fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者)   作:鴉鍵

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探索 紅葉編

 零二、龍一、紅葉がミルキー通りで別行動を開始した後……

 

「………………」

 

 紅葉は一人、俯きながら今日の出来事を思い出していた。

 

 アストレ……そう名乗った褐色の肌の外国人は紅葉に深い深い心の傷を残した。

 

 だが、それ以上に、あんな最低な奴に恐れてしまった事に怒りを覚える。

 

「覚えときなさいよ……絶対裁いてやるんだから」

 

 誰知れず一人でそう決心し、ミルキー通りを闊歩して行く。

 

「さて、まずは……えーっと、誰だっけ? あ、あ、あら? あられ? 違うよね? うーん」

 

「灼(あらた)ね」

 

「そうそう! それ! 灼だった……って」

 

 声がした方に首を向けるとそこには腕を組みながらにこやかに笑顔を向けている雨宮 綾音の姿があった。

 

「げっ、ばかいちょー」

 

「あら、いきなりそれは無いんじゃないかしら?」

 

「うるさい、それよりばかいちょーが何でここにいんのよ」

 

「あなたと同じよ紅葉」

 

 それはつまり、雨宮とまた灼の痕跡を探す為にここミルキー通りに来た事を意味する。

 

「それに……オーディンも来てるみたいよ」

 

「ええっ! マジ?」

 

 驚くのも無理はない。零二の父親はどちらかと言えば探索などしなさそうである。現に過去のラグナロクではただ待ち構えることの方が多かった。

 

「ふーん、オーディンまで動くだなんて……」

 

「紅葉」

 

「ふぇ?」

 

 急に雨宮に呼ばれ、可愛い声をあげながら、キョトンと雨宮の方へ視線を向ける。妙に雨宮は真剣な面持ちで紅葉を見つめていた。

 

「な、なによ……」

 

「紅葉、あなた、さっきから様子がおかしいわよ。何があったの?」

 

「っ……」

 

 動揺をなるべく隠し、いつものように振舞っていたはずなのに、あっさりと見抜けられてしまった。

 

「な、なに言ってんの?」

 

「ごまかしても駄目よ。私には分かるから」

 

「な、なんでよ」

 

「ふふ、観察眼には自信があるのよ」

 

 幼い頃から尊敬と嫉妬の目で見られ続けた雨宮には知らず知らずの内に相手の顔色を伺うために観察眼を磨き上げたのだ。

 

「はは、そっか、やっぱりばかいちょーには叶わないや……」

 

 力弱く微笑む紅葉に雨宮の面持ちは一層深くなる。

 

「良かったら……きかせて?」

 

「…………ん」

 

 長く考えた後、紅葉は決心したかのように深く頷く。

 

 そして、今日学園の昼休みで紗雪に会ったこと……そして、アストレに会ったことを包み隠さずに全て話した。

 

 

 

「灼の仲間……」

 

「うん」

 

 紅葉の話だけで充分分かる。あの男アストレはかなり危険な存在だと……

 

「分かったわ……今からクレープ屋さんに行きましょ」

 

「うん…………ふぇ?」

 

 雨宮から放たれた言葉は今までの空気をぶち壊しにするものだった。

 

「ち、ちょっと、ばかいちょー! 正気なの?」

 

「あら、私はいつだって正気よ、それにオーディンにこれ以上の探索は無駄だって言われたからね」

 

「だからって……」

 

「いい、紅葉、これは同情なんかじゃなくて友達として、一緒に食べに行きたいだけなの……分かるかしら?」

 

「……ふふっ」

 

 あまりにも突拍子すぎて、なんだか面白おかしくなり、つい笑みを零す。

 

「やっと、笑ったわね、やっぱり紅葉はその笑顔が一番よ」

 

「ばかいちょー……なんだか、れーじみたい」

 

「ありがとう、最高の褒め言葉ね」

 

 その後、紅葉の案内で行きつけのクレープ屋さんに向かい、雨宮との時を過ごした。

 

「ありがと……綾音」

 

「え?」

 

 日が暮れる直前、クレープを手に持ちながらミルキー通りを歩く二人。

 

 突如、紅葉が誰にも聞かれないぐらい小さな声で、そう言う。

 

「なに? 今、何て言ったの?」

 

「う、うるさい!」

 

「もう一回言ってくれないかしら?」

 

「言うわけないでしょ、ばかいちょー!」

 

 そんな微笑ましい二人の少女。このまま何事もなく時が過ぎ去れば楽しい一日と

 

「……紅葉か」

 

 ならなかった……

 

「なっ!」

 

「あなた!」

 

 二人の目の前に現れたのは龍一だった。しかし、二人はそこに驚いたわけではない。龍一の隣にいる人物に驚いたのだ。

 

 そこにいるのはかなりの長身で、長い茶髪をゴムヘアで束ねていた男性……

 

 二人は実際に会ってもいないのに、瞬時にその人が『灼』だと感じ取れた。

 

 零二の話だけではとうてい信じられなかったのだが、実際に対峙してようやく理解した。

 

 あの男には勝てない……

 

 オーディンに似た巨大な威圧感……いや、それ以上のものを感じる。

 

「貴様らも『召喚せし者(マホウツカイ)』か?」

 

 長身の男性から放たれた一言はなぜか、二人に重くのしかかる。

 

 いや、そんな事よりも

 

「これはどう言うこと? 皇樹くん」

 

 今回の事件の元凶である長身の男性灼の側に龍一がいると言うことがよっぽど大きな問題だった。

 

「……………-」

 

 龍一はただ、申し訳なさそうに俯き、ただその場に佇んでいる。

 

「もしかして……紗雪ちゃんと同じパターンかしら?」

 

「いや、違うよ」

 

 雨宮の問いに重い口を開き、そう答える龍一。

 

「僕は……自分の意思でここにいる」

 

「………………」

 

 龍一の言葉は真っ直ぐで嘘偽りは無かった。なら、なおさら理解出来ない。どうして龍一が灼の側にいるのかを……

 

「まさか、あなた……なぎさを人質に取ったんじゃないでしょうね?」

 

 すると、雨宮の隣にいる紅葉がまた別の可能性をぶつける。

 

「なぎさ? ああ、皇樹の彼女か……別に人質にはしていない」

 

 そう答えたのは灼。嘘をついている可能性もあったが、その堂々とした姿勢から、灼が嘘をつくとは思えない。それに……雨宮の観察眼を以ってしても灼の様子に変化はなく、嘘をついていないと思われる。

 

「なら……なんで、あれの側にいるのよ! りゅーいち! あれがどんな奴か、あんたも知ってるでしょ! 今起きているこの事態を作った張本人、私たちを……なぎさを殺そうとしているのよ!」

 

「分かっている!」

 

「なら、なんで!」

 

「君には理解出来ない!」

 

「なっ!」

 

 突然声を荒げた龍一に、紅葉は驚き、口を閉ざす。

 

「そんな……能力(ちから)を持っているくせに、あくまでも人間としてあろうとする君には……理解出来ない……出来るはずがないんだ!」

 

「り、りゅーいち?」

 

 つい先ほどまで零二らの日常を護り通そうとしていたはずの龍一の面影はもうそこにはなかった。紗雪の時と全く同じだ……否、まだ兄である零二の事を覚えている紗雪に比べ、龍一の完全なる変貌っぷりに、紅葉はただただ戸惑う。

 

「瀬道 灼さんでよろしかったかしら?」

 

「ああ、そうだ」

 

 そんな中、雨宮が灼に向けて言葉を発した。会った時から長身の男性が灼だと理解したとは言え、雨宮と紅葉にとって、瀬道 灼は初対面の相手だ。

 

「皇樹くんに何を吹き込んだの?」

 

「私の考えを話しただけだ」

 

「………………」

 

 やはり、灼には嘘をついているような素振りがない。だとすれば……本当に、灼は己の理想を話しただけで龍一を惑わし、仲間に引き入れたと言うのか? 私たちと敵対すると言うことはなぎさにも敵対すると言う意味になる。龍一はそれを分かっているのか?

 

「りゅーいち、なぎさは……なぎさはどうするの?」

 

「っ……なぎさは、なぎさだけは例え何があろうと護る」

 

 龍一の言っている事は矛盾している。なぎさを護るために敵に回ると言うのは明らかにおかしい。

 

 何がそこまで龍一を変わらせたのか……

 

「では、これで失礼するよ」

 

 灼はそう言い、紅葉と雨宮に背を向け、去ろうとする。

 

「あら、私達『召喚せし者』を殲滅するんじゃなかったかしら?」

 

 そんな灼に分かりやすい挑発をする雨宮。滅多に巡り会えない今回の事件の元凶。出来る限り情報を集めたいのだ。

 

「生憎、今の私の魔力ではお前たち『召喚せし者』を殲滅するには不安がある。完璧にお前たちを消すためなら、一週間の猶予時間などくれてやる」

 

 それだけ言うと、灼は去って行った。

 

「次会う時は……」

 

 龍一はその先の言葉を言わずに、飲み込み、灼の後を追う。

 

「なんで……なんでこうなるのよ!」

 

「紅葉……」

 

 突如終わった平和な日常。次々と変わっていく仲間。

 

「あんな……あんな奴の好きにさせるもんか! 私の日常を壊そうとするやつは誰であれ、許せない! 瀬道 灼……あんただけは、絶対に私の手で裁いてやる!」

 

 紅葉の決心の叫びが響き渡り、同時に夕日が沈む。

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