fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者) 作:鴉鍵
零二と紅葉と別れ、一人でミルキー通りを駆け抜ける龍一。
「………………」
妙な焦燥感に駆られ、ジッとしていられず、辺りを見回しながら走り続ける。
その時、ミルキー通りにて意外な人物を見つける。
「義父さん?」
そこにいたのはミルキー通りの雰囲気には全く似合わない黒いシャツ一枚の義父であるオーディンこと創世。
「む、龍一か」
「義父さん、こんな所でなにをしているんですか?」
「奴の魔力の残滓が無いかと探していただけだ……お前もそうなのか?」
「はい、僕も灼さんを探していたところです」
「そうか……だが、どうやら無駄足だったようだ」
「え?」
「感じられないのだよ、奴の魔力がな……まるで最初から無かったかのようにな」
「そんな……」
創世の言うことが本当であれば、ここでこれ以上の捜索は無意味であると言うことになる。
「失礼する」
「待ってください、義父さん」
「なんだ?」
去ろうとする義父である創世を呼び止める龍一。
「僕は……今でもあなたの息子でしょうか?」
その質問は創世が零二の実の父親である事が明らかになった時からずっと抱いていた疑問だった。
実の息子の生存が分かった今、創世にとって龍一はもういらない存在では無いか? 所詮、龍一は零二の代わりではなかったのか?
龍一は悩んでいた。共に過ごした時はそんなに長くないとは言え、尊敬し付き従っていた『父親』なのだから……
「愚問だな、きっかけはともかく、お前は今でも私の息子だ。さしずめ零二の兄と言ったところか」
「義父さん……」
「だが、お前はまだ青い……理想ばかり掲げ、己の考えを押し付けるその思想は改めるのだな」
「わかりました……義父さん」
「ああ、何か起これば、私や桜に頼るといい、出来る限りサポートしよう」
創世はそう言うと、今度こそ去って行った……だが、龍一はどこか満足し切れていなかった。
引き続き捜索もとい、軽い散でミルキー通りを周り、己の境遇を思い出していた。
「僕は……いったい……」
龍一は幼い頃から創世と共に世界中を周り、本物のヒーローをこの目で見てきた。悪は絶対に許さない……弱き者を護る……それがヒーローの絶対条件だと龍一は思い続けていた。
しかし、ラグナロクにて創世が戦っていた理由は悪を倒すためにあらず、ただ一人の恋人を生き返らせる事だと知ってしまった。それだけのために僕の友達を……恋人を傷つけた。
そんな創世は龍一の憧れていたヒーローとは全くかけ離れた物だった。理解はできるけど、己の為に多くの物を犠牲にするなど、愚かしい行為だ。
だが、皮肉にもラグナロクの最中にて、なぎさの存在により、世界平和や己の理想より護るべき物があると言うことが分かった。
この世界に……ヒーローは存在しない。
「………………」
だが、龍一はそれを認めるわけにはいかなかった。なぜなら、それを認めてしまえば……
今まで、龍一はなんの為に努力したのか、分からなくなってしまう。
零二や紅葉のように器用には生きられない。不器用すぎる龍一には、その答えから目を背けながら逃げるしか出来ない。
「どうしたら……いいんだ?」
「悩んでいるな」
「っ!」
突如声をかけられ、ハッと声がした方に振り向く。
「あなたは……」
「会うのは……二回目だったな?」
そこにいたのは、数日前、浜辺にて出会った巨躯な身体の長髪の自称旅人。あまりの気配の無さに驚いた記憶がある。
「そうですね、あの浜辺以来ですね」
「ああ、そうだったな」
「どうですか? 月読島は」
「変わったな、特にこことか」
「はは、確かに……」
ここ月読島にて以前と特に変わった所といえば、やはりここミルキー通りにあたる。
「それよりも、どうしたんだ? 悩んでいるようだったが?」
「あ、いえ……なんでもありま…」
「瀬道 灼でも捜しているのか?」
「っ!」
その一言で龍一は臨戦体制に入る。よくよく考えてみればこの男はあまりにも人間じゃなさすぎる。どこか人間を超越したかのような雰囲気に、気配を全く出さない無の存在感。実際、声をかけられる前まで、この旅人の存在を認識出来なかったのだから……
「まさか……あなたが」
「ああ、私が瀬道 灼。お前たち『召喚せし者(マホウツカイ)』を殲滅する『死刑執行人(エクゼキュータ)』だ」
「『魔…(ゲー…)』」
「こんな市街で戦うというのか?」
思いっきり『魔術兵装(ゲートオープン)』と叫ぼうと思ったがそれより早く灼の口が開いた。
「っ!」
何とか思い留まり、口を塞ぐ。このまま戦えば無関係は人にまで被害が出る。灼に集中しすぎてそこまで考えていなかった。
「なら、なぜ、姿を現したんですか?」
「なぜか? お前に会うためだよ」
「え?」
龍一は灼の言葉を理解できなかった。灼とは初対面では無いにせよ、身をさらけ出す危険を犯してまでも会いに来たのか……
「僕に会いに?」
「ああ、あまりにも昔の私に似ているのでな、親近感が湧いたのさ」
過去の自分を見るように懐かしむ瞳を向けてくる灼。されど、両方とも一発触発という事態を想定し、臨戦態勢を解かない。
「かつての私も、お前のように理想の正義と現実の正体の違いに悩み悶えていた」
「っ…………」
それはまさしく、龍一が今まさに悩んでいることの一つ。
「なら……なぜこんな事を? この世界に絶望したのですか?」
「いや、むしろ逆だよ。この世界は儚さすぎる……我らが護ってやらねば壊れてしまうぐらいに……」
「何を……言ってるんだ?」
「つまりだ……私は世界を護るために、『召喚せし者(マホウツカイ)』を殲滅すると誓った」
「っ……何を言うんだ! なぜ僕ら『召喚せし者』を倒す事が世界平和に繋がると言うんだ!」
灼は軽く一息つき、再び己の理念について話し始める。
「話は変わるが、きみはなぜ世の中に戦争が起きると思う?」
「それは……自国に足りない食糧や土地を補うために他国に攻めざるを得ない……」
「それは詭弁だよ青年。そんなものは戦争をするための建前に過ぎない。大義名分のない争いはタブー視されているからだ。だが、それでも人は馬鹿馬鹿しいと思える大義名分を作ってまでも戦う……なぜか? 分かるか?」
「………………」
分からない……それが素直な答えだった。確かに戦争についてここまで深く考えたことは無かった。ただ、自分の護りたいものを護ることに精一杯でそんな事を考える余裕が無かった。
「力だよ」
「ちから?」
「ああ、人は力を持つと、それを確かめたくなる……老若男女関わらずな。我々人とはそういう風に出来ている」
「そんな事は……」
「本当に無いと言い切れるのか? ならば貴様はこれまでの人生の中で自分の力を見せたいと、他人と力を比べ、どちらの方がより勝っているのかを知りたいと思ったことが一度も無いと言い切れるのか?」
「っ……」
無い! と言い切る事が出来なかった……灼の言うとおり、龍一は心の何処かで自分の力を試してみたいと思っていた。特に零二とどちらがより上かを知る事にこだわっていた。
「それが、ただの人間ならば、喧嘩、競技、試合、戯れとなる……だが、私を含めたお前たち『召喚せし者』同士が争えば、それはまさに『戦争』となるのではないか?」
「あっ……」
まさにその通りだ。ラグナロクの時では『悠久の幻想(アイ・スペース)』により、一般人に被害は及ばさなかったが、それがなければ……かつて、義父である創世と世界中を周った時に見た『悠久の幻想』なしでの『召喚せし者』同士の戦いにより緑溢れる街が砂塵と化してしまった。そのような事態になり得る。
「………………」
「故に私は処刑する。力を持ちすぎた『召喚せし者』を……善意も悪意もなく人に害を及ぼす存在を私は殲滅するのだ」
「あなたは……あなたと言う人は」
灼の本意を知った後、龍一の瞳に写っている灼はただの殺人者ではなく、世界平和のために、戦おうとする英雄のようだった。
「人である以上、どんなに戦意が無くてもいずれは何かを果たすために力を振るう……だから、どんなにか弱くとも、『召喚せし者』である以上、倒さなければならない」
そう言われ、龍一の脳裏に思い浮かんだのは高嶺 陽菜子と真田 卿介の姿だった。かつてラグナロクの時、消えゆく陽菜子の命を護るために悪の道へ進んだ真田。その真田を護る為に、陽菜子もまた真田と同じ咎を背負うと決めた。
本来ならば敵である灼の言うことなど聞かない方がいい。今すぐに灼をひと気の無いところに連れ込み、『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』で倒せばそれで終わりだ……なのに、龍一はそれが出来ない……灼を咎めることが出来ない。
なぜなら、龍一も同じだからだ。灼の行動は最終的に世界の為になる。龍一はそれを理解できた。こんなにも世界を弱き存在である人を護ろうとする灼を咎めることが出来るわけが無い。
「だけど……互いが歩み寄れる未来もあるんじゃないか?」
それは、龍一の理想にして最後の希望だった。
「無論、そんな未来も存在する」
「っ……どうやって?」
「力を捨てればいい、そうすればもう『戦争』など起こせない」
「あ……」
始めての人だった……
龍一の理想を笑わずに、無駄だと言わずに、真剣に答えてくれた人……
「世界中の人が武器を捨てれば、争いは無くなる……そう思わないか?」
「確かに……そうなのかも知れない」
「だが、人は争いを好む種族。そう簡単に武器を置きはしないだろう……だが、私は諦めない。人が武器を置くように私は己の力と己の言葉で、誰しもが悲しまない未来を作り出して見せる!」
それはどこまでも青臭い思想だった。普通の人ならばそれを嘲笑うだろう……だが、灼は『召喚せし者』だ。それもオーディンに近い実力を持つ。
もし……もしも彼なら
龍一の望んでいる誰もが歩み寄れる平和な未来を創り出す事が出来るのだろうか……
「そう言えば、まだ貴様の名前を聞いてなかったな」
「あ、ああ、僕は皇樹 龍一」
「皇樹か、いい名前だ。ではそろそろ本題に移ろう……共に行かないか? 皇樹」
「え? それって」
「スカウトのような物だ。貴様なら『力』を正しく使い、世界を平和に導ける一人となれる……私はそう思う」
「………………」
だが、灼について行くと言うことは、零二達を裏切る事に等しい……だけど、それでも龍一には灼の示す道の方が正しいと思えたのだ。
「一つだけ……条件がある」
「なんだ?」
「僕の彼女も『召喚せし者』なんだ。だけど、彼女だけは倒さないでくれないか?」
「名前は?」
「なぎさ……鈴白 なぎさだ」
「分かった……私を含め同志たちになぎさは倒さないよう伝えておく。だが、もしも彼女が『力』を振るえば……」
「その時は……僕が、彼女を倒す」
「分かった……お前の覚悟、信じよう」
こうして、龍一は仲間を捨ててまでも己の理想を果たすために、灼について行くと決めた。