fortissimo EXA Diejenigen, die den Kampf fortsetzen(戦い続ける者) 作:鴉鍵
放たれた白と黒の神話魔術は悠々と立ち構える灼にではなく、何もない空間へと軌道を変える。
「……クッ」
しかし、虚空に放たれたはずの魔弾に焦りを見せる灼。刹那、魔弾は何もないはずの虚空にぶつかり、激しい爆音と土煙を撒き散らした。
「……なぜ、分かった?」
そこに現れたのは右腕を失い、顔の右半分を血で染めている灼が悲痛に耐えるような表情で立ち尽くしていた。
灼を狙い当てど当てど、すり抜け無傷を誇る灼が、なぜ虚空に放っただけでこんなにも深手を負ったのか……
答えは至ってシンプル
「やはり、幻覚魔術ね」
「ほう……」
紗雪がその結論に至ったのは全て最初の牽制射撃が鍵を握っていた。すり抜ける能力を持っているはずの灼が、最初の牽制射撃をわざわざ魔術防壁で防いだのか……答えは簡単、幻覚魔術を発動するより速く、紗雪が攻撃したからだ。灼もまたいきなり攻撃してくるとは思わず、魔障壁を発動してしまった。それが灼の幻覚魔術の攻略の綻びとなり、今に至る。
先手必勝……
あらゆる戦闘において、先に攻撃したものが勝つと言う戦闘スタイルを持つ紗雪でなければ灼の幻覚魔術を見破れなったに違いない。
「仮に私の『隠された蜃気楼(ヒドゥン・ミラージュ)』の仕組みが分かったとしても、見えない私に攻撃を当てることは不可能のはずだ」
『隠された蜃気楼(ヒドゥン・ミラージュ)』
魔力から膨大な熱を発し、空気を温め、故意に蜃気楼を起こす。熱の操作により、見えなくすることも偽の自分を見せることも自由自在に出来る。そして、仕組みに気づかれても姿を消している自分自身を見つけられる事は難しい。
「目に見えなくても私には関係ない……」
しかし、紗雪はその幻覚魔術の唯一の弱点を打ち破る力を持っている。
「例え、見えなくても……聞こえるから」
「なに?」
そう、『隠された蜃気楼』の欠点、それは視覚による幻覚でしかならない。それ以外の五感である聴覚、触覚、味覚、嗅覚まで誤魔化す事は出来ない。
「だから、あなたの心臓の鼓動、呼吸音、手ぶれにより生じる風を切る音で居場所を突き止めればいい……」
「馬鹿な、いくら聴覚に優れているとは言え、そこまで微細な音を聞き取れるはずが無い」
否、灼の見解は実に大間違いだ。何故なら紗雪はただの人間では無く、『召喚せし者(マホウツカイ)』なのだから……
「私の撃った『福音の魔弾(ヴァイスシュバルツ)』は対象の音を追跡する神話魔術……それが例えどんなに小さく、耳をすませても聞こえないほど微弱な音でも突き止める!」
そう、紗雪の神話魔術『福音の魔弾』の音を追跡する能力の前では視覚のみを眩ました幻覚魔術など何の意味も持たない。ただの隠れているつもりと同じような物だ。
自分の神話魔術の説明を終え、紗雪は再び魔力を練る。それは間違いなく『福音の魔弾』を撃つ為だ。
「………………」
そんな紗雪を目の前にして灼はただ静かに紗雪の行動を見据えていた。いかにどれだけ逃げようと『福音の魔弾』の音を追跡する能力により、それは必ず当たる。それに、悲しくも灼の魔障壁では『福音の魔弾』を防ぐ事は不可能だ。それは実際身に受けた灼が一番良く分かっている。
何故なら、灼の『戦略破壊魔術兵器(マホウ)」は特攻型なのだから……
「善も悪もなく。ただ、私の護るべき人の為にーーauf viedersehenーーー瀬道 灼!」
そして、紗雪はまた白と黒の双銃から膨大な魔弾を放つ。
「『福音の魔弾』!」
迫り来る二つの魔弾。そんな中灼はゆっくりと瞳を閉じ、微笑を浮かべる。それはどのような感情からくるものか、現状ではうかがい知れなかった……
「なるほどな……これは認めざるを得ないようだ」
魔弾が迫りつつある状況で、灼は微塵も恐怖を感じていないかのようにそう呟く。
だが、例えどのような隠し球を持っていたとしても右腕を持って行かれ、顔の半分を血で染められた灼にはそれを使う程の生命力は無い。
そう確信しているからこそ、紗雪は灼を見えない『戦略破壊魔術兵器』諸共うち滅ぼすつもりで、最大限の魔弾を放った。
やがて、白と黒の魔弾は灼を包み込み、肉片の一つも残さずに消し去る。
これで決着はつき、月読島にいつも通りの日常が戻る……はずだった。