fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者) 作:鴉鍵
二日目の朝
二日目……
「なんだよ、そりゃ」
学園にて、零二は龍一が裏切った事を紅葉らから告げられ、呆気にとられる零二。
「くそッ……」
「そう言う割りにはそんなに驚いていないよーな気がするんだけど?」
「あ……ああ」
なぜだろうか……龍一が裏切ったという話を聞いて、そこにあるのほ裏切られた事による怒りよりも、妙な納得感があった。
「零二、このことはなぎさには内緒にして、お願い」
「分かってるよ」
もしこの事をなぎさが知ってしまえば恐らくショックを受けるだろう。
「何をなぎさに内緒にするんだい?」
「そりゃ、お前が俺たちを裏切った……はぁぁぁ?」
と、なぜかそこには何も変わりない、いつもの龍一が立っていた。
「おはよう、零二、紅葉」
「ちょ、ちょっと待て! お前、裏切ったんだろ!」
「裏切る……かはともかく、確かに僕は君たちから離れ、灼さんのところに行くことにしたよ」
「それを裏切ったって言うんだよ! なら、なんで悠長に学園に来てんだよ! 頭おかしいんじゃねぇのか?」
「僕としてはもう学園に来るつもりは無かったんだけど……灼さんがどうしても行けって言うからね」
「なに?」
確かに普通ならば、龍一はそんな馬鹿げた行動はしないはずだ。灼はいったい何を考えている? もしかして、俺たちを争わせようとしているのか?
「おい、龍一……」
「なんだい?」
「一つ言っとくぞ、お前が俺たちに牙を向けるってんなら、俺たちも容赦しねぇ……いいな?」
「ふ、それでこそ零二! さすが僕が認めたライバルだよ」
「ライバルって……古くせぇんだよ、そういうの」
これで、龍一を通じて灼にも零二らは敵にまわった龍一を倒すのに躊躇なんかはしないと伝えることが出来たはずだ……
「おはよう、みんな」
そこに現れたのは何も知らないなぎさ。
「みんな、酷いよーー、昨日私に黙って帰っちゃうなんてーー」
ぷーーっと頬を膨らませお怒りの様子である。だが、そこには恐怖を感じさせる要素が一つもなく、むしろ可愛く思える。
「なぎさ……」
「りゅーいち……」
突然、真剣な眼差しでなぎさに話しかける龍一。そんな龍一になぎさもどこか緊張した表情になる。
「その、なぎささえ良かったら、今日は一緒に帰らないか?」
「んなっ!」
「ええっ!」
そんな龍一の言葉に零二と紅葉は驚きの声をあげる。あのストレートに言わない限りなにも気づかない、恋のキューピッドもお手上げの朴念仁の龍一がなぎさを誘ったのだ。
「りゅーいち……」
一方なぎさはようやく龍一から誘われ、嬉しさのあまり頬がたるんでいる。
「ダメかな?」
「ううん! いいよ!」
と、心底嬉しそうな表情を浮かべるなぎさ。そんななぎさの様子に龍一はどこか安堵するように息を吐く。
「じゃ、そのまた放課後」
「う、うん、放課後……ね」
照れ臭くなったからか、龍一はそそくさに「トイレ」と一言残して教室から出て行った。中学生の初恋か! と思わず突っ込みたくなる零二。
「良かったね、なぎさ」
「あ、うん……もみひぃ……」
なぎさもまたトマトのように紅くなり、今すぐ湯気が出てもおかしくない状況だった。思考回路がショートしているようである。
「ちぃーっす」
そう言い、入って来たのは霧崎 剣吾。どうやら、蜂による腫れも引いてきたようだ。
「芳やん、ちょい……ちょい来てや」
周りを必要以上に警戒し、零二を直に呼ばず、こっそりと手招きして呼ぶ霧崎。明らかに挙動不審である。
「んだよ、霧崎」
「芳やん、ええ情報を仕入れたで」
「っ!」
まさか、灼に関する情報か? ゴクリと生唾を飲み込み、霧崎の発言を待つ。
「今日の昼からな……」
高鳴る鼓動。いったい今日の昼からなにが起こるというのだろうか……
「女子が体育でプールに行くんや、しかも、更衣室がなんとなんと、前見たあそこなんや」
「そうか、良かったな」
「え? 芳やん、どこに行くんや? 聞いていかへんの?」
と、なにも聞かなかった事にして、霧崎から離れる零二。
「悪いが今はのんびりしてる暇はないんでな……ただ、この事態が終わった時は……改めて頼むぜ、霧崎」
だが、やはり零二も男である。
「ふっ、任しときや!」
霧崎はグッとサムズアップを見せ、零二もまたそれに応えるよう無言でサムズアップを出す。ここにて男同士の約束が出来上がったのだ。
「なーーに、話してんのよれーじ」
と、どこからともなく紅葉が現れ、零二と霧崎を蔑むような目つきで睨みつける。
「な、なんでもないで、のう、芳やん」
「ああ」
「ふーーん」
まだ疑っているようではあるが、そう頷き、なぎさの方へ戻る紅葉。どうやらバレてはいないようだ。
「あ、一つだけ言っとくね?」
と、不意に足を止め、口を開く紅葉。
「もしも……もしもだけどさ、体育の着替えの時、着替えを覗こうとだなんてしたら……八つ裂きにするよ?」
「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」」
里村の射抜くような鋭い殺意に男二匹は凄惨な悲鳴をあげた。
かくして、男二匹の約束は紅葉によって、儚く散って行ったのであった。
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そろそろ、夏の半ばに差し掛かり、学生たちは夏休みを今か今かと待ち望んでいた。
だが、一年のクラスにいる海美はある空席を眺めてため息をついていた。
「俊介……」
あの後、神社まで逃げ出した海美だったが、その後落ち着きを取り戻し、俊介の携帯電話に電話をかけるが、応答してくれず、家にいる俊介の両親に聞いてもまだ帰ってないとのこと。
「いったいどこに行ったの」
そして、本日何度目になるか分からないため息をつく。
ーー「どうせ俺には、何にも無い! 海美を護ってやれる程強くも無い! 何にも……何にも無いんだよ、俺にはっ!」ーー
昨日の俊介の言葉を思い出す。優しく、強く、そして何よりも女性を惹きつける魅力を持つ龍一に嫉妬していたんだろう。海美を護れるほどの力が無かったことが悔しかったんだろう。それをずっと一人で抱え込んでいた。
「そんなこと無いのに……馬鹿」
俊介は私を救ってくれた。海美はそう思っているというのに……そんな海美の気持ちに気づかないほど、俊介を追い詰めてしまったのだろうか……
以前の自分は周りに好かれようとアイドルを演じていて、どこか疲れていた海美を「ありのままの海美がいい」と言ってくれた人。
自分も『召喚せし者(マホウツカイ)』だと分かり、いつラグナロクで、敗れれば存在そのものが消滅し、『梶浦 海美』という存在を無くしてしまうことを恐れていたのに、俊介はただ一つ「忘れない! 海美がいなくなっても俺がぜったい探し出して見せる!」と、恥ずかしげもなく、そう言ってくれた。
その言葉がどれだけ海美の心の支えになってくれた事か……
でも、余計な心配をかけさせたくないという海美の思いやりが、結果として誤解を招き、俊介のコンプレックスを表に出してしまった。
「俊介……」
愛しい人の名前を呼ぶが返事は返ってこず、ただ空いてる席を眺めるだけしか出来なかった。
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今日は記念すべき日だ……
「せーのっ」
白衣を着た医者や薄いピンク色のナース服を着た看護師さん達が一人の少女に向けて、声を合わせる用意をする。
「陽奈子ちゃん、退院おめでとう!」
多くの声がハーモニーを奏で、一人の少女、高嶺 陽奈子に届く。
「みんな、ありがとう……みんなのおかげで、陽奈子、元気になったよ」
と、陽奈子は小さな腕に不相応な派手な花束を持ち、目尻にうっすらと大きな涙粒が浮かんでいた。
「よく、ここまで頑張りましたね、お嬢」
と、黒衣の男性、真田 卿介が微笑を浮かべながら陽奈子の頭を撫で、褒める。
「えへへ、ありがと、真田さん」
そう言う陽奈子の笑顔はやはり、太陽のように眩しくて、荒んだ真田の心を温かくさせてくれる。
先日、陽奈子はかかりつけの医者に退院できると告げられ、こうして、今日、病院全体を巻き込んだ退院式を開くことになった。
とは言え、陽奈子の家は変わらずここである。かつて病室だった陽奈子の部屋は、病室ではなく、自室としてリフォームされる。
ただ、もう陽奈子は数分の外出のために医者に許可をもらう必要はない。これからはいつでも好きに外に出かける事が出来る。ただ、真田の保護下の元という条件付きではあるが……
「あのね、真田さん……一つお願いがあるの」
と、モジモジと恥ずかしそうに身体をくねらせ、近くにいる真田にくっつく。
「なんでしょう?」
「その……退院祝いに真田さんと一緒に出かけたいの」
「ええ、構いませんよ、お嬢」
「やったぁ! ありがと、真田さん」
「いえ……」
退院式が終わり次第、陽奈子と外に出かけるという約束を交わし、眩しい笑顔を見せる陽奈子。
「さて、そろそろ食堂に向かいましょう、皆さんお待ちかねですよ」
今回の退院式のメインデッシュとも言えるべき、食堂でのパーティ。もちろん主役は陽奈子だ。
「うん、真田さんも一緒に……」
「すみません、お嬢……私には、少々用がありまして、済み次第すぐに向かいます」
「そう……分かった。絶対に来てよね?」
「ええ、約束です」
陽奈子と真田は指切りげんまんをし、陽奈子は食堂へ一人向かって行った。
「出てこい、そこにいるのは分かっている」
陽奈子の姿が見えなくなった頃、真田は病院の影に潜む存在に向けて口を開く。
「さすがね、真田 卿介」
そう言い現れたのは真田と同じ雰囲気の黒いスーツを着こなしている女性が現れた。
「いえ、"ジョーカー"と呼ぶべきかしら?」
「………………」
女性は銀縁の眼鏡を指であげながら、そう言い、そんな女性に真田は無言の殺意で応える。
「しかし、久しぶりだな……二宮」
「ええ、そうね、最後に会ったのはいつだったかしら?」
「さぁな」
「相変わらず無口ね、貴方と組んでいた時から本当に変わらないわね貴方は……」
「………………」
二宮 梢(ニノミヤ コズエ)
かつて、真田が陽奈子の父親である高嶺に出会う前、裏の世界でパートナーだった人だ。梢が情報や敵の分析を行い、真田がそれを効率良く対処して行くという感じだった。
「今更何しに現れた?」
「一つ、昔馴染みにお願いしようと思っただけよ」
紺色の髪を動きやすいようにがっしりと束ね、銀縁の眼鏡から覗かれる茶色い瞳は真田を射抜いていた。
「およそ、五、六日後に瀬道 灼という名の人物が現れるわ」
「………………」
「貴方には……それを倒して欲しいの」
「戦う理由はない」
「いいえ、貴方にはあるわ」
自信に満ち溢れた笑みを浮かばせ、真田へ近づく梢。
「あの男は……この島の『召喚せし者』を例外なく消そうとしているわ……貴方はともかく、さっきの女の子とかは危険なんじゃない?」
「…………!」
一見微動だにしてなさそうに見えるが、梢は真田のかすかな反応を見、またもや笑みを浮かばせる。
「能力に関しては、貴方の方が劣るけど……でも、戦闘経験は貴方と同じはず……もしかしたら、勝てるかもしれないわよ」
「………………」
断ることも出来たが、陽奈子の事を考えると断ることは出来ない。
「仕方ないな」
「貴方ならそう言ってくれると思っていたわ。それじゃ、よろしくね」
と、それだけ言い残し、ささっと病院から出ようとする。
「待て、二宮」
「なにかしら?」
「お互い、生きていて良かった」
「……前言撤回、貴方は変わったわね、随分と人間らしくなったわ」
感謝とも罵倒とも受け取れるそんな言葉だけを残し、今度こそ梢は病院から去った。
「………………」
真田もまた、すぐさまなにも無かったかのように無表情に戻り、護るべき人、陽奈子がいる食堂へと足を進める。