ファイナルファンタジー14 異譚 獅子の子タジムニウス    作:オラニエ公ジャン・バルジャン

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今回より中編に当たります。

暁月のフィナーレ、皆さんは結末を目にしたでしょうか?

この話はそれの少し前のお話ですが…わたしの世界のヒカセンがフィナーレに至る道はとても長く長く…ひょっとすれば終わることの無いのかも知れないとすら思う始末ですが、

どうか皆様には引き続きご贔屓下さいます様お願い申し上げます。


10話 吸血鬼の信奉者

獅子の子タジムニウス第3章(10〜12?)吸血鬼の信奉者

 

万歳‼︎万歳‼︎帝国万歳‼︎

 

万花の拍手と喝采が王国全土と帝国の半分で唱えられた。

 

まだ戦に勝ったわけではない。

 

されど帝都を得たブレトニア側にとってやはりこれは大きい。

 

戦の勝利を祝う宴の翌日、女帝セレーネは御前会議を招集し、こちら側の帝国の有力諸侯、文官が勢揃いした。

 

議題は今後の行動と戦の被害についてであった。

 

セレーネ

『まずは軍部の報告を聞きましょう。

 

元帥、報告をなさい。』

 

元帥と呼ばれたタジムニウスは立ち上がる。

 

ブレトニアの王宮で身につけた軍服にトライコーン、そしてクーロンヌの剣を佩いた出立ちであった。

 

タジムニウス

『は、此度の戦の両軍の被害ですが、幸い我が軍の損害は四万から五万五千、敵軍は六万から八万と考えられます。

 

されど我が軍は回復能力を敵軍に劣る状況であり、戦死者の死霊鬼(グール)化阻止の為、浄化、焼却作業の為に白魔道士の動員に持っていかれていて、治療の進捗が進んでおりません。』

 

セレーネ

『帝国家令マリエンブルク公報告を。』

 

カタリナ

『帝国の財政はやはり宜しくありません。

 

ボリス・ドートブリンガー一党が国庫より着服していた模様です。

 

現在捕虜尋問や高級将校や貴族の中に逃げ遅れた者が居ないか等の捜索を行なって情報の収集と、現在可能な交易や徴税作業を行って財政回復を図っている最中でありますが、敵の焦土作戦の被害復興事業に莫大な資金を消費している今、正直焼石に水と言うのが現状です。』

 

帝国は復活したかも知れなかった。

 

だがそれは正直言ってもう復活というより屍が意思を持って歩き出していると言った方が近かった。

 

ボリス達選帝諸侯派の専横はライクランド帝国を潰滅させるには十分だった。

 

タジムニウス

『女帝陛下(カイザーリン)、帝国の財政は彼奴等から全ての富と財産を没収して埋め合わせるとしても目下我らは国土広しと言えど、その力は遺憾無く発揮されているとは言い難い状況です。

 

ソルランド公、ノルドランド公両名が空白地となったナルンランド、オストランドを占領致しましたが、いかんせん兵が足りません。

 

両地に逃れた敗残兵に戦争犯罪を問わず、全ての地位を保証すると触れを出し彼らの帰陣を促したく存じます。』

 

セレーネ

『よしなに、元帥。』

 

ジャン

『女帝陛下、羽(カルカソンヌ家に使える斥候集団)からの報告によりますと何やら帝国全土では不穏な動きを見せる輩が居るとのことです。』

 

セレーネ

『不穏とは…?』

 

ジャン

『は、まだその詳細を一切掴んでおりませんが、民主革命運動組織が潜伏しているとのことです。』

 

場はどよついた。

 

永らく、それも数星暦という信じ難く膨大な時間を絶対君主国家として存在していたこの国にとってその報告は疫病の到来に等しく、寧ろ卑しくも民百姓が国政に関与して国体を脅かそうとは何事かと怒号が飛び交う始末であった。

 

だが一発の銃声がそのどよめきを止めた。

 

タジムニウスが拳銃で空砲を撃ったのだ。

 

タジムニウス

『帝国貴族とあろう者どもが醜態を晒すな、お客人(アルフィノ達)らの目の前である以上に皇帝陛下の御前であるぞ。』

 

諸将、官僚達はバツが悪そうに座った。

 

タジムニウス

『カイザーリン、その民主主義運動がいよいよ以て玉座に刃を向けし時は臣が悉く撃滅いたします。』

 

セレーネ

『元帥、気持ちは嬉しいですが、一つ聞かせてください。

 

貴方は西方の国アラミゴの革命に関わり、同じくイシュガルドの民主化にも立ち会ったと聞きます。

 

民主主義の良い所も悪い所も見てきた筈、その上で躊躇なく討つと言うのですか?』

 

タジムニウス

『確かに私は彼らと戦いました。

 

強大な敵に自らの信念の為戦う。

 

それはとても素晴らしい事です。

 

私が共感したのはその部分だけで民主主義など民草は当然、そして官僚や軍人までもが人民意思によって自らの精神と制度を蔑める愚の骨頂としか思えてなりません。

 

実に愚かな事をするものだと思っておりました。

 

物事や人にはa(アー)やb(ベー)の方法が有るのです。

 

よって私はそれが誰であろうと帝国に不純物を持ち込もうとするならば容赦無く殲滅する次第でございます。』

 

セレーネは何処か物悲しげな顔をしたが、タジムニウスの問いに頷いた。

 

諸将は革命勢力討つべしと声を上げ、エオルゼアからきた者達は内心穏やかではなかった。

 

ましてやアルフィノはタジムニウスが一瞬自分達の方を見たのを見逃さなかった。

 

セレーネ

『それで今後のことですが、次は何処に軍を進めるべきと判断します元帥?』

 

タジムニウス

『東進すべきと存じます。』

 

セレーネ

『東進、つまりバットランドに兵を進めると?』

 

タジムニウス

『左様。』

 

カムイ

『西進しようにも敵は…まぁご存知の通りこの帝都の真前で戦線を張りミドンランド以下北部から東北方面の領土に一歩も入れないと言う構えでして、この中つ海運河を挟んで渡河戦をするにしても、ソルランドやディッターズ・ランドを起点に浸透しようにも犠牲が凄まじくなる事が予想されており、ましてや東部のバットランドの異端者達が攻めてこないとも限らず。』

 

ソルランド公オットー

『お恥ずかしながら現在の我がソルランド軍とこちら側についたナルンランド軍の残兵達だけでは吸血鬼教の狂信者を相手取るのは些か困難かと。』

 

タジムニウス

『後顧の憂を断つという意味でも帝国内に蔓延るテロリズムの種を殲滅する為にも南北バットランド全域の占領が必要なのです。』

 

ノルドランド公アウグスト

『我がノルドランドも合流した事により我が軍は飛行航空戦艦(艦載機運用可能な飛行戦艦)リシュリュー、飛行空母オルレアン、以下飛行装甲巡洋艦八隻(ガレマール帝国では巡洋戦艦扱い)、飛行巡洋艦十八隻、飛行駆逐艦四十隻と25年ほど前とは行かずとも空中艦隊を確保できました。今回の征伐に装甲巡洋艦二隻、巡洋艦四隻、駆逐艦十二隻の打撃群を編成すれば十万以下の戦力でバットランドの征服が可能です。』

 

アイアンロック

『もっとも駆逐艦の何隻かは蛾助(ガレマール人の蔑称)からの奪いもんですし、リシュリューもオルレアンも25年前の戦いの後接収を逃れる為に灰色山脈とオルカル山地の秘密ドックに慌てて押し込んだきりですから完全稼働するまではもう少し修理が必要ですがの。』

 

セレーネ

『少なくともバットランドを落とすには十分。

 

選帝諸侯軍の方が軍艦の保有数は帝国旗艦カール・フランツを始め我らより多い筈、建造状況は?』

 

カタリナ

『各造船ドックフル稼働で建造中ですがとても…。

 

材質や人員の不足も目立ち全出力で稼働してるとは言い難く。』

 

レパン

『各地に離散して、まだ戻ってきて居ない遍歴軍と連絡が取れれば…』

 

とレパンはボソッと呟いた。

 

皆が瞼を閉じたり顔を背けた。

 

遍歴軍とは未開の地や東方、西方の各地にシグマー教と聖杯教を広める為に旅立った巡礼騎士団の集合体であり、布教の地での戦闘や自衛の為彼らは自前の陸軍と艦隊を保有しており、陸は戦車や重装甲騎士団、海と空は当時の飛空主力戦艦と飛空巡洋艦を持っている程であり、事実上の帝国の遠征戦力であったが、25年前の敗戦以降、元々の敵対国やガレマール軍による残党狩りでかなりの犠牲を出した事はこの地まで届いていたのだ。

 

レパン

『小さい時に参加して行った弟も…。』

 

タジムニウス

『居ないものは当てにしても仕方ない。

 

現有戦力でもまだ対処が効くだけ良しとしよう。

 

皇帝陛下のお体を考え、今日のところはこれまでとする解散。』

 

諸将はそれぞれの持ち場や領地に戻る為に退室した。

 

エオルゼア勢は皇宮に当てがわれた一室に集まっていた。

 

タジムニウスの発言は彼らにとって看過出来るものではなかった。

 

少なくとも…主義思想の面では手と手を取り合う気はない事を明言したものであり、全てが終わった時、彼は真っ向から敵対しかねないからだった。

 

アルフィノ

『彼が内心そう思っていたなんてな…リセやアイメリク卿は悲しむだろうな。』

 

ユイコ

『専制主義者としての有様としては正しいのでしょうけど、少なくともあの場で言う事では無いわね。

 

彼の長所というか短所というか…本当に遠慮無しにそういう事言う子だからね。』

 

アリゼー

『帝国内の民主運動家達の弾圧はもう止めらないのかしら?

 

まだ帝国に対して反乱を起こしたわけでもないのに徹底的に検挙するのは流石におかしいわよ!』

 

ヤ・シュトラ

『残念だけど、そうとは限らないわね。

 

30年程前までは何度か民主主義革命によって反乱が何回か起きていた様よ。

 

帝国はその度に施設の破壊工作や暗殺の被害を受け続けた。

 

帝室に連なる一族の暗殺事件があって積極的な弾圧や鎮圧を行うようになったと歴史書にはあるから彼らにとって今このタイミングの革命は致命傷になりかねない。

 

だから今必死に摘発しようとしているのよ。』

 

トウカ

『よくよく言えばだけど、その手の革命運動の怖さをタジムは身を以て学んでいる。

 

ある意味この騒ぎはアラミゴの革命も一因だろうね。』

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皇宮内一室

 

タジムニウスはひたすら書類を掻き集め一つ一つに目を通していた。

 

それは自身が国外逃亡するまでに起こった貴族達の不祥事の記録であった。

 

タジムニウスはあの黒い騎士が決して平民や農民上りの人間では無い事を理解していた。

 

だからこそ彼を調べねばならないと判断していた。

 

だがどの事件も彼を満足させる程ではなくあの黒い騎士に繋がりそうな事件は無かった。

 

タジムニウス

(どれもこれもくだらない物ばかりだ。

 

それらしい事件は幾らか有ったが関係者の全員死亡や家の取り潰しの処置がされていたりでどれもこれもらしくない。)

 

『奴は何者だ…?

 

あの剣筋もブレトニア式だった。』

 

考えれば考える程答えが遠のいている気がしてならなかった。

 

キアラ

『いつまで難しい顔してるつもり?』

 

タジムニウス

『君の着ている下着の色を当てるまで。』

 

キアラ

『馬鹿。』

 

キアラはそう言いながら紅茶をタジムニウスに渡してやった。

 

ブランデーが入って良い香りのするそれはタジムニウスのお気に入りだ。

 

キアラ

『みんな(エオルゼア勢)が居る前で民主主義を否定したんですって?』

 

タジムニウス

『友誼と思想の共有は違うものだよ。

 

少なくともその面では私は彼らとは相入れる事はできない。』

 

とそう言いつつも何処かバツの悪そうな返事をしたタジムニウスにキアラは何処か呆れたような顔をしたが、すぐに首を振り彼女は懐からある小瓶を取り出しタジムニウスに見せた。

 

キアラ

『敵の死者から出てきた物なんだけど、調べてみたら違法魔法薬物の成分が検出されたわ。

 

コレを飲めば命を代償に強力な魔法を使えるわ。

 

それこそ死霊術も。』

 

タジムニウス

『吸血鬼教のシンパが戦場泥棒をしようと考えたが横死したと考えるのが妥当か。

 

やはり時間的猶予は無い。

 

キアラ、君はエオルゼアの皆んなを集めてきてくれ。

 

今頃他の義勇兵を迎えに行っている頃だからそのまま上級将校を連れてここに来てくれって。』

 

キアラ

『旦那様は?』

 

タジムニウス

『陛下に東進は今と奏上してくる。』

 

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ミドンランド公爵領首都ミドンランド

 

暗い一室…。

 

蝋燭が微かに光る円卓、血を口から吐き出し、白目を剥き、泡を吐く五人の選帝侯…。

 

そしてただ一人盃を呷り、暗闇に笑う反逆者。

 

ボリス・ドートブリンガー

『諸君はよくぞここまで働いた。

 

だが、諸君らに生きていて貰っては困るのだよ…。』

 

暗い影から数人の黒ローブの男達が現れた。

 

ボリス・ドートブリンガー

『あまりやりすぎるな。

 

自我は持たせず、洗脳して確実に言うことを聞くぐらいに留めておけ、二人はこのままミドンランドに、残り三人はバットランドに送れ。

 

奴らはそこを攻める筈だ。

 

それとコイツらの配下の兵や騎士達が離反せぬように上手くやれ。

 

奴らも大切な贄だ。』

 

黒ローブの男達

『ハハッ…。』

 

ボリスは部屋を後にした。

 

円卓に置かれた盃の底には赤い、鉄の匂いがする液体が微かに残っていた…。

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帝都アルトドルフ軍港

 

船から下船したエオルゼア同盟軍の将帥は二列に並んで波止場に道を作る。

 

その端に賢人達、もう片方の端にはなんと神殿騎士団(イシュガルド政府の直属騎士団)コマンドと同じ鎧をつけたイシュガルド四大名家フォルタン家次男エマネラン・ド・フォルタンとその従者のオロノワが立っていた。

 

アルフィノ

『エマネラン卿!

 

貴方がこの義勇軍に参加していたのか。』

 

エマネラン

『ま、そこの三人が居なくなったら仕事が回ってくるぐらいのお飾りだが、今回の義勇軍はイシュガルドの騎士団が主力である以上、イシュガルド出身の指揮官が欲しいって言うんでどうしてもって言うから遥々渡ってきたんだ。』

 

オロノワ

『でもエマネラン様このお仕事が舞い込んできた瞬間えらく落胆してましたハイ。』

 

エマネラン

『オロノワ⁉︎

 

それは言っちゃダメなやつだ‼︎』

 

アリゼー

『なんか相変わらずね。』

 

エマネラン

『とまぁ、置いといて相棒…じゃ無かったブレトニア国王に会いたいんだが。』

 

アルフィノ

『ブレトニア国王だけじゃないライクランド帝国女帝にも会えますよ。

 

彼らは必ず貴方方の来訪を御喜びになるでしょう。』

 

丁度そこにキアラが現れ、彼女の旦那の伝言を伝えてきたので、そのまま一向は皇帝の間に向かった。

 

中に入ると玉座には女帝セレーネが座り、その両脇にカルカソンヌ公ジャンとマリエンブルク公カタリナが立っており、その前にタジムニウスが跪いていた。

 

セレーネはアルフィノ達が入ってくると微笑を浮かべ、暫し、お待ちをと言わんばかりに合図した。

 

タジムニウスは立ち上がると懐から一枚の紙を取り出した。

 

カルカソンヌ公ジャンが恭しく頭を下げそれを受け取り、セレーネに手渡した。

 

セレーネは一読すると、口を開いた。

 

セレーネ

『コレが東進の計画書ですか元帥?』

 

タジムニウス

『はっ、クーロンヌ軍、つまり我が直轄軍二万、レマー将軍二万、ソルランド公オットー二万、そしてエオルゼアからの義勇軍一万を後詰とした七万の陸軍戦力、その為陸戦兵器及び先の会議で派遣が決定した空中打撃艦隊で編成した軍集団で異教徒を鎮圧いたします。』

 

アルフィノ

『わ、われわれも後詰として出陣ですか?』

 

タジムニウス

『君らの戦力は戦線を構築させて待ちぼうけさせるよりも遊撃戦力として使った方が何かと都合がいいんだ。』

 

アルフィノ

『都合…』

 

アルフィノは嫌に引っかかる言い方に腹を立てそうになったが抑えてエマネラン達が到着した事を報告した。

 

エマネランとタジムニウスは握手を交わし、タジムニウスはエマネランをセレーネの元に誘う。

 

エマネランはセレーネの前に跪くと、セレーネはエマネランに立ち上がるように乞うた。

 

セレーネは此度の助力への感謝と女神の加護が有ります様にと祈りを捧げた。

 

セレーネは瞑想の為自室に戻ると言うのでタジムニウスは近衛の騎士と手練れの武装僧を護衛に就かせろとカルカソンヌ公ジャンに指図するとジャンは一礼したのに指を鳴らした。

 

すると暫くして騎士と武装僧が現れセレーネの後ろにくっついていった。

 

カタリナが各自退室を促すと皆がそれに従って大広間を出て行った。

 

公の場が終わり、私の場になるとエマネランはタジムニウスに話しかけた。

 

話題はセレーネのことであった。

 

エマネラン

『おいおいおいおい、あれが相棒の所の女帝かよ。

 

スッゲェ美人じゃねえか‼︎』

 

タジムニウス

『お前…手を出そうとか考えようもんなら切り刻んでやっからな。

 

絶対粗相すんじゃねえぞ!』

 

エマネラン

『分かってるよ。

 

然し、噂は本当だったんだなブレトニア人は凄まじい魔力を持つ美女を現人神の様に崇めたてるって。』

 

タジムニウス

『彼女はそれだけじゃない。

 

先帝陛下の一人娘という事もあるし、聖女はハイデリンの代理人つまるところミンフィリアと同じだが、アレよりハイデリンに近づけないと言うのが悲しい現実だ。

 

だが直接的に関与するだけあって十分な力を与えられている。』

 

現人神と言うのはあながち間違いでは無かった。

 

然も事と場合によってはヒューラン族の寿命を超えて生きた聖女もおり、その者達は他のヒューラン族よりも老化のスピードが遅かったという、エレゼン族以下の老化スピードでヴィエラ族に寿命が迫る程であったと言う。

 

タジムニウス

(そう考えれば、何故ハイデリンはそうまでして我らの祖先に関わったのだろう?

 

アシエンがアラグ帝国に関わったようにハイデリンも我が祖先達に関わって代理戦争をさせる為だったのだろうか?

 

最もライクランド帝国が興ったのはアラグが滅亡して第四星暦に入って直ぐだからその線は低いか。)

 

タジムニウスは皆と別れると、とある一室の前に立った。

 

ノックを三回すると向こうから三回ノックが返ってきた。

 

その後二回タジムニウスがノックすると扉が開いた。

 

扉を開けたのはカルカソンヌ公ジャンだった。

 

部屋の中にはカムイ、アルトワ公サイラス、老ドワーフの戦士長アイアンロックも居た。

 

タジムニウスが部屋に入るとジャンは部屋の鍵を閉めた。

 

タジムニウスは早速呼び出しを受けた理由について切り出した。

 

タジムニウス

『東方国境が騒がしくなったとは本当か?』

 

カムイ

『はい、ソルランド、そして現在中立の立場をとるキスレヴ大公領より届いた確かな情報です。』

 

アルトワ公サイラス

『現地にて対応中のオットー公によりますと東方連合がこの内戦に介入すると言う流れでは無い模様です。』

 

ジャン

『あくまで隣国にあたる参加国による独断の様ですが、帝国としては東方連合に対し説明と撤兵を求めたく存じます。

 

そして、もしもの時に備えて陛下には元帥としての役目を果たす準備をして貰わねばなりません。』

 

タジムニウス

『東方連合との全面戦争を覚悟せねばならぬと?』

 

カムイ

『そうなれば帝国は事実上終わりです。

 

女帝陛下とマリエンブルク公が外交による解決を模索しておりますが、もしもの時はと。』

 

タジムニウス

『そうなれば立ち振る舞い一つ一つ慎重にならねばならぬな。

 

必要とあれば東方連合に決定的な一撃を与えて、停戦を迫るという無謀な選択をしなければならないだろうな。

 

それで話はこれだけか?

 

もしそうならここに呼ぶ必要も無いだろう?』

 

カムイはフッと微笑すると本当の訳を話し始めた。

 

カムイ

『陛下、先の会議の時に民衆革命運動を悉く自ら撃滅すると仰いましたが、果たしてそれは本心かと思いましてな。』

 

タジムニウス

『何を言うか‼︎

 

今、民主主義革命運動を見逃して、それが激化して一大勢力に成長してみよ、帝国は三つに分断され、滅んでしまうのだぞ‼︎』

 

カムイ

『それは承知しております。

 

私が申し上げたいのはいくら扇動されたからといって民草悉くに手をあげるお覚悟はお有りかと問おておるのです。

 

そこまで無茶をして帝国の秩序を取り戻さんとする姿勢は立派ですが、臣民、特に若い連中は付いてきませんぞ?』

 

タジムニウスは本心を見透かされた上で言われている事を察した。

 

タジムニウス

『国体としては民主主義を決して許容できないが、思想の一部には共感する所があるのは事実だ。

 

民主主義活動家共は言ってしまえばこの混乱に乗じて動き出した便乗家でしか無いのも事実。

 

だが、彼らの行動の裏には同胞や、国家救済の為の考えがあるのも分かる。

 

もっと言ってしまえば、私がもっと早く行動出来れば彼らは自ら武器を取らなかったかも知れん。

 

ボリス・ドートブリンガーの専横を許し、ガレマール帝国によって国土が食い荒らされ、彼らは追い詰められたのだ。

 

彼らは私の不甲斐なさで生まれた被害者なのだと、そう思えば正直気が引けるのは事実だ。

 

だが明言しておくぞタナトス卿、私は彼奴等を叩く。

 

彼奴等は勝てぬと分かっていたとしても、全力を以って私に、女帝に挑むだろう。

 

ならば、我らも全力で応えねばならない、強き者、最も優れた者がこの帝国を支配するにふさわしい。

 

力無き者は敗れ去る。

 

私はセレーネが断頭台に送られる様は見たくない、だから戦う。』

 

諸将はタジムニウスに何か憑き物がある様な物を感じだがその目は真っ直ぐである事も見てとった。

 

タジムニウス

『どちらかが滅び、どちらかが生き残る。

 

そして滅びた者から生き残った者は少なからず学ぶだろう。

 

国の未来を憂いた者同士どちらが正しいか精々天に問おうじゃないか。』

 

カムイ

『そこまで仰るなら我らも全力を以ってお支えする所存にございます。』

 

タジムニウス

『だが、もし彼らに手を取り合ってボリスと戦う気があるのなら何処かちょっとした所に自治区でも作ってやるさ。

 

奴らが申し出を受けるのならな。』

 

するとまたドアをタジムニウスと同じ様にノックする音が聞こえたので開けるとそこにはオリオン公が立っていた。

 

オリオン公

『遅れてしまって申し訳ありません。』

 

アイアンロック

『おお、友よ。

 

久方ぶり故ここを忘れてしまったかと思ったぞ。』

 

オリオン公

『友よ、忘れるものか、ここは我らとフィリップ王、そしてジギスムント陛下が若かれし時に過ごした秘密の部屋。

 

我らの青春の場だ。』

 

タジムニウス

『成る程、ここが父と先帝陛下、そして卿達の憩いの場だった訳か。』

 

カムイ

『この部屋で父や母達が公務をしている間や訓練の合間を縫って皆で集まり、ボードゲームやカード遊び、戦略戦術の話し合いなどした物です。』

 

タジムニウス

『そんな大事な場に…いやだからこそか。

 

オリオン公、卿の顔を見る限り昔語りをする為に来た訳ではあるまい。

 

何か嘆願があるなら申してみよ。』

 

オリオン公

『はい、元帥、いや陛下にお願いしたき議がございます。

 

ミドンランド侵攻の際に、真っ先に紫の森を奪還して頂きたいのです。

 

彼の地は我らエレゼン族の居住地があり、我らの同胞が多く住まいます。

 

彼らは今もドートブリンガーの為に兵と労働力を無理矢理提供させられております。

 

かの森は天然の要害、攻め立てるのが如何に困難かは私が一番存じております。

 

ですがどうか敢えてお願い申し上げます‼︎』

 

タジムニウス

『地図でそこがどういう場所かは存じている。

 

先ずは東進せねばならぬが必ずや卿の願いを叶えよう。』

 

オリオン公は深々と頭を下げた。

 

その頃、暁の面々は明日の出陣の準備をしていた。

 

自身のよく知る英雄がまるで別人の様になっている様な、いや変わらぬが冒険者である事が元々二の次だった彼の本来の姿を見た事に未だ驚きを隠せないのだ。

 

そも、人の信条や信念は個人個人異なって当然であるし、目的や繋がる場が同じであっても人個人レベルの信念が同じで有るなどあるわけ無いし、その考えこそ傲慢不遜極まりないのだ。

 

だが彼のタジムニウスの名誉の為に言わせて貰えば、信念と友誼は別であり、彼らは暁とエオルゼア、そして東方の者達を一度たりとも敵視した覚えは無いし、これからも無いだろう。

 

彼に侮辱や剣を向ける事が無ければ……。

 

アルフィノ

『タジムニウスは何故、私達を後詰めにしたのだろう。』

 

ユイコ

『都合が良いから、でしょ。』

 

ヤ・シュトラ

『本当に都合が良いなら私達を軍に加える事はしないと思うわよ。

 

私達は今は友軍かも知れない。

 

でも結局は私達は信じる旗を違える者同士。

 

いずれ遠からず垣根を越えて手を取り合わないといけない、だけどそれをめでたく超えた後は剣を交えるかも知れない。

 

それなら帝都に留めておいた方がそれこそ都合が良い気がするのだけれど。』

 

アリゼー

『何にしても私たちのやる事は変わらないわよ。

 

向こうじゃ、無理矢理信徒にされたり生贄にされたりする人達が居るんでしょ?

 

その人達を助けなきゃ。』

 

グ・ラハ

『それが一番、暁らしいな。(そしてあの人らしくもある。)』

 

翌日の朝、ブレトニア軍のリンクシェル通信が飛び交った。

 

 

『バットランド侵攻軍は参加部隊は、直ちにソルランド公爵領首都に集結すべし。』

 

各地の軍はそれぞれの部隊長の指示の元、ソルランドに向かって集結した。

 

ライクランド公爵領首都、そして帝国首都アルトドルフよりタジムニウス麾下二万、エオルゼア義勇軍一万の総兵力三万の軍も出陣した。

 

城門より行進を見守る女帝セレーネは杖で天に魔紋を描く。

 

セレーネ

『皆に女神の加護を、其方らの女帝として命ずる我ら鷲獅子の武勇を示すべし‼︎』

 

タジムニウス

『軍旗を掲げよ‼︎‼︎

 

これより鷲獅子と獅子の軍旗を地に塗れさせる事は王として元帥として許さぬ。

 

いざぁぁぁぁ‼︎‼︎』

 

全軍

『『いざああああぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎』』

 

第三帝国暦1861年(アルトドルフ帝国にて独自に定められた暦。基本的にアルトドルフ帝国が成立した第四星暦より数えて三つの帝国暦が存在する)アルトドルフ帝国軍七万はそれぞれの場所から出撃した。

 

後に凄惨な事件として語られるドラッケンホフ城の戦い通称、死の川の戦いが始まろうとしていた。

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ミドンランド首都

 

黒騎士

『ブレトニアがバットランドに?』

 

将軍

『はい、キスレヴより届いた間違いない情報です。』

 

黒騎士

『キスレヴ…あの独力でガレアン人共から独立を勝ち取り、そして此度の内乱でも中立を保ち続けるかの氷の国…。

 

あの連中は信用ならん。』

 

将軍

『…なぁ』

 

と言いかけた将軍に口を閉ざす様に黒騎士は戒めた。

 

黒騎士

『今、俺の名を呼ぼうとしたなミスランデル。

 

ホーホランド次期公爵の貴様と言えど俺を本当の名を言う事は許さん‼︎

 

俺の復讐が終わるまで決して‼︎‼︎』

 

ミスランデル

『…わかりました。

 

ですが、私と貴方は友だ。

 

いつかは気兼ねなく名を呼び合いたいものです。』

 

黒騎士

『……他に無ければ下がれ。』

 

ミスランデル・ホーホランドは一礼すると黒騎士の部屋を出た。

 

大きな羽根飾りのついた大きなベレー帽を脱ぎ豊かな金髪を掻きむしると何処かやるせない顔をしながら廊下を歩いていった。

 

ミスランデル

『しかし、父上はいまどこにおられるのだ。

 

あの敗戦…いや戦術的撤退の後ここミドンランドに呼び出されては姿を見せぬ。

 

盟主殿も姿を見せぬ…、認めたくないがあの邪教の者共とは盟友のはず…。

 

何故、座視するに留めているのだろう。

 

何か嫌な予感がする。』

 

エレゼンの青年は1人そう呟きながら自陣に戻っていった。

 

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ナルンランド大兵装工房

 

その頃タジムニウス一行はナルンランドの大兵装工房に立ち寄っていた。

 

今回は参加しないがAKやスチームタンクといった各種機甲兵器の修理状態や量産、兵達の鎧、武器、火砲の大量生産を一手に行なうこの大工房は全力稼働こそしていないものの大帝国の武器庫というだけあって一切の支障無く稼働していた。

 

幸いにも工房に残った技術者達をまとめ上げていた人物が親アルトドルフ派よりだった為この工房を得るに至って血は流れていない。

 

それでもかなりの数の研究者と技術者、そして作業員がいくつかの兵器と設計図を携え、選帝諸侯派に合流している。

 

話を彼らに戻そう。

 

タジムニウス達は最新武器保管庫に居た。

 

タジムニウスが元帥としての視察に出るのでエオルゼアの面々を観戦武官兼軍事留学生ということで一緒に立ち入らせてもらっているのだ。

 

ブレトニア側の思惑とすれば、大帝国アルトドルフは健在であると西側に見せる事、そしてその軍事力の一端を見せつけ抑止とする為であり、対するエオルゼア側は対アルトドルフ帝国を念頭に置いた軍事研究とそれを愛想と世辞で隠して、各国への技術供与をして貰えないかという裏工作の為である。

 

その為、暁や義勇軍の面々だけでなく、各国グランドカンパニーの技術将校や各国官僚も一緒になって訪れていた。

 

ガレマール程進化しているものは無いにしても長らく一進一退の戦争を繰り広げてきただけあってその兵器群は繋がる物は沢山あり、どれも強力、取りわけドワーフ製の火器は常軌を逸していた。

 

最新型散弾銃に大口径四連装オルガン砲、果てはナパーム榴弾砲と帝国の為にドワーフ族の鍛治士や技術者が寝ずに設計していたらしく日々これらがガレアン人に使われる事を不服に思っていた彼らだったが遂に本来向けられるべき相手に向けられると聞いてほくほくしていた。

 

アルトドルフ人も負けておらず、最新型スチームタンクの試作機や最新型ヘルストームロケット砲台や、セミオート主力歩兵銃に、何と歩兵携行可能な機関銃に、それすらも弾く強力な重装装甲鎧やそれに合わせて使うガンバスタード(銃大剣)、完全防弾の騎兵用の胸甲にフルプレートアーマーとエオルゼアや東方では現状不可能とされる兵器が所狭しと並んでいたのだ。

 

大軍事国家アルトドルフの粋はここに結集せりとはよく言ったものである。

 

技術者はこれら兵器を一つずつ持ってきてはプロモーションをするという流れを繰り返していた。

 

するとユイコはなんとも物々しい見た目をしているショットガンを手に取った。

 

ユイコ

『これは見るからにショットガンの様だけど、これは紹介してくれないのかしら?』

 

技術者

『ああ…それは廃棄予定なんですよ。

 

世界初のフルオートつまり全自動リボルビング散弾銃として開発してたんですが、開発者急死、装填面に難あり、信頼性難あり、オマケにコストも度外視という事で、試作一丁だけが作られて計画は破綻してしまいまして。』

 

ユイコ

『弾は既存の弾で良いのね…良ければ私に下さらないかしら?』

 

技術者

『ええっ⁉︎

 

これをですか⁉︎︎

 

メンテナンスは骨、交換パーツはもうバラして複製するしか無い。

 

とてもじゃないですが使用するに耐えませんよ!』

 

ユイコ

『手入れはそうね。

 

だけど撃つ分は問題はないんでしょ?』

 

タジムニウス

『どうなのだ?』

 

技術者

『威力は折り紙付きです。

 

フルオート機構も完成しています。』

 

ユイコ

『それじゃ、決まりね。

 

予備のシリンダーも貰えるかしら?

 

もっと必要になったら自作するから心配無用よ。』

 

技術者は予備のシリンダーを四つ渡すと、ユイコは銃に最初からついているシリンダーと予備のシリンダーに散弾を装填するとトウカとアイリスを連れ、射撃場に去っていった。

 

そんなやり取りを挟み、ナルンを後にした一行はオットーとレマーの待つソルランドに到着した。

 

三万の一向がソルランドに着くと合流予定の四万の将兵と民草達は鬨の声を上げた。

 

将兵

『女帝セレーネ万歳‼︎‼︎泉の聖女万歳‼︎』

 

将兵

『レオンクール元帥万歳‼︎獅子心王二世万歳‼︎』

 

民衆

『アルトドルフ帝国万歳‼︎ライクランド=ブレトニア連合帝国よ永遠なれ‼︎‼︎』

 

タジムニウスは口元に微笑を浮かべると軍旗の付いた長槍を騎士から受け取ると馬を二本足で立たせ、長槍を高く掲げてみせた。

 

七万の将兵と民衆は大興奮である。

 

士気まさに天を突き、地を揺らす。

 

兵達を割って入ってレマーとオットーがタジムニウスの前に立ち、馬上で頭を下げた。

 

レマーはヘルムを脱ぎ、オットーは一族より伝わりし黄金の仮面を脱ぎそれぞれ素顔を晒した。

 

オットー&レマー

『これより御下知に従います。』

 

タジムニウス

『大義である。

 

2人には先の大戦の礼も何もしてやれてないがどうか許してくれ。』

 

オットー

『元帥、いや陛下。

 

それには及びません。』

 

レマー

『我らは本来ならばセレーネ陛下の婚儀すらも止められず、戦が始まったならすぐに表返らねばならなかった不甲斐無き臣です。

 

むしろ我らをお咎めになっても良いのです。』

 

タジムニウス

『いや、それこそ私には出来ぬ。

 

卿らがそうせねば成らなかったのは、元より我が父王が卿らの父兄に雌伏すべしと言ったからだ。

 

諸君らが責任を感じる必要はないのだ、全て力無き私の責だ。

 

もしそれでも納得いかぬと言うのならばどうか女帝陛下に忠を尽くしてくれ。』

 

そう言われた2人は頭を垂れ、タジムニウスはヘルムを被ると軍旗を振るった。

 

タジムニウス

『行くぞ、吸血鬼討伐だ‼︎‼︎』

 

将兵

『deus vult(神はそれを望まれる)‼︎‼︎』

民衆

『deus vult‼︎‼︎』

 

ラッパを吹き鳴らし、太鼓とファイフが軍楽を奏で、ソルランドより発進した空中艦隊の起動音が空で響かせた一行は東方の穢れた、穢れてしまった地に足を踏み入れた。

 

そこからは各地の村や町で散発的な制圧戦を繰り広げていた。

 

それこそ最後の1人まで抵抗し撫で切りにされた村や逆に抵抗しない村。

 

狂信的な信徒たちが追い詰められた瞬間同士討ちを初めて生き残った生贄や無理くり信徒にされた者達が白旗を掲げ投稿した町。

 

そもそもバットランドに入る前に起きた吸血鬼教徒に割譲されたアヴァーランド公爵領の城塞都市の一つグレンツシュタットの攻囲戦も含め、結果は様々であるが一つ言えることはどれも結果的な戦果では無かった。

 

上級将校の六人と暁の面々は違和感を感じて居たが中級将校以下は完全に敵を侮り始めたのだ。

 

そもそも吸血鬼討伐と言いながら肝心に吸血鬼は現れず、死喰い人やヴォイドの魔物、ゾンビすら現れず気の狂った人間だけが相手なのが余計甘く見る原因になった。

 

結果これはとんでもない問題を引き起こした。

 

占領地の人間に対し、盗みや暴力、女子供を相手に強姦や売春までさせる兵達が後を絶たなくさせてしまったのだ。

 

彼らは元々帝国の領地であり、帝国の臣民である筈だった。

 

だが25年の月日は、元から信徒、洗脳されて信徒、命惜しさに仕方なく教義に従った信徒の区別無く彼らを異教を崇拝する敵国人にしてしまったのだ。

 

特にこの七万の軍勢は敬虔な若者が多く、彼らからしてみれば異教徒を打ち払う正義の十字軍騎士だと自分達を自負しており、異教徒に何をしても正義の行いとして赦されるという理解に苦しむ認識が要因になった。

 

止めようとした古参兵と若い兵の乱痴気騒ぎや上官襲撃、狂信的な神父やウォーリアープリーストによる私刑執行などもう混沌であった。

 

占領地の人間の不満は高まり、この異教に縋る者はかえって増え出し、憲兵達は場を収めるために強引な手段を取らざるを得なくなった。

 

当然こんな事を許しておけないエオルゼア勢はタジムニウスに抗議した。

 

タジムニウスも火急的速やかに対処するとは言ったが、そもそもオットーとレマーすら手を焼いている始末なのに火急的になど行くわけが無かった。

 

むしろタジムニウスの頭の中には寧ろ幾らかは大目に見てガス抜きさせてやろうと考えていたから咎めるのにそこまで意欲的では無かった。

 

顧みれば戦、戦、戦。

 

溜まる物は大いに溜まる。

 

それを縛り付けるだけではそれこそ兵達は言うことを聞かなくなるだろう。

 

自前で用意した嗜好品や従軍慰安婦、現地の風俗施設だけではこの七万の大軍を全員慰めてやるのは不可能だった。

 

後は、タジムニウス本人の猜疑心もあった。

 

何より彼は先日にこの連中から命を狙われているし、誰がスパイかも分からない。

 

言ってしまえば投降した信徒全員が自爆テロリストの疑いがあったのだ…詰まるところ何もしなくても振るいと間引きをしてくれるなら…と思っていた。

 

だがこのままと言うわけにもいかない。

 

何よりこの混沌は女帝セレーネの威光を傷つける行為に他ならぬのだ。

 

一方を立てて一方を立たず等笑い話にもならない。

 

タジムニウスの下した結論は一挙に西部首都テンプルホフ城を落とし、そのまま一挙に東部首都ドラッケンホフ城を陥落せしめる事であった。

 

ソルランドを出て数日後タジムニウス達はテンプルホフ城を囲んだ。

 

攻囲戦はあっという間に終わってしまった。

 

何故なら守るべき兵も居らず僅かな民衆だけが残っていた。

 

彼ら曰く、兵や信徒達はこぞってドラッケンホフ城に向かい、西部に存在する村や町も例外なくこの状態にあると言うのだ。

 

理に適っていた。

 

一応敵地深くまで進軍している為補給路は伸び、乱痴気騒ぎの所為でその補給路すらいつ怒れる民衆に叩き壊されかねない程不安定になっていた。

 

しかも自分達は余力を残した上で兵と武装した民衆が強力かつ巨大な城塞都市に兵糧も武器も充分蓄えて待ち構えるだけで疲弊したタジムニウス達が遥々来てくれる。

 

とても守り易い状況であった。

 

尤もにわか仕込みの民間人が主力の吸血鬼教の戦力に負ける程アルトドルフ帝国軍は柔ではないのだが…。

 

兎に角進むしか無かった。

 

そこからは止まることなくドラッケンホフ城まで直走った。

 

無理をする為の空中艦隊と強力な兵器群をソルランドとナルンランドから調達し、粒揃いの英雄達を揃えたのだ。

 

ここで進まずしてなんとするか…。

 

一行は遂にドラッケンホフ城を包囲した。前列を銃兵と弓兵と弩兵で並べ、その背後に槍兵とハルバード兵で槍衾を作れるように構え、さらにその後ろを剣兵や斧兵、騎兵が並び、そして最後列に魔道士達と各種兵器群(野戦砲や榴弾砲、多弾頭ロケット砲台ヘルストームロケットやスチームタンク)が並んだ。

 

そこからは一方的な火力を叩きつけた。

 

鬨の声を背に火薬と鉄の塊が城壁とその上に立つ者達に襲い掛かり、詠唱した魔法使いによって呼び出された隕石や氷や炎の塊が降り注いだ。

 

だがこの一方的な殺戮劇にも屈さず、何より敵の防衛に参加している人数がタジムニウス達の二倍から三倍は居ることから正直効果は微々であった。

 

だが晒し続けられれば致命的になる。

 

遂に忍耐を超えてしまった敵は遂に城壁を出た。

 

十数万の人の大波が襲い掛かろうとしていた。

 

だが、それこそブレトニアの思う壺だった。

 

タジムニウス

『今や、雨音のみがホールに響く。

 

お出迎えだ、打ち払え‼︎‼︎』

 

士官

『銃兵構え‼︎』

 

兵士

『応‼︎』

 

士官

『狙え‼︎』

 

雄叫びを上げて迫り来る群衆に兵士達は銃口を向け、冷ややかな視線を向ける。

 

それは確実に敵の頭蓋や心臓をまっすぐ見つめていた。

 

士官

『放てぇぇぇ‼︎‼︎』

 

無数の銃声が轟き、無数の鉛が、大砲から放たれる榴弾が、人の大波を肉の山にした。

 

鶴瓶撃ちに撃ち込まれながらも群衆は迫る。

 

だが辿り着けても槍衾に貫かれ、弾き返された。

 

中列に居る剣兵たちや騎士達は暇過ぎて欠伸をする者が出る始末であり、同じ様にその位置に居たレマーとオットーは各部隊に微妙な指示を出し、アルフィノ、アリゼー、グ・ラハ、アイリスはこの凄惨な殺戮劇を青ざめた顔で見つめ、トウカ、ユイコ、ヤ・シュトラは大人として現実を知る者として微妙な顔で同じ様に見つめ、タジムニウスはこれが戦争だと言わんばかりに無表情でリンゴを齧り、ブランデーで割った紅茶の入った水筒を傾けていた。

 

溜まらず吸血鬼の信徒達は堅い城壁へと逃げ帰ったがそれでもタジムニウス達の足元には数万の肉塊が転がっていた。

 

流石に数時間以上砲撃と詠唱を繰り返し続けるのは砲兵と魔道士の疲労困憊を誘う事になりそうだったので今日は攻撃を取りやめ、彼らは敵の野戦砲や投石機の射程から離れた所で野営することにした。

 

暁の天幕は何とも言えぬ雰囲気であった。

 

皆が口を閉ざしていた。

 

そして外ではこの虐殺を何かのショーの様に感嘆と嘲笑が巻き起こっていた。

 

もう言ってしまうとブレトニア人とライクランド人の腹立たしい程の陽気さと残虐さが表裏一体として存在するが故の空気感に辟易していたのだ。

 

そう彼らからしてみればいくらか自分達よりも進歩した文化と技術を持ちながらも彼らの人間性が野蛮であり、その中にいる事が耐えられなくなってきたのだ。

 

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帝都アルトドルフ宮城

 

セレーネ

『ッ⁉︎』

 

カタリナ

『陛下?』

 

セレーネ

『…を。』

 

カタリナ

『は?』

 

セレーネ

『直ぐに私の剣と杖と馬を用意して、そしてアイアンロック卿とオリオン卿に兵を率いらせてソルランドへ向かわせなさい‼︎

 

タジムニウスに危険が…悪しき呪文が今解き放たれようとしていると微かですが彼女が…ハイデリン様が。』

 

カタリナ

『ッ‼︎』

 

事が重大と察したカタリナは直ぐに立ち上がるとリンクパールを持ってこさせ、直ぐに2人に通信を送った。

 

カタリナがドワーフの頭領か、エレゼンの領主に事の次第を説明している間セレーネはまた星界に意識を集中していた。

 

ハイデリンの微かな声は生者では無い何かが動き出していると告げた。

 

セレーネ

(生者では無い何か…?

 

まさか本当に死者が蘇ったとでも言うの…?)

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アルトドルフ軍野営キャンプ

 

野営地では2人の男がドラッケンホフ城より訪れていた。

 

敵の投降者だろうか?

 

見張りは流石にすんなり入れてやるわけにはいかず上官が来るまで待たせていた。

 

士官が到着し、彼らに目深まで被ったフードを脱ぐ様に指図するとその男達の容貌を見た者達は驚愕した。

 

その2人はハーフランド公とアヴァーランド公、つまり敵方の選帝諸侯の2人だった。

 

いやそれよりも彼らの顔、いや肌は恐ろしい程白く、眼は真紅に染まっていた、それは正に血の色であった。

 

そして次の瞬間であった。

 

2人の選帝侯はおよそ人間では不可能な甲高い叫び声を挙げた。

 

すると野営地に散乱した数万の死体は次々と立ち上がり、この化け物達と同じ叫びを上げた。

 

見張りの兵達は理解した。

 

吸血鬼は実在すると…死者の主人は死に絶えて等居なかった事を…。

 

そしてこの者らは自らの首を斬り飛ばされた刹那に身をもって理解した。

 

野営地は恐怖の悲鳴で埋め尽くされた。

 

タジムニウス

『何事か⁉︎』

 

騎士

『申し上げます!

 

野営地に敵が侵入‼︎

 

敵将ハーフランド公とアヴァーランド公と見受けられましたが、逃げ惑う兵達は人間では無いと口々に…。

 

更に何やら不可思議な魔術を使い、外の死体達が次々と立ち上がって襲いかかり、兵達を喰い殺しております‼︎』

 

タジムニウス

『馬鹿な‼︎

 

ネクロマンサーに死体を使われぬ様、聖水や儀式は済ませたはずだろう‼︎

 

それでもダメだったと言うならもうそれこそかつての吸血鬼…』

 

と言いかけた時だった、タジムニウスは察してしまったのだ。

 

タジムニウス

『その吸血鬼か…。』

 

すると天幕に慌てて入ってきたのはオットーとレマー、更に暁の面々であった。

 

彼らも突如現れた吸血鬼に驚愕し、襲い掛かる亡者を退けてどうにかここまで辿り着いたのだと言う。

 

レマー

『もはや軍勢を維持することは敵いません‼︎』

 

オットー

『各部隊メチャクチャに抵抗している様ですが、各個撃破されるのがオチです。

 

兎も角元帥閣下にはここから逃れていただきたく。』

 

タジムニウス

『いや、それなら兵達も共に居なければ…散乱しているが各部隊ごとに抵抗しているのは確かか?』

 

オットー

『はい。』

 

アリゼー

『タジム?』

 

タジムニウスはリングシェルを通信機に繋げると野営地に存在する全部隊に向けてバースト通信を放った。

 

タジムニウス

『全部隊、こちらはインヴィクター・アクチュアル(タジムにウスの本陣用コールサイン)のタジムニウス・レオンクールである。

 

全残存部隊は直ちに野営地本陣付近エーテライトに集結せよ。

 

これよりエーテライトを過負荷可動させ、部隊毎に強行転移を敢行する。

 

繰り返す全部隊、エーテライトに集結せよ。

 

叶わぬ時は馬や馬車を使ってここを離れ、各自でソルランドまで撤退せよ‼︎

 

これより本陣部隊が貴公らの掩護に回る。』

 

グ・ラハ

『エーテライトの過負荷稼働だと⁉︎

 

あんた自分が何を言っているか解っているのか‼︎

 

アレは』

 

タジムニウス

『だがこの場を切り抜けるための手段として残されているのはこれしか無いのだ‼︎』

 

タジムニウスはグ・ラハの言葉を遮る様に反論した。

 

エーテライトの過負荷稼働とは、通常数人から十数人、最大でも百人近くの人間を地中に存在するエーテル、つまり魔力の潮流である地脈に沿ってテレポという転移魔法を行う為の装置、エーテライトを本来の稼働出力よりも数倍の出力で稼働させ、更に多くの人間を転移させる事が出来るが大変不安定な上、エーテライトが使用、貯蓄可能エーテルが数倍になり、エーテライトが停止、最悪の場合、暴走、大規模魔力爆発を起こしてしまう超危険行為である。

 

エンシェント・テレポと違って、暴走しても、エーテライトが通っているところで有れば辿り着くことは出来るが、どこに出るか分からず、停止、無いしは爆発してしまった場合、向かう先のエーテライトが残っていたとしても、送り先が失うことでエーテルの流れが途切れ、使用者が地脈に取り残されてしまう為まさに一か八かであった。

 

タジムニウス

『だが、ここにはエーテル学の専門家もいるし、何より技師達も沢山いる。

 

レマー、卿は技術者達を召集、ソルランド各地の市町村のエーテライトに転移させて何が何でもエーテライトを維持させろ‼︎

 

オットー、エマネラン、卿らはここでエーテライトを守れ‼︎

 

味方以外決してここに通すな‼︎

 

暁のみんなは俺と来てくれ、散り散りになった兵達を少しでも多く救いたい、そしてあわよくば吸血鬼を獲る‼︎』

 

オットー&レマー

『必ずや‼︎』

 

エマネラン

『すげぇ怖えけど任された‼︎』

 

アルフィノ

『任せてくれ、戦いながら治癒してみせる‼︎』

 

アリゼー

『吸血鬼だかなんだか知らないけど、私がぶっ倒してやるわ‼︎』

 

タジムニウス

『その意気や良し‼︎

 

行くぞ‼︎』

 

一同はそれぞれの役目を果たすべく散開した。

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レマー

『よし、卿らは先に割り振られたエーテライトの維持を行え‼︎

 

数百人から千数百人単位の人間が飛んでくる事になるが何としても維持せよ‼︎』

 

技師団

『『ははぁ‼︎』』

 

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オットー

『我は鉄を掌りし金色の魔法使い、この世の理を揺蕩う魔を打たれた鉄の礫に変えん‼︎

 

シーリング・ドゥーム‼︎‼︎』

 

オットーが詠唱すると亡者達の頭上から高音の炉に掛けられたばかりの様な鉄の雨が降り注ぎ、亡者を元の肉片に戻した。

 

だが更に迫り来る亡者を今度は代々伝わる宝杖ヴォルランスの杖で地面を突き刺し、オットーはオオカミの様な遠吠えを挙げた。

 

すると地面からエーテルで出来た金色の狼の群れが現れ亡者に襲い掛かった。

 

オットー

『今ぞ‼︎

 

ゴールデンカンパニー(ソルランドの誇る選帝公直属近衛槍歩兵軍団、特徴として全員が黄色の軍服と鎧を着ている)前進せよ、我の前より決して退くな‼︎』

 

ゴールデンカンパニー兵団

『『御意‼︎‼︎』』

 

金色の兵達は盾と槍を構え槍衾を作り上げる。

 

死せる亡者と先程まで生きていた同胞の成れの果てを容赦無く串刺しにしてまさに城壁の如く立ち塞がった。

 

その一方で、タジムニウス達はバラバラになった将兵達を救うべく野営地を走り回り亡者達を千切っては投げ、千切っては投げの大立ち回りに興じていた。

 

もはや眼前に広がる光景は言い表しのない狂気であった。

 

老若男女が喰い殺される光景が広がった。

 

アルフィノ

『駄目だ、幾ら倒してもキリがない‼︎』

 

タジムニウス

『やはり、あの吸血鬼を倒さなければ終わらぬか。

 

だが何処にいる…この野営地の何処かに居るだろうが…。』

 

求めよさらば与えられんと云うのなら、求めよさらば合間見えんと云うべきか。

 

吸血鬼達は自らタジムニウスの前に姿を現した。

 

うち一体が、後方に下がり、残りの一体が斧と盾を構える。

 

タジムニウス

『相手してやるということか…舐められたものだ。』

 

アリゼー

『私達も‼︎』

 

タジムニウス

『アリゼー、指名は俺だ。

 

諸君らは可能な限り兵達を救ってくれ。

 

限界まで助けたらエーテライトの近くに爆薬を用意したから準備して待っててくれ。

 

ヤ・シュトラ、トウカ、アイリス、ユイコ、三人を頼むぞ‼︎』

 

トウカ

『大人の役目ってか、ああ引き受けたよ。』

 

アイリス

『若もどうかご無事で。』

 

アルフィノ

『行こう2人とも、救える生命が救えなくなる前に!』

 

仲間達が走り去るとタジムニウスは剣と盾を構えた、そして吸血鬼となった選帝諸侯達を見つめた。

 

そして溜め息を吐き、口を開いた。

 

タジムニウス

『無様だな、利用された挙句化け物にされるとは…。

 

因果応報とはこの事か…おまけに操り人形って訳か。』

 

そう言い放つと、正にその通りと言わんばかりに黒装束に身を包んだ死霊術士達が現れた。

 

死霊術士

『ブレトニアの王よ、貴様には我らのために死んでもらう。』

 

タジムニウス

『生憎だが、私はたった2人の御婦人の為にしか命を散らさぬと決めておる。』

 

死霊術士

『その減らず口もここまで。

 

行け、ネェル・ヴァンパイア(吸血鬼に近き者)よ‼︎

 

我らが支配者の血を与えられた人形よ、其奴の首を引きちぎれぇい‼︎』

 

吸血鬼は剣を振りかぶり凡そ人間とは思えぬ力で前に飛び出して来た。

 

その勢いとそれに合わせて速くなる剣速やいなや剣の達人の域に及んでいる者たちでもこれには舌を巻くだろう。

 

タジムニウスはもし自分がクーロンヌの剣と盾じゃなくて大剣で挑んでいたらあっという間に首を刎ね飛ばされていたかも知れないという恐怖感を覚えつつも敵刃を跳ね返した。

 

数十合ぶつかるも勝負がつかない…いや勝負は何度もついていた。

 

タジムニウスは既に数太刀も喰らわせているが痛がるだけで死なないのだ。

 

首や腕を切断してもくっついてしまうのだ。

 

タジムニウス

『な、何なんだ⁉︎

 

その体はどうなっているんだ⁉︎

 

なぜ蘇るのだ‼︎』

 

そう叫んだ刹那タジムニウスは吸血鬼に押し飛ばされる。

 

立ちあがろうとするも首を掴まれ、宙に持ち上げられた。

 

死霊術士

『ここまでだブレトニアの王よ。

 

死ぬが良い。』

 

首を折られる、いや窒息する⁉︎

 

と直感で感じ取り、意識が遠のく中、本能でタジムニウスは腰に佩いていた短剣を…父から別れの時に渡された短剣を引き抜き、それを吸血鬼の腕に刺した。

 

するとどうだ。

 

今まで以上に痛みに苦しみ、腕は何とボロボロに崩れ落ちた。

 

死霊術士達も驚きを隠せない。

 

今を逃せば、もう後はない。

 

タジムニウスは呼吸を整える間も惜しんで、片腕を失い苦しみ悶える吸血鬼の片割れの首に短剣を突き立てた。

 

すると吸血鬼は恐ろしい金切り声を挙げ、朽ち果てた。

 

これが断末魔だったのだ。

 

何かは分からないが吸血鬼を倒せた。

 

だがもう一体残っている。

 

タジムニウス

『俺の予感が当たっているのなら後1人倒すだけで全てが終わる。』

 

それは当たっていた。

 

死霊術士

『何ということ⁉︎

 

紛い物とは言え吸血鬼が負けるだと⁉︎』

 

死霊術士

『まさか、あの短剣は…。

 

いやだが有り得ない⁉︎』

 

そんな折、タジムニウスの元にリンクパール通信が入ってきた。

 

アリゼー

『タジム聴こえる⁉︎

 

今、無事な兵達を助けている最中何だけどかなりの数の亡者達が倒れて動かなくなったの。

 

ヤ・シュトラやゲルト卿は死霊術を掛けた術者、つまり吸血鬼の一体が死んだんじゃないかって。

 

勝ったの?』

 

タジムニウス

『なんとか、しかも偶然だな。

 

後もう一体残ってるしな。

 

まだ、亡者はわんさかいるだろうな。

 

退避状況は?』

 

アリゼー

『おおかた片はついたわ。

 

後は私たちが退避するだけ。』

 

 

タジムニウス

『よし、エーテライトに時限爆弾を設置しろ。

 

ここから逃げるぞ‼︎』

 

タジムニウスは通信を切り、構え直した。

 

タジムニウス

『尤も逃してくれればの話だが。』

 

もう既に吸血鬼の、生き残った方の片割れが既に銃剣を構えている。

 

死霊術士

『まさか一体倒されるとは思わなかったが、貴様を殺すには十分。

 

時を置かずして、此奴が先に滅びた木偶を引き継ぎ亡者共を立ち上がらせるだろう。

 

貴様はもう終わりだ‼︎』

 

『否‼︎』

 

そう叫ぶ声に居合わせた者達は振り向く。

 

するとエメラルド色に眩い光が輝き、その光を見た吸血鬼と死霊術士達は怯み出す。

 

緑の騎士が現れたのだ。

 

緑の騎士

『さぁ、行くのだ。

 

お主にはお主にしか成せぬ事が、王としての務めがあろう。

 

この馬に乗れ、お主を逃してくれる。』

 

タジムニウス

『貴方様はどうなさるのです?』

 

緑の騎士

『我は使命を果たすまで不滅。

 

この者らは我を害せぬ、心配には及ばぬ。』

 

タジムニウスは頷き、馬に跨った。

 

魔法の馬は主人と同じく眼も鬣もそして鎧や装飾品も全て緑色で有り、手綱や飾り紐は月桂樹の葉で覆われていた。

 

タジムニウスは拍車を入れて馬を走らせた。

 

振り返ると緑の騎士と吸血鬼が激しくぶつかり合っていた。

 

この魔軍馬は光を放ちながら駆ける。

 

その光は聖なる光とでもいうのか襲い掛かろうとした亡者達は皆砂となって消え失せた。

 

さて驚いたのはエーテライトを死守すべく返り血塗れになった、暁の面々とオットー達である。

 

明らかにこの世の物では無い姿をした馬に跨ってタジムニウスが戻って来たのだから。

 

タジムニウスは更に驚き返していた。

 

皆揃いも揃ってボロボロなのだ。

 

だが敵が彼らを一歩たりとも退けた後は無いのだ。

 

彼は確信した。

 

救えぬ命の方が多かったであろう、されど救えた命もまた多いであろうと。

 

タジムニウスは皆を転移させると受け取った起爆スイッチを押した。

 

そしてすぐにエーテライトを使って転移した。

 

そして爆薬が起爆したと同時に既に臨界状態だったエーテライトは大爆発を起こし、野営地を跡形もなく吹っ飛ばしてしまった。

 

大勢の亡者を道連れに。

 

後にこの地はドラッケンホフ・クレーターと呼ばれる。

 

こうして、常軌を逸した手段で難を逃れたが、彼らはまた直後に難に見合うのである。

______________________

 

タジムニウス達は無事に転移は出来たものの、よりにもよって転移先はソルランドより少し離れた位置にあり、未だ敵地、更に信じられないがこの地にも亡者達は放たれていた。

 

しかも街や村に残ってた僅かな人間を信徒問わず喰い殺し、亡者の仲間に加えていた。

 

塵も積もれば山になる。

 

少なくとも数千から一万の亡者の軍勢が死霊術士によって操られタジムニウス達を追っていた。

 

肝心のタジムニウス達は僅かな千余名

 

いくら知能も低ければ、ろくな戦闘術も使えないただのゾンビとは云え脅威であった。

 

タジムニウス

『ゲルト卿、もう一踏ん張り出来るか⁉︎』

 

オットー

『愚問ですぞ‼︎』

 

タジムニウス

『ここは我らとゴールデンカンパニーが守る。

 

他の連中は援軍を連れてこい‼︎

 

レマーが恐らく再編を済ませてくれている筈だ。』

 

アルフィノ

『私達も‼︎』

 

タジムニウス

『ならぬ‼︎

 

エオルゼアを真の意味で救済するのは君達だ、私では無い‼︎

 

その君たちをここで失うことの方がエオルゼアやひいては我が国や世界の損失だ‼︎』

 

アルフィノ

『タジムニウス‼︎』

 

タジムニウス

『行け‼︎

 

行けったら‼︎‼︎』

 

オットー

『ゴールデンカンパニー総員、ファランクス‼︎』

 

ゴールデンカンパニー兵

『応‼︎』

ゴールデンカンパニー兵

『応‼︎』

 

タジムニウス

『方陣を組め‼︎』

 

それでも尚残ろうとするアルフィノとアリゼーをアルフィノはユイコが、アリゼーをグ・ラハが脇に抱えて走り去る‼︎

 

アリゼー

『嫌‼︎

 

ラハ、放しなさいよ‼︎

 

あの人が、あの人が死んじゃう‼︎』

 

グ・ラハ

『じゃあ走れよ‼︎

 

死なせたく無いなら自分の役目を忘れるな‼︎』

 

ユイコ

『あの子がここに残るのは私たちの為だけじゃない。

 

今ここで逃げたとしてもあの亡者達はソルランドにも入ってくる。

 

そうなればもっと大勢の人たちが死んでしまう。

 

あの子はそれを避けるためにここに踏み留まるの!』

 

アルフィノ

『ならば私達は一刻も早く援軍を連れて戻らねばならない…分かったよユイコ。

 

貴女の言う事は正しい。』

 

アリゼー

『…タジム‼︎

 

絶対戻るから、絶対戻るからそこに立ってなさいよ!』

 

タジムニウスは返事の代わりに大剣ライオン・ハートを高々と掲げてみせた。

 

そしてタジムニウスは本陣旗を方陣のど真ん中に突き立てた。

 

タジムニウス

『すまぬ…ゲルト卿。

 

諸君らを巻き込む形になった。』

 

オットー

『良いのです。

 

我らは、我ら大人は貴方が生まれた時からその身に余る重責を押し付けた。

 

これが武運拙く最期になってしまったとしても、最期くらい我々にも背負わせて下さい。』

 

タジムニウスは穏やかな表情を浮かべ頷いた。

 

オットー

『ソルランドの荒くれ者ども‼︎

 

ブレトニア国王陛下の前に我らの忠節と武勇を示す時は今ぞ‼︎』

 

ゴールデンカンパニー兵団

『『いよっしゃあ‼︎‼︎‼︎‼︎』』

 

するとタジムニウスはここにきて過去視に見舞われた。

 

こんな時にッ⁉︎

 

と思いつつももはや抗う事はできない。

 

タジムニウスの目前に広がる光景はバットランドの荒野。

 

古のライクランド帝国軍が荒野、いや峡谷に整列している。

 

そしてそれぞれの得物を地につけ鳴らし、鬨の声を上げていた。

 

そして戦列中央の一本道を素晴らしい鎧を着けて歩く1人の身分の高い位についているであろう騎士がいた。

 

そしてその騎士は宝具ガール・マラッツを手に持っていた。

 

そして翻る軍旗にはSIGMARの綴りで大神シグマーの名とその騎士の名が綴られており、その名にタジムニウスは驚愕した。

 

タジムニウス

『カール…フランツ大帝…‼︎』

 

そしてカール・フランツの演説が始まる。

 

カール・フランツ

『諸君‼︎

 

今夜だ、今夜遂に我らは悪魔共をこの世より追放する事が出来る‼︎

 

我に続け、暗黒の世界の者共に聖なる断罪を執行するのだ‼︎‼︎』

 

ライクランド帝国将兵

『『『ウオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎‼︎』』』

 

タジムニウスは理解した。

 

今この場に映し出されている光景は、カール・フランツ帝の歴史の中で最も名高く、最も偉大な戦いであると言うことを…。

 

タジムニウス

『ブラック・バスの戦い…。』

 

すると反対から角笛が鳴り響きカール・フランツは角笛の鳴る方に向き、兵達の表情も更に険しくなる。

 

すると恐ろしい雄叫びをあげるルガディン族の戦士や、当時はこの地に居たのかアマルジャ族やコボルト族と言った獣人族に、果てはアウラ族やゴーレムやギガース族やジャイアント族の巨人族まで大挙として押し寄せてきた。

 

そう正にライクランド帝国に住まうヒューラン族の存亡が賭けた戦いであった。

 

カール・フランツ

『ハルバード兵構えよ‼︎』

 

ハルバード兵団

『For Franz‼︎(フランツの為に)』

 

ハルバード兵達は槍衾を築き上げる。

 

そこに迫る異人族の戦士たち。

 

カール・フランツ

『持ち堪えるのだ‼︎』

 

戦士達が襲い掛かるがハルバード兵達は果敢に立ち向かい、その先頭で金色の戦鎚を振るう皇帝。

 

それを支援すべく砲火を開く火砲の砲列と夥しい銃口。

 

それでも彼らは突撃するのをやめない。

 

然し彼らに迫るものがあった。

 

デミグリフ(グリフォンの変異種。ワシの頭に獅子の体は変わらないが翼が生えていない。今日でもデミグリフ騎士達は決戦用の重装騎兵としてライクランド軍に加えられている。)騎士達であった。

 

数百騎のデミグリフ騎士達がランスを構え、異人族の軍勢に割って入る!

 

だがその侵攻を止めるべく巨人族が棍棒を振り回し、歩兵達は吹き飛ばされる。

 

流石のデミグリフも足を止める。

 

だが、魔術師達が魔法の光弾を放ち、上級魔法使いは隕石を巨人族の軍勢に叩き落とした。

 

正に筆舌に尽くしがたい凄まじい戦いである。

 

更にタジムニウスが驚いたのはその軍勢の中では有力な武将なのか、他とは明らかに違う荒々しい鎧を身につけたルガディン族の戦士が古代ルガディン族の言語を喚き散らしながら空より降りてきたのだ。

 

騎乗していたのはなんとドラゴン族だった。

 

無理矢理なのか、何かしらの盟約や手段があったのかそのルガディン族に忠実なドラゴンは先程隕石を叩き落とした上級魔法使いに喰らい付き、その顎で上半身と下半身を喰い千切ってしまった。

 

流石にドラゴン族を前にした兵達は次から次へと背後に下がり始める。

 

だがその時だった。

 

太陽を背に一匹のグリフォンが現れた。

 

そのグリフォンは大神シグマーの名が彫られた鎧を身につけ、雄々しく翼を広げ、鳴き声を挙げる。

 

そしてそれに跨るはカール・フランツ帝、正に人馬、いや人鷲獅子一体というべきか?

 

カール・フランツあるところデス・クロー有りと謳われたこの世で最も猛々しく気高いグリフォンに乗って現れたカール・フランツを見た兵達はまた足を前に踏み出す。

 

カール・フランツ

『シグマーの為にぃぃぃぃ‼︎‼︎』

 

ガールマラッツを高々と掲げたカール・フランツの鬨の声に合わせて、歩兵、騎兵、投射兵の陣形無視の全力突撃を敢行した刹那、タジムニウスは過去視から現在に戻された。

 

タジムニウスは額に手を当てて、立ちよろめいたままの姿であった。

 

オットー

『元帥?』

 

タジムニウス

『カール・フランツ大帝の故事に習えというのか…なんとまぁ無理難題を押し付けてくれたものだよ全く…。』

 

オットー

『?』

 

タジムニウス

『皆、ここに不動の陣を敷く‼︎

 

ライクランド人なら分かるな?

 

これはかつて大帝カール・フランツがブラック・バスの戦いにおいて異人族の大軍を退けた時大帝は全将兵に退く事を禁じ、その結果大帝とその兵達は勝利の栄光を掴んだ‼︎

 

大帝は戦力差は歴然とする中で耐え忍んでみせた…なら我らも同じ事が出来る筈だ‼︎

 

忘れるな我らの背にはソルランドが有るのだ‼︎‼︎』

 

兵達の顔は決意に満ちた物になる。

 

更にそこにタジムニウスの檄は続く。

 

タジムニウス

『帝国は諸君らの死を望んでいる‼︎

 

戦え‼︎‼︎

 

全ての守るべき物の為に、この獅子心王と共に‼︎‼︎』

 

?&?&?

『『『ならば、我らもそれに加えて貰おう‼︎‼︎』』』

 

迫り来る亡者を光の雨が灰燼に帰す。

 

何処から放たれたロケットの雨と矢の雨が敵を蹴散らす。

 

そしてその直後に鳴り響くドワーフとウッドエルフの角笛。

 

そして皇帝の禁軍の証であるラッパが吹き鳴らされる‼︎

 

オットー

『元帥‼︎

 

アレを…皇帝の…女帝陛下の軍旗とエルフとドワーフの軍旗が…そして我らの軍旗が高々と掲げられておられますぞ‼︎』

 

そう言い終わった瞬間、なんと宙からセレーネが降りてきたではないか。

 

信じられないが彼女だけで飛んできたのだ…彼女は以前より遥かに泉の淑女の力を使いこなしていた。

 

セレーネ

『元帥、大義でした。

 

そしてごめんなさい、私がもっと早くに吸血鬼の存在を感じ取れていれば…。』

 

セレーネがタジムニウスから敵方の方に向き直ると、野営地で消滅したと思われた亡者や野営地で犠牲になった将兵、女も子供も関係なく悍ましい歩く死者と化して迫ってきていた。もはやその数は十万を数えた。

 

セレーネ

『彼らもあの様にはならなかったかも知れない…私の傲慢だとしても…あの人達に対しての責任が私にはある。』

 

セレーネは向き直ると決意を露わにした。

 

セレーネ

『私は唯一彼らに対抗し得る力を持つ者として、アルトドルフ帝国の女帝としてこの戦を共に戦いましょう。』

 

タジムニウス

『女帝陛下の御身は必ず私がお守り致します。』

 

すると死者の大群は体制を整える為なのか、その場で静止した。

 

そしてその遥か後方には件の吸血鬼のなりそこないと死霊術士が居た。

 

アイアンロック

『あそこまで行くのは骨ですな元帥。』

 

オリオン公

『左様、元帥閣下には少しお休みいただかねばなぁ友よ。』

 

タジムニウス

『二人ともよく来てくれた、だが私は前線から離れる気など無いぞ。』

 

アイアンロック

『分かっております。

 

ただ最前列からは離れていただく。』

 

オリオン公

『元帥、貴方はブレトニアの軍法とは何たるやを御身自らお示しになられた。

 

だがそれではまだ半分なのです。』

 

タジムニウスは常に最前列で兵と共に戦ってきた。

 

それこそがブレトニア騎士にふさわしいと思っていたからだ。

 

だがそれだけでは足りないと言われたのには面食らってしまった。

 

そこにオリオン公は諭す様に続ける。

 

オリオン公

『王陛下、本来将帥が敵刃に触れられる事有ればその戦は負けると申します。

 

兵達は確かに貴方が先頭で戦う事で勇気を貰っておりますが、それ以上に怖いのです。

 

もし目の前で戦死する様な事あらばと気が気では無いのです。

 

彼らには貴方が必要なのです、兵と将は親子の様な物、父や母に見守られてこそ子は育つ物。

 

そして大将たるなら、時には本陣で山の如く構えるのも将たる者の在るべき姿にございます。』

 

アイアンロック

『何、心配には及びませぬ。

 

我らが戦をするのですからな。』

 

そう言うと暁の面々やレマーも現れた。

 

援けを呼びに行ったら直ぐに合流したのだと言う。

 

そして…

 

キアラ

『貴方…。』

 

タジムニウス

『君も来たのかい。』

 

キアラ

『同じ事は言わせないで。』

 

キアラはそう言うと白魔法を詠唱する。

 

タジムニウスの傷はみるみる癒えた。

 

キアラ

『私もセレーネさんの隣で戦います。

 

文句は有りませんね?』

 

タジムニウス

『……腕利きの占星術士が居てくれるなら安心だ。

 

女帝陛下は…もう前線から動かぬと言わんばかりだしな。』

 

セレーネ

『私が本陣に居ても祈ることしか出来ないわ。

 

でも貴方は違うでしょう?』

 

タジムニウス

『全く貴女はこの国の皇帝なのですよ…。

 

グリムハンマー卿とオリオン卿もなんとか言ってくれ。

 

私が今言われた事もう一回そっくり言って差し上げろ。』

 

アイアンロック

『そう申したのですが、吸血鬼達と戦う為には自分が近くにいなければ成らぬと聴かないのです。』

 

セレーネ

『あの悪き力を抑えることが出来るのは私だけ。

 

もしくは…いえ、これは後程お話ししましょう。

 

兎も角加護無くば戦えないのです。

 

それに貴方は先の戦いで先頭で戦い、私は本陣に居た。

 

同じ理屈なら私も皇帝として最前線で戦わねばまだ半人前ですよ。』

 

セレーネは天を払うと兵達の持っている武器が皆白色の光を纏い出した。

 

セレーネ

『これで、亡者や吸血鬼にも十分対抗出来るでしょう。』

 

タジムニウスはこれは参ったと思ったのか暁の面々に女帝の護衛を頼むのであった。

 

かくして女帝は兵と共に最前列に、王は本陣で軍配を振るう事になった。

 

両者の準備が整った。

 

まず先手を取ったのは亡者の大群であった。

 

奴らは好き放題に恐ろしい雄叫びを挙げた。

 

それに対して生者の大軍は、まずドワーフ達を前に立てて槍衾を築き上げた。

 

ドワーフ族はララフェル族よりは背丈が大きいが、人間の腰上ぐらいしか存在しない。

 

だがその肉体の力はルガディン族以上とも言われている。

 

そんな彼らが重装備の鎧を身につけ、槍を構えている。

 

言ってしまえばちょっとした城壁である。

 

ドワーフ族だけで良いのかと心配して見ているアルフィノ達にアイアンロックは不敵な笑みを浮かべて告げる。

 

アイアンロック

『まぁ、見ちょれい坊ちゃん方。』

 

亡者達は今正に槍衾に激突するか否かであった。

 

その時である。

 

金色の鎧に草木で装飾されたアセル・ローレンのエレゼン族の剣士達がドワーフの槍衾を階段の様に渡り、死者の大群に猛然と斬り掛かる。

 

オリオン公の軍勢の中で最も腕利きの剣士達で構成されたカウンター集団の剣技は亡者達の波を蹴散らしてしまった。

 

それと合わせてドワーフ族の槍衾がそのまま突進して更に亡者を蹴散らした。

 

更にドワーフやルガディン族の戦士団が剣や斧を振り回しながら続く。

 

アイアンロックとオリオンの目論見は押し留めるのではなく押し返す事だったのだ。

 

その為に連携のしずらい他の種族の兵達が居なかったのだ。

 

タジムニウスはこの二人の手腕に賞賛の声を挙げたが、直ぐに次の行動を取らねばならない事を忘れていなかった。

 

タジムニウス

『今だ‼︎‼︎

 

侵掠する事火の如く、勢いを殺すな突撃ィィィ‼︎‼︎』

 

戦場一体に響き渡る怒号が将兵の鬨の声を呼び込む。

 

多種多様な種族で構成された生者の軍勢が狂乱の如く斬り込む、無数の銃口から鉛の雨を降らせる、火薬の嵐を吹かせ、魔法の天変地異を引き起こした。

 

真正面からぶつかり合う亡者と生者の群れ。

 

その生者の群れに楔を打ち込むべく亡者達の一隊が攻めかかる。

 

その亡者達は骨や腐った肉体に鎧をつけ、馬も同じ様な状態であった。

 

兎も角亡者の騎馬が迫って来ていた。

 

亡者の大群が統率を得て大軍になって来ていることを感じ取ったタジムニウスはその原因を模索したが、それよりも騎馬の断道をどうにかしなければならなかった。

 

タジムニウス

『伝令‼︎

 

中列槍歩兵部隊を三時から五時方向に展開、左翼騎兵団を敵騎馬集団に当てよ。

 

右翼騎馬軍団は突撃隊系を取り待機せよ。』

 

伝令

『ハッ‼︎』

 

伝令がリンクパールで各指揮官に通信を送り、その直後に指示を受けた各部隊が対応する。

 

生者同士の戦いであれば互いに電波妨害を掛けてリンクパール通信などほぼ使えないので伝令が一々騎馬で伝えに行っていたが、今回は違う。

 

亡者の騎馬を槍衾が刺し崩し、馬の足が止まった所に猛スピードで馬を走らせる騎士と騎兵が槍と剣を振るう。

 

その仕返しと言わんばかりか、最前列の歩兵が闇魔法で吹き飛ばされてしまった。

 

件の吸血鬼が最前列に現れたのだ。

 

兵達が討ち取りに掛かるも次から次へと斬り殺されてしまった。

 

セレーネ

『この者は私が…。』

 

セレーネは左手に宝杖、右手にはレイピアを持ち吸血鬼に相対する。

 

その傍をキアラとアリゼーが固める。

 

キアラ

『旦那様との約束、果たして見せます。』

 

アリゼー

『吸血鬼だか、なんだか知らないけど楽勝よ‼︎』

 

吸血鬼は獣の様な声を挙げ、剣を振り回しながら迫る。

 

そこになんとセレーネも同じ様に前に踏み出る。

 

両者の剣は激しい音を立てる。

 

キアラとアリゼーは驚いた。

 

箱入り娘の象徴の様なセレーネが一端の剣士の如く剣を振るい、吸血鬼としての力は勿論、優秀な軍人でも有る選帝侯と互角に打ち合っているのだから。

 

だが、元を正せば不思議では無い。

 

元々文武両道を是とし文官武官の隔ては名義的な物のしか過ぎないライクランド帝国、およびブレトニア王国は、すべての官僚、貴族、果ては平民までもが戦闘教練を積んでおり、特に貴族しかも高位の身分に立つ者は少なくとも十歳になるまでに剣か銃(個人によっては槍や斧)の基礎教練を終わらせ、元服の十六歳までにはこれら戦闘術を会得することが定められている。

 

当然セレーネも例外では無い。

 

幼き時より傀儡にはされつつも秘密裏に行動していた皇帝派や、傀儡化の批判を流す為に選帝諸侯達から戦闘教練を受けさせられていたのだ。

 

尤もアルトドルフ家の血筋に備わった才能もあってだが…。

 

だが彼女のセンスは抜群だった。

 

セレーネは戦いながら無詠唱で重力魔法レビデトを使い、半分宙に浮いた状態で戦い、彼女は飛び回りながら戦い、姿勢も腕や足を振るって急回転を加え、全くその動きを予期出来なくしていた。

 

レイピアを攻めに、宝杖を守りに使い、二振りの剣を振るう吸血鬼と互角に戦っていた。

 

だがそんな彼女も意識外からの攻撃には対抗出来ない。

 

武装した亡者が襲いかかる。

 

だがアリゼー、キアラがそれらを悉く薙ぎ倒していた。

 

______________________

一方所変わってトウカ、ユイコ、アイリスもまた有るものと対峙していた。

 

もう一体居たのだ…吸血鬼は三体いたのだ。

 

ここに至るまでの急激な亡者の急増と武装した亡者を率いてやってきた者…そのすべての辻褄を合わせる存在と戦っていた。

 

こちらではアイリスが吸血鬼と打ち合い、トウカ、ユイコが群がる亡者を跳ね飛ばしていた。

 

ユイコに至っては例の試験ショットガンを使っていた。

 

リボルバー式散弾銃の弾幕は亡者を挽肉に変えるには充分過ぎる火力を持ち合わせていた。

 

ユイコ

『全然使えるじゃない。

 

良いわ貴方はウチの子よ。』

 

トウカ

(己の拳以外頼まぬって感じだけど凄いメカ好きなんだよなぁ…付き合い長いけどなんかズレた気がするんだよね〜。)

 

二か所で起こった決闘は勝負がつかない。

 

だが、それを無理矢理、いやこの戦いそのものを無理矢理終わらせようと現れた物があった。

 

なんとそれは醜く肥え太った巨人族の亡者達であった。

 

もはや辛うじて人の形を保っていると言っても過言では無いそれは遮二無二に走り迫る。

 

その道中に居た亡者達を跳ね飛ばし、踏み潰しながら。

 

兵士

『何だあのデカブツは、ずだ袋じゃねえか。』

 

兵士

『ひでぇ匂いだ…だが槍で一突きだやっちまえ‼︎』

 

だが一人その匂いに覚えのあったオットーはそれを制止しようと声を張り上げる‼︎

 

恐怖を黄金のマスクの裏に秘めて。

 

オットー

『いかん‼︎

 

やめろそいつに近づくな火矢を放つのだ‼︎

 

誰も近づくな‼︎‼︎』

 

だがもう遅い。

 

腐敗した巨人達に槍が突き刺さる。

 

その瞬間だった。

 

これら腐敗した巨人達は破裂した。

 

気味の悪い緑色の胞子を撒き散らし、それらは槍を突き刺した兵達をはじめ生ける生者達を覆い包む。

 

そして兵達は次から次へと血を吐き出し、膿で腫れ上がった。

 

皮膚は赤く爛れた。

 

タジムニウス

『ゲルト卿…オットー…これは…何が起こっている‼︎‼︎』

 

オットーは震える手でマスクを取り、もう一度今解き放たれた胞子の匂いを嗅ぐ。

 

オットー

『我が国に生えている毒性のキノコです。

 

独特な匂いがあり直接吸うかキノコを口に入れれば死に至りますが、胞子そのものの空気中の滞留時間は極めて短くあのような…あのような事にはまずならない筈。』

 

タジムニウス

『だが現に風下にいる我らは胞子に襲われている‼︎

 

どうすれば良い⁉︎』

 

オットー

『火です!

 

キノコの例に漏れず火に極めて弱いのです。

 

松明を振り回したり、火を起こせば胞子はその近くには広がりません‼︎

 

後、白魔法の結界や解毒魔法で対処出来ます‼︎』

 

タジムニウス

『直ぐに取り掛かれ‼︎

 

篝火を焚け‼︎

 

兎に角なんでも良い、口を塞ぐのだ‼︎

 

直接吸ってはならん‼︎』

 

胞子が拡散しているのは敵軍も一緒であったが、彼らは元々全員が死人なので影響は無く、苦しみ悶える生者を他所に彼らは自身の城へと引き返していった。

 

高笑いを響かせる2体の吸血鬼に率いられて…。




いかがだったでしょうか?()

三万文字…約三万文字…こんなになるとは思ってもみませんでした…。

これ描き始めたの去年ぞ?

何月?秋頃⁉︎嘘だろ‼︎

これが現実…現実です(血涙)

私事ではございますが、この度長年所属していたFCを脱退、致しましてかなり人間関係が拗れる事になりました。

脱退したFCに所属していたメンバーをモチーフにして作ったトウカ、ユイコ、アイリスは、次回までは参加させますが、何かしらの理由を持ってこの叙事詩より退場、降板する事になりましたのでどうかその辺をご容赦下さい。

後、中編の完成次第、設定集なる物を合わせて投稿致しますので、どうかこちらもご贔屓に…。
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