fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者)   作:鴉鍵

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もう一人の『召喚せし者(マホウツカイ)』②

「来なさい……全てを滅ぼし、己の目的を果たす為なら神をも討つ魔剣……グラム!」

 

 虚空より現れしセリーヌの『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』

 

 それは漆黒の鍔に柄、それと愛反するように真っ白に輝く銀色の刀身。柄には黒い包帯が巻かれ、余分の包帯が宙を舞う。刀身は二股状になっている。

 

「もしや、そいつは……」

 

「ええ、オーディンさんと桜さんの大好きなニーベルンゲンの歌と同等の存在となった英雄……シグルドの武器です」

 

 ニーベルンゲンの歌に登場するジークフリートはシグルドでもあり、ジークフリートの得物であるバルムンクも魔剣グラムと同様だったという。

 

 実はオーディンの語るニーベルンゲンの歌のファンは桜だけではなく、幼いセリーヌもまたそのお話を好んでいた。

 

「懐かしいな、消灯時間だというのに、続きを聞かせてとせがむお前の事を思い出すよ」

 

「ええ、昔の私はオーディンさんのお話の虜だった。そして、この『戦略破壊魔術兵器』を生み出した。それに関しては感謝するわ、オーディンさん」

 

 セリーヌは静かに宙に浮かぶ魔剣を手に持ち、その重さに手応えを感じる。

 

 心なしか、そのマリンブルーの瞳に感情らしきものは無かった。

 

「灼くんの邪魔をしないでください……さもなければ、私があなた達を倒します。これはお願いではありません、警告です」

 

 抑揚のない一定の声でそう言い放つ。

 

「セリーヌ、お主……本気で『召喚せし者』を殲滅するつもりか?」

 

 そう訊ねる苺にセリーヌはコクリと頷く。

 

「考え直してはくれんか? わしには分かる。本当はこんな事をしたくはないだろう?」

 

「ええ、でも、灼くんの為ですから」

 

「っ……セリー……」

 

「無駄だよ、苺」

 

 それでも説得しようとする苺を創世は引き止めた。

 

「奴は『決断』している……彼女もまた一人の『召喚せし者』として戦う覚悟を決めたようだ」

 

 そう言いながら、創世は己の精神を集中させ、オーディンへと成る。

 

「だが、私も引くことは出来ん、邪魔するのであれば、不本意ではあるが、本気でいかせてもらうぞ」

 

 と、創世は……否、オーディンはラグナロクから封印してきたであろう己の魔力を解放する。そして、圧倒的な魔力差を見せつける。

 

「十年前とは比にならないわね」

 

 しかし、そんな状況に置いても、なおかつ冷静でいるセリーヌ。

 

「よせ……止(や)めるんじゃ創! お主もじゃ、セリーヌ」

 

「下がれ苺……奴を斃(たお)す『決断』のないお前では足手まといだ」

 

「っ! 創!」

 

「ふぅ、そろそろいいですか? 行かせてもらいますよ」

 

 と、セリーヌはそれだけ言うとその魔剣を振りかざし、視線をオーディンへと向ける。

 

「はぁっ! 『英雄の記憶(ヴォルスンガ・サガ)』」

 

 先ほどまで大剣を重そうに持っていたセリーヌが、瞬時にナイフでも扱うかのように軽々と振り回し、人間の域を超えたスピードでオーディンへ急接近する。

 

「ーー第一夜『Die Walkuere(ワルキューレ)』

 

「……!」

 

 本来なら『戦略破壊魔術兵器』や能力を使う際に消耗する魔力エネルギーを己と同一化することにより、身体能力が向上し、人間の域を超えた身体能力を発揮することが出来る魔力の応用技『魔力魔術換装(エイン・フェリア)』である『英雄の記憶』を発動し、筋力が全体的に向上したセリーヌであったが……

 

 神をも討つ魔剣の一太刀はオーディンの概念魔術空間により、セリーヌとオーディンの間に別の空間が出来上がり、剣戟による攻撃を防ぐ。

 

「………………」

 

 それでも、セリーヌは特に動じず、ひたすら斬り続ける。

 

「無駄だ、お前も馬鹿ではないだろう。これしきの攻撃では通用しない」

 

「『概念魔術兵装(ヴァナル・ガンド)』……ですか」

 

「いかにも、私が使う魔術は『概念魔術兵装』だ。お前ごときの『戦略破壊魔術兵器』では破れんよ」

 

「くっ……」

 

「そこをどけ」

 

「それは、出来ない相談ですね、灼くんの邪魔はさせない」

 

 それでもなお、振るう魔剣の太刀。音速に近いその太刀は人間であれば、なすすべもなくやられるだろう……だが、セリーヌの目の前にいるのは『召喚せし者』……それも"究極"の『召喚せし者』

 

 たかが『召喚せし者』ごときが全ての『召喚せし者』の頂点に立つであろう"究極"の『召喚せし者』に打ち勝つなど万が一つも無いのだから……

 

「………………」

 

 されど、セリーヌはその魔剣を止める事は無かった。ただひたすら寡黙にその大剣を振るい続ける。

 

「もう一度言おう、そこをどけ」

 

 オーディンは弓を引くような動作を始め、その右拳に暴力とも言える膨大な魔力を練り始める。

 

「第三夜『Goetterdammerung(神々の黄昏)』」

 

 オーディンは右拳に絶対的な『力』の摂理を込め、死神の鎌と化す。

 

「……っ」

 

 その死の具現を見て、冷静であったはずのセリーヌの顔が曇り出す。

 

 死ぬーーセリーヌの脳裏に浮かんだ言葉はそれだった。

 

獰猛なライオンを目の前に死を覚悟するシマウマの子供のようにそれは圧倒的な『力』を示していた。

 

「私も出来ればお前をこの手にかけたくはない……それは無論灼に対しても同じことが言える。これが最後だ……そこをどけ」

 

 瞬間、すぐさまそこをどきたくなる衝動に駆られたが、何とか抑えつけ、震える膝を落ち着ける。

 

 セリーヌは感じていた。灼の禍々しい魔力とはまた違った意味での恐ろしさ……

 

 灼の殺意の嵐は深層心理のみに影響を及ぼし、動きを止める……

 

 だが、目の前に立つソレはただの純粋な『力』……深層心理などという生温いものではない。身体そのもの、心そのもの、魂そのものを恐怖に陥れるもの。

 

「っ……駄目!」

 

 それでもなお、セリーヌはオーディンの行く手を阻むように立ち塞がる。

 

「あくまでどかぬと言うのだな」

 

「灼くんの邪魔は……させない」

 

「そうか、あまり賢いとは言えんが、見事な覚悟だ」

 

 それだけ言うと、オーディンはその拳をセリーヌへと標的を定める。

 

「さらばだ。『天地創造の神槍(グングニル)』」

 

瞬間、放たれる紅い一撃……その先には恐怖に怯える子犬のようなセリーヌの姿があった。

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