪事件の記事もあった。若き天才失踪。王都の新聞だ。この時期は、街からも離れていたから新聞なんて見る機会も無かった。タイミングがあまりにも悪かった。軽く唇を噛む。

 

 「ここまでやって、なお何も見つからなかった」

 

 部屋備え付けの小さな丸テーブルに、レインは、スクラップブックの中身を広げて、しばし口を閉ざした。くぅ……。間抜けに腹が鳴った。よくよく考えればここ最近、ちゃんと食べていない。

 

 「腹が減っては戦はできないしな」

 

 宿の朝食時間は、終わってるから街に出るしかない。レインは、スクラップブックを閉じると床に転がっている背嚢から下着を引きずり出した。 

 

 

 

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