fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者) 作:鴉鍵
「………………」
「………………」
寡黙な黒服の男性、真田 卿介は向かいにいる男、アストレの動向に注視している。
先程まで喚き散らし、無造作な攻撃を繰り返していたはずのアストレが異常なほどまで静かになり、真田と同じく、卿介の動きを注視している。
先に動いたのはアストレの方だった。広範囲に攻撃できるプリズム状の爆弾を無数展開させ、真田目掛けて放つ。
「…………ッ」
だが、それは先程のようなただの無尽蔵な爆撃などではなく、緩急をつけ、ほぼ真田の退避場所にその手榴弾を向かわせる。
だが、その予知に近いその動作は知識や技術だけでは不可能。何度も同じ境遇を経験した戦闘経験が必須となる。
「ぐっ!」
ついに、真田に爆撃を食らわすことが出来、真田もまた体感速度の変化に苛まれる。
「これは……」
慣れない体感速度の変化に、体が着いていけず、じっとしているだけでもかなりのストレスを受ける。
「終わりだ」
そんな真田に追い打ちをかけるよう、非情にもアストレは多数の手榴弾を真田に向けて、投擲する。
「『高潔なる処女(アイギスメイデン)』」
だが、その爆撃は障害をはねのける絶対防壁の前にその威力を見せることはなかった。
「また、てめぇかクソガキ」
「真田さんは……私が守るんだから! スイート・ホーム!」
光輝き、そしてどこか儚げなその鳥籠から光の鳥が鳴き声をあげながらアストレへと向かっていく。
「しゃらくせぇ!」
と、その迫りくる鳥を避け腰に差してあった拳銃を取り出し、陽菜子目掛けて銃声を鳴らす。
だが、『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』ですらないそんな銃が陽菜子の『高潔なる処女』を打ち破るなど夢のまた夢。だが、そんな事はアストレも分かっている。
だからこそ、気づかれないように……陽菜子に毒を与えるのだ。
アストレはまた別の銃を取り出す。オート連射が可能なサブマシンガンといったところだろうか。ただ、漆黒に染められた銃体の横に三本の緑のラインが妖しく光る。
「もらったぁ!」
その弾丸は新緑の弾丸。到底ただの人間が作り出せる銃だとは思えないほど綺麗な軌道を描き、陽菜子の『高潔なる処女』に当たっては砕け散る。
「無理だよ、陽菜子の『高潔なる処女』は破れない。諦めてお家に帰って?」
「ハッ、うるせぇよ……クソガキがぁぁぁぁっ!」
深緑の連射撃は以前と変わらず『高潔なる処女』に、当たっては砕け散るの繰り返し。こんな非効率な行動を続ける意味が陽菜子には分からなかった。
「っ! お嬢、それは!」
真田が気づいた時にはもう遅かった。その深緑の弾丸の本懐は威力にあらず、状態異常付加にある。
異常な程まで、陽菜子の顔色が青くなっていた。病気の発作かと思われたが、そうではない。まだ監視猶予はあるものの、陽菜子の病は改善しているはず。
そう、全ては深緑の弾丸。その綺麗な弾丸に隠された深い深い毒。
『深緑の偽善(アベル)』
アストレの『戦略破壊魔術兵器』はジェノサイドストーム。だが、それが手榴弾『愚かなる鈍間(ガングレド)のみだとは限らない。漆黒にして緑のラインがある銃『深緑の偽善(アベル)』もまたジェノサイドストームの一つである。
「お嬢!」
「ひ、陽菜子は大丈夫……」
「いけません!」
真田は強引に陽菜子を抱きかかえ、後方へ逃げ延びる。同時に『高潔なる処女』も停止され、深緑の弾丸は宙を穿つ。
「お嬢!」
「ごめんなさい、真田さん……陽菜子、なんの役にも立てなかった」
「そんなことはありません。さぁ、お休み下さい」
「ううん、陽菜子も戦う」
「お嬢!」
「駄目、もう真田さんを一人で戦わせるわけにはいかないの、私も一緒に……戦うから……」
真田の腕の中で苦しそうにもがきながらも陽菜子はまだその瞳に輝きを灯していた。
「お嬢……すいません」
真田は陽菜子の首筋にジョーカーが描かれているトランプをかざし、生命力を分け与え、同時に昏睡も誘う。
「あ……」
程なくして、陽菜子は深い睡魔に誘われ、自然と瞳を閉じた。
「優しいねぇ……でも、今のお前になにができる?」
「………………」
「その生命力を吸い取り、与える能力のせいで、今のお前は生命力が不足している状態だ。それに……まだ体感速度の変化が治まってないだろ?」
そう、今の真田は満身創痍といっていいほど生命力を消耗し、さらに追い打ちをかけるようにアストレの『愚かなる鈍間(ガングレド)』による体感速度の変化がまだ持続している。
「だからと言って油断するつもりはないけどね」
と、笑みを浮かべながらアストレは緑のラインが目立つ連射銃の銃口を向け、撃ち放つ。
「…………ッ!」
真田は異常に早い周りの光景の違和感になんとか耐えながら、勘を頼りに、その銃弾を躱す。
「なっ!」
躱しきった真田にアストレは素直に驚愕を感じた。人体の目に映るはずがないその音速の弾丸……否、体感速度の変化により、音速は光速となっているというのに、それを躱せるなどとあり得ない。
「若干、楽しめそうだなぁ」
余裕そうな笑みを見せながらも隙のない素振りで、次の攻撃を用意する。
だが、それより早く降りかかるは真田の五十四枚の剣の嵐。次々と地面に突き刺さっていき、その先にはアストレが立っている。
「そう簡単に当たるかよ」
と、後方に飛び下がり、五十四枚の剣から逃れようとするが……
「………………」
「なにっ!」
気づけば、アストレの眼前にまで真田は最後の切り札となるジョーカーのカードを手に持ち迫っていた。そう、五十四枚の剣はただのフェイク、これが本命だったのだ。
「させるかよ!」
アストレはすかさず腰に隠し持っていた軍用サバイバルナイフでジョーカーのカードを防ぎ止めるが、如何せん、ただの武器と『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』だ。その差は歴然である。
防ぎ止めたのも束の間、サバイバルナイフは悲鳴を上げながらいともたやすくジョーカーのカードに切り裂かれた。
「……!」
トドメを刺さんと振り上げたジョーカーのカード……
「くそが……くそがぁぁぁぁ!」
アストレの絶叫が夜空に響き渡り、ジョーカーのカードが宙を切る……
「…………ッ!」
だが、そこには確かな手応えなど無く、ただ言葉通り宙を切っただけ。
「『痛みなき快楽(ペイン・キラー)』」
「なにっ……」
いつの間に発動させたのか、アストレは第三の武装を身につける。赤い帽子に、ラフなスタイルの服装は消え去り、そこにあるのは黒い迷彩柄の服を着こなし、血に染まったかのように紅い防弾チョッキらしき物を着けている。
「これは……」
「無駄な魔力を使わせやがって……ぶっ殺される覚悟はあるんだろうなぁ?」
憎々しい言葉とともにアストレは右手に『深緑の偽善』左手で『愚かなる鈍間』を持ち、攻撃の機会を伺う。
「『深緑の偽善』!」
その掛け声とともに放たれるは深緑の弾丸。凄まじい連射音とともに無造作に放たれる弾丸。
「……ッ」
だが、その無造作故に弾丸の軌道は見切りやすい。躱せるものだけは躱し、直撃する恐れのある弾丸はトランプのカードで相殺する。
「まだまだぁぁぁぁ!」
それでも深緑の弾丸の嵐はおさまらず、さらに追い打ちをかけるようにプリズム状の手榴弾も投げられる。
「…………ッ!」
予想以上の苦戦に、歯噛みする真田。
「……そろそろか」
「あぁ?」
と、今までアストレ相手に苦戦していた真田とは思えないほど、尋常ならざるキレのいい動きで緑の嵐を全て避けきる。
「はぁぁぁぁ?」
「……!」
弾丸と手榴弾の嵐の中から一点の通り道を見つけ、真田はトランプの剣を放つ。
まるで、台風の目を突くかのように正確に嵐をかいくぐり、対象へと一線を描き向かっていく。
だが、それは当たりはせどもアストレの赤き防弾チョッキを貫通するにまでは至らなかった。
「無駄な抵抗をしやがって!」
「…………隙を見せたな」
「あぁ? っ! こいつは」
嵐が鳴り止むと、いつの間にか周りに十六枚のカードがアストレを取り囲むように展開されている。
どれもその絵柄は人の形をしたもの。キング、クイーン、ジャックス……
「てめぇ……」
「この技は範囲が広いのでな、お嬢を傷つけないところまで移動するのに時間がかかった」
真田の言葉通り、二人は倒れ、昏睡している陽菜子から随分と離れ、後ろを振り向けば、路地裏に誘い込まれ、逃げ場は封じられていた。
真田が最後の切り札ジョーカーのカードを取り出し、指揮を出すかのように振りかざすと、アストレを取り囲む十六枚のキング、クイーン、ジャックスが紫色に煌めく。
「だが、これでようやく心置き無く貴様を殺せるというものだ」
「てめぇぇぇ! 今の今まで、手ェ抜いてたって事かよぉぉぉ!」
「『亡霊殺しの英雄(フロームンド・グリプスソン)』」
十六枚のカードからそれぞれ、剣が飛び出し、アストレの防弾チョッキに突き刺さる。
「あ……がぁ……ご」
十六枚の西洋剣に貫かれたアストレは口から血を吹き出し、悶絶の表情を浮かべる。
だが、これだけでは終わらない。
「てめぇ……この剣にも……生命力を吸い取る能力が備わってるのかよ」
「ああ、そうだ」
そう、十六枚の剣にも生命力を吸い取る能力『傷だらけの忠誠心(ストームブレディンガー)』を備わっている。
「これで、終わりだ」
「っがぁぁぁぁぁぁぁ!」
アストレは悲痛と怒りが混じった獣の声をあげる。