fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者) 作:鴉鍵
『死刑執行人(エクゼキュータ)』①
零二は学校を早退し、行方の知れない紗雪を捜して、ミルキーウェイ辺りにやってきた。
「………………」
もちろんアテなんかあるわけがない。半ば無意識のうちこの場所へとたどり着いたのだ。
「紗雪……」
「やはり、ここにもいたのか『召喚せし者(マホウツカイ)』」
「なっ!」
声が聞こえた瞬間、周りの空気がざわつくような不快感を覚えた。すると、みるみるミルキーウェイから人が離れ、やがてゴーストタウンのように静かな空間へとなり変わった。
「くっ、『復元する世界(ダ・カーポ)』!」
咄嗟に零二は己の能力を使い、最強の『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』でもあり、最高のパートナーでもあり、最愛の恋人でもあるサクラを呼び出した……
「これは……マスター!」
サクラは状況を察し、呼び出された瞬間、すぐさま戦闘服へとチェンジする。
「てめぇ、いったい何者だ?」
「ククッ、本当によく聞くな、その台詞」
この島に来てから幾たびも聞いた言葉に思わず長躯の男性は笑みを零す。
「瀬道 灼……『召喚せし者』を処刑する者だとでも言っておこう」
「はっ、なんで俺たち『召喚せし者』がお前に処刑されなきゃならねーんだよ」
「なに、簡単な事だよ。『召喚せし者』はこの世界にとって災厄を撒き散らす害だ。だから一つ残らず殲滅せなければならない」
さも当然のように零二達『召喚せし者』を害と評し、けなす灼。
「くだらねぇな。それに、お前も多分『召喚せし者』だろうが……お前の言う害の中にお前自身も含まれてるんだぜ?」
「ああ、そうだ。私もお前達と同じ害となる存在……この世に存在する全ての『召喚せし者』を殲滅した後、同じように私自身も炎に焼かれて消えゆこう」
「狂ってるんだよ」
灼の意思を聞き、今まで沈黙を守り通したサクラが思わず灼に抱く思いを口にする。
「あぁ、狂ってるな」
サクラの言葉に同感する零二。
「フッ、何を言うか……正しきこの世の理から見れば、私も、お前達も狂った存在だろうに」
『召喚せし者』の存在がこの世にいてはならないように説く灼。
「残念だが、どうやら話の通じる相手じゃないようだな」
「それに関しては私も同感だ」
灼はそう言うと、己の魔力をほんの一部に解放する。虚空より現れる無数の炎の球。
灼が右腕を零二に向けると、無数の炎の球は弾丸となりて零二目掛けて放たれる。
「っ! いきなりかよ!」
「マスター!」
襲いかかる炎の弾丸から零二を庇うように前に立つサクラ。
炎の弾丸はサクラの魔術障壁にて、爆炎を撒き散らしながら一つ一つと消えていく。
「なかなかの固さだ……だが」
次に灼が発動したのは先ほどの炎の球より十倍は大きい炎の球。それをサクラ目掛けて放つ。
「ぐっ……」
その炎の球はただ大きくなったわけではなく、威力もまた十倍へと倍増している。
「『復元する世界』!」
しかし、その攻撃は通ることなく、零二の能力にて炎の砲弾を消滅させる。
「ほう、今のを止めるか」
だが、特に灼は動じる事なく、感嘆する。
「サクラ!」
零二の掛け声とほぼ同時に放たれるサクラの光弾。だが、それは当たることなく灼の身体をすり抜ける。
「なっ!」
「私の光弾がすり抜けた?」
その様子に驚きの声を漏らす二人。
その一瞬の隙を逃さず、灼は灼熱の弾丸を再度放つ。
「させるか! 『復元する世界』!」
しかし、またもやその灼熱の弾丸は零二の『復元する世界』により消滅する。
「くそ、このままじゃ、ラチがあかないぜ」
「なら……神話魔術で決めるんだよ!」
と、サクラは両手に魔力を収束させる。
「ほう……」
その魔力の規模を感じ取ったのか、灼はわずかに身体を震わせる。
「………………」
されど、灼は動かずサクラの動向を目で見張るのみ……
「待て、サクラ! 俺に考えがある……だから、少し待っててくれ」
「……了解なんだよマスター」
その光景はまさに以心伝心……二人の間に言葉はいらず、互いの考えを理解することが出来る。
「お前達がどう足掻こうとも私に当てることは不可能だ」
と、余裕を見せる灼。どうにも灼は『召喚せし者』を侮るくせがあり、意表を突かれるような攻撃をして来ない限り、本気を出すつもりはない。
「マスター……」
「ああ!」
どうやら、サクラは神話魔術を放つ用意が出来たらしく、零二は小さな声で返事し、魔力を練る。
「『復元する世界』!」
「馬鹿な!」
瞬間、零二の『復元する世界』が発動し、余裕そうに構える灼が陽炎のように揺らめきながら、消え、そこから数十歩左にまた別の灼が現れた。
「今だ! 撃て!」
零二の合図と同時に、サクラの神話魔術が発動する。
「『穢れなき桜光の聖剣(レーヴァテイン)』!」
「な……に!」
サクラの両手から放たれた桜光の光線。それは九つある世界の内、一つの世界を滅ぼす純粋なる力。
零二の『復元する世界』により、幻影魔術を破られた灼はなすすべなく迫り来る桜光の一撃をその身に受けるしかなかった。
「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
断末魔の叫び声をあげ、聖なる光に身を焼かれる。やがて、灼は『穢れなき桜光の聖剣』によりその存在そのものを消滅させられる。
「悪いな、瀬道さん」
消え行った灼に手向けの言葉を残し、零二のサクラの勝利でこの戦いは幕を閉じる……かに思えたが
「『不滅なる宴(セーフリームニル)』」
「……なに?」
「そんな……」
そう、確かに消滅させたはずの灼の声がし、虚空より紅蓮の炎が燃え盛り、まるで不死鳥のように蘇った灼。
「なぜだ? 確かにお前はサクラの『穢れなき桜光の聖剣』で倒したはず……」
「ああ、正直驚いたよ……ただの神話魔術かと思えば、世界を破壊する程の力が込められた神話魔術だとはな……」
と、涼しい表情でそう言う。
「ク、クハハ……まさか、私に『不滅なる宴』を使わせる奴が二人もこの島にいるとはな」
笑い声とともに解放された灼の禍々しい魔力……思わず泣き出したくなるぐらいの狂気の殺意。それが嵐のように吹き荒れては零二やサクラの精神を傷つける。
「がっ、う、動けねぇ……」
「こんなの……ば、化け物なんだよ……」
殺意の嵐を受け、零二とサクラはなんとか立つだけでも精一杯だった。
零二とサクラの並ならぬ『召喚せし者』としての実力が灼の拘束具(ゆだん)を解き放ち、『氏刑執行人(エクゼキュータ)』として目覚めさせた。
みるみる灼の髪が燃えるように紅く染まり、ゴムヘアが弾け飛ぶ。そして、宙に舞う紅き髪はさながら炎を思わせる。
「こいつ……今まで本気を隠してたってわけかよ」
「ああ、だが、気が変わった。少しだけ本気を出してやろう」
そう言って、灼は右腕に魔力を練る。禍々しい魔力が一箇所に集い、うねりを上げるその様はまるで、悪魔の信者が悪魔を召喚する儀式のように思える。
「『堕ちた煉獄の業火(イフリート)』ッ!」
地獄から現れし青き煉獄の炎が、灼の周りを漂う。
「さぁ、処刑の時間だ」
まるで、オーケストラの指揮者のように腕から手首を通り、指の先の先に至る所まで、華麗に手繰る。
灼の手の動きに合わせて『堕ちた煉獄の業火』が唸り声をあげてサクラと零二目掛けてくねくね蛇行しながら襲いかかる。
「サクラ!」
「だめ……まだ、身体が思うように動かないんだよ!」
しかし、二人は未だに灼の殺意の嵐による拘束から抜け出せていなかった。避けなければならない……けれど、精神的恐怖が身体を動かせようとしない……
抜け出そうともがいている間にも『召喚せし者』を処刑せんと煉獄の青い炎が宙を燃やし、二人の元へ向かってくる。