fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者) 作:鴉鍵
「……え?」
『死刑執行人(エクゼキュータ)』を思わせる『召喚せし者(マホウツカイ)』瀬道 灼の呼び出した『戦略破壊魔術兵器(マホウ)』がどんなものかと身構えていた紗雪は灼を凝視する。
「何も……出てきてない?」
そう、灼は確かに『魔術兵装(ゲート・オープン)』と唱えたはずだ。ハッタリ? それは無いだろう、わざわざハッタリをかます意味が分からないからだ。なら、失敗? あれ程禍々しい殺意を放ち、ただの『召喚せし者』より強力な人が? だが答えの見つからない思考の迷路を闇雲に進んでいても答えは出てこない……
「なら!」
紗雪は白黒の二丁の拳銃を灼に向け、数弾放つ。まずは相手の能力や『戦略破壊魔術兵器』を知らなければ話にならない。
だが、牽制のつもりで放った弾丸は灼に当たる事なく、見えない壁にでもぶつかったのか、弾かれるように軌道を変え、地面に激突し土埃を舞わせる。恐らく魔術障壁の類だろう……
しかし、どのような手段にせよ、それが防がれるのは想定済みで、紗雪は次なる手を放つ。
「そこ!」
遠距離からの『戦略破壊魔術兵器』が効かないのなら、その肉体に直接ダメージを与えるまで! 紗雪は土埃が収まると同時に『瞬間魔力換装(フリューゲル・ブリッツ)』により瞬時に近づき、足技を灼にかける……が
その攻撃は当たる事は無かった。否、当たったのだが当たらなかった……
「なっ」
紗雪の繰り出した足技、ハイキックは確かに灼の頭に直撃するはずだったのだが、灼は特に動きもせずその蹴りを避ける……否、すり抜けた。まるで幻影でも攻撃しているかのように当たらない。歯噛みしつつ更なる連撃として白と黒の拳銃を至近距離から灼目掛けて撃つ……
だが、それも当たることなく灼の体をすり抜け、後方の電灯にぶつかり、派手な音を撒き散らしながら倒れて行く。
不幸中の幸いか、人気が少ない街道とは言え、全く人の姿が見えない。もしかしたら、灼が関係無い人を巻き込まずにしようと人払いの魔法を使ったのかも知れない。いずれにせよ、『召喚せし者』同士の争いにとっては好都合な状況だった。
続けて足技の連撃を繰り広げ、時折銃弾で意表を突くような激しい猛攻を続けるが、いずれも灼に当たる事なくすり抜ける。
「くっ……」
そもそも、格闘技とは当たる事もしくは躱される事を想定して、次なる攻撃を繰り広げるのが一般的だ。しかし、すり抜けてしまう事など格闘技の世界にはあり得ない事情だ。その為、紗雪の足技は本来の戦闘力を発揮出来ずにいた。
「それなら……」
足技では意味がないと理解したのか、灼から距離を置き、魔力を練る。
先ほどの牽制射撃とは比べならない程強力な魔弾を灼目掛けて放つ。確かな反動とともに放たれた魔弾は音速を超え、避ける事は不可能の一撃……だが
「先ほどの物より強力だな……だが、それがどうした?」
そう、どれだけ強力であろうとも当たらなければ意味が無い。魔弾は勢い良く灼の体をすり抜け、地平線の彼方へと消え去った。
「こんなものか」
どこか、落胆のようにも受け取れる溜息をついた後、灼は手を紗雪に向けて掲げた。そこから炎の球が現れ、先ほどのお返しと言わんばかりに連続で紗雪を狙い撃つ。
連射速度は早く、しかもその炎の球のスピードは紗雪の持つ拳銃の射撃と同じスピード……なのだが、所詮は拳銃と同レベル。紗雪の『瞬間魔力換装』は光速を超え、神速の領域にまで達する……故に攻撃は当たらないのだ。
そんな中、紗雪は今までの灼の戦い方を分析し、不信点は無かったのかを模索する。
「足だけは早いようだな」
もしこれが魔力の総量戦であれば、紗雪の方が有利なのだが、如何せん灼の魔力総量が多く、一行に弾切れになる予感が無い。
まるで、戯れているかのように灼は片手のみならず両手を使い炎の球を増やし、数で戦いを挑む。
「はぁぁぁぁっ!」
灼の両手のみならず、灼の上空におびただしい数の炎の球が現れ、標的の動きを定める。
「これぐらいあれば、避けられまい」
灼が手を振り下ろすと同時に空に漂う炎の星々が一斉にして紗雪目掛けて向かっていく。いくら『瞬間魔力換装』で身体能力を上げる能力を使ったところで、視界を埋め尽くす程、顕現化した炎の星々の前には逃げようとも逃げようとも必ず何発かは当たる。
だが、そんな灼の読みは甘く、紗雪は炎の星々全てを避けきって見せる。
「……ほう」
ただ、流れに任せて炎の星々を落としたわけではなく、紗雪が逃げるであろう地点にも炎の星は向かって行った。更に別の場所へと向かおうとしたところでまた炎の星があらゆる可能性を予測し、繰り出した……はずだが
紗雪は逃げ場の無いはずのフィールドをやすやすと駆け抜け、全て躱しきった。
「……っ! まさか!」
何か思いついたらしく、紗雪はまた灼から距離を取り、再度魔力を練る。しかし、先ほどのものとは比べられない魔力総数だ。
そして、二丁の拳銃にそれぞれ白い輝きと黒い輝きが宿る。腕を交差させ、何故か灼ではなく、虚空を睨みつける。
「『福音の(ヴァイス……」
放たれた魔弾は確かに今までの物とは比べものにないほど、威力が込められていたのだが……
「学習しないな、そんな物、私には……」
「魔弾!』(シュバルツ!)」
灼が言い終えるより早く、紗雪が己の『神話魔術』がその猛威を振るう。
灼に向けられ直線に放たれたはずの魔弾が、急に軌道を変え、灼からやや離れたところに向かっていた。
「っ! 馬鹿な!」
常に余裕綽々とした表情の灼が始めて見せた。驚愕の混じった叫び声をあげる。