fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者)   作:鴉鍵

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龍一の日常

「………………」

 

 月読島の海岸にて、皇樹 龍一は潮風を身に浴びながら行き来する波を眺めていた。

 

「こんにちは」

 

「っ!」

 

 急に話しかけられ、咄嗟に身構える龍一。

 

「えっと……お邪魔したかな?」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

 話しかけてきたのは茶髪の男性。後ろ髪が長く、一つに束ねている。

 

「平和ですね、いい島だ」

 

「そうですね」

 

 背が高く、魔導師のロープみたいなものを着ており、その風貌からは只者ではない何かを感じさせる。

 

「この島には観光で来たんですか?」

 

「ええ、そうです」

 

 見知らぬ男性と会話を交わし、海を眺める龍一。するとふと男性が龍一に視線を向ける。

 

「君は……何か武術でもしてるのかな?」

 

「え? あ、はい」

 

「ほう、道理でなかなかいい体格……それに熟練者の香りを漂わせる。悪くない」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 褒められたのだろうか、龍一はその男性に頭を下げる。一見するとその男性は身長が高いが武術とは全く縁遠い程、細くひょろっとした身体だった。そんな男性がどうして自分が武術の熟練者だと見抜いたのか不思議でならなかった。

 

「だけど、君はそれ程の力を持ちながらもまだまだ未熟だと感じているだろう?」

 

「……っ!」

 

 まるで、男性は心が見えるような感じで龍一の心理を引き当てる。

 

「な、なんで……」

 

「なんとなく、そういう風に見えたからね」

 

 驚愕する龍一を横目に男性はクスリとふんわり笑う。その魔導師のようなロープを除けば、優しげな笑顔の似合う好青年にしか見えない。しかし、その内にまるで獣でも飼っているかのような底知れない危険な香りも同時に漂って来る。

 

「自分の力がまだまだ未熟で、護りたい人すら満足に護れず、他人に未来を委ねてしまった事が辛いのかな?」

 

「なにを……」

 

 次から次へとグサリと龍一の心象を引き当てる男性。さすがの龍一もこれには警戒心を覚えてしまい、男性からやや一飛びで離れ、臨戦態勢を思わずとってしまう。

 

「君の気持ちはよく分かるよ」

 

 されど、男性は警戒心を抱く龍一に対して、特に身構える事なく、龍一に向かってゆっくりとした足取りで歩み出した。

 

「君のその瞳……私の瞳と同じだからだ」

 

「え?」

 

「自分には護るべき者を護れず、他人にはその力がある……それが悔しく、自分が嫌になる」

 

「っ!!」

 

 龍一の顔が一瞬にして強張る。何故なら男性の吐いたその言葉は龍一の現在の心象をより正確に表していたからだ。

 

「自分だって、努力しているはずなのに、彼はそんな自分を更に乗り越えて行ってしまう……」

 

「………………」

 

 まるで龍一の事を身近で見ていたかのように、正確に龍一の心象を当て続ける男性。最早龍一には言い返す言葉すら失っていた。

 

「その反応、どうやら当たってたみたいだね」

 

「……っ! あなたはいったい……」

 

「すまない、人と話すのは久しぶりだったのでね、つい熱くなってしまったよ」

 

 男性は龍一の問いに答えず、背を向け、ゆっくりと歩き出す。どこか病弱を感じる儚さを漂わせながらもどこか侮れない雰囲気を醸し出す矛盾した背中はゆっくりと消えて行った……

 

「龍一」

 

 謎の男性の消えゆく背中を見据える龍一の背後からまた声をかけられる。しかし、その声はよく知っている声で、自分の一番大切な人の声であった。

 

「なぎさ……」

 

 振り向くとそこには幼馴染の鈴白 なぎさが立っていた。彼女こそが僕の護るべき者。彼女を笑顔にする為なら何だってする。

 

「どうしたの? 龍一? なんだか元気が無いみたいだけど……」

 

「いや、そんなことはないよ、僕は大丈夫さ」

 

 護るべき者に心配をかけてしまった事に罪悪感を覚え、心配かけまいと笑顔を見せる。

 

「そんなことより、なぎさはどうしてここに?」

 

 と、龍一が問い返すと、なぎさはどこか恥ずかしそうに頬を紅く染め、うつむく。

 

「なぎさ? 大丈夫かい? 体調でも悪いのか?」

 

「う、ううん、違うの……その、龍一の姿が見えたから……」

 

「僕? 僕に何か用かい?」

 

「え? べ、別に用事はないんだけど……その……」

 

 また頬を紅くし、もじもじと身体をくねらせる。そんななぎさを見て、龍一はあぁ、と納得する。

 

「なんだ、なぎさはトイレに行きたいんだね? だけどここにはトイレがないから、そこの岩陰にで……」

 

「り、り、龍一の馬鹿ぁ〜〜〜〜」

 

 今までにない程、顔を真っ赤にし、渾身の一撃を龍一の鳩尾に喰らわす。

 

「がぁ……な、なんで……」

 

「龍一の馬鹿! もう知らないんだから」

 

「り、理不尽だ」

 

 なぎさの一撃は予想以上に重く、思わず片膝をつく。しかし、なぎさはそんな僕を一瞥し、ふん! とそっぽを向けて去って行く……

 

「いったい、僕がなにをしたって言うんだ……」

 

 龍一は最後の最後まで自分の愚行を理解できぬまま、まだ痛むお腹をさすっていた。

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