fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者)   作:鴉鍵

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蛇に睨まれた蛙

「やーっぱり、いたわね」

 

「っ……」

 

 星見学園昼休み……ひと気のない中庭にて、赤髪の少女がとある少女を追い詰める。

 

「敵に回ったあんたがのこのこと学園に来るなんて、頭おかしいんじゃない?」

 

「………………」

 

 辛辣な言葉をかける紅葉……しかし、少女はなんの反応も見せない。

 

「っ! いい加減、なんか言ったらどう? 黒羽 紗雪!」

 

「………………」

 

 そこにいたのは、制服姿の黒羽 紗雪だった。

 

「私も一応この学園の生徒よ、どうして学園に来たらおかしいのかしら?」

 

「っ、あんたねぇ……学園に来たら私達と鉢合わせになることぐらい分かってるでしょ!」

 

「ええ、でも今は貴方達を攻撃するつもりはないわ」

 

「はぁ? どういうつもり?」

 

「灼さんの指示よ、ここ一週間は貴方達を攻撃するなと言われてるわ」

 

「どういうこと?」

 

「知らないわ……私は灼さんの指示に従っているだけ」

 

 あまりにも無機質……自分の意思など全くないかのような紗雪に紅葉は憤りを感じる。

 

「っざけんじゃないわよ! 黒羽 紗雪! 灼さん灼さんって、あんた自身はどう思ってんのよ!」

 

 紅葉にとって、灼とかと言う奴の意思などどうでもよかった。かつて犬猿の仲だった紗雪の気持ちを知りたかったのだ。そう思わせる程、今の紗雪は空っぽなのだから……

 

「私に……意思は存在しない……私の身体、心、技術は全て灼さんの為にあるのだから」

 

「この……前から気に食わなかったけど、今のあんたはもっと気に食わないわ」

 

「ならそれでいいじゃない? お互い余計な感情が無い方がやりやすい」

 

「はっ、そうね……それだけは同感よ」

 

 ジリジリと臨戦態勢に移る紅葉。だが、対する紗雪は灼の指示に忠実に従い、一向に争う素振りを見せない。

 

「あんたねぇ、れーじの事はどうするつもり?」

 

「っ!」

 

 零二の名前を出すと、明らかに反応する紗雪。どうやら、零二に対する感情はまだ完全に消え去っていないようだった。

 

「に、兄さんは……関係ない」

 

「ふーん、本当に? だったら、今すぐ私がれーじを殺してあげてもいいわよ? あんたがやりやすいようにね」

 

「それは駄目!」

 

 空っぽだったはずの紗雪が声を荒げて、紅葉に制止をはかる。

 

「なんだ、空っぽのお人形さんに成り下がったと思ったら、まだ人間らしいところは残ってるわけ?」

 

「っ…………」

 

「一つ聞くけど、もし、灼とれーじ、二人が死にかけていたら、あんたはどっちを助ける?」

 

「それはもちろん、あら…………っ」

 

 紗雪はなんの迷いもなく灼さんと言おうとしたはずなのだか、心の奥底にかすかに残っている感情がそれを止める。

 

「あれ? 灼って奴を助けるの?」

 

「それは……当ぜ……くっ!」

 

 なぜだろうか、身体、心、技術と紗雪の全ては灼を優先にしろと訴えているのだが、魂だけはそれを拒む。

 

 迷い戸惑う紗雪を見て、紅葉はどこか満足気に眺めていた。迷いがあると言うことは紗雪は完全に堕ちていないと言うことになる。まだ引き戻せる余地があると言うことだ。

 

 っ、はは、なんで私が黒羽 紗雪を引き戻そうと必死になってんのかしら……別にあんなやつどうなってもいいはずなのにさ……

 

 紅葉もまた自分の感情に戸惑っていた。あれ程毛嫌いしていたはずの紗雪をまたこちら側へ引き戻そうと必死になっている自分がいることに紅葉は不思議さを覚えずにいられなかった。

 

「あっれぇ? 裏切っちゃうぅ?」

 

 突如、その場に響いた胸糞悪くなる声……

 

「っ!」

 

 その声を聞いた紅葉は背筋に悪寒が走る。紅葉の第六感が無邪気そうな声の中に隠された舐め回すようなドス黒い何かを感じた。

 

「さーゆーきーーちゃん! 灼ちゃんを裏切っちゃやーよ?」

 

 声と同時に現れたのは褐色肌の男性。茶色い髪に黄色い瞳。どう見ても日本人離れした男性は赤いベースボールキャップを被り、どこからともなく現れた。

 

「………………」

 

 今まで冷静を保っていたはずの紗雪がふるふると身体を震わせている。

 

「っはは、いい子だねぇ」

 

 そんな紗雪を見て、褐色肌の男性は満足気に笑い、紅葉の方へ、その黄色い瞳を向ける。

 

「はは、旨そうなオンナだなぁ」

 

「っ!」

 

 紅葉はその黄色い瞳と目があった瞬間、縛り付けられたかのように動けなくなった。まるで蛇に睨まれた蛙のように……

 

「なぁまぁえぇ、なんて言うのぉ?」

 

「………………」

 

 始めて感じる恐怖のあまり、うまく口が動けない。

 

「ひっどーい、無視かよぉ」

 

 大袈裟に落ち込むリアクションをしながら、そろりそろりと紅葉に近づく褐色肌の男性。

 

「僕はアストレ……よろしくね?」

 

 と、自己紹介をした後、アストレと名乗った男性は手を伸ばし、紅葉の頬を撫でる。

 

「な・ま・え! なんて……言うのかなぁ?」

 

 頬を撫でるその手はまるで獲物を味見する蛇の舌のような錯覚を受ける。

 

「さ、里村 紅葉……」

 

「へぇ、可愛い名前……きーめた! 里ちんって呼ぶよ」

 

 と、無邪気そうに微笑み、紅葉の頬を撫でていた手は顎へ滑らせ、クイッと顎をあげる。

 

「んっ……!」

 

 次の瞬間、アストレは紅葉の口を奪う。強引に舌を入れられ、激しい嫌悪感に陥る紅葉。しかし、恐怖のあまり身体が動かず抵抗出来ない。

 

「ちゅぱ……ちゅぷ……んー、この味嫌いじゃないなぁ、僕と同じ罪に塗れた味がするよぉ……っはは」

 

 やがて、紅葉の口から離れたアストレは口周りをペロリと舐め周り、紅葉の味に浸る。

 

「さーて、里ちん、またねーー……あー、そうだ。紗雪ちゃん……また迷うような事があったら……殺すよ?」

 

「っ!」

 

 嫌らしい程無邪気な笑みを紅葉に向けた後、紗雪へ向き返り、毒々しい視線を向ける。

 

「そ、そんな事……あなたに言われなくても分かってる!」

 

「ふぅーん、ならいいけどさ」

 

 紗雪の返事を聞き、毒々しい視線をしまい。また無邪気そうな表情に戻るアストレ。

 

「じゃ、僕はこの島を観光してくるよ……残りの一週間……楽しまないとねぇ」

 

 そう言って、アストレは手をひらひらさせながら、去って行った。

 

「……私も戻るわ、もう兄さんの話はしないで」

 

 紗雪もまたその場から去って行く……

 

「っ……なんなのよ……あいつ」

 

 生まれて始めて感じる恐怖。無理やり口を奪われた屈辱感より逆らったらどうされるか分からないと言う恐怖感が優っていた。

 

「紅葉ーー」

 

「待つんだ、なぎさ」

 

 紅葉の姿を見かけたなぎさと後を追う龍一が駆け寄ってきた。

 

「あ……なぎさ」

 

「大丈夫? 顔色悪いけど」

 

「大丈夫よ、なぎさ……」

 

 と、虚勢を張るが、どこか弱々しいその声は更になぎさを不安にさせる。

 

「何か……あったの?」

 

「んーん、なんでもない! ほら、早く教室に戻ろっ! 昼休みが終わっちゃうよ」

 

「ん……わかった」

 

 なぎさはどこか不安を感じながらもこれ以上追求しても紅葉を苦しませるだけのような気がし、大人しく紅葉と肩を並べて教室へ戻る。

 

「里村……いったい君は何に怯えていたんだ?」

 

 二人に遅れて後を追う龍一。里村の変貌っぷりの原因を確かめるべく辺りを見回すが何も無かった。

 

「あの、でかパイも美味しそうだなぁ」

 

「っ!」

 

 龍一は気味が悪い声が聞こえ、後ろを振り向くが、そこには何も無い。

 

「気のせい……か?」

 

 龍一はそう言い残し、なぎさの後を追う。

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