fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者) 作:鴉鍵
同時刻、相楽家にて……
「紗雪……」
そこには、食卓の椅子に座り、紗雪がいつもそこにいる席を呆然と眺めている苺の姿があった。
「もうちょっと、心配すべきじゃった……家族失格じゃな」
「わんこ……」
苺の傍には零二の母親である桜の姿があった。落ち込んでいる苺の手をぎゅっと握りしめている。
「……誰じゃ」
苺の小さい身体が震え出す。
「誰が、紗雪を……ッ」
怒りに任せてわめき散らしたくなったが、これ以上口に出すと、それが現実になってしまいそうで、本能的に口を閉ざす。
「大丈夫だよ、わんこ。創くんが紗雪の魔力を探してくれてるから」
「そう……じゃな」
いつも自由翻弄で、家族思いの良き保護者の影はそこには無かった。今の姿はただ、悲しみと絶望に飲み込まれる小さな身体がもっと小さく見える姿だった。
ガチャリと、玄関のドアが開く音がし、一人の男性がリビングへ上がって来た。
「わんこ……」
「創! どうじゃったのじゃ?」
現れた芳乃 零二の父親こと芳乃 創世。そんな頼り甲斐のある創世に気づき、藁にもすがるような気持ちで訊ねる苺。
「この島にいる『召喚せし者(マホウツカイ)は現在十四人……その中から黒羽 紗雪の魔力は感じ取れ無かった……」
「そ、んな……」
創世の放った現実は苺にとって、あまりにも残酷すぎる物だった。紗雪の魔力が無いと言うことは最早、紗雪の存在はこの世に無いと言うことになる。
もう、会えないのだ。
「嘘じゃ……嘘じゃ」
最後の希望までも失い、がくりと糸が切れたマリオネットのように地面にへたりつく苺。
「恐らく、黒羽 紗雪を倒したのは見知らぬ二つの魔力の内どちらかだろう……いや、正確には三つだが」
「三つ……?」
「ああ、昨日の夕暮れ時、ほんの一瞬だが、私と同等の魔力を感じた。それも禍々しい魔力をな」
「創と同等じゃと……」
信じられないといった表情の苺に創世は静かに頷く。
創世と同等の魔力と言うことは、"究極"の『召喚せし者』がもう一人いると言う事と等しい。しかも禍々しい魔力となれば、かの"最凶"の『召喚せし者』ローゲの炎使いと似た……否、それ以上に危険な存在である。
「もしや、そいつが紗雪を……」
「可能性はある」
「くっ、創! 今すぐそやつの所に連れて行くのじゃ!」
「無理だ」
「なっ!」
創世はキッパリと切り捨てるようにすぐそう答えた。それが更に苺を苛立だせる。
「なぜじゃ! わしの力では無理だと言うのか? 仮にそうだとしても、やらなければならないんじゃ!」
怒りに駆られ、身長差があると言うのに、創世の胸ぐらを掴もうと腕を伸ばし、しっかりと胸ぐらを掴む。
「やらないのではなく、出来ないのだよ」
「なんじゃと?」
「さっきも言っただろう……昨日、一瞬だけ感じたと……つまりは今はあの禍々しい魔力を感じないのだよ。恐らく私と同じ空間移動か、あるいは魔力を隠しているか……だろうな」
「くっ……」
冷静に状況を見極め、説明する創世。しかし、それでも苺は納得しない様子で、胸ぐらから手を外したものの、まだ不機嫌な顔でいる。
「わんこ……一応、昨日魔力が発生した場所へ向かうか? 『召喚せし者』に詳しいお前なら何か分かるだろう」
「それも……そうじゃな。よし、そうと決まったら早速行くぞ!」
と、苺は魔女のような外套(がいとう)を身に纏い、今にも出発せんと玄関へと急ぐ。
「桜、すまないが、留守を頼めるか?」
「うん、任せて……だから、零二の大切な妹の敵、絶対見つけてよね」
「ああ」
小さく頷くと、苺と共に玄関を出て、目的地へと向かう。
昨日、感じたあの魔力……何故だろうか、懐かしさを感じる。禍々しい魔力と同時に感じたもう一つの魔力。その魔力はかつて創世が『予言の巫女(ウォルスパー)』に、所属していた頃、感じたあの魔力に似ていた……
「まさか……な」
「どうしたのじゃ?」
「なんでもない」
それでも、創世の脳裏からはあの魔力の持ち主の事が離れなかった。仮に、創世の知るあいつだとしたら……理解出来ない。
創世の知るあいつは研究には積極的であったが、争いは嫌い、無理やり模擬戦をさせても、わざとやられて、投降するほどの平和主義。戦争の時も嫌々ではあるが、参加し、それでも極力『召喚せし者』を殺さずにいようとした。その後、ローゲの炎に巻き込まれ、行方不明となった少年……
「灼……」
かつてのモルモット仲間であった人物の名前を思い出し、苺に悟られないように小さく呟く。