fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者)   作:鴉鍵

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探索 零二編

「……紗雪」

 

 龍一と紅葉と別れ、ミルキー通りのパトロールを開始したのはいいが、どこをどう探せばいいのか分からず、物思いにふけっていた。

 

「にゃーー」

 

「ん?」

 

 可愛らしい声と足元に妙な感覚を感じ、視線を下に向ける……

 

「にゃーー」

 

「お前は……」

 

 この猫には見覚えがあった。確か、商店街にいる紗雪の仲良しノラ猫の内の一匹だっだ。中でも特に紗雪のお気に入りの白い猫と黒い猫の片方、うたまるという名前の雪のように白い猫だ。

 

「にゃん」

 

 零二とは面識が無いはずなのだが、俺の足元に首をすりつけて来る。

 

 恐らく、零二の身体に残る僅かな紗雪の匂いを嗅ぎつけたのだろう。

 

「そうだな……こいつらの為にも、紗雪をなんとか元に戻さねぇとな」

 

 灼は紗雪の心だけを殺し、新たな人格を作り出したと言っていた……今は特に何も思い浮かばないが、必ず、紗雪を元に戻す方法があるはずだ。

 

 零二はそう信じ、己の道を歩く……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「っ………………」

 

 手当たり次第、店を回るがやはり灼の手かがりとなるものは皆無だった。

 

「ま、こんな人通りの多いところにいるわけないよな……」

 

「零二?」

 

 よく知る声が聞こえ、その方向に振り向くと

 

「親父……」

 

 そこには零二の父であるオーディンこと創世が黒いシャツ一枚といったかつてのオーディンからは想像できない格好だった。

 

「こんなところで何をしている?」

 

 シャツ一枚の創世は鍛え上げられた筋肉が露わになり、老若問わずにあらゆる女性の視線を釘つけにする。

 

「あのクソ野郎を捜してんだよ」

 

「ふむ、パトロールか、皆考える事は同じだな」

 

「みんな?」

 

「ああ、先ほど龍一やワルキューレに会った」

 

 龍一はともかく、雨宮までここに来ていたとは……それに

 

「親父も……そうなんだろ?」

 

「そうだ」

 

 零二の問いに答える創世。やはり、創世もまた灼の痕跡を探すためここに来たらしい。

 

「だが、残念ながらここには痕跡が残されていない。これ以上の探索は無駄だ」

 

「いや、まだ分かんねーだろ?」

 

「分かるのだよ零二。我が概念魔術空間にて、魔力の残滓を探って見たのだが、まるで始めからそこに無かったかのように、消されていた」

 

 半分程理解できなかった零二だったが、あらゆる不可能を可能にした"究極"の『召喚せし者(マホウツカイ)』である創世がそう言うのだ……恐らく零二一人がどう足掻こうが、創世以上の結果を見出すことは出来ないと感じ取る。

 

「クソッ……」

 

「まぁ、そう焦るな零二……奴の魔力残量から見て約一週間は動けまい」

 

「一週間……」

 

 それほ少し前に紅葉に聞いた情報とほぼ一致する物だった。

 

「奴は私に任せておけ……お前達は今の時間を謳歌するといい」

 

「はっ、悪いがそう言うわけにもいかねぇんだよな」

 

 創世の優しさを一蹴する零二。だが、創世の顔は不機嫌になることなく、寧ろ満足そうに口を尖らす。

 

「ふ、それでこそ私の息子だ。零二」

 

 創世は手を伸ばし、零二の肩に一度軽く手を置いた後、頭をくしゃくしゃと撫でる。その武骨な掌はゴツゴツとしており、硬かった……

 

「よせよ! 親父!」

 

 恥ずかしさに耐えかねた零二は創世のその手を振りほどく。

 

「照れるな」

 

「照れてねーよ」

 

「ふ、そうか」

 

「ああ、そうだよ……」

 

 そう言いつつも心の何処かで、不慣れな親との接触に気恥ずかしく思う零二。かつて幼い零二と紗雪の面倒を見てくれていた黒羽老夫婦のような『親』という存在。

 

「零二……」

 

「なんだよ」

 

「よかったら、一緒に探索しないか?」

 

 だが、その言葉は建前であって、創世はただ実の息子である零二と少しでも共にいたいのだ。

 

「別に……いいぜ」

 

 そんな創世の気持ちを感じとったのか、しばらく考え込んだ後、ため息交じりにそう答える。

 

 創世はコクリと頷き、零二の側に寄り、肩を並べ手当たり次第ぶらつく。

 

 ぶらついている時、二人の間にはこれと言った会話は無いものの、言葉に出来ない酸っぱい感じが零二を包み込み、いつものマイペースっぷりが出せないでいた。

 

「………………」

 

「………………」

 

 無言のまま、どれだけ歩いたのだろうか……ふと零二がボンヤリそう考えていると、不意に創世が立ち止まる。

 

「どうしたんだよ、親父」

 

「そこの店で、少し休まないか?」

 

「あ……ああ、いいぜ」

 

 創世が指差したのは居心地の良さそうな喫茶店だった。放課後の時間帯でもあり、喫茶店には見慣れた制服の学生達が和気あいあいと 話している。

 

 零二は創世が休憩するためにこのような店を選んだのが意外だった。そもそも創世の雰囲気と喫茶店の雰囲気は全く釣り合っていない。

 

 なぜ、このような店に選んだのか……

 

「零二……最近の若者は……こういう店が好みなのか?」

 

 創世の発した言葉によって、創世の意図を理解する零二。

 

 常に仏頂面の創世からでは想像出来ないのだが、どうやら創世は息子である零二ともっと近づきたいと思っており、零二の年代が好みそうな店をあえてチョイスしたのである。

 

「ま、そうだな……」

 

 零二は軽く頷き、空いてる席を探し、そこに座る。後に続いて、創世も向かい合う形で席に座る。

 

「すいませーん」

 

「はーい」

 

 店員を呼び、メニューをもらおうと声をあげる零二。その声に返事して一人のウェイトレスがそそくさに現れた。

 

「えっ! 零二?」

 

「なっ! 美樹!」

 

 現れたウェイトレスは意外にも幼馴染であり、初恋の相手でもある美樹だった。

 

「どうして、美樹がこんなところにいるんだよ」

 

「あれ? 前に言わなかったっけ? 私ここでバイトしてるんだよ」

 

「あ……ああ!」

 

 そういえば、前に美樹がここでバイトしている姿を見かけたことがあった。可愛らしい喫茶店の制服を着こなし、両手にパフェのようなものを持ち、店内を駆け回っていたような記憶がある。

 

 創世に気を取られ、美樹のいる店だとは知らずにこの喫茶店を選んでしまったのだ。

 

「あれ? こちらの方は……お兄さん?」

 

 美樹は零二と向かい合って座っている創世に目を移し、首を傾げながらそう言った。

 

「いや、これ……俺の親父だ」

 

「ええっ! 零二のお父さん! 全然そう見えなかったよ」

 

 それもそうだ。創世は『概念魔術(ヴァナル・ガンド)』により、永遠の存在となっており、十年前のあの日から年をとっていない。そんな創世は若く、さらに零二とどこか面影が似ており、事情を知らなければお兄さんと間違ってしまう事も無理はない。

 

「随分とお若いですね」

 

「どうも」

 

 と、創世に微笑みかける美樹だが、一方創世は無表情で頷く。

 

「あ、ご注文はどうしましょうか?」

 

 ハッとようやく自分の本業を思い出し、ウェイトレスとして接し始める美樹。

 

「まずはメニューを頼む」

 

「はい、こちらになります」

 

 美樹が差し出したメニューを取り、創世共々覗き込む。

 

「そうだな……俺はこのアイスティーにするか。親父は?」

 

「ブラックコーヒー」

 

「はい、畏まりました。アイスティー、一つとブラックコーヒー、一つでよろしいでしょうか?」

 

「ああ」

 

「問題ない」

 

 同時に頷く零二と創世。

 

「では、失礼します」

 

 と、美樹は軽くお辞儀をして、チラッと零二と目が合う。

 

 ニコッと優しい笑顔を向けられ、思わずドキッとしてしまう零二。

 

「あの娘……お前の彼女か?」

 

「っ! 何言ってんだよ親父!」

 

 美樹が店内に消えたと同時に創世は零二にそう訊ねる。

 

「いや、妙にお前に対して好意的だったからな……」

 

「………………」

 

 創世のその言葉に零二はチクリと胸が痛む。それは紛れもなく零二はまだ美樹の事をどこか忘れられないという証。

 

「前に……付き合ってたんだよ。今じゃただの友達だ」

 

「そうか……」

 

 深々と頷き、配給されているおしぼりを手に取り、拭く。

 

 これ以上追求するような素振りを見せない創世。そんな創世に零二は心の中で感謝をしつつ、おしぼりで手を拭き始める。

 

 しばらくし、美樹とは別のウェイトレスがアイスティーとブラックコーヒーを運んできてくれた。

 

 ウェイトレスは明細書を置き、軽くお辞儀した後、去って行く。

 

「ふむ、やはり日本のコーヒーは格別だな」

 

 早速コーヒーをすする創世は満足気にそう呟き、カップを揺らす。

 

「………………」

 

 続いて零二も注文したアイスティーをすする。

 

「零二……黒羽 紗雪の事、すまなかったな」

 

「え?」

 

 先にグラスを置いた創世が申し訳なさそうに頭を下げる。突然の謝罪に零二はどう反応したら良いのか分からず、ただ、口を開いている。

 

「もし、私がいち早く、奴の存在に気づいていたなら、黒羽 紗雪を失うことなく、対応ができていたと言うのにな」

 

 痛々しいほど伝わってくる後悔の念。我が子の妹を見殺しにしてしまった事に負い目を感じているのだろう……

 

「はっ、いきなり何を言うかと思ったら、そんな事かよ」

 

 だが、零二は創世の後悔を鼻で笑い飛ばした。

 

「そんなこと……だと?」

 

「ああ、別にあのクソ野郎が現れたのは親父のせいじゃねぇ……誰のせいでもねぇんだよ」

 

「零二……」

 

「それに、俺はまだ紗雪を諦めたわけじゃねぇ。まだ、何か打つ手があるはずだ」

 

「ふ、前向きだな零二」

 

 眩しいぐらいに前向きな零二に創世は思わず笑みを零す。それは息子の成長を嬉しく思う感情から成るものなのだろうか……

 

「何言ってんだよ親父……老けたか?」

 

「ふ、生憎、見た目以上に年齢をとってるのでね」

 

 その後、二人はしばらく談笑を楽しむのであった。

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