fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者)   作:鴉鍵

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ストーカー②

 夕方……ミルキー通りには大勢の人が行き交い、水坂 美樹もまたその中に紛れ、バイト先へと足を進める。

 

「ったく、なんで私まで付き合わなくちゃいけないわけ?」

 

 心底嫌そうな顔をした紅葉が曲がり角の壁からそっと身を隠すようにしながら美樹を見つめている。

 

「そう言うな、同じ学園の生徒が困っていたら助けてやるもんだろ?」

 

「なに、そのりゅーいちのような臭いセリフ」

 

 紅葉からやや離れた位置から零二もまた同じく美樹を見守っていた。

 

「そう言うなよ、里村」

 

「なによ、れーじがあのおっぱい星人を心配するのは単に同じ学園の生徒だからじゃないでしょ?」

 

「はは……そうだな」

 

「彼女さん……サクラちゃんが悲しむわよ」

 

「………………」

 

 紅葉のその言葉に零二は罪悪感に似た重い鉛が心に乗っかってきたかのように鬱な気分になる。そんなこと零二だって分かっている。零二は今、パートナーであるサクラと付き合っている。それも本気で互いを愛し、互いにとって欠けてはならないもの……だったはずなのに、泣き崩れる美樹を見て、心が強く痛んだ。助けてやりたいと強く思った。

 

「お前の言うとおりだよな」

 

「れーじ?」

 

 いつもなら軽く受け流すはずの零二が珍しく真摯に受け止め、その様子に疑問を覚える紅葉。

 

「ま、今はストーカーをなんとかしようぜ、もしかしたら灼の仲間かもしれねぇんだろ」

 

「多分ね……」

 

 その後二人は美樹のアルバイトが終わるまで近所のカフェで見張っていた。

 

 そして……

 

「お疲れ、水坂くん」

 

「お疲れ様です店長」

 

 どうやらアルバイトが終わったらしく、制服姿の美樹が店長らしき人物に挨拶した後、帰路につく。

 

「さて、そろそろ行くわよ」

 

「ああ」

 

 零二と紅葉はその胸に微かな緊張を抱き、数十歩離れて尾行する。

 

すると……

 

 ミルキー通りから出た瞬間、曲がり角から突如赤いパーカーに赤い帽子を深めにかぶった男性らしき人物が現れ、美樹の歩く方向と同じ方向へ向かう。

 

 辺りは暗く、よく見えないがもしかしたらその人がストーカーなのかも知れない。

 

「もし、美樹に手ぇ出したらとっ捕まえるぞ」

 

「りょーかい」

 

 息を潜めて互いに計画を立てる。

 

「っ……」

 

 美樹もまた後ろに何かの気配を感じたらしく、足を速める。

 

「………………」

 

 それに合わせるように赤いパーカーの男性も足を速める。

 

「っ!」

 

 恐怖に耐えきれなくなったのか、美樹は走り出した。そしてそれに呼応するかのように赤いパーカーの男性も走り出す。前回は運良く逃げ切れたようだが、今回はそうはいかなかった。

 

 赤いパーカーの男性は美樹と一定の距離を保ち追いかける。対する美樹も振り切ろうとあえて曲がり角を多用するが、振り抜けない。

 

 まるで粘液のようにしつこい赤いパーカーの男性は徐々に美樹に近づく。

 

「た、助けてっ!」

 

 走りながら美樹はそう叫んだ。しかし、それでも美樹の前に救世主が現れることは無かった……わけでも無い。

 

「鬼ごっこはそこまでだ」

 

「っ!」

 

 美樹の後を追いかけて、一つの曲がり角を曲がると、いつの間にか先回りしていた零二が美樹を庇い立ち、赤いパーカーの男性の前に現れ、威嚇するように睨みつける。

 

「チッ……」

 

 赤いパーカーの男性は軽く舌打ちをし、逃げようと零二らに背を向けるが……

 

「なっ……」

 

「残念、この先は通行止めよ」

 

 零二とは逆の方向の通路に赤い少女、紅葉が立っていた。

 

「さて、何の目的で美樹を追いかけ回したのか話してもらうぜ、ストーカー野郎」

 

「っ……くくっ」

 

「何がおかしい?」

 

 すると、追い詰められた赤いパーカーの男性は突然笑い始める。

 

「はっはははははは! あーっはっはははははっひ、あっひ、ひはっははっははははっ!」

 

 正常とは思えないその笑い声に美樹も零二も紅葉も不吉さを覚える。

 

「そこの女をモノにしようと思ってただけなのにさぁ、まさか、君が現れるとはねぇ、さーとちん!」

 

「っ!」

 

 つい先ほどまで雲に隠れていたはずの月が顔を出し、赤いパーカーの男性を照らし、その姿を露わにする。

 

「やっぱり、あんただったわね……」

 

 紅葉は憎々しげにその男を睨みつける。

 

 男は月に照らされてもなお暗い褐色の肌に、月に負けないほど怪しく光る黄色の瞳を照らしていた。

 

「つれないねぇ、里ちん、くくっ」

 

 怪しい笑みを浮かばせるその男は一目で只者ではないと感じられた。どこか禍々しいオーラーを放っている。

 

「てめぇ、何もんだ?」

 

「はっ、むさ苦しい男は嫌いなんだよね、あんたなんかに教えるかよ糞虫が」

 

「なっ」

 

 明らかに紅葉とは違う反応を見せる褐色肌の男。禍々しい視線は零二を刺し貫いていた。

 

 だが……

 

「はっ、そんなもん、効かねぇよ。こんなもんよりもっと強大で危険なオーラ浴びてんだからな」

 

 ありとあらゆるものが凍りつくほどの灼の殺意を直に受けたことのある零二にとって、褐色肌の男が出す殺気など天と地の差である。

 

「あーー、あの炎馬鹿のことねぇ。クック、確かにあいつが出す殺意はふつーじゃねーよなぁ」

 

「やっぱり灼の仲間かよ!」

 

「はっ、あんな奴の仲間だなんてごめんだね……って言いたいところだけど、実際そうだし、仕方ないか」

 

 クックと不気味に笑う男はパーカーから野球用のボールを取り出し、掌でコロコロ弄る。

 

「ま、それよりさぁ、おまえ、面白い、実に面白いよ。それに……」

 

 男は紅葉、そして零二の背後にいる美樹をチラリと一瞥して、また不気味な笑みを浮かばせる。

 

「お前をぐっちゃぐちゃにしたら……その女共はどういう反応を見せるかなぁ……っはは」

 

「っ、てめぇ!」

 

 さすがに怒りの限界だった。無意味に美樹や紅葉を怖がらせて、その反応を愉しむ男に零二は我慢ならなかった。

 

「一応、あんたも『召喚せし者(マホウツカイ)』なんだろ? とっととやろうぜ!」

 

 これ以上二人を怖がらせるわけにはいかない。その一心で零二は褐色肌の男を挑発する。

 

「いいねぇ……これは正当防衛だ。俺はやり合うつもりはなかった……だけどあの男が殺しにかかってきたから、自らの身を守るためにあの男を殺すことにした……文句はないよな? 二宮、灼」

 

 と、虚空に向かって呟く褐色肌の男。

 

「そうそう、自己紹介が遅れたねぇ、俺はアストレ・ドラグブレア……俺を愉しませてくれよ?」

 

 と、アストレと名乗った男が手を振りかざし、そこに魔力が集う。

 

「『魔術兵器換装(ゲート・オープン)』」

 

 闇夜にアストレの禍々しい声と魔力が姿を現し、灼の出した一週間の猶予はアストレによって崩された。

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