fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者) 作:鴉鍵
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高嶺病院……月読島にそびえ立つ病院。自然豊かな庭と患者に優しい月読島の人情を持つ医者や看護士。まさに理想の病院の一つとしてできている病院に不相応な黒衣の男性が、静かな足取りで病院のドアを潜る。
「おや、真田さん、お見舞いですかな?」
「ええ」
目的地に向かい足を進める黒衣にサングラスをかけている男性真田 卿介。道中話しかけられた患者らしき老人に軽く頷き返すと、再び目的地へと足を進める。
ある病室にたどり着き、ドアを開く。
「あ、真田さん!」
そこには真田の姿が見えて嬉しそうな声をあげる華奢な少女高嶺 陽菜子の姿があった。
「お嬢、具合はどうです?」
「うん、陽菜子ね、とっても元気だよ」
と、微笑み返す陽菜子。その言葉に嘘偽りは無かった。
「そうですか、それは良かった」
真田は微笑を浮かべ、陽菜子の奇跡の回復に心より嬉しく思う。真田はあの少年、零二と龍一に感謝しきれない程の感謝を感じていた。
零二の『究極魔法』により、真田と陽菜子は息を吹き返し、こうして話すことができる。また、零二の『究極魔法』はこうして再び話せるようになっただけではなく、陽菜子の病状まで和らげた。
しかし、病状が和らいだとは言え、まだ病気は治ったわけではない。しかし、陽菜子の時間は皆と同じようになった。もう余命何年という言葉も耳にしない。医者も陽菜子の回復っぷりには首を傾げるしか無かったという……
そして、週一回のペースで、龍一が陽菜子に生命力を分け与えてくれている。最初は拒んでいたのだが、徐々に受け入れ、陽菜子の回復に多いに役立った。
「良かったですね、お嬢」
「うん! これもお兄ちゃん達のおかげだよね」
「ええ、そうですね」
満点の笑みを浮かべる陽菜子。もう彼女を蝕む物はない、彼女にはもうありとあらゆる時間があるのだから。
「陽菜子ね、もうすぐ退院できるよってお医者さんから言われたの! とても嬉しかった」
「……ええ」
顔には出さないが、死神だったはずの真田の瞳には人並みの温もりを感じさせる暖かさが確かにあった。
「あのね、真田さん、お願いがあるの」
「なんでしょう?」
「もし、陽菜子が退院したら、真田さんと一緒に暮らしたいの……駄目?」
「お嬢……」
もちろん、真田は断る気などなかった。しかし、こんな裏の世界に毒された自分なんかが無垢な少女と一緒に暮らしててもいいのか……と同時に感じていた。
それでも……
「分かりましたお嬢、お嬢さえよければ一緒に暮らしましょう」
「ほんとに? ありがとう! 真田さん」
無垢な少女は上半身だけを使い、そばにいた真田に抱きつく。かつてはこのような行動すら命の危機に関わるはずだったのが、今ではこう普通にこなせるようになって来た。
「お嬢……」
ギュッと抱きしめる陽菜子を愛おしく感じ、真田も陽菜子の背中に手を回し、優しく抱きしめる。
「真田さん、ずっと、一緒にいてね?」
「無論、私は、私の命が続く限りお嬢と一緒にいますよ」
「えへへ、ありがとう真田さん」
病気に苦しんでいた陽菜子の退院はもうすぐそこまで来ていた。もう彼女は鳥籠に囚われた小鳥などでは無く、外へ出かける為の翼を手に入れた鳥となっていた。もちろん鳥の隣には死の風を運ぶ鴉もいる。ただし、鴉はもう死の風を運ぶ必要はなく、外の世界で鳥をエスコートするという新たな役目を見つけることとなる。
ミルキーウェイ……昔ながらの情景を残す月読島に新たに建設された近代化の象徴とでも言えるミルキーウェイ。そこは都会の百貨店のようにありとあらゆる種類の店がそろっている。
「悪い、遅れちまった」
「はぁ? 信じらんない、普通、男が先に集合場所で待つもんでしょうが」
集合場所にはうってつけの目立つ噴水広場にて、遅れて来た少年に難癖づける少女梶浦 海美。
「悪いって、これ選ぶのに時間かかったからさ」
と、遅れて来た少年桜井 俊介は不機嫌そうに腕を組む海美に包装された箱を渡す。
「え? なによこれ? 別に私、今日誕生日じゃないよ?」
「そんな事知ってるって、何年海美の側にいたと思ってるんだ」
「なら、これはなによ?」
俊介はどこか、気恥ずかしそうに頬をかく。
「俺たちの……初デート記念だよ」
「なっ、なによ! 恥ずかしい事言わないでよ馬鹿」
海美もそのような答えが返ってくるとは思っておらず、思わず頬を赤く染める。
「別にいいだろ? 海美と色んな記念日作って、お祝いしたいと思ってるし」
「ほんと、あんたって奴は!」
そう言いながらも強引に包装された箱を幼なじみの俊介の手から奪い取る海美。
「中……開けてもいい?」
「ああ!」
どこか嬉しそうに箱の包装を丁寧に開ける。そして全ての包装を解き、現れたのは小型の鏡だった。
「鏡?」
きょとんとしている海美。
「ああ、俺の彼女はこんなにも可愛いんだって事をもっと海美自身に知ってもらいたかったからな、どうかな?」
「馬鹿ね、私が可愛いのは当たり前でしょ」
「おいおい……」
堂々と、自分を可愛いと言う海美に苦笑する俊介。
「ま、でも、ありがと……大事にする」
「ああ、ボロボロになるまで使ってくれよな」
「ほんと、ストレートになったね俊介」
「え?」
突然、海美から発した言葉に理解が追いつかず、きょとんとした表情を見せる。
「なんか、前まではただの幼なじみだったってのに、付き合ってから俊介変わったよ」
「そうか? いや、そうだろうな……ようやく俺の願いが叶った訳だしな。最初は海美が幸せになるんなら……って、海美の恋路を邪魔しないようにしとこうって思ってたんだけど、やっぱり無理だったんだろうな」
そう言いながら、俊介は海美の手を握る。
「でも……でもよ、俺は最低だ」
「え?」
今度は海美が理解が追いつかない番だった。
「海美を守るって約束したはずなのに、海美がいなくなっても探し出すって約束したはずなのに……俺は、忘れてしまったんだよ、海美のこと……」
恐らく、俊介が言っているのは、ラグナロクの時、海美が戦いに敗れ、消滅してしまった時の事だろう……
最終的に零二の『究極魔法』で戻って来た時、神社で泣き崩れている俊介の姿を見て、海美は消滅してしまったはずの私の存在をしっかり覚えていてくれたことを理解して、海美もまたその場で泣き崩れた。
もちろん、今ではこうして互いに互いの存在が感じられるようにこうして寄り添いあっている。
「ううん、私の事、覚えててくれただけでも嬉しいよ」
「……海美」
「ほら、せっかくの初デートなのに、そんな悲しそうな顔してたら楽しくないよ? ほら、笑って」
「はは、そうだな、じゃ、行くか?」
「うん、今日はたっぷり奢ってもらうんだから」
「災難な一日になりそうな……」
俊介と海美は互いの存在が消えぬように、しっかりと手をつなぎ、ミルキーウェイの中に姿を消して行った。