fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者)   作:鴉鍵

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炎の『召喚せし者(マホウツカイ)』③

 紗雪の放った『福音の魔弾(ヴァイスシュバルツ)』が深傷の灼を打ち滅ぼし、辺りに静寂が覆う。

 

「………………」

 

 一人になった紗雪は勝利の歓喜をあげるわけでもなく、ただ出来て当たり前のようにため息を漏らす。禍々しい殺気を放っていたが、自身の能力(ちから)を過信しすぎた『召喚せし者(マホウツカイ)』の為、意表を突くような攻撃を繰り出せば、結果はこの通りだ。

 

「この島は……兄さんは私が護る。例え、兄さんが私を見てくれていなくても……」

 

 そう呟き、その場を去ろうと背を向けた時だった。

 

「『不滅なる宴(セーフリームニル)』」

 

「えっ!」

 

 消滅したはずの灼の声が聞こえ、己の耳を疑い、少し前まで灼がいたその場へと目を向ける。

 

 瞬間、凄まじい熱気と共に発生した炎の中に、何食わぬ顔して悠々と佇む灼の姿がそこにあった。

 

「っ! なんで? あなたは確かに私が倒したはず……」

 

「あぁ、そうだ。確かに君は私を倒した……」

 

 と、灼はその事実を否定せず、肯定する。

 

「なら何故あなたはここにいるの」

 

「なに、単純な話さ、『召喚せし者』のくせに、『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』は『戦略破壊魔術兵器』でしか破壊出来ない……そんな事も知らないのか?」

 

「そんな事ぐらい、知っているわ……でも、再生する時、少なからず膨大な魔力を消費するはず……なのに、何故あなたは消費するどころかなぜ万全の状態に戻っているの」

 

 『戦略破壊魔術兵器』により、『召喚せし者』は不死に近い状態となる。例え腕を切られようと、心臓を破壊されようと、『戦略破壊魔術兵器』があれば再生することが出来る。

 

 しかし、その際使われた魔力はすぐに戻る事は無い。更に灼は身体そのものを消滅された。全回復するには全ての魔力を使わなくてはならない。

 

 だが、紗雪の目の前に立つ灼は魔力不足に陥る事なく、信じられない事に『隠された蜃気楼(ヒドゥン・ミラージュ)』や炎の球などの魔術の使用により少なからず失ったはずの魔力が戻っている。

 

「なに、難しく考えなくともいいさ。ようは『死刑執行人(エクゼキュータ)』は役目を終えるまでは死ねないと言うことだ」

 

「……っ! 答えになってない」

 

「ふ、ともかくお前は他の『召喚せし者』とは違うようだ……ならば少し、本気を出させてもらう……双銃の『召喚せし者』よ」

 

 再生した右腕を握りしめ、その身に絶大な魔力を練り込む。みるみる茶髪の髪が紅く、燃えるように変色し、髪を束ねていたヘアゴムが弾け飛び、その長髪はまるで炎のように舞っている。炎の化身と化した灼から惜しみなく放出される殺意の嵐。今までの『召喚せし者』の中でも最高クラスのものだと紗雪は感じ取る。

 

 されど、紗雪は引くわけにはいかなかった。後ろには護るべき島の人達がいる。ここで逃げ延びたら、あの『死刑執行人』は間違いなく『召喚せし者』を見つけ出すまで破壊し尽くすだろう……

 

「やるしか……ない」

 

 紗雪は再度、『福音の魔弾』を放つ為の魔力を練る。

 

「無駄だ……」

 

 対する炎の化身と化した灼も右の掌を紗雪へと焦点を合わせ、魔力を練る。

 

「っはぁぁぁ! 『福音の魔弾』」

 

 灼より速く、撃ち出された紗雪の神話魔術である二つの魔弾。対象の音を追跡する百発百中の一撃……

 

「『調理する炎(アンドフリームニル)』」

 

 魔力を練っている右の掌の反対である左手から炎の西洋盾(カイトシールド)が魔弾の前に立ち塞がる。

 

 特に魔力を込めずに作られた炎の盾に迫る神話魔術の魔弾。勝敗は明らかだと思われたが……

 

「っ! そんな……」

 

 こともあろうか、炎の盾は魔弾を覆い尽くし、神話魔術を食らいつくした。

 

 『調理する炎(アンドフリームニル)』

 

 かつて神話の世界にて日夜、鍛錬に励むヴァルハラの英雄達の楽しみの一つである晩餐。全ての英雄に料理を贈る調理人。彼には調理出来ない物は無いと言われていた。『調理する炎』により飲み込まれた魔力は調理され、己の望む姿へと変貌させる。

 

「『堕ちた福音の魔弾(ヴァイスシュバルツ・フォルン)』

 

「……なっ!」

 

 『調理する炎』に包まれたはずの『福音の魔弾』は調理され、漆黒の魔弾となりて紗雪へ謀反を引き起こす。

 

「瞬間魔力換装(ブリューゲル・フリッツ)!」

 

 高速を超越した神速で堕ちた漆黒の魔弾から逃れようとするものの、それは音を追跡し、紗雪を追い続ける。

 

「っ……そんな!」

 

 目の前の『死刑執行人』は不死ですぐ身体も魔力も再生し、神話魔術を取り込み、自分の力にして跳ね返す……質の悪い冗談にもほどがある。

 

「……言っただろう? 私は全ての『召喚せし者』を殲滅すると……」

 

 灼の『召喚せし者』を殲滅するという確固たる信念がこうも『召喚せし者』に不条理な能力(ちから)を生み出したのだ。

 

「でも……やるしかない」

 

 護るべきものの為に、例えどのような状況にあっても……

 

「負けるわけには……いかない!」

 

「無駄だ」

 

 紗雪の微かな希望を踏みにじるように灼が切り札の用意を整え終える。灼は緩やかに右手を空に翳(かざ)し、死刑囚の眼前で、死刑囚に最後の言葉を贈る。

 

「終わりだ……『堕ちた煉獄の業火(イフリート)』ッ!」

 

 瞬間、虚空の無から現れた青い炎。咎人である死刑囚に裁きを下さんと青い炎『堕ちた煉獄の業火』はうねりをあげ、灼の周囲を漂う。

 

「『調理する炎』……『解除(アンロック)』」

 

 灼の隣に構えていた炎の盾、『調理する炎』が消え、同時に紗雪を追う『堕ちた福音の魔弾』も消滅する。だが、灼にとって『調理する炎』や、それにより調理された『堕ちた福音の魔弾』は全て、この『堕ちた煉獄の業火』を発動する為の時間稼ぎに過ぎない。

 

「『堕ちた煉獄の業火』はその性質上、発動までに時間がかかるんでな、お前の神話魔術で時間稼ぎをさせてもらった」

 

 灼は今にも燃えそうな紅い髪を風に揺らせ、ついに死刑囚の首をはねる時が来たのだと『堕ちた煉獄の業火』という名の『死刑執行人の剣(エクゼキューショナーズソード)』を構え、死刑囚たる紗雪の首を狙う。

 

「……時間稼ぎをしていたのはあなただけじゃない」

 

「なに?」

 

 紗雪のその言葉で、周りに起きていた異変を目にした灼。

 

 無数の黒と白の星が上空に浮かんでいる。

 

「皆の為に、全身全霊を以ってあなたを討つ! auf viedersehen! 瀬道 灼!」

 

 紗雪は『瞬間魔力換装』で逃げまわっただけではなく、最後の逆転勝ちに全ての望みをかけ、悟られぬように着々と準備を進めていた。

 

「終わりなのはあなたの方 『正邪必滅の流星群(シュトゥルム・クロイツ)』!」

 

 最後の望みと魔力を使い放たれる紗雪の第二の神話魔術。空中に留まっていたおびただしい数の魔弾が流星群のように灼目掛けて落ちる。

 

 だが……

 

「だから……なんだというのだ?」

 

「なっ!」

 

 紗雪の最後の望みは呆気なく散った。『瞬間魔力換装』で駆け回り、密かに用意してきた無数の魔弾。そして、一斉に灼へと降りかかる流星群を灼はほんのたったの青い炎の一振りで全ての魔弾を無に帰す。

 

 紗雪は改めて思い出した。目の前に立つ灼はかつて対峙したオーディンと似る存在だと言うことを……最初、互角のように思えたのは全て、灼が全力を出していなかったからだ。それが、少し本気を出しただけで、こんなにも圧倒的な戦力差が生まれる。そう、最初から勝負は決まっていた。今まで紗雪は遊ばれていただけに過ぎない。

 

「さぁ、もう終わりだ……最後に一言残すぐらいの時間はやろう」

 

 それは、処刑の際に贈られる最後の優しさ……

 

 最早、逃れられない。紗雪の死は灼が『堕ちた煉獄の業火』を発動した時から決められていた。

 

 そう察したのか、紗雪は構える二丁の拳銃を降ろし、静かに瞳を閉じる。

 

「兄さん……」

 

 そして、脳裏に思い浮かんだのは最愛の兄であり、恋い焦がれる一人の男性の姿だった。まるでフラッシュバックのように、次から次へと思い出される零二との日常……

 

 願わくば、兄妹ではなく、一人の男性と一人の女性として関係を持ちたかった……しかし、それはもう叶わぬ思い。

 

 なぜなら、零二にはもう一番が存在する。サクラという大切な存在が……自分が今更どう足掻いたところで、最愛の妹としてしか見てもらえないだろう……

 

 それでも……

 

「兄さん……ありがとう……」

 

 それでも紗雪には充分すぎる日常(しあわせ)だった。

 

 紗雪のその一言に、ほんの一瞬だけ顔を歪める灼。だが、すぐにいつも通りの燃えるようでどこか冷たい表情に戻り、『堕ちた煉獄の業火』に命令を下す。

 

「『堕ちた煉獄の業火』、燃やし尽くせ」

 

 その一言で、遂に『死刑執行人の剣』が振り落とされ、死刑囚は命を落とした。




ちなみに、この作品は毎日朝の六時に投稿予定です。

たまに、忙しくて、更新出来ないこともあると思いますが、なるべくそんな事が起きないよう善処しますm(_ _)m

読者方、これからもどうかよろしくおねがいします。
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